作業療法の理論 原書第3版

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リハビリテーションの現場で不可欠な作業療法の基礎には、実践の科学としての裏づけとなる理論的背景がある。名著『人間作業モデル』の編著者である碩学キールホフナー博士の代表作である本書は、1992年初版から版を重ね、世界中の作業療法士にとって必携のテキストとなった。原書第3版待望の邦訳。
ギャーリー・キールホフナー
監訳 山田 孝
石井 良和 / 竹原 敦 / 村田 和香 / 山田 孝
発行 2008年04月判型:B5頁:304
ISBN 978-4-260-00630-9
定価 5,170円 (本体4,700円+税)
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日本語版への序

 私は30年以上も前に,若い作業療法士として,作業療法には実践の仕事を支援するためにあまりにも少しの概念しかなかったことに気づいて,非常に心配した.私は,作業療法士が,作業療法が全体としてまとまるのを支援する中心的に系統立てる概念を認めていないことも心配だった.
 Mary Reilly(マリー・ライリー)博士との研究から,私はこの分野の作業に対する元々の焦点を知り,この分野にとってこの焦点へ復帰することが必要であると考えるに至った.しかし,作業に焦点を当てることは,1970年代初期には一般的な考えでなかった.そのため,次の10年間に,私は作業の中心的構成概念に焦点を当てて,この分野のために論文を書き,講演をしてきた.これらの努力は,1983年に教科書『Health Through Occupation』を完成させることになった.私は当時のこの分野の主要なリーダーの多く(例えば,エリザベス・エリクサ,ジェリー・ジョンソン,ゲイル・フィドラー)の寄稿によってその本を編集した.その本では,私たちは多くの方法で,この分野が作業という遺産に再方向づける必要があったと論じた.今日,作業療法はもう一度作業に焦点を当てることに戻り,そして,概念的基礎の仕事の一部は,この分野のメンバーがこの中心的なパラダイム的な構成概念へと出かけたり,戻ったりすることを思い出させることである.『作業療法の概念的基礎』(邦題『作業療法の理論』)は『Health Through Occupation』での最初の議論の継続であり,そして,それは作業に対するこの分野の焦点に合理性を提供することを目ざしている.
 概念的基礎の第2のテーマは,実践と知識の関係である.作業療法士としての過去33年にわたり,私は理論と実践とがより緊密に並ぶ必要があることをますます確信するようになった.残念なことに,作業療法の場合は必ずしもそうではなかった.今日,実践にしっかりと根ざしていない概念が,この分野にはますます多くなっている.実践とはっきりした関連のない概念の増加は,概念と実践を関連づける方法について混乱する学生を引き起こし,理論を実践とは無関係であると見る実践家をもたらすことになった.本書の重要なメッセージは,実践と概念の関係である.本書は,理論を実践へと結びつける実践モデルを網羅し,そして,概念,研究,実践間の関係を育てることの重要性を論じる.本書では,私は「実践の学問(Scholarship of Practice)」を強調するが,実践の文脈と実践家と消費者のパートナーシップの中での作業療法の知識の発達のことである.
 本書は私の最も基本的な2つの信念を反映している.第1に,私はこの分野が作業に対するその焦点を決して見失ってはならないと考えており,作業は私たちがサービスをする人々の健康と健全な状態を促進するためのユニークで強力な道具であるがゆえに,作業への関与を決して忘れてはならない.第2に,私は,私たちの分野の諸概念にとって唯一の真の目的は,私たちの実践を支えることと前進させることであると考えている.本書を書く上での私の情熱は,作業に焦点を当てた実践をするために,実践家にますます役立つ手段を提供することである.私はこの目的が達成されたと思っている.
 最後に,私はこの教科書の翻訳にあたり,山田孝教授と同僚の努力に対して感謝を表明したい.山田教授は日本の作業療法のたぐいまれなリーダーである.彼は世界の他の地域から日本の聴作業療法士のために考えを持ち込み,そして,日本の作業療法実践の発展のための変わることのない弁護者であった.私は山田教授との30年以上にわたる友好と協業に感謝したい.
 2008年2月9日
 Gary Kielhofner

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○第1部
第1章 はじめに
第2章 知識の組織化と利用
第3章 作業療法の知識の発展
第4章 現代のパラダイム;専門職の中核である作業への回帰
○第2部
第5章 概念的実践モデル
第6章 生体力学モデル
第7章 カナダ作業遂行モデル
第8章 認知能力障害モデル
第9章 認知-知覚モデル
第10章 人間作業モデル
第11章 運動コントロールモデル
第12章 感覚統合モデル
第13章 概念的実践モデル:アートの状態
○第3部
第14章 関連知識の特性と利用
第15章 医学モデル
第16章 能力障害研究
第17章 個人内および個人間の概念
○第4部
第18章 専門職の同一性と有能性
第19章 作業療法の概念的基礎の開発の将来の方向

監訳者の言葉
書誌索引
人名索引
索引

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著者が,作業療法のために“作業”を行った一冊
書評者: 鎌田 樹寛 (神奈川県立保健福祉大講師・作業療法学)
 邦題「作業療法の理論(以下,本書)」が初版として出版されたのが1993年5月,あれから15年ぶりに原書第3版が翻訳され刊行された。本書は,人間作業モデルで知られるキールホフナー博士(以下,著者)によって書かれている。内容は,大きく4部から構成されている。第1部(第1章―第4章)は,主に作業療法実践における理論の意味や定義の説明(知識の組織化や利用),パラダイム概念を用いた米国における作業療法の学際的発展としての歴史分析(知識の発展,現代のパラダイム)がなされている。加えて,現在の作業療法に影響を与えた人物(9名)の解説がコラム形式に挿入されていて,歴史的背景を知るに役立つ。本書の主要部分である第2部(第5章―第13章)では,この専門職が用いている7つの概念実践モデル(生体力学モデル,カナダ作業遂行モデル,認知能力障害モデル,認知――知覚モデル,人間作業モデル,運動コントロールモデル,感覚統合モデル)の概念的基礎についての説明と比較検討や考察が,各々同じ形式でなされている。また,まとめとして要約や表を用いて重要概念や用語が整理されている。第3部(第14章―第17章)は,関連知識の紹介として,医学モデル,能力障害研究,個人内・個人間の概念(精神分析)が挙げられている。初版では,この内容については一切触れられておらず新たな記述であるが,作業療法にとって,代表的な関連知識の整理として役立つものと思われる。最後に第4部(第18章―第19章)として,専門職としての同一性や有能性,および将来へ向けての概念的基礎の開発という内容で,作業療法における知識発展と実践の将来を検討することで終えている。

 著者による本書の計画(7頁)にも書かれているが,現在米国で用いられている作業療法の主要な理論モデルの概念的基礎が,論理的かつ丁寧に説明されている。さらに,著者による学際的内容を踏まえた今後の研究の方向性についての考察や,モデル間の比較検討が行われていて,それぞれの理論モデル自体の理解を促すことだけではなく,専門職として必要な姿勢(実践・研究等の重要性)を意識することや,作業療法の概括的理解(この専門職の特徴である全体論的な視野をもつこと)を促すための構成が注目に値する。それぞれの章における文献の多さにも目を引く。これらのことは,著者が得意とする厳格な科学的思考に基づく論理展開による読者への説得の一方で,文脈的背景としての著者の作業療法に対する「価値」や「信念」の大きさや強さを表していることに気付かせられ,“人間的な理解は万国共通”であることを思い知る。

 本書は米国において,作業療法の教科書として用いられていると聞いている。もっとも,米国の作業療法教育は大学院レベルということを考えると腑に落ちる。一読してみて,筆者にとっても難解な内容であるところもあったが,専門学校や大学の専門課程(2―3年生以上)では部分的・段階的に,大学院の授業では全体的に有益な内容と言えるのではないだろうか。また,臨床で迷いや混乱が生じている作業療法士にとっても「頭の整理」と「今後のオリエンテーション」として一読の価値があるのではないか。著者特有の難解な言い回しや用語を,できるだけ忠実にその意図が伝わるように翻訳された,監訳者はじめとする訳者の方々のご苦労にも敬意と感謝を表したい(附帯の文言を監訳者の最近の行動を見ている出版社の方が記したと聞き,深く納得した)。

 著者の作業療法に対する思いや意味(哲学)から,それを支持・肯定づける学際的根拠への首尾一貫した情熱的な探究心を,決して表面には表さず書き記している本書に,同じ専門職として尊敬と共感を覚えるのは私だけだろうか。今や米国ばかりか世界中で周知されている著者が,作業療法のために“作業”を行った一冊である。
理論を実践に結びつけ 実践から理論を作り変えていく
書評者: 小林 隆司 (吉備国際大教授・作業療法学)
 作業療法の臨床家にとって理論とは,“カーナビ”のようなものである。カーナビを持っていれば,見ず知らずの場所でも比較的容易にたどり着くことができるように,理論を身につけていれば,初めて出くわすような事例でも比較的容易に作業療法を展開することができるだろう。

 もちろん作業療法の成果は,ある地理上の場所に到着すればよいといった単純な話ではないので,なるべく多くの理論を持っていたほうが有利である。ある時期のある状態の対象に適切であった理論が,違った条件下では不適切となることも,複数の理論を併用したほうが介入効果が高いということもあろう。

 そのような意味で,本書の第2部を読めば,実践に必要なモデルを同じ形式で並列して紹介しているので,各モデルを客観的に比較・考察することが可能となり,複数の理論をうまく使いこなすための近道となるに違いない。

 ある研究会グループに属していると,すべての事象をそこで扱っている理論のみで説明してしまうことがよくあるが,目前の対象者に最良のものを提供するために,ぜひ,第2部と第3部を自分の臨床手法と比較しながら読んでもらいたい。

 さて,熟練した運転手が慣れた道を走るのにカーナビは必要ないし,ひょっとしたらカーナビを使うことでかえって遠回りになる場合もあろう。私も,カーナビの示さない近道を走りながら,機械に対する優越感に浸ることがよくある。しかしある時,その優越感を覆す事態に遭遇した。カーナビがその近道を「学習しました」と宣言したのである。そうなると近道は自分だけの近道ではなくなる。妻が使おうが親が使おうが,その道で行けるのである。このことは,作業療法臨床でいえば,熟練した作業療法士は理論というものをあまり必要としていないかもしれないが,彼らが理論を用いることによって,彼らの実践が理論の再構築に寄与し,多くの若き作業療法士の臨床の質を上げることにつながるということに等しい。

 本書では,このように,具体的に理論をいかに実践に結びつけ,実践から理論をいかに作り変えていくかを,歴史的な考察も含めて記述してある。

 第1部と第4部にあたるその部分は,本書を決定的に際立たせているところで,他の理論書にはなく,たぶん原著者のキールホフナー氏が一番主張したかった内容ではないかと思われる。難解ではあるが,じっくりと読み込むことで,作業療法士がどのような対象にどのような手段を用い,そしてどのような目的で何をしている職種だと考えられてきたかを理解することが可能となり,現在の自らの臨床実践が未来の作業療法士像を作っていることに気づく機会を与えることになろう。 このような意味で,本書が,作業療法に関わる臨床家・教育者・学生にとっての必読書であることは間違いない。

 最後に監訳者の山田先生について記しておく。「監訳者のことば」にも書かれているように,先生は数々の疾病を乗り越えて,価値ある作業(全国を飛び回る)を取り戻された。その経過こそが,作業療法の理論をいかに実践に寄与させるかを示したものである。しかしながら,まだ身体的には消耗する場面も多いのではないかと危惧をしている。今後は,自己の心身機能と折り合いをつけながら,価値を調整し,満足度の高い生活を継続しながら健康寿命を伸延させるという理論的課題に取り組んでいただけないだろうか?

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