標準微生物学 第9版

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病原微生物の基本的事項を詳細に解説する点は初版以来の精神を継承しつつ,「微生物の基礎知識」が「感染症学」という臨床にどう展開されるかを理解できるように配慮した。目次を再編し,各章の内容バランスを是正。疫学に関する章を新設するなど,関連分野とのつながりも深め,最近の医学教育の変革に対応する構成とした。
シリーズ 標準医学
監修 山西 弘一
編集 平松 啓一 / 中込 治
発行 2005年03月判型:B5頁:696
ISBN 978-4-260-10453-1
定価 7,700円 (本体7,000円+税)
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電顕写真
序論-近年の微生物感染症の動向
第1章 微生物学の歴史
第2章 環境と微生物
 I. 微生物の種類と微生物学の範囲
 II. 生体防御と感染
 III. 病原微生物の取り扱い
 IV. バイオセーフティー
第3章 細菌学総論
 I. 細菌の構造と機能
 II. 細菌の物質代謝の特徴
 III. 細菌遺伝学
 IV. 細菌の病原性
 V. 細菌の分類と同定
 VI. 細菌の化学療法
第4章 細菌学各論
 I. グラム陰性通性嫌気性桿菌
 II. グラム陰性好気性桿菌
 III. 無芽胞偏性嫌気性グラム陰性桿菌
 IV. グラム陰性球菌および球桿菌
 V. グラム陰性嫌気性球菌
 VI. スピロヘータとらせん菌
 VII. グラム陽性球菌
 VIII. 有芽胞菌
 IX. グラム陽性無芽胞桿菌
 X. 放線菌とその関連細菌
 XI. 口腔細菌と感染症
 XII. マイコプラズマ
 XIII. リケッチア
 XIV. クラミジア
第5章 真菌学
第6章 ウイルス学総論
 I. ウイルスの形態・構造・組成
 II. ウイルスの分類と命名
 III. ウイルスの増殖
 IV. ウイルスの遺伝・進化
 V. ウイルスの病原性
 VI. ウイルスの実験室診断
 VII. ウイルス病の治療
第7章 ウイルス学各論
 I. RNA型ウイルス
 II. DNA型ウイルス
 III. 肝炎ウイルス
 IV. プリオンと遅発性ウイルス感染症
第8章 感染症の疫学
 I. 集団レベルでの感染論
 II. 院内感染
 III. Compromised hostと日和見感染
 IV. 感染症の制圧と予防
第9章 感染症と病原微生物
 I. 臨床症状から病原診断へのアプローチ:syndromic approach
 II. 人獣共通感染症(zoonoses):広がる感染症の脅威
付録:ワンポイントチェック問題集
略語
和文索引
欧文索引

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臨床現場の“今”に対応 充実した微生物学のテキスト
書評者: 林 哲也 (宮崎大教授・微生物病学)
 本書はほぼ3年ごとに改訂されており,今回が第9版となる。今回の改訂では編集者を含む執筆者に相当の交代があり,全体の構成にも大幅な変更がなされた。

 まず目につく点は,疫学的な事項と臨床的な事項がそれぞれ第8章と第9章にまとめられたことである。第9章では臨床症状から各感染症がまとめられており,基礎的な微生物学の知識を臨床現場で必要な知識として再統合できるようにすることが新たに試みられている。最近何かと話題となることの多い人獣共通感染症に関しては,旧版では各論の中に埋もれていたものが今版では第9章の独立した項としてまとめられ,その重要性が強調された形となっている。また,感染症の疫学とワクチンに関しても,新たに独立した項として第8章にまとめられている。どちらも臨床の第一線で活動する医療関係者がきちんと理解しておくべき重要事項であるが,旧版ではほとんど記述がなかった事柄である。

 いわゆる感染症新法に対しても,旧版では対応がなされていなかったが,疫学の項で同法についての記述されているほか,各論の各項にも新法での分類が記載されている。細菌学総論に関しては,それほど大きな変化はないものの,ウイルス学総論では大幅な改訂が行われており,抗ウイルス薬開発の進歩などに対応した形となっている。各論においても,新しい分類に対して対応がなされているほか,新しい知見も随所に取り込まれている。特に目立つのは結核菌の項の大幅改訂であり,非常に充実した内容となった。マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアを他の細菌と同列に扱うようになった点も評価したい。

 難を言えば,細菌学総論の病原性の項の記述が少し物足りない点や,一部に基本的な事項とは思えない執筆者自身の研究内容が記載されていることなどである。無芽胞グラム陰性桿菌の病原性の項のように,無理に全体をまとめて記述したことによって,解り難くなっている箇所も見られる。再分類による影響からか,CoxiellaやBartonellaの項が各論からなくなった点も残念である。さらに欲を言えば,明らかにadvanced studyやtopicsと思われるような内容は,できるだけ基本的な事項の記述と区別できる形になっている方が望ましい。こういった点が気にはなるものの,全体としては今回の大幅改訂によって,医学系学生のための微生物学テキストとして本書が非常に充実したものになったことは明らかである。編者および執筆者の方々の努力に敬意を表したい。

第一線の執筆者による 微生物学の教科書
書評者: 谷口 初美 (産業医大教授・微生物学)
 『標準微生物学 第9版』を手にした時,その表紙の躍動感に興味をそそられた。CGを駆使した斬新な色彩とデザインは,左右に広がる波紋の様であり,光を受けて舞い降りる蝶の様でもある。その中に微生物の古典的な分類と,ぶどうの房状をなすブドウ球菌の電顕像,院内感染の代表格であるMRSAのゲノムマップが配されている。古きを温め,新しきを知るという理念と,基礎と臨床という微生物学の両面を示しているように思えた。波紋は更なる広がりを見せる微生物学の可能性を,蝶の飛来は近年の感染症への注目を象徴しているようである。ミクロの世界のミステリアスなイメージの中に執筆者,編者の意気込みが感じられ,引きつけられる。

 導入部の電顕写真は最先端の研究内容を映像だけで理解できるよう配置され,学習意欲の誘導に温かい配慮を感じる。各章のはじめには“本章を学ぶ意義”という短い説明文がある。これも学生には助けになる。受験戦術として,生物を選択せずに入学した学生が多い。一般教養の生物学の知識だけで微生物学の講義を受ける学生たちからは,「感染症は興味あるが,微生物学は原理原則が見えにくい,全体像が把握しにくい」等の訴えがある。この解説は膨大な内容を整理するための原点を提供してくれていて有難い。

 本文は,生命現象を理解する生物学的側面と,感染症を理解するための基本的概念を養うという微生物学の持つ2つの面のバランスを図っている。難解な最先端の情報はわかりやすい図解や薄緑色で囲った表,写真等を随所に配することで理解を助けている。第8章,第9章は,近年の感染制御(学)を網羅したもので,感染症学への導入である。ワンポイントチェック問題集は定期試験,国家試験対策の助けになる充実した設問である。

 執筆者は日本を代表する,現在各分野の第一線で活躍されている先生方である。この充実した内容に対し製本が簡素な感があるが,多くの方に手にしてもらうためには必要な判断,経費節約であろう。実際,この価格はさらに魅力を増している。広辞苑に,“標準”とは「判断のよりどころ。めじるしetc」とある。その看板に相応しい出来ばえであり,医歯薬学生や医療関係者のみならず,環境微生物,新規微生物の開拓,ナノテクノロジー等の分野にかかわっておられる方々,興味を持っておられる方々にも参考にしていただける一冊である。

感染症の変遷に伴い大幅改訂 教科書にとどまらない内容
書評者: 谷口 孝喜 (藤田保衛大教授・ウイルス・寄生虫学講座)
 感染症は社会・生活環境の変化に対応し,刻々と変遷している。エイズウイルス,鳥インフルエンザウイルス,SARSコロナウイルス,プリオン,MRSAなどを代表として,新興感染症の病因としての微生物が注目を浴びているのはその好例である。また,高齢者人口の拡大に加え,臓器移植,抗癌剤,免疫抑制剤の使用の増加など医療の高度化に伴う免疫能低下者(易感染者)の増大による院内感染,日和見感染が跋扈する。性行動の多様化,輸入食品の増加に伴う感染症の変貌がある。さらに,癌の10―15%はウイルス感染によるとも言われている。かくして,21世紀における医学の中で,感染症分野の重要度はきわめて高い。かつての「感染症の時代は終わった」との誤った見通しは,今や,皮肉にも「21世紀型感染症が始まる」に変化したと言っても過言ではない。

 こうした背景のもと,『標準微生物学』は1981年の初版以来,まさに感染症の変遷に遅れることなく,3年ごとに改版を重ねてきた。そして,今回の第9版はかなり大幅な改訂である。内容が最新になったのはもちろんのこと,各章の内容のバランスが是正され,表,図,写真が多用され,カラー刷りが大幅に増大した。特に,ウイルスは視覚に訴えることの重要性を感じる。培養細胞より出芽しているインフルエンザウイルスの走査型電顕像はなんとも説得力があり,感銘を受ける。何と言っても,第8章の「感染症の疫学」そして第9章の「感染症と病原微生物」は,上述した感染症の変遷そしてその背景を学ぶうえで,そして,各論の微生物の全体像を見渡し理解するうえで,この上のない有益な力作である。

 略語一覧そして和文,英文別の索引は,心のこもった作業が結実し充実している。さらに,ワンポイントチェック問題集は,旧版の「学習のためのチェックポイント」と比べより具体的な質問形式で,複雑な微生物学を理解するうえで大いに役立つ。かつて気になった誤植もなく,完璧に校正されている。これだけきめの細かい懇切丁寧な編集がほどこされた教科書もなかなかないのではないだろうか。理念を持った編集と,それに答えた著者の熱情が感じとれる。

 『標準微生物学』はこれまでも,全体に,詳しすぎることなく,簡潔すぎることなく,程よい内容の濃さで記述されている。これ一冊で細菌,ウイルス,マイコプラズマ,クラミジア,リケッチア,真菌までカバーしており,次いで,標準シリーズの『標準感染症学』に移行すれば,感染症の基礎から臨床へ,無理なく学習を進めることができるであろう。本書は,医学生のための教科書として有用であることは言うまでもなく,医師,医学研究者にも十分に役立つ魅力ある書物である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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