はじめに
“Nursing Process”の邦訳である「看護過程」という用語がわが国の看護界に根づいて久しい.疾患や治療法に基づく画一的な看護ではなく,患者が有する個別の問題に焦点を当て,問題解決技法に基づいたケア計画の立案と看護活動を展開する方式の導入は,ケア対象者一人ひとりの個別性に目を向けることが,質の高い看護ケアに繋がるということを改めて伝えてくれた.
一方,従来からの病棟基準や看護マニュアル,新しいものではクリニカルパスやケアマップなどは,ある診断群に含まれる人々,同じ治療法(例えば術式,処方)を受ける人々の共通性や同一性に注目し,最大多数の合理性と最大公約数での妥当性からケア方法の道筋を示す方法である.
本書は,いわばこの両者の考え方を合わせたものであり,疾患名はもとより,病期・病態・重症度などが,患者アセスメント,問題の明確化(看護診断),計画立案での大いなる手がかりとなるよう組み立てられている.
正直なところ,当初は「疾患別看護過程」というとらえ方に,ぬぐいきれない抵抗感があった.すなわち看護過程は個別のケア展開のためのものであり,それらは疾患別というくくりには馴染まない,と考えてきたからである.また「(医学的)診断によって看護が決定されるのではない,そこに患者さんがいる限り看護は存在する」といわれるように,疾患名や治療法が看護に先行するとも考えてはいない.そのような思いを抱えていたなか,本書に先立つこと数年前に,姉妹編ともいうべき
『症状からみた看護過程の展開』の編集に携わる機会を得た.その際に“症状”というサインを出発点として,考えられる原因疾患や発症機序,必要な検査や治療を視野に入れつつ看護過程を展開することが,アセスメント―看護診断―目標―看護活動―評価というサイクルを,どの地点からでも一層柔軟に大胆に動かせるのだ,ということを実感した.
すなわち本書で示す疾患別看護過程とは,複数の看護過程を疾患別に統合したものではない.看護過程の展開にあたり,疾患名はもとより病期・病態・重症度を考慮することが個別性を充実させ,さらに疾患解説に含まれる病因,疫学,症状,合併症,そして治療法の知識がケアの根拠を強固にするのである.もとより看護過程は疾患・病態,治療と切り離しては存在しえないものであり,要は看護過程との融合・連携方法なのであろう.従来の前提としての疾患・治療の知識ではなく,それらを看護過程にいかに有機的に組み込めるかが問題なのであり,本書ではその方針を徹底して推し進めた.
しかし,それもこれも経験豊かな執筆陣が得られてこその話であるが,その点ではわが国第一線の方々のご参加を得ることができた.編集者らの意図を上回る内容をご提供頂けたことは感謝に堪えない.加えて電子化時代を意識した構成,レイアウトに知恵を絞っていただいた医学書院編集室の皆様にも心よりのお礼を申し上げたい.
本書が,看護を学ぶ,看護に携わる人々によって,十全に使いこなされ活用されることがあるなら,それは編纂にかかわった者すべての望外の喜びである.
2008年11月
編集者を代表して 井上智子