乳癌診療ポケットガイド

もっと見る

近年、わが国における乳癌罹患率は増加の一途をたどり、女性の癌罹患数の第1位、死亡数では第3位となり、まさに最も深刻な疾病のひとつといえる。本書は、聖路加国際病院のブレストセンターが総力をあげて、将来乳腺の専門医をめざす若手医師や、癌医療に携わる看護師、薬剤師に向けて、乳癌の臨床に役立つ知識・新しい知見をコンパクトにまとめたマニュアルである。
編集 聖路加国際病院ブレストセンター
発行 2010年07月判型:B6変頁:224
ISBN 978-4-260-00942-3
定価 3,960円 (本体3,600円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 これまでがんの専門医といえば,ある領域の診断から治療までに精通した医師であることを意味してきた.したがって,乳癌であれば,マンモグラフィの読影資格を有し,エコーの操作ができ,時に,画像ガイド下に針を正確に刺して微小な病変の組織を採取したりと,手術前の診断技術も身につけていることが前提であった.また,一昔前は,抗がん剤投与を専門とする腫瘍内科という職種も存在していなかったため,抗がん剤の投与も外科主導で行われてきた.乳癌の疑いから始まり,手術や放射線治療,再発予防のための抗がん剤治療,さらに,再発となれば,一生涯を一人の医師が中心に診ていくことが常であった.いわゆる主治医として存在することは,患者にとっても安心であるはずであるが,診断技術が高度化し,治療法が複雑化してくると,一人でカバーすることが次第に困難となりつつある.
 全米No.1と評されているがん専門医療施設 米国テキサス大学M. D. アンダーソンがんセンターでは,いち早く,がんのチーム医療を導入し,特に,医師と同等の診療能力を身に付けた上級看護師,麻薬や,その副作用対策の処方権を有するがん領域専門薬剤師などを,チームの一員に組み入れている.また,外科医,腫瘍内科医,放射線診断医,放射線治療医,病理医などが一堂に会して,治療方針に難渋するケースのコンセンサスを得て,患者にその場で治療方針を伝えるmultidisciplinary clinicを運営している.患者にとっては,それぞれの診療科を受診する手間が省け,診療チームは共通の理解のもとで,それぞれの専門性を発揮することができる.日本でも,乳がん看護認定看護師制度,がん化学療法看護認定看護師制度,がん専門薬剤師認定制度などが確立し,専門性の高い看護師や薬剤師がチーム医療に加わるようになってきている.今後は,在宅医療も包括した地域医療連携にも,チームの輪が広がっていくであろう.
 本書は,乳癌診療に携わるあらゆる職種の人が,EBMや標準治療に関する共通の知識を有して,患者を中心にそれぞれの専門の立場から意見が交換できるようにすることを目的として作成された.本書を通じて,乳癌のチーム医療が,なお一層全国に浸透することの一助となれば幸いである.

 2010年6月
 中村清吾


聖路加国際病院ブレストセンター チーム医療十か条

 1.座右の銘を持て
  —プロとしての理想像,人生訓を持つ—
 2.大志を抱け
  —中長期の目標を立てる,井の中の蛙にならず,世界にはばたけ—
 3.傾聴,共感
  —他人の痛みのわかる医療者となれ—
 4.教えることは,学ぶこと
  —時に叱り,時に褒め,決して罵倒してはならない—
 5.職種に垣根なし
  —他職種の尊重,チーム医療の推進—
 6.反省なくして進歩なし
  —同じ過ちを2度と繰り返さない対策を立てる—
 7.報告,連絡,相談
  —情報の共有—
 8.今日できることは,明日に延ばすな
  —締め切り厳守—
 9.5分前ルール
  —余裕をもった行動—
10.筆まめになれ
  —To do listをつくる,感謝の気持ちを表す—

 単に「道理」(知識や技術)の習得だけではなく,「道程」(教育や成長の過程)を重んじ,「道徳」(医療者としてのあるべき姿)を学ぶ.
(2005年5月8日 中村清吾)

開く

I 乳癌の発生・進展
II 疫学・予防
III 診断
 A 診断総論
 B 診察
 C 画像診断
 D 細胞診・組織診
 E 病理組織診断
IV 原発性乳癌の治療
 A 治療総論
 B 術前化学療法
 C 外科的治療
 D 乳房再建術
 E 放射線療法
 F 術後補助薬物療法
 G 妊娠・授乳期乳癌
 H 術後リハビリテーション・退院指導
 I リンパ浮腫
 J 術後フォローアップ
V 進行再発乳癌の治療
 A 治療総論
 B 内分泌療法
 C 化学療法
 D 分子標的治療
 E 脳転移・癌性髄膜炎
 F 骨転移
 G 胸水貯留・肺転移
 H 肝転移
 I 皮膚転移
 J CVポート留置術
VI 緩和療法
 A 疼痛管理
 B オピオイドの使い方
 C その他の症状の管理
VII 薬物療法の副作用
VIII 家族性乳癌・遺伝性乳癌
IX 予後予測因子・治療効果予測因子とテーラーメード治療
 A 予後予測因子と治療効果予測因子
 B 予後・治療効果予測ツール
 C 遺伝子発現解析を用いた予後因子
X 社会的サポート
 A 訪問看護
 B 社会資源
 C 乳がん看護認定看護師
 D チャイルドライフスペシャリスト(CLS)
XI 乳癌におけるチーム医療
 A チーム医療とは?
 B チーム医療が必要な理由
 C 社会の中でのチーム医療
付録
索引
有害事象共通用語規準 v4.0日本語版JCOG版

開く

専門医以外の医療者にもお薦めしたい良書
書評者: 田村 和夫 (福岡大教授/臨床腫瘍学・血液学)
 本書は乳癌患者を実際に診療するに当たってガイドとなる,B6変型判224頁の白衣のポケットに容易に入るサイズの冊子である。表紙はピンク色でピンクリボンを思わせ,乳腺を扱う本であることを想定させる装丁である。

 執筆は中村清吾センター長(現・昭和大学病院乳腺外科教授)を中心とした聖路加国際病院の乳腺科のチームが担当されているが,チームで乳癌患者を診療する視点から記載され,極めて実践的ですべての職種が利用できる内容となっている。

 内容を点検してみると,マニュアル本にありがちなknow-howものではなく,疫学,予防,検診から診断・治療まで通常の診療について記載されていることはもちろん,乳癌の生物学的な特徴を理解するためのホルモン受容体,HER2を含む病理組織検査について図入りで概説されている。また,まだ日本では一般化していないが,将来導入される可能性のある遺伝子発現解析についても言及している。さらにインターネットを通し患者が入手できる豊富な最新情報に対し,医療者が相談を受けた際に対応ができるよう配慮されている。

 治療のセクションでは,乳癌治療チームがbad newsを伝え,がん治療(手術,薬物,放射線療法)を実施する際に直面する問題を,副作用,医療費,再発・終末期に至るまで患者が置かれているそれぞれの段階に応じて,適切に治療・マネジメントができるようにチームとしてかかわっていくためのポイントがわかるように書かれている。

 さらに大きな特徴は,ガイドラインの枠を超える最新の薬剤については第III相試験の概要とその結果を紹介し,担当医が考察,決定できるようにしていることである。小冊子にもかかわらず重要な文献がどの章にも取り上げられており,単に執筆者の考えあるいはガイドラインの押し付けになっていないところもよい。

 本書は,これを参考に乳癌専門の医療ができ,さらに乳癌診療に対する基本的な考え方も理解できる内容となっているので,乳癌専門の医療者ばかりでなく,乳癌を専門にしていない医師やプライマリ・ケアを行う看護師・薬剤師にも推薦できる良書である。病棟・外来の机の引き出し,あるいは白衣のポケットにちょっと入れておくと便利である。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。