下垂体腫瘍の基礎から臨床までのすべてが1冊に
書評者:松谷 雅生(埼玉医大国際医療センター病院長・脳神経外科学)
長らく渇望していた書がついに発刊された。下垂体腫瘍の診断と治療の第一人者である寺本明教授と,下垂体細胞および下垂体腫瘍(細胞)の病理学と生物学の第一人者である長村義之教授が,わが国の碩学の方々を執筆者に揃えて編んだ本書である。
第1章は視床下部・下垂体の発生である。ヒトにおいては妊娠12-...
下垂体腫瘍の基礎から臨床までのすべてが1冊に
書評者:松谷 雅生(埼玉医大国際医療センター病院長・脳神経外科学)
長らく渇望していた書がついに発刊された。下垂体腫瘍の診断と治療の第一人者である寺本明教授と,下垂体細胞および下垂体腫瘍(細胞)の病理学と生物学の第一人者である長村義之教授が,わが国の碩学の方々を執筆者に揃えて編んだ本書である。
第1章は視床下部・下垂体の発生である。ヒトにおいては妊娠12-17週の間に視床下部-下垂体の神経内分泌系は活動し始め,そこに至るまでには種々の転写因子やその供役因子である内因性増殖因子などが関与している。まことにヒトの生命誕生は神秘的であり,驚嘆を禁じ得ない。この章に続く下垂体ホルモンの分泌機構の章は,下垂体腫瘍の臨床において極めて重要である。
手術方法の章は豊富なカラー図と極めて理解しやすい模式図とともに,かつて類を見ない手術書となっている。ゴナドトロピン産生腫瘍,TSH産生腺腫,などのまれな腺腫の臨床像にも詳しい。さらに,周辺疾患であるsubclinical Cushing disease, Rathke嚢胞,くも膜嚢胞,リンパ球性下垂体炎,下垂体過形成,などの臨床像にも十分な紙面を割いている。下垂体腫瘍の長期予後の章と腺腫治療の各論を組み合わせると,治療による再発率,治癒率,あるいは二次性腫瘍発生率などがよく理解できる。
さらに,下垂体ホルモン補償療法の章には,治療後の生活指導の重要ポイントがよく整理されている。ヒドロコルチゾン(コートリル
®)の投与方法の注意はもとより,プロラクチン産生腫瘍患者が妊娠した場合にドパミン作動薬の投与をどうするか? 治療後ゴナドトロピン分泌不全を呈する女性患者が挙児を希望した場合にどうするか? など詳細に記されている。このように本書には下垂体腫瘍の基礎から臨床まですべてが記されている。英文名の“Pituitary Tumors-Translational Research and Clinical Management”は真に本書の内容を表している。
巻末付録として下垂体腺腫の診断・治療ガイドラインとデータブックがまとめられているのは,臨床現場で苦労している医師への優しい配慮である。本書はまさに下垂体腺腫に関するencyclopediaである。
下垂体腺腫の本質は良性腫瘍であるが,治療後に汎下垂体機能不全症に陥る場合もあれば,逆にホルモン分泌過多が長期間持続することもある。したがってホルモン値を正常域におさめることが腫瘍を制御することと同じく治療の重要ポイントである。プロラクチン産生腫瘍の手術摘出による再発率を差し引いた長期治癒率はmicroadenomaで60%,macroadenomaで25%という数字は,薬物治療との併用という点で興味深い。GH産生腫瘍においては,全体の標準化死亡比は健常人の1.72倍に及ぶが,治療後GHが正常化すれば死亡率は健常人の1.09倍となり,ほぼ差はない。Cushing病においては管理不全が死につながることはよく知られている。非機能腺腫でも再発率に差はあるが,ほぼ10年では50%が再発-再手術を要していて,長期の追跡が必要である。良性腫瘍とはいえ,QOLの高い生活と腫瘍の制御にはすべての面での完全寛解が求められている。まことに奥の深い学問分野である。本書が下垂体腫瘍についてさらに深い知識を得ようとする臨床医と基礎医学者にとって,極めて有益な書であることを確信している。