患者の側に立つことで生まれた明るく輝く看護実践の成果 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者:細野 容子(岐阜大学医学部看護学科教授)
「手が届かないから,足の爪を切ってほしい」と高齢の糖尿病患者に頼まれ,その患者が来院するたびに爪を切り,患者の話を聞くうちに,フットケアの重要性に気づいた1人の看護師がいた。
そして彼女たちはフットケア外来を立ち上げ,足浴やマッサージを続け,その効果を足背動脈血流ドプラーで測定し,自宅でも...
患者の側に立つことで生まれた明るく輝く看護実践の成果 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者:細野 容子(岐阜大学医学部看護学科教授)
「手が届かないから,足の爪を切ってほしい」と高齢の糖尿病患者に頼まれ,その患者が来院するたびに爪を切り,患者の話を聞くうちに,フットケアの重要性に気づいた1人の看護師がいた。
そして彼女たちはフットケア外来を立ち上げ,足浴やマッサージを続け,その効果を足背動脈血流ドプラーで測定し,自宅でも患者が足浴を続けられるような支援を始めた。フットケア外来の開設時には,事務や医局を巻き込んで,フットケアの必要を認めさせたという。
そのうちに,靴ずれが足病変の原因の第1位だと知り,足に合った靴を探して苦労した末に,靴の専門家を見つけ適切な靴を作るよう交渉した。また,旅行にはお金を使っても,靴にはお金を使おうとしない患者が,結婚式に履く靴のことを看護師に相談したときを捉え,看護師は靴のオーダーを勧めた。その後,その患者は履き心地のよさから旅行用としてさらに2足注文したという。
本書は,このように患者あっての医療であることを意識し,糖尿病足病変の予防と進行防止のための患者支援システムを作り上げ,実効があることを証明した,看護師チームの活動の成果である。
たとえば,靴との関係で見るならば,「糖尿病と履き物」(重要な靴ずれ対策,靴適正度の査定,患者の意向別分類,靴選択後のズレも問題)という解説を経て,「室内履き・靴下選び」そして「手持ち靴の補正」「日常の注意と手入れ法」,全国の「足の悩みを相談できる靴専門家・靴店の住所,電話番号」なども紹介されている。
看護は実践である。本書によって,実践家だけが会得できる看護を見せてもらったように思う。
私たちの大学では現在実習の最中だが,足浴を提案して実施したことで患者に喜んでもらえたと誇らしく語る学生がいる。その一方で,そうした看護ができない理由として,診療補助行為の忙しさに逃げている看護師がいることを,私は悲しく思う。清拭や洗髪など,看護の基本的な技術が,患者を清潔にするだけでなく,患者との信頼関係を築くきっかけにもなることを,すべての看護師に知ってほしいと思う。
かつて精神科病院でボランティアをしたとき,素敵な香りのする石鹸で足浴をした患者さんの笑顔や,素足で芝生を踏み,感嘆の声を上げた患者さんの様子が思い出される。しかし当時,私ができたのは足浴が精一杯だった。本書の「ケアの実際」の項に書かれているような観察のポイント,アセスメントの方法などの知識があったならば,看護介入も違ったものになっていたと思う。
患者の側に立つと,看護師がやらなければならないことがたくさん見えてくる。外来看護が期待されている今,著者らのように患者の一言から看護の役割を認識し,他部門との学際的な交流や医療経済への関与までを考えることの必要性に気づかされる。この「看護の社会化」が,看護の質を向上させ,支援システムを作り上げるのだと思う。
本書によって,明るく輝く看護を紹介してもらった。看護職を引退後に京都で過ごすことになる私には,大きな希望と感謝の念でいっぱいである。
最後に,本書はフットケアについて,病院の看護師ばかりでなく,訪問看護師や患者にも使える指導書であることをつけ加えたい。
(『訪問看護と介護』2005年1月号掲載)