診断力強化トレーニング
What's your diagnosis?

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誰もが遭遇する症例を集めた、実践的な診断力を養うためのトレーニングブック。診断に至るまでの思考過程を、Clues(手がかり)、Red Herring(めくらまし)、Clincher(決め手)、解説、Clinical Pearlsといった決まったフォーマットで解説。読者はその簡潔かつ臨場感ある語り口に魅了され、診療現場を疑似体験しながら診断力を強化できる。

診断力強化トレーニング 人気タイトルトップ10

編集 松村 理司 / 酒見 英太
執筆 京都GIMカンファレンス
発行 2008年11月判型:B5頁:228
ISBN 978-4-260-00647-7
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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 この本は,医学書院発行のプライマリ・ケア/総合診療のための月刊誌である『JIM』(Journal of Integrated Medicine)に2003年1月から毎月連載されている「What's your diagnosis?」の症例を集めたものである.ただし,過去に書いたものを単に集めたわけではなく,単行本化にあたってはかなりの改訂作業が必要になった.書式の整理・統一に始まり,内容の刷新や文献の見直しに及ぶので,書き下ろしに近くなった原稿があるかもしれない.
 この連載は,近年は洛和会音羽病院で毎月第1金曜日に開かれている“京都GIMカンファレンス”に提示された症例の中から選ばれている.毎回午後6時から9時近くまで約3時間をかけて3症例が検討されるので,連載にはカンファレンス提示症例全体の1/3しか載せられない.各回の出席者は老若男女数十人に及び,勤務医が圧倒的に多いが,最近は開業医も散見される.いずれも総合診療や家庭医療の同好の士である.症例提示者は常連の7つの病院の研修医や若手総合診療医にほぼ限られるが,参加者全体の勤務先病院はぐっと多数になり,その設置場所も京都府以外のいくつかの都道府県にまたがる.
 “京都GIMカンファレンス”の最大の特徴は,全く予備知識なしのぶっつけ本番であることである.正診は,症例提示側だけしか知らない.まず病歴だけ,次に身体所見,次いで初期検査所見が示され,各段階で参加者が鑑別診断を考えながら自由に質問し合い,実際の臨床の流れに沿った形で診断を絞ってゆく醍醐味を味わう.参加者は遠方からわざわざ集まってくるので,「典型的症候を呈する日常的な疾患」の提示というわけにはゆかない.どうしても「興味ある症例」の提示になりやすく,「日常的な疾患だが,非典型的症候を呈する場合」とか,「典型的症候を呈するが,比較的珍しい疾患・病態」の検討が主体になる.中には「非典型的症候しか呈さないかなり珍しい疾患」が提示されることがあり,錚々たる面々の口調が滑らかでなくなることもある.
 長幼の序へのこだわりはなく,自由な議論が売りである.何せ参加者の人数も多く,出身背景も広く,医師経験年数も異なり,要は誰が何者だかよくわからない.洛和会音羽病院に滞在中の“大リーガー医”が飛び入り参加することもある.
 さて,話題を広げよう.装いも新たに新医師臨床研修制度が発足して4年以上が経過したが,まだまだ足りないものの一つに「診断推論の徹底した訓練」があげられる.病歴はhistory,身体診察はphysical examinationだから,英語では“H&P”とよくいわれる.“H&P”こそ医学の基本なのであり,診断推論の訓練には“H&P”を土台に据えるべきである.諸検査の手前でもっともっと検査前確率の推定にこだわりたいものである.
 鑑別診断は,決して病歴と身体所見と検査所見を込みにして行わない.鑑別診断の第一歩は,まず病歴だけで行う.病態生理の出番であるが,幅も深さも不可欠である.そして,疾患頻度の重み付けをする.つまり,第1に何,第2に何…,逆に考えにくいものは何,考えられないものは何,というふうに展開する.同じ症候を呈していても,疾患頻度は「診療の場」によって多少,時には大きく変わる.重症度や緊急度の重み付けも大切である.つまり,少々考えにくくても,重篤な疾患や緊急性のある病態なら存在感が大きくなる.
 鑑別診断の第2歩は,身体所見の追加による整理である.身体診察では,眼底検査や直腸診も省略せず,「頭のてっぺんから足の爪先までの全身診察」を合言葉にする.系統だった身体診察法の修得は,日頃の訓練なしにはあり得ない.同時に,それに支えられた臨機応変な対応,いわば「きらりと光る身体診察」も,忙しい臨床現場では欠かせない.なお,身体所見に関しては,「検者の想定内のものしか見えず,聞こえない」といわれる.つまり,視診や聴診による異常所見も,病歴上での鑑別診断に即して初めて把握できるというわけである.「身体診察前確率」の推定が重要だともいえる.
 その後に初めて,「したがって,どういう検査をする意義があり,どういう検査は意味がないか」が検討される.検査特性の優劣も論じられる.必要最小限の初期検査所見に照らして検査後確率を解釈するのが,「What's your diagnosis?」という按配である.
 この症例集は,“京都GIMカンファレンス”参加病院の総合診療科に集まってきた患者を総合診療医が主体的に診断・治療したものばかりである.類書は少ないと思われる.50症例しか選べなかったが,『JIM』に連載できなかった症例のうち28症例をコラムの形で追加することができた.
 ここで,“京都GIMカンファレンス”の沿革について述べたい.2008年8月に第122回を迎えるこのカンファレンスの第1回は,1998年4月に京都大学医学部総合診療部で開かれた.私が1998年3月に京都大学総合診療部臨床教授に就任した機会に,医学生の学外実習以外の活動にも取り組みたいと申し出たのである.京都大学総合診療部が開設されてすでに4年が経過しており,私も当初から非常勤講師陣に加えてもらっていたが,老舗の名門医学部での新設科の臨床的展開はかなり波乱含みに思われた.「先生,せっかくの総合診療の臨床教授なので,一般内科が主体の当院(市立舞鶴市民病院)の症例を京大の研修医や医学生たちに提示させてもらえませんか」と私.「それは願ってもないことですね」との快諾の主は,総合診療部教授の福井次矢先生(現聖路加国際病院院長).
 数カ月後に国立京都病院(現京都医療センター)の酒見英太医師が参加するよろづ相談所病院,京都民医連中央病院の面々が,次々と参加するようになった.提示症例の幅が広がり,臨床経験談の厚みも増加した.“京都GIMカンファレンス”という命名は,『JIM』連載開始の時期と呼応している.カンファレンスへの参加者はその後もさらに増加したが,京都大学総合診療部の組織改変に伴い,2006年4月に開催場所を洛和会音羽病院に移している.
 酒見君の功績の第2は,連載記事の現在の体裁を発案したことである.各論文の「変わったタイトル」を間接的ながら誘導したことも含まれる.なおRed Herring(燻製ニシン)は狐狩り用の猟犬の嗅覚を鍛えるために使われたので,「鼻ごまかし」とでも訳されるべきものであるが,日本語の体裁上「めくらまし」とさせていただいたとの由である.そして,功績の第3が,この本の編集の水準維持に大きく関わってくれたことである.
 診断推論には,正統な仮説演繹法以外に,教育用の徹底的検討法(VINDICATE+P),アルゴリズム法,老練者(?)用のパターン認識などがある.袖振り合う老若の参加者がぶっつけ本番で議論する“京都GIMカンファレンス”で,各種の診断推論法が混在するのは避け得ない.混沌の整理は,次代を開く青壮年医師の肩にかかる.最近の連載論文のなかには,EBMの手法や用語がかなり自然に盛られている文体がみられ,新たな胎動を感じる.

 2008年10月
 松村理司

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 執筆者一覧
 序

救急外来
Case 1 血液培養のタイミングにご用心!
Case 2 二相性の急性胃腸炎?
Case 3 救急室でのスナップ診断?
Case 4 たかが高血圧,されど高血圧
Case 5 懲りずに3度!
Case 6 打ち身にご用心
Case 7 忘れた頃にやってくる
Case 8 本当にあった怖い話
Case 9 腰が抜けた!
Case10 神出鬼没な所見と行動は…
Case11 古傷が痛む
Case12 肴が象徴

一般外来
Case13 原因不明の腎不全?
Case14 ベリーベリー・ショート
Case15 疑わないとわからない
Case16 食べられない人は救います!
Case17 異文化コミュニケーション
Case18 よく見るけれども,診たことない
Case19 旅行者下痢症?
Case20 勝手に手が動きます!
Case21 Mはどこ?
Case22 臍から汁
Case23 なくても,ある
Case24 目覚めはブラックコーヒーで?
Case25 正攻法!
Case26 何かが足りない
Case27 混ぜればわかる!
Case28 “会話困難”は診断困難で治療困難?
Case29 僕だけじゃ,十分じゃなかったのね…!?
Case30 厚!
Case31 TBの前にエコーはいかが?
Case32 医師も患者も意識朦朧!?

紹介受診
Case33 マレーシア産の肺炎?
Case34 Common disease?
Case35 男はつらいよ
Case36 軽いうつ?
Case37 Blind
Case38 終わりなき高熱?
Case39 Not only“striated”but“smooth”…
Case40 術後の痛み?
Case41 ひどい肩こり
Case42 ウイルスon…?
Case43 こんな結果でええんか?
Case44 肝臓もじっとしてない?
Case45 偽の冠をかぶって首が痛い
Case46 One in million
Case47 どこかがつまっている
Case48 四つ目で診断
Case49 熱く痛い足,冷たく痛い足
Case50 去る恋人を待ち続け

 索引

Bullet
01.2人ともガスの犠牲に
02.開眼に支障あり
03.血液系ダブル
04.赤ズキンは狼だった!
05.当たり? ハズレ! やっぱり当たり!
06.脾臓まで取ったのに!
07.こたえはたなごころのうちに
08.しびれます
09.もう立ち上がれません
10.初秋の農婦の赤い目
11.腹痛と貧血をつなぐ仕事
12.お腹の中の落とし穴?
13.薬剤性肝腫瘤?
14.もう大人ですけど
15.お「固い」人?
16.冬の雷鳥
17.Typical presentation
18.肺が痛い
19.もう歳ですし,あきらめます…
20.骨折り損のくたびれもうけ
21.手口から見破れ
22.頬がしびれたら
23.Pitfall
24.空から来た海の男
25.3本の指
26.Tissue may not be the issue!?
27.どちらにしようかな? One common disease
28.K-1よりスゴイ!

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黒い馬も白い馬もシマウマも
書評者: 大滝 純司 (東京医大教授・医学教育学)
 これは医学書院の月刊誌『JIM』の連載企画である「What's your diagnosis?」が再編集されて単行本になったものです。優れた研修医教育で全国的に知られる京都の洛和会音羽病院で毎月行われている,京都GIMカンファレンスで検討された症例が,その連載の基になっています。総合診療の業界では,既に伝説になっている有名な症例検討会です。連載には,重症例や複雑な症例,そして珍しい症例や診断に苦慮した症例が,特にその診断の過程がリアルに紹介されていて人気があります。

 『JIM』には,基本を重視し,頻度の高い症候や健康問題に対する標準的な診療をわかりやすく学ぶのに適している,初心者向けの内容が多いと思いますが,この連載の症例検討は違います。症例の臨床的な情報がひと通り提示されたのちに,「What's your diagnosis?」と考えされられるのですが,いつもかなり難しくて,私はなかなか診断が当たりません。

 頻度の低い,珍しい診断を真っ先に考えてしまう様子を揶揄して「蹄の音を聞いてシマウマを思い浮かべる」という意味を込めて「シマウマ探し」と言うそうです。この本に載っているのがそのようなシマウマ的な症例ばかりということではありませんが,普通の茶色い馬のような症例はほとんどありません。珍しい疾患だけでなく,頻度の高い疾患の珍しい経過も含まれています。何が「手がかり」「めくらまし」「決め手」になったのか,それも明示されていて教訓的です。黒い馬も白い馬も,そして時々はシマウマもいるということが実感できます。ありふれた症例を診ることが多い日常の診療では,頻度の高い普通の馬のような疾患を学ぶことは容易ですが,それらの中に潜んでいる珍しい馬を見落とさないためにも,これは貴重な症例集です。

 この連載の特徴の一つが,毎回つけられているユニークな題名です。例えば「ベリーベリー・ショート」「Mはどこ?」「目覚めはブラックコーヒーで?」といった具合に,謎かけになっていて,診断を考える際のヒントになっています。単行本でもこれが踏襲されていて楽しめます。

 何はともあれ,診断のついていない患者さんを診ることが多い医師にはお勧めだと思います。
提言:この本のインパクトを最大限に楽しむ方法
書評者: 福岡 敏雄 (倉敷中央病院総合診療科主任部長 医師教育研修部)
 この本はゆっくりと読み進めなければならない。考えながら読まなければならない。そうしなければ,この本の本当の面白さは味わえない。手に取るときから注意して,ページを開くときから緊張して立ち向かおう。

 まず目次に目を通そう。普通の症例集とは違い,年齢も主訴も示されない何か意味ありげな題名が並んでいる。これこそが京都GIMカンファレンスの発表者がこだわる「妙なタイトル」である。発表者は参加者を知的に楽しませることを強く意識している。それが最も集約されているのがこの「タイトル」である。これで興味が引かれたらぜひ読み進めよう。でも,「注意して」読み進めよう。

 一人で読むのなら,まず下敷きを用意しよう。それでページ全体を隠してから,題名から一行一行読んでいこう。

 グループで読むのなら,誰か一人にナビゲーター役をしてもらって,疑似ケースディスカッションをしよう。ナビゲーターが一つ一つの項目を説明して進めていこう。

 そして,表紙にある「What's your diagnosis?」の問いを自分に投げかけながら,ステップごとに鑑別診断を列挙し,その中で可能性の高い疾患を挙げ,さらに何を確かめたいか,どんな検査を行いたいか,とりあえずどう対応するかを考えていこう。そうすれば,ここに示された症例の奥行きは深く情報は多いことを感じることができるだろう。

 この本を普通の症例集のように最初からざーっと読んだのでは,題名にある「診断力強化トレーニング」の効果を損なってしまう。「正解」の診断を当てられるかどうかにこだわって,「解説」に示されたそこに至るプロセスやその後の対応や経過を読み飛ばしたり読み流したりしてはならない。そこには,臨床上しばしば問題となる落とし穴や,検査の感度・特異度・尤度比,正解以外の疾患との鑑別方法,とりあえずの対応のポイントなど,さらに深い学びにつながる道しるべが示されている。

 このようにして読み終えたあなたは,もう元のあなたではない。それほどインパクトのある「トレーニング本」である。楽しもう。

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