標準外科学 第12版
外科学のすべてを網羅したスタンダードテキスト、要点の把握、疑問点の解消に
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外科学のスタンダードテキストとしての要件を備えつつ、使い勝手の向上を目指した改訂第12版。今回は①記述内容・レベルの見直し、②重要事項の明確化を改訂の軸とした。高度に専門的な内容は割愛し、医学部学生が理解すべきことを簡潔かつ明快に解説。また各種試験対策を念頭に学習上重要な部分を明示。さらにQRコードを用いて心臓手術の動画を呈示するなど、ビジュアル面も一層充実。
シリーズ | 標準医学 |
---|---|
監修 | 北島 政樹 |
編集 | 加藤 治文 / 畠山 勝義 / 北野 正剛 |
発行 | 2010年03月判型:B5頁:784 |
ISBN | 978-4-260-00865-5 |
定価 | 9,350円 (本体8,500円+税) |
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- 目次
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序文
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第12版 序
早いもので本書初版が出版されてすでに30余年が過ぎた.この間外科の主たる適応疾患は感染症から腫瘍へと推移し,また外科手技は,隣接臓器の合併切除等を含めた拡大手術から機能温存への縮小手術へと変貌を遂げてきた.国民は低侵襲で,安全性の高い,高精度の医療を望み,それに伴ってEBM(evidence based medicine)に基づいた医療が施行されつつある.外科手技もその流れに沿って内視鏡下手術が普及するに至ったが,これらの手技が従来の開創手術に比べ遜色のないことが検証されなければならない.最近の医療は色々な面で緻密さが要求され,外科医は一層の労働を強いられることになるが,外科学の理念,外科医がなすべきことは今昔変わることはない.外科学は,常に疾病の病態解明,治療法の創造の礎となり,医学の発展に最重要な役割を演ずるものである.したがって外科を志す者は,外科的手技の習得は言うに及ばず,手術適応疾患の病態を正しく理解し,診断学,周術期管理の知識を学ぶ必要がある.近年,IT技術,遺伝子,蛋白等の分子生物学の急速な進歩や画像診断の革新的技術の開発等により,疾病の早期発見,診断,そして新しい治療法の開発が急速に進みつつある.そうした新しい知見も逐一吸収しなければならない.
今回の改訂ではこうした医療環境の変化を踏まえ,次代を担う学生に必要とされる内容をあらためて各執筆者に検討していただいた.医学生は限られた時間のなかで,膨大な知識を効率よく学ばなければならない.そのことを念頭に,外科学のスタンダードテキストとして求められる要件は何か,学生に伝えるべき大切なことは何かを熟慮していただいた次第である.その結果,外科学の最新情報に目配りしつつも高度な専門的事項は割愛され,医学部学生レベルで必要とされる内容に絞られるものとなった.
改訂の特色の一つは,重要事項の明確化である.ともすれば平板な記述が続き重要なポイントが読者に伝わり難いという従来の弱点を改善するため,色文字やアンダーラインを用い学習上重要な部分を強調した.また,記憶すべき知識を箇条書きに整理した「Note」欄を設けるなど,読者の学習の便を考慮した工夫を随所に施した.外科学に関する広範かつ詳細な解説を漏らさず記載すると同時に,覚えるべきこと,注目すべきことを明快に示すことにより,読者の多様なニーズに対応するものとなっている.
さらに,ビジュアル面の充実にも力を入れた.特にQRコードを用いた動画(心臓手術)の呈示は初めての試みである(404頁).本文と映像を相互に参照することで,より理解が深まるものと思われる.ぜひご覧になっていただきたい.
医学教育の改革が進むなかCBT,OSCE,PBL,チュートリアルなどの新教育法も定着してきた.本書『標準外科学』は,医師国家試験や卒前教育における外科学の「バイブル」として多くの学生諸君に愛用されてきたが,これまで以上に多様な臨床教育の現場で活用されることを期待している.今回の改訂は,初版以来の基本コンセプト「外科学のミニマム・リクワイヤメントを充足させたコンパクトでハンディな教科書」に立ち返ることでもあった.机上の備え付けの参考書としてだけではなく,様々な場で大いに使い込んでいただきたい.
学生諸君はもちろん,実践臨床医家の方々にも本書を参考にしていただければ幸甚である.
2010年2月
編 者
早いもので本書初版が出版されてすでに30余年が過ぎた.この間外科の主たる適応疾患は感染症から腫瘍へと推移し,また外科手技は,隣接臓器の合併切除等を含めた拡大手術から機能温存への縮小手術へと変貌を遂げてきた.国民は低侵襲で,安全性の高い,高精度の医療を望み,それに伴ってEBM(evidence based medicine)に基づいた医療が施行されつつある.外科手技もその流れに沿って内視鏡下手術が普及するに至ったが,これらの手技が従来の開創手術に比べ遜色のないことが検証されなければならない.最近の医療は色々な面で緻密さが要求され,外科医は一層の労働を強いられることになるが,外科学の理念,外科医がなすべきことは今昔変わることはない.外科学は,常に疾病の病態解明,治療法の創造の礎となり,医学の発展に最重要な役割を演ずるものである.したがって外科を志す者は,外科的手技の習得は言うに及ばず,手術適応疾患の病態を正しく理解し,診断学,周術期管理の知識を学ぶ必要がある.近年,IT技術,遺伝子,蛋白等の分子生物学の急速な進歩や画像診断の革新的技術の開発等により,疾病の早期発見,診断,そして新しい治療法の開発が急速に進みつつある.そうした新しい知見も逐一吸収しなければならない.
今回の改訂ではこうした医療環境の変化を踏まえ,次代を担う学生に必要とされる内容をあらためて各執筆者に検討していただいた.医学生は限られた時間のなかで,膨大な知識を効率よく学ばなければならない.そのことを念頭に,外科学のスタンダードテキストとして求められる要件は何か,学生に伝えるべき大切なことは何かを熟慮していただいた次第である.その結果,外科学の最新情報に目配りしつつも高度な専門的事項は割愛され,医学部学生レベルで必要とされる内容に絞られるものとなった.
改訂の特色の一つは,重要事項の明確化である.ともすれば平板な記述が続き重要なポイントが読者に伝わり難いという従来の弱点を改善するため,色文字やアンダーラインを用い学習上重要な部分を強調した.また,記憶すべき知識を箇条書きに整理した「Note」欄を設けるなど,読者の学習の便を考慮した工夫を随所に施した.外科学に関する広範かつ詳細な解説を漏らさず記載すると同時に,覚えるべきこと,注目すべきことを明快に示すことにより,読者の多様なニーズに対応するものとなっている.
さらに,ビジュアル面の充実にも力を入れた.特にQRコードを用いた動画(心臓手術)の呈示は初めての試みである(404頁).本文と映像を相互に参照することで,より理解が深まるものと思われる.ぜひご覧になっていただきたい.
医学教育の改革が進むなかCBT,OSCE,PBL,チュートリアルなどの新教育法も定着してきた.本書『標準外科学』は,医師国家試験や卒前教育における外科学の「バイブル」として多くの学生諸君に愛用されてきたが,これまで以上に多様な臨床教育の現場で活用されることを期待している.今回の改訂は,初版以来の基本コンセプト「外科学のミニマム・リクワイヤメントを充足させたコンパクトでハンディな教科書」に立ち返ることでもあった.机上の備え付けの参考書としてだけではなく,様々な場で大いに使い込んでいただきたい.
学生諸君はもちろん,実践臨床医家の方々にも本書を参考にしていただければ幸甚である.
2010年2月
編 者
目次
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総論
1 外科の歴史と外科医の医療への貢献
2 外科的侵襲の病態生理
3 ショック
4 外科的診断法
5 無菌法(滅菌法および消毒法)
6 基本的外科手術手技
7 基本的外科処置
8 出血,止血,輸血
9 救急外科
10 急性腹症
11 損傷
12 外科的感染症
13 腫瘍
14 外科と免疫
15 外科と分子生物学
16 臓器移植
17 人工臓器
18 再生医学
19 術前術後管理と術後合併症
20 外科とリスクマネジメント
21 卒前臨床実習およびコア・カリキュラム
各論
1 顔面および口腔
2 頸部
3 乳腺
4 胸壁および胸膜
5 気管・気管支および肺
6 心臓
7 血管
8 縦隔および横隔膜
9 食道
10 腹壁,臍,腹膜,大網および後腹膜
11 ヘルニア
12 胃および十二指腸
13 小腸および結腸
14 直腸および肛門管
15 肝臓
16 胆嚢および肝外胆道系
17 膵臓
18 脾臓および門脈
19 副腎
20 リンパ系
21 老人外科
22 小児外科
和文索引
欧文索引
1 外科の歴史と外科医の医療への貢献
2 外科的侵襲の病態生理
3 ショック
4 外科的診断法
5 無菌法(滅菌法および消毒法)
6 基本的外科手術手技
7 基本的外科処置
8 出血,止血,輸血
9 救急外科
10 急性腹症
11 損傷
12 外科的感染症
13 腫瘍
14 外科と免疫
15 外科と分子生物学
16 臓器移植
17 人工臓器
18 再生医学
19 術前術後管理と術後合併症
20 外科とリスクマネジメント
21 卒前臨床実習およびコア・カリキュラム
各論
1 顔面および口腔
2 頸部
3 乳腺
4 胸壁および胸膜
5 気管・気管支および肺
6 心臓
7 血管
8 縦隔および横隔膜
9 食道
10 腹壁,臍,腹膜,大網および後腹膜
11 ヘルニア
12 胃および十二指腸
13 小腸および結腸
14 直腸および肛門管
15 肝臓
16 胆嚢および肝外胆道系
17 膵臓
18 脾臓および門脈
19 副腎
20 リンパ系
21 老人外科
22 小児外科
和文索引
欧文索引
書評
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紙上での臨床講義に出席して10年分の得をする
書評者: 篠原 尚 (兵庫県立尼崎病院消化器外科部長)
『標準外科学』を手にするのは3度目になる。最初はもちろん学生時代,第4版であったと記憶している。外科学の最初の講義で教授から推薦され,何の迷いもなく購入した。すでに外科医をめざすと決めていた私は,内科の「朝倉」に比べてあまりにhandyな一冊本であることに多少驚きながらも,こげ茶色の重厚な表紙をわくわくしながらめくったものである。ベッドサイド実習の時期になると,真白い白衣に本書片手の学生たちが外科病棟に設えられた部屋で勉強していた。まさにstandard textbookであった。
2度目は第9版,消化器外科学会の専門医試験対策に入手した。表紙こそ紺色を基調としたイラスト入りの斬新なものになっていたが,本文は第4版の頃と変わらぬ安心感のある2色刷りで,懐かしさもあって購入を即決した。専門医試験を受けようとする外科医が学生用の教科書で勉強するのもどうかと思い,同僚には「講義の準備のために買った」ことにしておいたが,卒後十数年の間にいささか偏りすぎた知識の穴を埋めてくれる期待通りの内容で一気に読んだ。今も医局の書架に居座り続けている。
さて,このたび改訂された第12版。一段とhandyになった印象で,さてはこちらもゆとり教育で内容が削られたかと心配したが頁数はほとんど変わっていない。白基調のすっきりした表紙と,使われている上質紙のためだろう。頁をめくると,大きめの文字でいかにも読みやすそうな記述が目に飛び込んできた。繰り返し読むことの多い教科書にとっては,内容はもちろん,「思わず次の頁をめくりたくなるような読みやすさかどうか」ということも重要である。
章のタイトルデザインや余白・図版の配置,フォントの統一感などが旧版より洗練され,成功しているようだ。また,従来の教科書は文章の記述が中心で,ともすれば“退屈”な印象が否めなかったが,本版ではその常識を覆すかのように重要な部分が色文字やアンダーラインで強調され,しかも覚えるべきポイントが箇条書きされた「Note」欄が随所に散りばめられている。
例えば食道癌の「Note」では病因や疫学,病期分類,転移経路,診断,治療がわずか15行に凝集されている。これで知識を整理した後,本文に戻り再読すれば,より理解が深まるだろう。さらに余白に書き込んでいけばオリジナルの立派なサブノートが完成する。外科学の勉強はそれで十分だろう。
挿図の良し悪しも,外科の教科書の使い勝手に直結する。本版のイラストは旧版から一新され,立体感のある美しいものに入れ替わった。アイコンに例えるならばWindows 98と最新バージョンのWindows 7ほどの違いがある。旧版にはなかったカラー写真も多く収載された。すさまじい勢いで進化する内視鏡手術用鉗子や吻合器に至っては,今現在われわれが使っている最も新しいタイプの写真が掲載されていて驚いた。学生向けだからといって手を抜かず,最先端の外科臨床を知ってほしいという執筆者の強い意図を感じる。
私は日頃,「教育とは,次世代に10年分の得をさせることである」と考えている。自分が外科医として20年かけて獲得した知識や技術を10年で修得させる。すると彼らは,得した10年を次なる進歩に充てることができる。それを伝承していくことが外科学の発展につながる。
問題はその手段である。本書第12版を読んだだけでも,私が卒業した22年前と今とでは医学生が学ぶべき知識レベルに雲泥の差があることが明白である。私の知る限り本書の執筆陣は,主要学会で多くの第一線外科医を前に講演されるような各分野のエキスパートばかりであり,本書をひもとけば居ながらにしてそんな先生方の講義を次から次へと受けることができるのだから,一先輩としてはうらやましい限りである。国試合格を目標に,要点だけを羅列した本で暗記中心の勉強もよいが,医学生の皆さんには『標準外科学』紙上での臨床講義に出て,しっかり10年分の得をしてもらいたいと願っている。
外科学における学生教育の現在のスタンダード
書評者: 稲田 英一 (順大主任教授・麻酔科学)
最近は外科志望の医師が減少しているといわれている。外科医を増やすためには,まず実技教育を含めた生き生きとした充実した学生教育を行う必要がある。一口に外科といっても,消化器外科,呼吸器外科,心臓外科,乳腺外科,小児外科などその領域は広い。外科領域の臨床だけでなく,外科学に関係する遺伝子学や免疫学などを含めた基礎教育など幅広い教育も必要となってくる。さらに,臓器移植,遺伝子治療,新薬による治療などに関する倫理的な教育も必要となってくる。
このような幅広い要請に十分に応える外科の優れた学生向け教科書が必要なことは言うまでもない。『標準外科学』は今回で第12版となり,1976年の初版発行から30余年が過ぎた「標準」と付いていることに恥じないロングセラーである。現在,外科学の一線で活躍されている先生方の多くも使用された教科書であると思う。本書はその表紙から紙面まで大きく変わっている。真っ白な表紙は,刷新された本書の意気込みや潔さが象徴されている気がする。
評者は麻酔科医であり,外科医ではない。良書であることを知っているので気軽に書評を引き受けたものの,麻酔科医である私が適任かどうかについて悩むこととなった。そこで,学生になった気持ちで本書を読むこととした。
教科書はまず読み応えがなくてはならない。単に調べるため,あるいは記憶するためだけの本は,教科書とは呼べないであろう。ざっと章だてを眺めてみると,総論には,歴史と医療への貢献,外科侵襲の病態生理,ショック,外科診断法,無菌法,基本外科手術手技や処置,出血,止血,輸血,救急外科,急性腹症,損傷,外科的感染症,腫瘍といった章が並んでいる。さらに,近年学問的進歩が著しく,臨床的にも応用が進んでいる免疫,分子生物学,臓器移植,人工臓器,再生医学,リスクマネジメントといった章が続く。次に各論では,顔面,口腔,頸部,乳腺,心臓,血管,消化管,肝臓といった部位別,臓器別の章が続いている。老人外科,小児外科は別立ての章となっている。
「外科の歴史と外科医の医療への貢献」の章では,外科専門医制度にも触れられており,学生の将来への指針となるだろう。外科的侵襲の病態生理では神経内分泌反応に加え,免疫系の変化や炎症,遺伝子多型にも触れられている。ショックの章では,液性因子に対する対策について述べられており,前章との基礎知識と結び付く。外科的診断法や基本外科手術手技は図や写真も多く実践的となっており,OSCE対策としても役立つであろう。
各論においては,解剖,生理,検査を含む診断法,病態,診断,治療,予後というように順序立てて述べられている。このように基礎から書き起こすことにより,相互に結びついた系統的な知識体系となり,それに基づいた理論的思考を促すことになる。
本文は重要事項を赤文字ゴチックとしたり,アンダーラインを付けるなどわかりやすくなっている。とかく平板になりがちな教科書の記述がこれらの工夫により,読みやすく,また記憶しやすいものになっている。試験前の学習にも便利であろう。図表や写真も多く,理解や知識の整理を促進するようになっている。写真も白黒のものは鮮明であり,カラー写真のものも実際に近い色となっており,臨場感がある。心臓手術のところでは,QRコードを用いて術中映像が閲覧できるようになっている。本文695ページという中に,これらの事項を含めた監修者と編者の努力に敬服する。
本書は,外科学の学生教育の現在のスタンダードを示すと同時に,未来への展望も示すものである。本書は医学部学生を主たる対象としたものであるが,実地医家にとっても,外科学全般を今一度振り返りリフレッシュするのに有用な書と考えられる。
書評者: 篠原 尚 (兵庫県立尼崎病院消化器外科部長)
『標準外科学』を手にするのは3度目になる。最初はもちろん学生時代,第4版であったと記憶している。外科学の最初の講義で教授から推薦され,何の迷いもなく購入した。すでに外科医をめざすと決めていた私は,内科の「朝倉」に比べてあまりにhandyな一冊本であることに多少驚きながらも,こげ茶色の重厚な表紙をわくわくしながらめくったものである。ベッドサイド実習の時期になると,真白い白衣に本書片手の学生たちが外科病棟に設えられた部屋で勉強していた。まさにstandard textbookであった。
2度目は第9版,消化器外科学会の専門医試験対策に入手した。表紙こそ紺色を基調としたイラスト入りの斬新なものになっていたが,本文は第4版の頃と変わらぬ安心感のある2色刷りで,懐かしさもあって購入を即決した。専門医試験を受けようとする外科医が学生用の教科書で勉強するのもどうかと思い,同僚には「講義の準備のために買った」ことにしておいたが,卒後十数年の間にいささか偏りすぎた知識の穴を埋めてくれる期待通りの内容で一気に読んだ。今も医局の書架に居座り続けている。
さて,このたび改訂された第12版。一段とhandyになった印象で,さてはこちらもゆとり教育で内容が削られたかと心配したが頁数はほとんど変わっていない。白基調のすっきりした表紙と,使われている上質紙のためだろう。頁をめくると,大きめの文字でいかにも読みやすそうな記述が目に飛び込んできた。繰り返し読むことの多い教科書にとっては,内容はもちろん,「思わず次の頁をめくりたくなるような読みやすさかどうか」ということも重要である。
章のタイトルデザインや余白・図版の配置,フォントの統一感などが旧版より洗練され,成功しているようだ。また,従来の教科書は文章の記述が中心で,ともすれば“退屈”な印象が否めなかったが,本版ではその常識を覆すかのように重要な部分が色文字やアンダーラインで強調され,しかも覚えるべきポイントが箇条書きされた「Note」欄が随所に散りばめられている。
例えば食道癌の「Note」では病因や疫学,病期分類,転移経路,診断,治療がわずか15行に凝集されている。これで知識を整理した後,本文に戻り再読すれば,より理解が深まるだろう。さらに余白に書き込んでいけばオリジナルの立派なサブノートが完成する。外科学の勉強はそれで十分だろう。
挿図の良し悪しも,外科の教科書の使い勝手に直結する。本版のイラストは旧版から一新され,立体感のある美しいものに入れ替わった。アイコンに例えるならばWindows 98と最新バージョンのWindows 7ほどの違いがある。旧版にはなかったカラー写真も多く収載された。すさまじい勢いで進化する内視鏡手術用鉗子や吻合器に至っては,今現在われわれが使っている最も新しいタイプの写真が掲載されていて驚いた。学生向けだからといって手を抜かず,最先端の外科臨床を知ってほしいという執筆者の強い意図を感じる。
私は日頃,「教育とは,次世代に10年分の得をさせることである」と考えている。自分が外科医として20年かけて獲得した知識や技術を10年で修得させる。すると彼らは,得した10年を次なる進歩に充てることができる。それを伝承していくことが外科学の発展につながる。
問題はその手段である。本書第12版を読んだだけでも,私が卒業した22年前と今とでは医学生が学ぶべき知識レベルに雲泥の差があることが明白である。私の知る限り本書の執筆陣は,主要学会で多くの第一線外科医を前に講演されるような各分野のエキスパートばかりであり,本書をひもとけば居ながらにしてそんな先生方の講義を次から次へと受けることができるのだから,一先輩としてはうらやましい限りである。国試合格を目標に,要点だけを羅列した本で暗記中心の勉強もよいが,医学生の皆さんには『標準外科学』紙上での臨床講義に出て,しっかり10年分の得をしてもらいたいと願っている。
外科学における学生教育の現在のスタンダード
書評者: 稲田 英一 (順大主任教授・麻酔科学)
最近は外科志望の医師が減少しているといわれている。外科医を増やすためには,まず実技教育を含めた生き生きとした充実した学生教育を行う必要がある。一口に外科といっても,消化器外科,呼吸器外科,心臓外科,乳腺外科,小児外科などその領域は広い。外科領域の臨床だけでなく,外科学に関係する遺伝子学や免疫学などを含めた基礎教育など幅広い教育も必要となってくる。さらに,臓器移植,遺伝子治療,新薬による治療などに関する倫理的な教育も必要となってくる。
このような幅広い要請に十分に応える外科の優れた学生向け教科書が必要なことは言うまでもない。『標準外科学』は今回で第12版となり,1976年の初版発行から30余年が過ぎた「標準」と付いていることに恥じないロングセラーである。現在,外科学の一線で活躍されている先生方の多くも使用された教科書であると思う。本書はその表紙から紙面まで大きく変わっている。真っ白な表紙は,刷新された本書の意気込みや潔さが象徴されている気がする。
評者は麻酔科医であり,外科医ではない。良書であることを知っているので気軽に書評を引き受けたものの,麻酔科医である私が適任かどうかについて悩むこととなった。そこで,学生になった気持ちで本書を読むこととした。
教科書はまず読み応えがなくてはならない。単に調べるため,あるいは記憶するためだけの本は,教科書とは呼べないであろう。ざっと章だてを眺めてみると,総論には,歴史と医療への貢献,外科侵襲の病態生理,ショック,外科診断法,無菌法,基本外科手術手技や処置,出血,止血,輸血,救急外科,急性腹症,損傷,外科的感染症,腫瘍といった章が並んでいる。さらに,近年学問的進歩が著しく,臨床的にも応用が進んでいる免疫,分子生物学,臓器移植,人工臓器,再生医学,リスクマネジメントといった章が続く。次に各論では,顔面,口腔,頸部,乳腺,心臓,血管,消化管,肝臓といった部位別,臓器別の章が続いている。老人外科,小児外科は別立ての章となっている。
「外科の歴史と外科医の医療への貢献」の章では,外科専門医制度にも触れられており,学生の将来への指針となるだろう。外科的侵襲の病態生理では神経内分泌反応に加え,免疫系の変化や炎症,遺伝子多型にも触れられている。ショックの章では,液性因子に対する対策について述べられており,前章との基礎知識と結び付く。外科的診断法や基本外科手術手技は図や写真も多く実践的となっており,OSCE対策としても役立つであろう。
各論においては,解剖,生理,検査を含む診断法,病態,診断,治療,予後というように順序立てて述べられている。このように基礎から書き起こすことにより,相互に結びついた系統的な知識体系となり,それに基づいた理論的思考を促すことになる。
本文は重要事項を赤文字ゴチックとしたり,アンダーラインを付けるなどわかりやすくなっている。とかく平板になりがちな教科書の記述がこれらの工夫により,読みやすく,また記憶しやすいものになっている。試験前の学習にも便利であろう。図表や写真も多く,理解や知識の整理を促進するようになっている。写真も白黒のものは鮮明であり,カラー写真のものも実際に近い色となっており,臨場感がある。心臓手術のところでは,QRコードを用いて術中映像が閲覧できるようになっている。本文695ページという中に,これらの事項を含めた監修者と編者の努力に敬服する。
本書は,外科学の学生教育の現在のスタンダードを示すと同時に,未来への展望も示すものである。本書は医学部学生を主たる対象としたものであるが,実地医家にとっても,外科学全般を今一度振り返りリフレッシュするのに有用な書と考えられる。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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