はしがき
第3版の序
1968年に刊行された「系統看護学講座」に,精神看護学の先達である外口玉子先生が『成人看護学:精神疾患患者の看護』を書かれてから40余年がたつ。本書の筆者たちの中心は外口先生のテキストで学び,精神看護を志したといっても過言ではない。そこでふれた事例は,現場の息吹をいきいきと伝えるものであった。本書でも,理論だけではない看護の現場のリアリティを伝えようという意気込みをできるかぎり受け継いでいくことを心がけた。
しかし,年々,社会の変化はスピードを増し,精神看護の対象となる人々も場も,大きく様変わりしてきた。精神科で治療を受ける人々のほかにも,さまざまな精神健康上の問題をかかえケアを必要とする人々がふえ,そのニーズも多様化してきている。いまや精神科だけにとどまらず,一般診療科,さらには地域におけるさまざまな施設や組織などで,精神看護の考え方や方法が必要とされる時代となってきたといえる。
また,心のケアといっても,身体のケアとは切り離してはありえず,その両者を統合した理論や実践が求められるようになってきた。そこで,本書では,あらゆる場で応用可能な対象理解や自己理解を進めるため,人間の心理面だけでなく,生理的・身体的側面をも重視することにした。
また,本書ではとりわけ関係に注目した。関係のなかの人間という観点から,言語的・非言語的なコミュニケーションのあり方についても詳しく論じている。さらには,個人対個人のレベルにとどまらず,家族や組織,チームといった集団のなかの人間の営みをとらえ,その背後にあるダイナミクスまでも視野に入れている。
そしてもちろん,社会の理解も必要不可欠である。病いはすぐれて個人的な体験でありながら,社会の歴史・文化・経済などの影響を強く受けるものだからである。とりわけ地域においては,医療・看護・保健・福祉の領域の垣根を越えた協力体制は必要不可欠になった。本書では,そうした相互理解が進むよう,それぞれの領域を代表する書き手によって,わかりやすく解説がされている。
最後に,本書では患者・当事者の視点をできるだけ取り入れることにした。現場はさまざまな矛盾に満ち,ケアを提供する者自身,悩みながらケアしていかなければならないことも多い。読者は,このテキストを通して患者・当事者の思いにふれ,真のパートナーシップをどうしたら築いていけるかをともに考えていってほしい。
ケアする者もケアされる者も,希望を見失うことなく,互いに手を携えながら未来を切りひらいていくことのお手伝いができれば,著者としてはこのうえない喜びである。
2008年12月
著者を代表して
武井麻子