Ⅱcがわかる80例
早期胃癌診断のエッセンス

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早期胃癌の大半は平坦陥凹型、いわゆるIIcである。早期胃癌の診断学をきわめるためには、IIcの診断に通ずることがその近道である。著者40年の経験から、教訓的な症例80例を供覧し、診断のポイントを解説している。本書のページを繰ることによって、読者は居ながらにしてIIc型早期胃癌とその鑑別症例80例を経験することができる。消化器科の専門医をめざす医師にとって手元に置きたい1冊である。
中野 浩
発行 2008年10月判型:B5頁:212
ISBN 978-4-260-00642-2
定価 8,800円 (本体8,000円+税)
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 早期胃癌の診断は従来,X線,内視鏡,そして生検の病理組織学的診断が三位一体となって行われてきた.そして,これらの所見を裏づける切除胃の病理組織学的検索も加わり早期胃癌の診断体系が形づくられてきた.この中で形態学的に基本となる所見を提示して,これらの診断過程を引っ張ってきたのがわが国で開発され完成された二重造影法を中心とした胃X線診断学である.
 筆者は,幸運にもインターンを終えた直後の昭和43年6月から1年間,癌研究会附属病院の熊倉賢二先生のもとに置いていただき,そこで初めて胃X線検査の手ほどきを受けた.それから今日まで40年間,早期胃癌の診断にX線診断を重点に置きつつ携わってきた.
 その間,内視鏡機器の目覚ましい進歩があり,ついていくのが精一杯の日々もあった.そして,今日では早期胃癌の診断は内視鏡と生検で事足れりという風潮が強くなり,それにつれて早期胃癌に対する関心が薄らいできたように思われる.
 熊倉先生の指導を受けた初めての論文「胃大彎側陥凹性早期胃癌のX線診断について」(臨床放射線14:907-917, 1969)の原稿の表紙に,先生から“具体の提出”という言葉を書いていただいた.それからは患者さんに寄り添いながら検査を行い,1例1例のフィルムを大切にしてきた.
 昭和54年,雑誌『胃と腸』の座談会「早期癌診断の現況を憂う」(胃と腸14:64-74, 1979)に,早期胃癌診断の第2世代として出席させていただいたとき,「良い写真を見せてもらったことが一番勉強になった」と発言したところ,市川平三郎先生から「画商は自分の弟子を養成するときには本物しか見せないのだ」と言われた.それから,「本物を見つけ,本物を見せよう」と思うようになった.
 筆者の症例報告「腸結核に合併した上行結腸癌の1例」(胃と腸18:883-890,1983)の「臨床概評」欄に,丸山雅一先生は「著者は文章よりX線フィルムに語らせようとしている」と書いていただいた.本書も,そのつもりで構成したので,写真集のようになってしまった.
 早期胃癌研究会で度々指名されて読影するようになったころ,会が終わり立ち上がると「先生の読影は教科書的でよかった」と言われ少々得意になることもあった.
 白壁彦夫先生からは,筆者の教授就任の祝賀会で「お前は牧師さんみたいだ」という祝辞をいただいた.これは「叱られた」と直感したが,それからは一層若い人達と一緒に検査に精を出すようになった.そのためか,それからは教職の道にも進むことになった.
 今日になり,“具体”としての多くのX線フィルムを前に,恩師の先生方の教えを少しでも残しておきたいと思うようになった.
 本書では,自験例のIIc型早期胃癌と,その複合型といわれるIIc+III,III+IIc,IIc+IIa,IIa+IIc型をIIcと総称して対象とした.また,IIcが原発巣と考えられるスキルス胃癌,IIcと鑑別診断を要する疾患も対象として掲載した.
 はじめにX線フィルムを示し,その撮影法,所見について解説し,内視鏡写真も添え,これらの所見を裏付ける切除胃肉眼像,病理組織標本ルーペ像も掲載し,今日でも行われている症例検討会の様式を採った.X線診断からはじまり,病理組織診断の結果を診る,そして,逆に病理から臨床に戻るという繰り返しが診断能を高めると教わり,実行してきたからである.
 胃X線検査には,集団検診で行われている間接・直接検査,初診時に行われるルーチン検査,そして,主に術前に行われる精密検査がある.筆者はこのうち,いわゆる精検というX線検査を近接TV装置で行ってきた.
 最近,検診の場に立ってみると,透視,撮影,読影からなる胃X線検査が様変わりしている.モニターがよく見え,撮影方法もフィルムレスに象徴されるように透視が主体となっている.写真判定,スケッチといった場面は失われてしまった.こうなると撮影者から読影者への所見の伝達がより一層重要となる.そこで若い検査者の透視力が要求される今,原点に帰り,基本的な所見と,その成り立ちを学んで欲しい気持ちで一杯である.
 本書を通して「IIcそのものの形を素直に現すことができる」というX線検査の価値を,X線フィルムを通じて知ってもらいたいと思っている.その中に「本物に近い写真」が1枚でもあり,筆者自身もそうであったように,「こんな写真を一度撮ってみたい」と思ってくれる若い医師,X線技師の方が1人でも出れば,望外の喜びである.

謝辞
 昭和43年,名古屋大学の中澤三郎先生に癌研究会附属病院の熊倉賢二先生のもとに送っていただいた.そこでは高木國夫先生,中村恭一先生が師範格,兄貴分に丸山雅一先生,先輩として染矢内記先生,池田晴洋先生,高田 亮先生がみえ,後から伊藤 誠先生,杉山憲義先生が加わった“熊倉学校”に入れていただいた.熊倉先生は,朝から夜遅くまで,私どもに付き合いながら,わが国の胃X線診断学の嚆矢ともいうべき名著『図譜による胃X線診断学─基本所見の成り立ちと読影』(金原出版,1968)の仕上げをされていた.私は,何もわからず,暗室で真剣に検査に取り組まれている熊倉先生の傍らに立っていた.見学者から「どうしたらよい写真が撮れますか」という質問があると,先生は決まって「熱意です」とだけ答えておられた.先生からは写真の撮り方など具体的には何も教わらなかったが,“何か”を感じ,以後,私淑することになった.1年後,帰り際に先生からスキルス胃癌のスライドをいただいたが,IIcのスライドも内緒でいただいて帰った.
 高木國夫先生からは内視鏡と生検の基礎を教えていただいた.中村恭一先生からは研究室の雰囲気と研究の姿勢を見せていただいた.その後,次々出された臨床病理学の名書『胃癌の病理─微小癌と組織発生』(金芳堂,1971),『胃癌の構造 第1,2,3版』(医学書院,1982,1990,2005),『大腸癌の構造』(医学書院,1989)には目を見張り,いつのまにか先生の教えに従って症例を集めるようになった.
 昭和47年からは国立がんセンター病理部門の佐野量造先生の教えも受けるようになった.そして,佐野先生と下田忠和先生が主催された,早期胃癌診断の名人といわれる実地医家の先生方の集まりである『八丈会』にも入れていただいた.そこでは,切除胃の肉眼所見の読みを教えられた.佐野先生の名著『胃疾患の臨床病理』(医学書院,1974)は,今も座右にあり,私のバイブルとなっている.
 昭和50年8月からは藤田啓介総長先生が創設されて間もない藤田保健衛生大学に移り,伊藤 圓教授の消化器内科に入局し,そこでは随分わがままを許していただいた.藤田総長先生からはいろいろ薫陶を受けた.本書の表紙のデザインに使用した「忍冬藤─スイカズラ」も先生のものである.
 昭和63年,白壁彦夫教授のお世話でスウェーデン・カロリンスカ大学に留学した.そこでは,診断放射線学教室のスレザーク教授のもとでX線,内視鏡検査を担当させていただいた.スレザーク先生はじめ同僚医師のボー先生,エドガー先生の内視鏡検査のうまさには感心した.ストックホルムに来ていただいた白壁先生からは,直接,X線診断学に対する情熱をお聞きし,身の引き締まる思いがした.その後は白壁先生には大所高所からご指導いただくようになった.
 東京,名古屋の早期胃癌研究会には昭和43年から出席し,小林武彦先生,新海真行先生と昭和54年秋にはじめた名古屋の症例検討会は今も続いている.これらの会は私の“修行の道場”となった.そして雑誌『胃と腸』の編集委員にもしていただき,全国の著名な先生方からご指導を受けるようになった.
 ここまでに,お許しもなくお名前を挙げさせていただきました恩師の先生方に心より感謝申し上げます.先生がたのご支援がなければ,今の私はありません.
 ここからは敢えて仲間と呼ばせていただく皆さんです.外科の宮川秀一先生,宇山一朗先生と医局員の皆さん,病理学の黒田 誠先生と,30年も前のブロックも探し,染め直してくれた病理部検査技師の伊藤里美さん,X線検査に20年,10年間と付き合ってくれた放射線技師の杉本正司さん,遠藤幸男さん,数え切れないくらいのX線フィルムを焼き付けてくれたフォトセンターの田島武志さん,また,汗を拭いてくれたレントゲン室,内視鏡室の看護師さん,補助さん,皆さんのご協力に心より感謝いたします.
 そして,毎日一緒に過ごした渡邉 真,高濱和也先生をはじめ医局の皆さん,先生方のお許しと協力のお陰で本書があることは言うまでもありません.新たに平田一郎教授を迎えた医局の発展を心から祈念いたします.そして,絶えず励ましながら,文章の校正も手伝ってくれた同門の西井雅俊先生,ありがとう.
 東京,名古屋の早期胃癌研究会を共催されているエーザイ(株)に感謝申し上げます.
 最後になりましたが,突然のお願いの電話に,「少し古いかな」とお互いに言いながらも“X線の本”の出版に快く応じ,絶大なるご協力をいただきました医学書院の窪田 宏氏に心より感謝申し上げます.

 2008年4月29日 藤田学園退職を記念して妻と行く東欧3か国への旅の機中にて
 中野 浩

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1.IIcの撮影と読影
IIcの撮影法
 症例 1 充分量のバリウムで病変部をよく洗う
 症例 2 病変部にバリウムを流し,溜める
 症例 3 バリウムを流し,浅いIIc面にバリウムを付着させる
 症例 4 粘膜面にバリウムを“のせ”てIIcを出す
 症例 5 粘膜ひだを伸ばしてIIcを写す
 症例 6 ひだの中のIIcもひだを伸ばして診断
IIcのX線所見と読み
 症例 7 IIcのX線所見の読みを知った症例
 症例 8 典型的なIIcで陥凹内の顆粒が目立った例
 症例 9 IIcの所見を意識して描写し,読影する
 症例10 吐血で診断された典型IIc
 症例11 一部に粘膜集中像のあるIIc症例
 症例12 粘膜集中像の周辺にIIcの所見を読む
 症例13 分化型腺癌のIIcのX線像

2.症例提示
A.広い,大きいIIc
 症例14 IIcの辺縁の微細鋸歯状の所見を知る
 症例15 IIcの癌の面としてのX線所見を知る
 症例16 広いIIcの口側の診断
 症例17 IIcの境界が1本の線分として現れた
 症例18 抗潰瘍薬の服用で境界が不明瞭になったか
 症例19 IIcの全貌を1枚のX線写真で知る
B.浅いIIc,小さいIIc
 症例20 ごく浅いIIcを描写する
 症例21 浅いIIcの境界を線として読影する
 症例22 描出が難しかった胃体部の浅いIIc
 症例23 広く,浅いIIcの全体像を診断する
 症例24 IIbといえる症例
 症例25 表層拡大型胃癌の1例
 症例26 胃体部のひだの中の小さいIIc
 症例27 X線的に診断された微小癌
C.IIc+III,III+IIc
 症例28 フィルム上でIIc部分を発見した
 症例29 IIc+IIIの広いIIc部分の診断
 症例30 IIc+IIIの口側の診断
 症例31 IIIの周辺の狭いIIcを描写する
 症例32 線状潰瘍の辺縁にIIcを読む
 症例33 潰瘍の経過観察後10年でIII+IIcと診断
 症例34 胃角前壁病変は圧迫を加えた二重造影法で精査する
 症例35 悪性サイクルを追う
 症例36 脳出血後の潰瘍が悪性サイクル例であった
 症例37 NSAID潰瘍の悪性サイクル例
D.IIc+IIa
 症例38 大きな花弁状陰影を示したIIc+IIa
 症例39 短い花弁状陰影を示したIIc+IIa
 症例40 中央に大きな顆粒のあるIIc+IIa
 症例41 小型の梅鉢様の所見を示したIIc+IIa
 症例42 ダリアの花様所見を示したIIc+IIa
 症例43 粘膜ひだに乗った菊花状のIIc+IIa
 症例44 細長い花弁状陰影を示したIIc+IIa
 症例45 IIc+IIaの深達度診断
 症例46 分化型腺癌の辺縁は花弁状
E.IIa+IIc
 症例47 小さいIIa+IIc
 症例48 典型的なIIa+IIc
 症例49 IIcの周辺に狭い隆起部分を認めたIIa+IIc
 症例50 リンパ球浸潤性髄様癌の1例
F.深達度診断
 症例51 IIc面の透亮像で癌の深達度を知る
 症例52 粗大顆粒と面の厚さで深達度を知る
 症例53 IIc周辺の透亮像は何か
 症例54 空気量を変えてIIcの深達度を追求
 症例55 深達度診断の難しかったIIc
 症例56 順序立てて癌を読影する
G.スキルス胃癌
 症例57 スキルス(Borrmann 4型)の典型例
 症例58 幽門前庭部の小IIc様陥凹が原発巣だったBorrmann 4型癌
 症例59 IIc進行型
 症例60 柔らかいスキルス(latent LP型胃癌)
 症例61 リンパ管炎を伴う水腫期のスキルス胃癌
 症例62 linitis plastica型胃癌の典型例
 症例63 “小型のスキルス”の1例
 症例64 “小型のスキルス”の典型例
 症例65 pre-LP型胃癌の1例
 症例66 スキルス─LP型胃癌の初期像
 症例67 “スキルスの初期像”
 症例68 “スキルス”の原発巣と全体像の経過
 症例69 “悪性ニッシェ”からの経過
 症例70 原発巣からLP型胃癌に進展した症例
H.鑑別診断
 症例71 不整陥凹と腫大した粘膜ひだからなるMALTリンパ腫
 症例72 不整陥凹陰影と周囲の顆粒状陰影からなるMALTリンパ腫
 症例73 陥凹の性状でIIcと鑑別する
 症例74 広いIIc様のMALTリンパ腫
 症例75 残胃のMALTリンパ腫
 症例76 MALTリンパ腫から悪性リンパ腫へ
 症例77 MALTリンパ腫の経過(Hp除菌例)
 症例78 領域性のある胃炎はIIcと鑑別を要する
 症例79 AGML,NSAID潰瘍
 症例80 胃癌と胃潰瘍

参考文献

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消化管画像診断学の原点に戻る名著
書評者: 多田 正大 (多田消化器クリニック院長)
◆消化管画像診断の王道

 消化管画像診断学を極めるための近道はない。多くの典型症例を経験・見聞して,頭の中のフィルムライブラリーに記憶しておくことからスタートしなければならない。一朝一夕に完成するものではなく,多くの時間と労力を要する。そのうえで見せられた画像が自分の経験例とどこが違うのか,どの点に類似点があるのかを考え,診断過程をたどる応用力を養うことが大切である。遠回りしてでもコツコツ,地道に症例を集積して,自らの診断力を磨くことがすべてである。その意味では『胃と腸』誌の「今月の症例」コーナーを熟読することで,素晴らしい画像診断学を身につけることができる。これは提示されるX線・内視鏡写真が卓越した水準にあるからであり,『胃と腸』誌が読者から支持されているゆえんもここにあると思う。

 胃癌の診断においても多くの症例を経験することが画像診断のスタートである。なかでもIIc型早期胃癌の画像を理解することは診断学の基本であり,そこから病変範囲や深達度診断の読影,類似病変との鑑別などに役立てることができる。X線像と内視鏡所見,マクロと組織像を丹念に対比することから胃癌診断学が展開される。地道で苦労が多い作業であるが,これが王道であると私は信じている。

◆中野診断学の完成

 私が尊敬する中野浩先生は頑なに消化器診断学の王道を追求した学士の一人である。早期胃癌研究会や『胃と腸』編集委員会の場で,中野先生の診断学に対する情熱,篤い精神を拝聴する機会はしばしばあった。中野先生は胃癌診断だけでなく,食道,小腸,大腸,胆膵などのあらゆる臓器,そして腫瘍だけでなく炎症性疾患の画像診断にも長けており,妥協せずに持論の診断学を展開する態度に私たちは感服させられていた。消化管診断学も拡大内視鏡診断,超音波内視鏡,NBI診断など高い水準の読影力が要求される時代になっている。その結果として「大腸は専門分野であるが,胃癌の診断はできない」という困った専門医が増えていることも事実である。これでは学者としては尊敬されても,実際に患者を診療する臨床医としては失格である。このような状況にあっても,中野先生は恩師である中澤先生,熊倉先生,白壁先生,八尾先生などの先達から学んだ胃診断学をひろげて,いわゆる比較診断学を展開してあらゆる臓器の画像診断に挑んだ素晴らしい精神の持ち主である。消化器病医のあるべき姿,王道を歩んできた数少ない学徒である。

 その中野先生が『IIcがわかる80例』を上梓された。見事なIIc型早期胃癌の画像が列挙されており,きれいな写真を見るだけで圧倒される。近来まれにみる編集方針であり,拡大内視鏡も超音波内視鏡画像もなく,旧来のX線と通常内視鏡写真でIIcの本質に迫ろうとする志の高い内容である。まわりくどい文章は極力少なくして,きれいなX線・内視鏡画像でIIc型早期胃癌や類縁疾患の典型例を提示し,切除標本と病理組織像を対比させて画像診断のエッセンスを問う書籍である。まさに『胃と腸』誌創刊時の伝統とする編集方針を地でゆく構成であり,難解な文章が少ない分,肩が凝らずにIIcを理解することができる。

 特に提示されたX線画像は秀逸である。内視鏡偏向の今の時代にあって,本書に提示されたような質の高いX線像を撮影できる医師や放射線技師が少なくなっているだけに,X線から切除標本まで揃った貴重な80症例を集積した努力に対して頭が下がる。X線写真の焼付けを担当したフォトセンター・田島武志氏の尽力なくして,これだけ素晴らしい画像診断学の書籍の発刊はできなかったであろうが,このあたりの経緯は本書の長い序文に如実に記されている。中野先生の研究歴,人脈が余すところなく記述されており,本書の出版に賭ける篤い思いがうかがえる。

 本書は胃癌診断学を極めようとする初心者からベテラン医まで,さらに放射線技師にとっても,画像診断学の原点に回帰する貴重なバイブルである。おそらくここ当分の間,この書籍の画像,内容を超える名著は出現しないのではないかとも考える。傑出した内容であるからこそ,一人でも多くの消化器病医,放射線技師に愛読され,提示された典型例の画像を記憶してほしい。そこから消化管画像診断学の王道が始まると期待する。
病変を正確に抽出した美しいX線画像の数々
書評者: 杉野 吉則 (慶大大学院准教授・消化管画像診断学/慶大病院予防医療センター)
 最近,消化管画像診断の総本山といえる早期胃癌研究会においても,読影するに値するようなX線画像が提示される症例は少なくなった。呈示されるX線写真で病変の部位や形状がわかるのはよいほうで,ほとんど写っていないこともある。ときにはX線検査が行われていない症例も提示され,私どもにとってはさびしい限りである。しかし,この本に載っている鮮明で美しい写真を見ていただければ,病変を的確に示現したX線画像は内視鏡に匹敵する,いやそれ以上の情報を提供してくれることがよくわかる。

 著者は,胃X線診断学を故熊倉賢二先生から学ばれて,40年間にわたって研鑽を積んでこられた。私にとってはいわば兄弟子にあたり,書評を書かせていただくのは畏れ多い存在である。本書を開いた第一印象は,中野先生には失礼であるが,ほぼ全例,私が自分で検査した症例のように錯覚したことである。つまり,長年にわたって熊倉先生から学ばれた撮影法で,病変を正確に描出されており,まさに,私が撮影しようと頭に描いている画像ばかりである。それも,細部にわたってきっちりと撮影されているので,今後は,私も精密検査の前後に必ず開けてみるために,常に手元に置いておきたい本である。序にも書かれているように,本書は読むのではなく,時間をかけてじっくりと観るべきである。無駄な説明はなく,「本物」のX線画像が肉眼標本や病理組織の所見を忠実に表していることを実感し,学んでほしい。

 画像はほとんどが二重造影像であるが,二重造影法の基本は,まず,適度の伸展度で造影剤を粘膜面によく付着させること,次に病変を正面像として捉えることである。その際,できるだけ病変を水平位でかつフィルム(あるいは検出器)と並行にする。さらに,病変が陥凹であれば,そこに造影剤を溜めて,その輪郭や深さを表す。また隆起や粘膜襞については造影剤を周囲に溜めて輪郭などを表すことによって,病変を表現する。すなわち,熊倉先生のいう二重造影-IIである。本書では,IIc56症例,スキルス14症例,MALTリンパ腫など10症例,さらに参考症例約20例のほぼすべてについて,陥凹部に造影剤がきっちりと溜められているので,IIcの形状や輪郭における不整さとはどのようなものであるかよく理解できる。また,隆起については周囲に造影剤を溜めることにより輪郭の性状,頂部の粘膜の様相がよく表現されている。さらに,IIcの周囲の粘膜襞やスキルスの粘膜襞については,襞間に造影剤を溜めることや伸展性を変えることより,どのような所見を異常とするのかを,本書をじっくりと読むことで,しっかりと学んでほしい。

 最初にも述べたが,本物のIIcのX線画像とはどのようなものであるかがよくわかるので,消化管X線診断に携わる方や,これから志している方はもちろんのこと,胃の検査は内視鏡で十分と考えている方にもぜひ,お薦めしたい。

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