新しい医療を拓く

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医療事故から患者救済へ,新たな医療技術から生命倫理へ,ICD-10・世界各国の医療水準・医療人類学から究極の患者安全をめざした医療のあり方まで。医師・法律家・メディア代表・患者・市民活動家が,現代医療の抱える矛盾と問題点をめぐって展開した白熱した議論と講演。新しい医療を拓く条件が今,示される。
編集 藤原 研司
編集協力 柳田 邦男
発行 2003年10月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-12713-4
定価 2,200円 (本体2,000円+税)
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特別企画 1 直面する医療の課題を問う
 --あるべき医療の姿を構築するために
(司会:柳田邦男・藤原研司)
[発言]
医療をとりまく諸問題(黒川 清)
医療安全対策--厚生労働省の立場から(新木一弘)
医療訴訟--裁判官の立場から(前田順司)
医療事故--刑事処分・行政処分:弁護士の立場から(鈴木利廣)
医療被害防止・救済センター構想について(加藤良夫)
市民・患者が医療に求めるもの--COML電話相談を中心に(辻本好子)
メディアからみた医療現場(迫田朋子)
医療者の現在--日本消化器病学会アンケート調査より(藤原研司)
討論
(特別発言)北澤京子

特別企画 2 ICD-10--消化器疾患の立場から
(司会:菅野健太郎・林 紀夫)
[講演(総論)]
ICD-10について(木村もりよ)
ICD-10疾病分類と保険病名との違いと問題点(秋山昌範)
〔講演(各論)〕
実際にICD-10を使用する場合の問題点
 --胃食道逆流症を中心に(藤本一眞)
ICD-10における“胃炎”“慢性胃炎”の問題点(上村直実)
肝炎・肝硬変・門脈圧亢進症
 --ICD-10分類,保険病名,医学的立場からの問題点(笠原彰紀)
膵疾患のICD-10分類における問題点(白鳥敬子)
消化器悪性腫瘍のICD-10分類の意義と活用(田中英夫)
討論

特別企画 3 新しい医療技術と生命倫理
(司会:北島政樹・千葉 勉)
[講演]
基調講演(北島政樹)
遺伝子治療(落合武徳)
ロボット手術(小澤壮治)
再生医療,細胞治療(岡野栄之)
移植医療(田中紘一)

特別講演 1 富の医療・貧困の医療
(講演:辻井 正 司会:二川俊二)
特別講演 2 医療人類学の視点から
(講演:池田光穂 司会:沖田 極)
特別講演 3 患者の安全--医療の現状と課題
(講演:中島和江 司会:寺野 彰)
索引

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長い歴史と伝統ある学会で,「明日の医療」を議論
書評者: 森 亘 (日本医学会会長)
◆「わが国の医療者は混沌に陥っている」

 医学関係学会での発表・討論内容が後に1冊の本としてまとめられ,刊行されるのは必ずしも希なことではないが,そうした場合,多くその主題は特に注目されている疾患であり,進歩著しい治療方法である。しかしこの『新しい医療を拓く』は少々趣を異にし,今日における日本の医療が直面している諸問題についての幅広い論議をその内容とするもので,このような形で本書が企画された意図は,編集者による「序」の冒頭に書かれている16文字の中に万感が込められている。曰く「わが国の医療者は混沌に陥っている」。

◆多彩な背景をもつ演者が幅広い議論を展開

 具体的には,明治31年創立,37年日本医学会加盟という長い歴史と伝統を有する日本消化器病学会の第89回総会における3題の特別企画と3題の特別講演の内容を,総会会長,藤原研司・埼玉医大教授がノンフィクション作家・柳田邦男氏の協力を得て編集,B5版,170余頁の書物にまとめたものである。ここに詳しく内容を紹介することはできないので,題名と筆頭演者のみを記すとすれば,特別企画とは(1)直面する医療の課題を問う―あるべき医療の姿を構築するために(日本学術会議・黒川清,他),(2)ICD―10―消化器疾患の立場から(厚生労働省・木村もりよ,他),(3)新しい医療技術と生命倫理(慶応義塾大学・北島政樹,他),であり,特別講演とは(1)富の医療・貧困の医療(奈良県立医科大学・辻井正),(2)医療人類学の視点から(熊本大学・池田光穂),(3)患者の安全―医療の現状と課題(大阪大学・中島和江)(すべて敬称略)である。

 このような題名を一覧するだけでも,その内容がいかに幅広く,多岐にわたっているかを容易に推察することができるが,さらに30名余の執筆者と各々の背景を眺めると,それぞれの内容がいかに重く,深みを持つものであるかをうかがい知ることができる。事実,その方々の肩書きを拝見するだけでも,医学・医療関係者はもちろん,その他に裁判官,厚生労働省事務官,弁護士,作家,人権運動家など,まことに多彩である。

 実際に本書を一読した後の感想としては,編集者のめざすところ,すなわち「明日の,より良い医療はどうすれば得られるか」について前向きの議論をするという目的は十分に達成されたと思われ,それぞれに読み応えのある論議が展開されている。もちろん,このように大きな問題は1冊の書物の中に尽くされるものではなく,ましてやその解決ともなればこの程度の努力,展開のみでは到底不可能である。しかし,本書は少なくともその端緒を開くという役目は立派に果たしたというべきであり,そこで大きな役割を演じているといっても良いであろう。領域を問わず,広く医療に携わる人々に薦め得る好著である。
医療界が抱える課題を,最も歴史ある学会で議論
書評者: 坪井 栄孝 (日本医師会会長)
 日本消化器病学会(藤原研司理事長)が,「新しい医療を拓く」と題したすばらしい書籍を出版した。日本消化器病学会は,日本医学会の傘下にあって,最も長い歴史のある老舗の学会であり,取り扱われる対象疾患の幅が広く,地域医療発展のために貢献度の高い学会である。今回,学会の企画によって出版されたこの本は,第89回日本消化器病学会総会の特別企画と特別講演の全記録を編集し,上梓されたものである。

 したがって,この書籍を完読すれば,第89回日本消化器病学会の全容を完璧に把握できるとともに,世界的な視野から見て,現在,消化器疾患に対して医療が抱えている医学的トピックスや社会医学的な課題と,それに対する多方面の学者からの論評が集積されており,近代消化器病学を知る絶好のガイドブックになっている。

◆バラエティに富んだ人選で「あるべき医療の姿」を議論

 例えば,特別企画として取り上げられている「直面する医療の課題を問う」という主題には,「あるべき医療の姿を構築するために」というサブタイトルが付いており,作家の柳田邦男氏と藤原研司理事長がコーディネーターを務めている。医学会のシンポジウムに柳田氏のような実地医療とは直接関係のない方が起用されているのは,シンポジストの顔ぶれを見ると納得がいく。

 東海大学の黒川清教授と厚生労働省からの新木一弘室長は専門分野からの出演であるので当然の人選として,司法界から前田順司判事,NPOの辻本好子さんやNHKの迫田朋子さんといった一般市民サイドから医療問題を捉え,積極的に発言をしてきている方々が顔を揃えている。しかも,一人ひとりが講演をするのでなく,いきなりディスカッションからはじまっているところが何とも斬新な企画であり,柳田氏のような作家の司会がまさに当たり役となって現れている。

 読んでいて臨場感があり,非常に興味がそそられる構成である。もちろん,内容は言うまでもなく,今の医療界が抱えている恥部を掘り起こし,その改善策を提言しているのであるから,日常診療の合間に読みこなすに絶好の教本である。

◆医療における重要テーマのそれぞれが語られる

 それと同じように,「ICD―10―消化器疾患の立場から」と題した特別企画も読み応えのある力作である。「ICD―10とは何か」の解説にはじまり,実地医療にICD―10分類を採用した時の臨床的意義と問題点が,専門疾患別の研究者によって発表されている。現在,世界的に医療の質の評価のためいろいろな定規が提案され,実務に採用されようとしているが,今後わが国がどの疾患分類によって医療の質の向上を図っていくのかは,国民にとっても大変重要な課題であり,消化器疾患を対象としてICD―10疾患分類の意義をこの学会でクリアしようとする意欲がうかがわれる。

 特別企画としての「新しい医療技術と生命倫理」は,遺伝子治療,ロボット手術,再生医療,細胞治療,移植医療という急速に発展してきた先端医療技術を,その発展の陰で支柱となっている生命倫理との整合という難事業をどう解決すればいいのか,特に先端医療技術を手がけている若い医学者に是非心に留めてほしい医の倫理の問題である。世界医師会において,ヘルシンキ宣言の取り扱いについて日本医師会が積極的に主導的立場をとり,いやしくも先端医療技術が生命の尊厳を無視したような暴走をしないよう主張し続けているが,国内においてもこのようなディスカッションの場がさらに拡がり,高い倫理観のもとで日本の医療が向上していくことを渇望している1人である。

 そのほか,特別講演として「富の医療,貧困の医療」,「医療人類学の視点から」,「患者の安全―医療の現状と課題」と,いずれもすばらしい企画が掲載されているが,紙面の都合上,題名を紹介するにとどめる。若い医学者に必読を切望する本である。

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