はしがき
老年看護との出会い
看護教育のなかに老年看護学が位置づけられたのは,いまから20年前の1990(平成2)年であった。私が看護基礎教育を受けたときには,まだ老年看護学という科目はなかった。にもかかわらず,学生のころから高齢者,とくに認知症の高齢者に惹かれ,家庭訪問や家族会の手伝いをしていた。いまにして思えば,なぜ高齢者だったのか,なぜ老年看護だったのだろうかと思う。なにか特別なエピソードがあったわけではなく,ただひとことで言えば,高齢者に“惹きつけられた”のだと思う。
老年看護の魅力
はたして高齢者のなにに“惹きつけられた”のか。それは,高齢者から多くの「考えつづける課題」を与えられたからにほかならない。手づかみで食事をとる認知症高齢者からは生きることを諦めない命の強さを教えられ,四肢の関節拘縮が顕著で,話すことも手足を動かすこともままならない高齢患者からは,そこに“在る”ことの尊さを考えさせられた。自分の一生をかけても惜しくない,「考えつづける課題」に出会えたことは私の生涯の幸せだったといえる。
今回の改訂版(第7版)をともに書き進めた執筆者は,いずれも私と同じように,あるいはそれ以上に老年看護,また高齢者に“惹きつけられた”方々といえる。高齢者を成人期の後半にある人という見方から始めたのではなく,また地域に暮らす集団としての高齢者に対する注目から始まったのでもなく,老年期を生きる個の高齢者をたいせつに思い,その人の人生のゴールに近い生命と生活の安寧に貢献することを純粋に願った,そんな執筆集団と自負している。
本書の構成
本書は第1章から第3章を総論部分,第4章から第8章を各論部分とし,看護師国家試験出題基準も意識し,おおむね網羅されるように構成した。
第1章では老いを生きる高齢者その人に焦点をあて,エイジングや発達課題をわかりやすく紹介した。第2章では現在の高齢社会の様相を,統計資料を用いて提示するとともに,身体拘束や高齢者虐待などの今日的課題,ならびに介護保険や成年後見制度など高齢者の自立と権利をまもるための社会制度について解説した。これらを受けて,老年看護の基本的な考え方を第3章で示した。
第4章以降の各論部分は既習の内容をふり返りつつ,加齢変化と病や障害をあわせもつ身体をどのようにとらえ,それに基づいてどのように生活を整えるか,という学びを得られるよう書き進めた。第4章では器官系統別の加齢変化のありようと高齢者に特徴的な身体症状とを提示し,それぞれのアセスメントの方法を具体的に解説した。第5章では,座る・立つという基本動作を基盤とする食事・排泄・清潔といった生活行為と,それらが繰り返し展開される生活リズム,さらには生活を円滑に進めるために不可欠なコミュニケーションについて,高齢者に特有の不具合と援助技術を紹介した。さらに第6章では健康レベル別に,検査・治療への対応,認知症やうつ,終末期に求められる看護について,第7章は地域の諸資源,すなわち高齢者施設や在宅サービス機関での看護,ならびに介護予防の展開について解説した。最後に,今後ますます重視されるリスクマネジメントを先取りして第8章とし,医療安全と災害看護について提示した。
概観上の特徴としては,今回の改訂からオールカラーとなった点があげられる。そこで,図表,イラスト,写真を多く取り入れ,状態や方法が具体的にイメージしやすいよう工夫した。また,側見出しも多用し,段落ごとの要点をつかみやすくした。さらにはZoom up(コラム)も多く配置した。これは本文の理解を深める補足のほか,重要なキーワードを解説しているので,読み飛ばさずに注目してほしい。
本書が講義,演習,実習,そして卒業後も,あなたの傍らに置かれていたら本当にうれしく思う。どうぞ忌憚のないご意見を賜り,あなたとともに学びを深めていくことができたなら,本書の執筆に携わった者として望外の喜びである。
2009年11月
執筆者を代表して 北川公子