第3版の序
結核予防法の大改定をうけて本書の第2版が出されたのは2005年のことであったが,今回,再度の改訂を行うことになった。前版の「序」でふれたように「結核予防法」が「感染症法」に取り込まれる方向にあるのは当時からすでに予想されていたことであったが,その時期は予想以上に早く,内容の変化は想像以上であった。短期間で改訂を繰り返すことについて忸怩たる思いもあるが,結核の診療は法律に依っているところが大きく,それに合わせた内容の刷新が必要であったことをご理解いただきたい。
今回の改訂では,「感染症法」で示された内容にそって結核の診療をどのように進めるべきかを示した。「入・退院基準」に関しては,前版でも日本結核病学会の基準などを紹介したが,今回の法改定でとくに入院基準が厳密になったので,その実際を示した。退院についても基準が示されたが,これらも法律の文章だけでは分かり難い面があるので,具体的な解説を加えた。付言すると,世界保健機関(WHO)の基準はそれとして,わが国の退院基準は,欧米の実情と比較して「感染性の消失」という点にとらわれすぎているきらいがある。結核治療の総体としては退院後治療の比重が大きいので,今後,早期退院をはかり,その後の外来治療によりいっそうの努力がかたむけられるべきであろう。
さらに,今回の法改定で,「潜在性結核感染の治療」が公式に認められた。また,結核感染の判断も従来のツベルクリン反応からインターフェロンγ法へと舵がきられつつあり,結核健診のあり方も見直しの時期にあるといえよう。
一方,治療に関して,本書の印刷直前に,結核の治療薬としては1971年のリファンピシン以来37年ぶりにリファマイシン系抗生物質であるリファブチンの製造販売が承認され,薬価基準が収載された。適応は結核症の治療以外に,MAC症を含む非結核性抗酸菌症の治療,HIV感染患者における播種性MAC症の発症抑制であり,薬剤相互作用のためリファンピシンの使用が制限される場合,特に抗HIV薬の使用時にはリファンピシンに代えての併用が可能となった。さらにクラリスロマイシンが非HIV感染者の非結核性抗酸菌症の治療薬として適応が認められた。今後はレボフロキサシンをはじめとするフルオロキノロン剤の適応拡大が望まれる。
米国の20世紀末の結核政策の成功は外来治療の充実と新たな患者を出さない工夫・努力によるところが大きかった。わが国でも結核罹患率は徐々に低下しつつあるが,低まん延国の状態にはほど遠い。その実現には,後追いの政策だけでなく,発生患者の治療の完遂と新たな患者を出さないことを目指したより強力な対策が必要である。本書を通じてこれらの結核診療のあり方の理解が深まることを念じている。
今回も,本文でとりあげなかった事項を「コラム」に盛り込んだ。担当していただいた佐藤紘二,佐々木結花の両先生に感謝する。
2008年10月
四元秀毅
山岸文雄