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癒し癒されるスピリチュアルケア
医療・福祉・教育に活かす仏教の心

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末期患者への精神的・心理的サポートとしてのスピリチュアルケアを,医療施設内外で活躍する僧侶が仏教の視点からわかりやすく概説。末期の人だけでなく,日々の仕事や教育に悩む人にも役立つ多くのアドバイスが,豊富な経験から語られている。案外知らない仏教の世界にも触れることができる読み物にもなっている。
大下 大圓
発行 2005年03月判型:A5頁:288
ISBN 978-4-260-33389-4
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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第1章 なぜこころのケアが必要なのか
 1 私の活動の原点
 2 病院でのボランティア活動
 3 生、老、病、死と向き合うこと
第2章 スピリチュアリティとスピリチュアルケアを定義してみる
 1 スピリチュアリティとはどうとらえられてきたか
 2 スピリチュアルケアの本質
 3 スピリチュアルケア理解のための2前提
第3章 仏教のケア論とスピリチュアリティ
 1 いのちと向き合う
 2 老死を生きぬくケア論
 3 看取りと救済のスピリチュアリティ
 4 日本人のこころの歴史と仏教的ケア論
第4章 現代におけるスピリチュアルケア―3つの臨床事例より
 1 臨床でのこころの援助とは
 2 北山邦男さんの場合―スピリチュアルケアにおける死生観の変容
 3 加藤真一さんの場合―スピリチュアルケアと音楽療法
 4 纐纈敏郎さんとその家族の場合―末期と葬儀におけるスピリチュアルケア
第5章 家族にとってのスピリチュアルケア
 1 死生観、輪廻観からみたスピリチュアルケア
 2 ケアリングの概念をスピリチュアルケアの視点で考える
 3 在宅ケアの重要性
 4 家族援助とスピリチュアルケア
第6章 スピリチュアルケアの展望
 1 スピリチュアルケアの専門性を考える
 2 親子のスピリチュアリティ
 3 スピリチュアルケアのネットワーク
 4 ケアする人のためのスピリチュアルケア
 5 スピリチュアルケアの担い手と人材育成について
 6 スピリチュアルケアの未来像

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仏教と医療の重なり合いが,末期患者さんへの接し方を変える! (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 北本 福美 (金沢医科大学精神神経科学教室 臨床心理士・音楽療法士)
◆お寺の住職によるスピリチュアルケア

 本書は,副題が示すように仏教的見地からのスピリチュアルなかかわりの入門書として書かれたものである。著者,大下大圓氏は飛騨千光寺の住職であり,スピリチュアルケアワーカーであり,音楽療法士である。12歳で仏門に入り,高野山での厳しい修行の後にスリランカに渡りさらに修行を重ね,帰朝されてから多岐にわたる領域で活躍されている。評者は,音楽療法関係のご縁で今回任を与えられたが,そのような修行の威圧を微塵も感じさせないお人柄が伝える存在感を,不思議な感触をもって味わう1人である。

 本書の内容は6つに分かれており,第1章「なぜこころのケアが必要なのか」では,まさにご自身を曝け出した書き出しで,対象者に向かう姿勢が「説教」から「思いを聴く」に変化していった経過を静かな語り口で啓かれている。第2章「スピリチュアリティとスピリチュアルケアを定義してみる」では,日本人にとってのスピリチュアルケア(あるいは,むしろケアリングというかかわりのプロセスが示されているようにも感じられたが)が説かれ,〔いい加減さ〕という独特の用語でその核に触れている。第3章「仏教のケア論とスピリチュアリティ」では,仏教思想(哲学)への簡略ではあるがダイレクトな解説が「看護」にからめて紹介され,現代と決して隔たった人間観ではないことが幾重にも納得させられる。これは,著者の博識がなせる業だと感服する。第4章は「現代におけるスピリチュアルケア」と題して3つの事例が紹介されている。いずれもそのかかわりから,人を「慈しむ」という心が伝わってくる。第5章「家族にとってのスピリチュアルケア」では第4章を受けて,異なる角度で仏教的見地からの新たな看護モデルが提唱されている。しかし,それは同時に日本に古来より親しまれてきたはずの「家庭看護」の再考でもあるととらえられる。病む人に寄り添い,手をかざし,触れ合いの相互浸透がいかに重要なことであったかを思い起こさせる。第6章「スピリチュアルケアの展望」では,著者の多領域への活動の展開が紹介され,「スピリチュアルケアとは人間同士の関係性を重視した“人類希求のワーク”である」とまとめられている。

 これまで,キリスト教背景のスピリチュアルケアの紹介は多くみられるようになり,ホスピタリティ-ホスピスという軸での理解は日本でも深まったと思われるが,日本人が親しんできた文化・背景により,ケアを学び直すことはなかなか刺激的なことではないだろうか。また,著者の説法の恵みにも与った思いがする1冊でもある。人として患者様と触れ合うことを喜びとする同朋には,是非ご一読をお薦めする。

(『看護学雑誌』2005年7月号掲載)
全人的ケアのあり方を再構築できる書 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 黒田 裕子 (特定非営利活動法人阪神高齢者・障害者支援ネットワーク理事長)
 現代の医療の現場において,最も近くにいて患者の心に触れ,その悩みを聴き,なんとかして最善の回答を選び出そうと日夜苦吟しているのが看護職であることは言を待たないと思う。とりわけ終末期医療の現場では,「寄り添う」「心を癒す」という日常行為に取り組むことを心に刻みながらも,患者本人や家族の苦悩のあまりの激烈さに,時に言葉を失い,対応に苦慮する毎日でもある。

 本書には,飛騨千光寺住職である著者の,約20年にわたるボランティア活動「ビハーラ飛騨」としてのベッドサイドでの傾聴活動,高山市の医院・高桑内科クリニックや千光寺「心の道場」でのカウンセリング・研修活動,さらには日本ホスピス・在宅ケア研究会の理事としてスピリチュアルケア部会をリードしてきた経験などがぎっしりとつまっている。

◆仏教者としてのスピリチュアルケア実践

 キリスト教を背景としたホスピス病棟では,患者を「全人的存在」としてとらえるスピリチュアルケアという方法も自然に受け入れやすいように考えられるが,仏教が介在するスピリチュアルケアに少し違和感をもつのは,筆者だけではないだろう。ところが,著者の経験に基づく仏教者としてのスピリチュアルケアの実践は,本書を読むと不思議なほど自然に心に入り込んでくるのである。

 例えば,第1章に,「佐藤さん」という患者がでてくる。この人は,外傷がもとで自分の意思では身体を動かせず,さらに気管切開によって声を出すこともできない。鼻腔チューブからの流動栄養食に頼っており,20年に及ぶベッド上の生活のなかで,意思は眼球の動きのみでしか示すことができなかった。そのような患者との間に通い合うものがやっと生まれたそのとき,「死にたい」と切れ切れの言葉で訴えかけられたら,我々はどのように対応すればよいのだろうか。

 著者が何週間も悩み抜いた後にようやく到達したのが,「私が答えを出さなくてもいい。この人の言葉の奥にある思いをちゃんと聴く,傾聴が重要なのだ」という境地だった。そしてさらに,日常的には何もできないと思えた佐藤さんが,病院内コンサートの「言い出しっぺ」として人の役に立ったことを力強く伝えていく。

◆「スピリチュアルケア学」に大きく踏み込む

 さらに,本書ではスピリチュアリティとスピリチュアルケアの定義に取り組み,WHOの「健康の定義」の討論の歴史的葛藤から,世界史的にスピリチュアルケアの置かれている状況を解説したうえで正面から切り込んでいる。スピリチュアルペインについて述べて,その背景にあるスピリチュアルケアについてぼんやりと描いてみせるのが従来の「スピリチュアルケア学」の手法であったように思えるが,著者は大きく踏み込んでいるのだ。さらには,日本ホスピス・在宅ケア研究会でのスピリチュアルケアの討論過程も語られている。

 このような著書をまず看護管理者が熟読することで,日頃の全人的ケアのあり方を再構築できる。先のみえない現状や,死と向き合う患者や家族の今の気持ちを「どのように受け止めるか,受け止めなければならないか」について,部下・後輩たちを成熟させる資料となるからである。ぜひ本書を手元に置き,自身とスタッフのステップアップに活用していただきたい。

(『看護管理』2005年7月号掲載)
身近でありながら忘れていたまったく新しい視点を学べる (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 山添 正 (京都学園大学人間文化学部教授・日本スピリチュアルケアワーカー協会会長)
 本書は,畏友大下大圓氏が,医療・福祉・教育に関わる人のために,長年にわたり実践されてきた末期がん患者やひきこもりの若者支援などの具体的実践事例を基に,「スピリチュアルケア」について,仏教のことがわからない初心者にもわかりやすく,しかも体系的に書かれた本です。

 スピリチュアルケアというと,キリスト教のホスピスケアを連想される方が多いかもしれません。わが国は仏教という豊かなスピリチュアル文化を持っているのですが,さまざまな歴史的経過があって,現在は医療と仏教は大きな距離があります。

 たとえば,本書の第 1 章「なぜ心のケアが必要なのか」では,著者が檀家さんや信者さんの入院している病院へ僧服でお見舞いに訪問したところあまり歓迎されず,時には守衛さんに「霊安室はあっちですよ」などと言われたことがあると書かれています。どうも私たちは仏教を,人の死に関わるもので,生に関わるものとは考えてこなかったようです。それが僧衣のお坊さんをみると「縁起でもない」という反応につながるのでしょう。

 なぜ僧衣ではいけないのか,末期がん患者さんの深い心の底には強いスピリチュアルなニードがあるのに病院にはどうして僧侶として入りにくいのかという疑問から,医療と仏教の橋渡しを試みたのが本書であるといえます。

 スピリチュアルケアとは何なのか? 詳しくは第 2 章「スピリチュアリティとスピリチュアルを定義してみる」を読んでいただきたいのですが,次の言葉がヒントになるでしょう。「ある看護師は看護マニュアルにしたがって患者の右腕に注射をする,ところがある看護師は患者の表情や反応を注意深く観察しながら右腕に注射している」

 これは,病気を見て人間を見ていないのでは,本当のケアにならないという考え方を示しています。

 たとえば看護は,ケアにあたる人が準拠する枠,教育を受けた知識や技術の枠組みに大きく影響を受けます。スピリチュアルケアとは,こうした知識と技術をふまえながらも,また医療現場の力学的な上下関係も超えて,看護師―患者関係を,人間対人間の交流として,患者さんに寄り添い,患者さんから表出される重要なさまざまなサインを見落とすことなく,ケアの実践に結び付けていく看護(または介護)のことです。

 ところで著者は,末期患者に対してあたりまえのように傾聴し,寄り添い,そして見事なケアを実践しています。これは,著者個人が優れた僧侶であると同時に優れたケアワーカーでもあるからですが,さらに事例を詳しく読んでいただくと,チームでケアを行なうことが,その見事な傾聴や寄り添いを可能にしていることがわかります。つまり優れたスピリチュアルケアとは,優れたチームプレイでもあるということです。

 本書を読むことで,看護や介護を実践している専門職のみでなく,在宅で介護をしている家族,ケアに関心のある若い人たちが,いままでの看護論と介護論が最も身近でありながら忘れていた,まったく新しい視点を学ぶことができます。つまり,われわれ日本人が古来慣れ親しんできた伝統仏教の中に,実は看護と介護の実践を確実なものにし,そしてその豊かな展開を保証する精神の文化があったのだということに読者は気づかされるのです。その気づきは,自分の足元を見ないでいた,これまでの看護や介護の,よりよい実践につながっていくはずです。

 本書をあらゆるケアに関わる方の必読書としてお薦めします。

(『訪問看護と介護』2005年6月号掲載)
ケアの質を深める仏教的アプローチ
書評者: 種村 健二朗 (栃木県立がんセンター緩和医療部長)

 終末期の患者さんの苦しみは身体的なものだけではない。彼らを心の苦しみから解放するにはどうしたらよいのかと考えあぐねていた20年近い前,ある若い僧侶に出会った。当時既に医療の現場に宗教家として入り込んでおり,独自にスピリチュアルケアを始めていた彼こそが本書の著者,大下大圓氏である。飛騨高山の名刹千光寺の住職を務めると同時に,現在ではわが国のスピリチュアルケア研究者の代表的なひとりである。欧米では宗教家が医療に参加するのは珍しくないが,日本で仏教の僧侶が医療の現場で活動するのは容易ではない。しかし彼は,苦労を苦労と感じさせないように爽やかに活動してきた。そして,その実践の中から生み出されたのが,このスピリチュアルケアの入門書である。

 人間の終末期の「苦しみ」は,1960年代に心の苦しみと肉体の苦しみとを全体的に統合する全人的苦痛(Total Pain)と捉えられるようになり,その人のそれまでの生き方が「死ぬ」という身体的苦痛という現実に出会って繰り広げられる葛藤であると考えられるようになった。ここで言うその人の生き方とは,生まれ育った社会と文化の中で育まれる心の在り様である。また,死にゆく過程で顕われる苦しみは,本人が所属する文化に根付いた価値観や宗教観によって引き起こされ,同時に同じ文化のなかで癒されてゆくことが多い。ここで注目すべきは,キリスト教の文化は人間を身体と心と魂(body, mind and spirit)の三角形(△)として捉えるが,仏教は心身一如として丸く(○)捉えているということである。そのような仏教文化の中で育った著者は,対象者それぞれの価値観や宗教観を大事にしながらも,仏教を背景としたスピリチュアルケアの実践経験を積み重ね,本書でそれを具体的に示し伝えてくれている。

 スピリチュアルケアの実践をしていて,いわゆるキリスト教的アプローチだけでは対応しにくいという経験をしている看護師は少なくないに違いない。日本文化からのアプローチがまだ模索段階にある今,本書は,仏教的アプローチという1つの実践を見せてくれる。ケアの質を深め,対応に幅を持たせるという意味でも,役立ててほしい書である。

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