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クロニックイルネス

人と病いの新たなかかわり

著:アイリーン・モロフ・ラブキン /パマラ D. ラーセン
監訳:黒江 ゆり子

  • 判型 B5
  • 頁 576
  • 発行 2007年05月
  • 定価 7,480円 (本体6,800円+税10%)
  • ISBN978-4-260-00058-1
包括的な医療とケアの新たなパラダイム
急性期からクロニックへ、キュアからケアへと、保健医療の枠組みが大きくシフトしている。根治せずに病気を抱えて推移するという時間軸と、対人関係や社会的資源など生活レベルでのひろがりを見据えた新たなパラダイムが求められている。本書はクロニックイルネスという切り口から保健医療の全体像を示し、人と病いの新たなかかわりを問い、今日的な課題と取り組みへの展望を与える。
序 文
監訳者まえがき
黒江ゆり子

 現代に生きる私たちは誰もが病気になる可能性を持っており,病気はどのようなものでも慢性に移行する可能性がある。人はこのような状況の予防を望み,それが不可能であれば状況を管理しようとする。そのためには生涯に渡る毎日の活動が必要となり,その多くは家庭など...
監訳者まえがき
黒江ゆり子

 現代に生きる私たちは誰もが病気になる可能性を持っており,病気はどのようなものでも慢性に移行する可能性がある。人はこのような状況の予防を望み,それが不可能であれば状況を管理しようとする。そのためには生涯に渡る毎日の活動が必要となり,その多くは家庭など生活の場で行われるため,医療施設ではなく生活の場がケアの中心となる。
 高度に革新を遂げた医療技術は私たちに病気の急性状況を脱することを可能にしたが,当然ながらそれぞれの人生はその後も長期に渡って続き,その人生の中で,人は病いのある生活の主体者となる。このように考えると現代に生きる私たちにとって,慢性の病い(クロニックイルネス)は,ほかの誰かの事柄などではなく,自分自身の事柄なのである。
 しかしながら,クロニックイルネスと共に現代をどのように生きていくことができるのか,すなわち,生活の中で具体的にどのような調整が必要になるのか,その調整は誰の支援を受けることができるのか,あるいは病いと共にある自分の気持ちを周りの人々とどのように伝えあうことができるのかなどについて,人はどれほど知っているだろうか。
 おそらく,私たちはいつの間にか急性状況の枠組みで事象をとらえるようになり,誰にでも訪れる病いが,老いや死などと同じように人間にとって避けることのできないものであることを忘れてしまったのかもしれない。急性の枠組みでは治癒(cure)が目指されているが,クロニックイルネスは治癒を望むものではなく,病いと共に生きること(living with illness),すなわち,「病いと共に生きる方策を発見すること」が重要な意味を持つ。その意味において,今,人は病いとの新たな関係性を創らなければならない局面を迎えたといえるであろう。
 本書は,Ilene Morof LubkinとPamala D.Larsenによる『Chronic Illness: Impact and Interventions』(第5版)の翻訳である。原書の初版は,20年以上を遡る1986年であるが,その頃から慢性状況に真摯な目が向けられていたことは驚くべきことである。本書の内容は4部で構成され,第I部は,慢性性(chronicity)の概念やスティグマを含む「クロニックイルネスの衝撃」,第II部は,家族による介護や無力感を含む「クライエントと家族にとってのクロニックイルネス」,第III部は,チェンジエージェントや倫理的課題を含む「保健医療職者にとってのクロニックイルネス」,そして第IV部は,保健医療政策や長期ケアを含む「クロニックイルネスと社会システム」である。全24章から成り,クロニックイルネスに関わる論題が余すことなく取り上げられている。
 編者であるIlene Morof Lubkinは,カリフォルニア州立大学の名誉教授であり,Pamala D.Larsenはノースカロライナ大学看護学部准学部長である。慢性の痛みを持つ人々のケアに学生の頃から関心を抱いていたLubkinは,クロニックイルネスの管理と予防にその関心を拡げ,後年はクロニックイルネスに関する書物の出版に情熱をそそいだ。そうして誕生をみたのが本書である。その後,教育と研究に多大な功績を残して2005年に没した彼女の情熱はPamala D.Larsenに引き継がれることになった。
 Disease(疾患)とillness(病い)は同じような意味を持つ用語としてとらえられているが,これらの用語は区別して用いることが可能である。Lubkinらによれば「疾患」は人体の構造と機能の変化のような生物医学的側面に基盤をおく視点に立つ事柄と関わり,それに対して「病い」は,複合的な体験を示す用語として用いられる。それは個人および周囲の者の体験であり,その疾患をどのように感じているのか,それと共にどのように生きているのか,そしてそれらをどのように受けとめているのかなどと関わる。慢性状況においては生物医学的側面を認識することはもちろん重要であるが,長期に渡る援助を提供しようとする時は,「その人の病気に伴う体験」を理解することがそれ以上に重要となる。
 慢性疾患(chronic disease)ではなく,クロニックイルネス(chronic illness)と表現する時,それは特定の疾患の経過に焦点があるのではなく,病気と共にある個人あるいは周囲の者の「体験」に焦点をおくものとなる。本書の中で紹介されているように,「クロニックイルネスは,戻ることのない現存であり,疾患や障害の潜在あるいは集積である。それはサポーティブケアやセルフケア,身体機能の維持,さらなる障害の予防などのために個人に必要な環境を包摂するものである」としてとらえると,私たちが何について考えなければならないかを知ることができる。
 いつの日かわが国の文化において私たちが病いと共にどのように生きるのかについて,多くが語られ著されるであろう。その時まで,本書がクロニックイルネスと共に生活を続けている人々とその人々を支えている人々,そしてクロニックイルネスのケアのあり方を追求している人々にとっての一助となれば望外の喜びである。
 最後に,本書の出版にあたり,医学書院の横川明夫,佐藤博両氏には大変にお世話になった。それぞれの章の意味するところと用語の確認を含め,4年という歳月をお付き合いいただいた。また,本書の出版の重要性を支えてくださり,ご支援をいただいた皆様に心より深く感謝申し上げる。
 2007年4月
 訳者を代表して 黒江ゆり子(人間環境学博士)
書 評
  • Chronic Illnessを包括的に余すことなく述べた一冊
    書評者:金井 千春(日赤看護大大学院)

     待望の書が出版された。原書の“Chronic Illness: Impact and Interventions”を前にして,この本を自由に読めたらと思いあぐねていた矢先であるから,なんとタイムリーなことか。監訳者によると,原書の初版は1986年で,以降,版を重ねている。日本語訳は本書が初めてであ...
    Chronic Illnessを包括的に余すことなく述べた一冊
    書評者:金井 千春(日赤看護大大学院)

     待望の書が出版された。原書の“Chronic Illness: Impact and Interventions”を前にして,この本を自由に読めたらと思いあぐねていた矢先であるから,なんとタイムリーなことか。監訳者によると,原書の初版は1986年で,以降,版を重ねている。日本語訳は本書が初めてであり,4年の歳月を費やしたとのこと,そのご尽力に感謝したい。きっと同じ思いの諸姉も多いことであろう。

     高齢社会・医療技術の進歩などにより,クロニックイルネス(慢性の病い)をもつ人の数は加速度的に増加し,大きな社会問題となっている。それに伴い,個々の疾患別にその特徴やケアを記した著書は増えている。しかし,本書のように,クロニックイルネスについて包括的に捉え,余すことなく述べている著書はまだまだ少ない。

     本書では疾患(Disease)と病気(Illness)を明確に区別している。「病気は,症状や苦しみに伴う人間の体験であり,個人と家族が疾患をどのように感じているのか,それと共にどのように生きているのか,そしてどのように受けとめられているのかなどと関わる」と述べ,「長期に渡るケアを提供しようとする時は,その人の病気に伴う体験を理解することがそれ以上に重要である」とも述べている。これは,慢性疾患患者の看護に携わる私たちにとって,クロニックイルネスと共にある人々の理解と看護の基本姿勢を示してくれていると言えよう。

     クロニックイルネスをもつ人に急性疾患の病者役割を求め,それからの逸脱にレッテルを貼ってしまう場面に遭遇したことはないだろうか。これだけ慢性疾患患者が増えているにもかかわらず,いまだ急性疾患の枠組みで患者を捉えがちな現状があり,これがスティグマに繋がっていったりする。同じ看護職から「どうせ患者教育したって……」と時間の無駄と言わんばかりの言葉を聞き,急性疾患と慢性疾患は違うのにと思いつつ,その違いを相手に伝わるよう明言できず,もどかしい思いをしたことがある。本書には,「急性と慢性の病気行動の違い」や「急性および慢性の病気における専門職の役割」が明言されており,もしあの時にこの書を知っていたらと思う。

     本書は4部24章で構成されている。はじめに,慢性性及びクロニックイルネスに関する概念の明確化がなされ,次いで患者(本書ではクライエント)・家族にとってのクロニックイルネスを意味づけ,クロニックイルネスをもつ人のケアについて述べ,さらにクロニックイルネスを取り巻く社会のシステムへと論述が広がっていく。第1章で「クロニックイルネス」の概念を押さえたら,あとは自分の関心ある部分を読み進めてもよい。本文中に関連する章が記述されているので,さらに関心は広がっていくであろう。第IV部では,アメリカの保健医療の現状を垣間見ることができる。国民皆保険制度の日本との違いを考慮しつつ,読み進めると興味深い。また,各章には事例が提示してあり,やや抽象的な論述があったとしても,内容をイメージ化してよりわかりやすくする手助けとなっている。さらに,各章の終わりには課題が提示してあり,自分がどの程度理解しているのかチェックすることができる。これらにより,より深い理解が得られるであろう。

     クロニックイルネスに関するさまざまな研究が豊富に記載されており,この領域の研究をしようとする者にとって,大変有意義である。また,臨床の場にいる医療者や現在看護を学んでいる者にとっても,クロニックイルネスに対する理解を深め,患者に添ったケアのための,多くの示唆を得られるであろう。慢性疾患患者に関わる看護師だけでなく,すべての医療者にぜひ一読を勧めたい著書である。

    クロニックイルネス――人と病の新たなかかわり
    [著] アイリーン・モロフ・ラブキン,パマラD. ラーセン
    [監訳] 黒江ゆり子
    00058  定価7,140円
  • 患者の目線から「慢性の病」の具体的な対処法を示す
    書評者:加藤 恒夫(かとう内科並木通り診療所院長)

     評者は6年前に,それまで4年半運営した独立型ホスピス(国内32番目開設)を閉鎖した。現在は「家庭医」兼「地域緩和ケアサポートチーム」の一員として活動している。主に慢性疾患や障害をもった人たちとその家族・縁者を対象に,地域と自宅を活動の場の中心にすえたかかわりである。身の回りを自分でできることを目的...
    患者の目線から「慢性の病」の具体的な対処法を示す
    書評者:加藤 恒夫(かとう内科並木通り診療所院長)

     評者は6年前に,それまで4年半運営した独立型ホスピス(国内32番目開設)を閉鎖した。現在は「家庭医」兼「地域緩和ケアサポートチーム」の一員として活動している。主に慢性疾患や障害をもった人たちとその家族・縁者を対象に,地域と自宅を活動の場の中心にすえたかかわりである。身の回りを自分でできることを目的とした知識・技術の伝達はもちろん,自ずと,地域社会における介護力の組織化,そして専門職の教育にも関与せざるをえなくなっている。

     また,病者とのかかわりの時間は出会いから終末期までの長期にわたることが多くなり,最近では,ホスピス運営時代には不可能だった「がん化学療法の支持療法」から「終末期ケア」にいたる継続的ケアを,がん連携拠点病院と協力しつつ実践している。

     こうした活動を通じて,「慢性の病(やまい)」が病者とその家族の心身にいかに影響するか,そして,患者の視点に立った対処とはどのようなものかを,常に考えさせられ,かつ,その意味と技能を専門職に伝えることの難しさをひしひしと感じていた。そのような中で,本書『クロニックイルネス』に出会い,評者の活動の理論的支えやこれまでの悩みを解きほぐす糸口がそこにあることを発見した。

     本書は4部から構成されている。第1部「クロニックイルネスの衝撃」として,慢性の病がその患者に与える影響を鳥瞰し,第2部「クライアントと家族にとってのクロニックイルネス」では,QOLを,病者の個人的体験とそれを巡る社会的諸関係の有り様として解説する。次いで第3部「保健医療者としてのクロニックイルネス」では,慢性の病に関わる専門職の役割・機能と立脚点を,公衆衛生的・職業倫理的観点からきわめて積極的・問題解決志向的なかたちで提案し,第4部「クロニックイルネスと社会システム」においては,医療福祉の政治・社会経済的視点を提示し,その問題意識の中から在宅ケアとリハビリテーションの重要さを訴えている。

     さらに,それぞれの部の各章は,(1)テーマの定義,(2)テーマがもつ現在的問題の整理,(3)対処行動(インターベンション)の提案,(4)対処行動の目標(アウトカム)の提示,として統一されている。

     視点を患者の目の高さ(患者主体:Client Autonomy)に置き,問題の所在を社会的諸関係(文化の多様性等)として分析したうえで,具体的対処方法を示す手法は,アメリカならではのきわめて現実的な手法だが,日本でも十分に応用可能といえよう。

     評者はこれまで「座右の書」として,Ian R. McWhinney “A Textbook of Family Medicine" を活用してきた。しかし,それには,本書に見られるような患者の主体性を守る具体的視点(擁護:advocacy)や目標を示した実践的切り口が十分ではないと感じていた。本書は看護系の書籍ではあるものの,その問題意識と解決手法は,すべての医療専門職に共通の財産として活用することができるものであろう。

     なお重版のときに,訳語のカタカナをもう少し日本語にしていただければと期待する。
目 次
緒言

監訳者まえがき

第I部 クロニックイルネスの衝撃
 第1章 慢性性とは
 第2章 病者役割
 第3章 スティグマ
 第4章 慢性の痛み
 第5章 社会的孤立
 第6章 身体可動性の変化と消耗性疲労
第II部 クライエントと家族にとってのクロニックイルネス
 第7章 クオリティ・オブ・ライフ(QOL)
 第8章 コンプライアンス
 第9章 家族介護者
 第10章 ボディイメージ
 第11章 セクシュアリティ
 第12章 無力感
第III部 保健医療職者にとってのクロニックイルネス
 第13章 チェンジエージェント(変化を促す人)
 第14章 クライエントと家族の健康教育
 第15章 アドボカシイ
 第16章 クロニックイルネスに関する研究
 第17章 クロニックイルネスにおける倫理的課題
 第18章 看護師によるケースマネジメント
 第19章 クロニックイルネスと上級看護師
第IV部 クロニックイルネスと社会システム
 第20章 財政的インパクト
 第21章 政治と政策
 第22章 在宅ケア
 第23章 長期ケア
 第24章 リハビリテーション

文献
索引