臨床神経生理学

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定評ある脳波・筋電図テキスト『神経生理を学ぶ人のために』が新しく生まれ変わった。中枢・末梢の区分にかかわらずダイナミックな構成となり、「その検査法で何がわかるか?」(理論と実際)に加えて「精神神経筋疾患の検索」章も設けたことで、読者は検査と疾患の双方からアプローチができ、統合的な理解が得られる。高次脳機能検査、脳機能イメージング等の最新知見まで網羅した新定番書。
柳澤 信夫 / 柴崎 浩
発行 2008年11月判型:B5頁:448
ISBN 978-4-260-00709-2
定価 10,450円 (本体9,500円+税)

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 臨床医学を支える基礎学問領域のなかで,神経・筋疾患における生理学ほど臨床に直結した分野はない。神経症候を肉眼的観察のみにたより,詳細な記述が学問体系として成立したのちに,個々の症候のメカニズムの解明,客観的・定量的評価法を開発し,現代の臨床神経学を学問的体系として肉付けをしたのが20世紀以降の臨床神経生理学である。
 1920年代末に脳波2,6)と筋電図1)がヒトで初めて記録されて以来,各々の理論的側面と検査技術およびその臨床応用が急速に発展した。さらに1940年代から誘発電位5),1960年代中ごろから事象関連電位10,11),1960年代末から脳磁図4),さらに1970年代後半からポジトロン断層法(PET),1990年より核磁気共鳴機能画像法(fMRI)などの脳機能画像法7)が出現して,今日これらの手法はすべてヒトを対象とした神経科学の研究および臨床に用いられるようになった。すなわち,これらを総括的に臨床神経生理学的手法としてとらえられる時代になった8,9)
 とくに近年の技術的進歩と神経科学の発展に伴って,末梢神経系および中枢神経系の機能検索法と,それによって得られる正常知見,および各疾患における病態生理の解釈が著しく進歩した。末梢神経インパルス伝導については,チャネルの機能とその障害に関する電気生理学的検査法が開発され,末梢神経障害の病態生理の理解がより深いものとなった。中枢神経系に関する最近の技術的進歩については,事象または課題に伴った律動性脳波活動パワーの変動(事象関連脱同期化または同期化),脳磁図の臨床応用,磁気刺激法とくに反復磁気刺激法の開発3),視床や基底核などの深部構造からの神経活動の記録と深部脳刺激による精神・神経疾患の治療,brain-computer interface,デジタル脳波計の発達と普及,脳波自動判読法,などの進歩があげられる。また,従来の電気生理学的手法と神経機能画像法との連携も大きな主題である。
 一方,脳科学に関連した理論的進歩としては,運動抑制系(inhibitory motor system),脳領域間機能連関(functional connectivity),および可塑性(plasticity)の生理学的意義とその臨床応用が注目されている。
 筆者らは『神経生理を学ぶ人のために』と題した著書を1990年に出版し12),1997年にはその第2版を出版した13)。近年におけるこの領域の著しい発展を考慮に入れて,その内容を大幅に改訂・更新することが適切と判断し,ここに新たに『臨床神経生理学』を出版することにした。
 本書は『神経生理を学ぶ人のために』の初版および第2版の内容を土台にしてはいるが,とくに高次脳機能の検査,脳機能イメージング,眼球運動検査,自律神経機能検査,および睡眠時無呼吸症候群を新たに加え,さらに経頭蓋磁気刺激法の内容を拡充した。
 また,『神経生理を学ぶ人のために』では,前半を筋・末梢神経・脊髄機能の検索,後半を脳機能の検索に大きく分けた形にしたが,本書では中枢神経系と末梢神経系の区分にかかわらずそれらを統合的に取り扱い,両者の機能を総括的に検索するという建前をとった。すなわち,まずB章では,基本的・代表的検査法の基礎的理論と実際の記録法,および正常所見を解説し,それぞれの検査手技で何がわかるかを明らかにすることに努めた。とくに,検査法の細かい分類にかかわらないで,それぞれの機能ごとに中枢神経系と末梢神経系を統合させた形で関連する検査手法をまとめることにより,できるだけダイナミックに取り扱うことにした。そしてC章では,代表的な精神・神経疾患の各々について,その臨床生理学的検索法,それによってわかること,および臨床的研究への応用について述べた。
 なお,本書では,器質性障害を「傷害」,機能性障害を「障害」と使い分けることにした。
 柳澤の執筆部分について,本書で新たに資料提供,ご教示をいただいた森田 洋(針筋電図),間野忠明(微小神経電図法),玉川 聡(経頭蓋磁気刺激),清水夏繪(眼球運動検査),浦谷 寛(睡眠時無呼吸症候群)の諸先生に感謝申し上げる。また図表の引用をご快諾いただいた方々(氏名は各図表に付記)にも厚く御礼申し上げる。
 柴崎はこれまで数多くの優れた共同研究者に恵まれたが,そのなかでも代表者として,アルファベット順に京都大学福山秀直教授,米国NIHのMark Hallett博士,英国の故AM Halliday博士,京都大学池田昭夫准教授,徳島大学梶 龍兒教授,国立生理学研究所柿木隆介教授,アイオワ大学木村 淳教授,Case Western Reserve大学のHans Luders博士,札幌医科大学長峯 隆教授,佐賀大学工学系研究科中村政俊教授,および放射線医学総合研究所米倉義晴理事長に深甚の謝意を表したい。
 なお,本書の編集は医学書院医学書籍編集部井上弘子,同制作部和田耕作両氏の綿密な配慮がなければ実現しなかったことを付記して,ここに謝意を表する。

 2008年10月
 柳澤信夫・柴崎 浩



文献
1) Adrian ED, Bronk DW. The discharge of impulses in motor nerve fibres. Part II. The frequency of discharge in reflex and voluntary contractions. J Physiol 1929;67:119-151.
2) Berger H. Uber das Elektrenkephalogramm des Menschen. Arch fur Psychiatrie 1929;87:527-570.
3) Chen R, Cros D, Curra A, Di Lazzaro V, Lefaucheur J-P, Magistris MR, et al. The clinical diagnostic utility of transcranial magnetic stimulation: report of an IFCN committee. Clin Neurophysiol 2008;119:504-532.
4) Cohen D. Magnetoencephalography: evidence of magnetic fields produced by alpha-rhythm currents. Science 1968;161:784-786.
5) Dawson GD. Investigations on a patient subject to myoclonic seizures after sensory stimulation. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1947;10:141-162.
6) Lucking CH (ed). Hans Berger: Uber das Elektrenkephalogramm des Menschen, Die vierzehn Originalarbeiten von 1929-1938. Deutsche Gesellschaft fur Klinische Neurophysiologie, 2004.
7) Ogawa S, Lee TM, Kay AR, Tank DW. Brain magnetic resonance imaging with contrast dependent on blood oxygenation. Proc Nat Acad Sci 1990;87:9868-9872.
8) Shibasaki H. Human brain mapping: hemodynamic response and electrophysiology. Clin Neurophysiol 2008;119:731-743.
9) 柴崎浩.非侵襲的脳機能計測法の現状と将来.臨床神経生理学2008;36:114-121.
10) Sutton S, Braren M, Zubin J, John ER. Evoked potential correlates of stimulus uncertainty. Science 1965;150:1187-1188.
11) Walter WG, Cooper R, Aldridge VM, McCallum WC, Winter AL. Contingent negative variation: an electric sign of sensori-motor association and expectancy in the human brain. Nature 1964;203:380-384.
12) 柳澤信夫,柴崎浩.神経生理を学ぶ人のために,第1版,医学書院,東京,1990.
13) 柳澤信夫,柴崎浩.神経生理を学ぶ人のために,第2版,医学書院,東京,1997.

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A 神経系の機能検索(総論)

B 基本的検査法の理論と実際
 I.脳波と脳磁図
 II.臨床脳波の記録と判読
 III.筋電図
 IV.針筋電図
 V.運動神経伝導検査
 VI.微小神経電図法(microneurography)
 VII.神経筋伝達の検査
 VIII.感覚神経機能の客観的・計量的検査(感覚受容器から大脳皮質へ)
 IX.体性感覚機能の生理学的検査
 X.視覚機能の生理学的検査
 XI.聴覚機能の生理学的検査
 XII.中枢性運動機能とその障害の検査
 XIII.眼球運動検査
 XIV.自律神経系の検査
 XV.高次脳機能の生理学的検査
 XVI.皮質律動波の解析
 XVII.随意運動に伴う脳電位――運動関連脳電位
 XVIII.不随意運動に伴う脳電位――jerk-locked back averaging(JLA)
 XIX.神経活動と脳機能イメージング

C 精神・神経・筋疾患の生理学的アプローチ
 I.てんかんおよび突発性大脳機能異常の生理学的検索
 II.睡眠時無呼吸症候群
 III.精神疾患
 IV.大脳半球の非突発性器質性疾患における生理学的異常
 V.動作学と行動計測
 VI.筋緊張の異常
 VII.不随意運動
 VIII.運動ニューロン疾患
 IX.ニューロパチー
 X.神経筋接合部の異常
 XI.筋疾患――チャネル病
 XII.術中モニター
 XIII.精神・神経疾患の生理学的治療
 XIV.心因性疾患

索引

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検査と疾患の双方向からアプローチが可能
書評者: 玉置 哲也 (和歌山ろうさい病院長)
 「臨床医学を支える基礎学問領域のなかで,神経・筋疾患における生理学ほど臨床に直結した分野はない」と序文が書き出されています。この文節は,国内のみならず国際的にも高名なお二人,すなわち柳澤信夫先生,柴崎浩先生が出版された『臨床神経生理学』を貫く基本的理念を端的に示しています。

 お二方のご経歴を見ますと,柳澤信夫先生は,神経生理学者として,また米国の神経学の創始者としても高名なDenny Brownのもとに留学され,柴崎浩先生は神経学のメッカともいえるQueen's Squareで視覚誘発電位を初めて記録したA. M. Hallidayのもとで学ばれました。その後,柳澤先生は脊髄を中心とした運動系,柴崎先生は感覚系とそれを統合する高次脳機能を,それぞれの専門分野とされ,基礎的,臨床的研究に貢献してこられました。お二人は,わが国のみならず国際的にも高く評価されている臨床神経生理学者であり神経内科医であります。そのお二人が,得意分野を担当され,基礎的知識に始まり最新の研究成果までをまとめられた得難いテキストが本書であります。

 20世紀以降の驚くべき電子工学の発達に支えられた基礎ならびに臨床神経生理学の発達を概観した「序」に続き,「A 神経系の機能検索(総論)」の項では,神経生理学をさまざまな関連医学領域において欠くことのできない診療手段であると位置づけ,動的あるいは機能診断の手段としての臨床神経学の利点と限界,さらには将来展望が,時には端的に,かつ詳細に述べられています。特に,例えば増幅器の機能解説をも含む基礎事項の記述は,他に類を見ないほど充実しているといってもよいでしょう。

 「B 基本的検査法の理論と実際」は19の項目で構成されていますが,現在応用されている臨床神経生理学的検査法のほとんどすべてを網羅して,まず基礎的情報を記述し,その記録方法についての,理論的,技術的根拠と実際的手技が詳細に述べられています。「I.脳波と脳磁図」に始まり,「II.臨床脳波の記録と判読」「III.筋電図」「IV.針筋電図」と続きますが,そこには従来の運動系,感覚系との区分にとらわれない,神経・筋系を一連の動的機能組織として総合的に捉えるという姿勢が示されているのではないかと考えます。

 加えて随所に,コラム―例えば,「10の脳波を読むよりも1つの脳波を記録したほうが勉強になる!(p.23)」「脳波の判読は職人芸であるという言葉をしばしば耳にするが,果たしてそうであろうか(p.34)」「われわれの意志は脳のどこで決定されるか(p.287)」「オンディーヌの呪い(Ondine's curse)症候群(p.325)」などが配置され,読み物的興味も満たしてくれています。

 また,本書は多色刷りで,その効果が最も発揮されているのは「XV.高次脳機能の生理学的検査」「XVI.皮質律動波の解析」などの項で,機能的診断と各種画像的診断法の合成など,まさに先端的研究成果を,視覚的にも読者に理解しやすくしています。

 最後の項「C 精神・神経・筋疾患の生理学的アプローチ」では,対象となる14の疾患群に対する臨床神経学的検査を駆使するための戦略が示され,疾患の基礎的記述と神経生理学的検査所見がその解釈とともにわかりやすく述べられています。初学者はこの項から始めて,方法論すなわち「B」項を開き当該検査法の基礎と実際を学ぶという利用の仕方もあるかもしれません。

 以上詳しく述べてきたように,臨床神経生理学的方法を正常あるいは病的な人体に適用して動的な機能分析を行い,機能の解析,疾病の診断,治療を行うすべての分野の専門家に,まさに座右の書として本書をお薦めします。
基礎から臨床,最新知見まで網羅した新定番書
書評者: 飛松 省三 (九大大学院教授・臨床神経生理学)
 臨床神経生理学とは,ヒトの脳神経系の機能を非侵襲的な方法で研究し,神経・精神疾患の診断・治療に役立てる学問であり,近年のこの分野の発展には目覚ましいものがある。このたび出版された柳澤信夫・柴崎浩著『臨床神経生理学』は,定評ある脳波・誘発電位・筋電図テキスト『神経生理を学ぶ人のために』が全く新しく生まれ変わったものである。中枢神経系・末梢神経系の区分を超えたダイナミックな構成となり,「基本的検査法の理論と実際」に加えて「精神・神経・筋疾患の生理学的アプローチ」も設けたことで,読者は検査法と疾患の双方向から学ぶことができ,統合的な理解が得られる仕組みになっている。

 まず,総論としての神経系の機能検索に関する生理学的検査の意義と限界,将来展望が述べられている。次に,脳波,誘発電位,筋電図,神経伝導検査などの基本的・代表的検査法の基礎的理論と実際の記録法,および正常所見が解説され,それぞれの検査手技で何がわかるかが明快に解説されている。中でも臨床神経生理学的検査を日常的に実施する者にとって必要な神経生理学の基礎的知識が極めてわかりやすく説明されている。この部はぜひ熟読していただきたい。最後に,代表的な精神・神経疾患における臨床生理学的検索法および臨床的研究への応用が述べられている。

 本書は図が豊富で,読者に見やすいカラー刷りとなっている。各部の始めには200~300字程度の要約があり,基本的事項をすぐに学ぶことができる。また,著者の検査法に関する認識・見解やトピックス枠が「コラム」として設けられ,本文に盛り込めなかった内容を網羅している。これを一読することは初学者のみならず,この分野を研究している者にとって,非常に有益な情報となるであろう。

 著者のお二人は長年この分野を世界的にリードされてこられた臨床神経生理学の泰斗である。お二人の優れた見識・学識がなければこのようなテキストは世に出なかったものと思われる。本書により臨床神経生理学的検査の基礎から臨床までを理解できるし,高次脳機能検査,脳機能イメージングなどの最新知見まで網羅した新定番書となるであろう。医学生,研修医,専門医をめざす医師,さらにはリハビリテーションや神経疾患に興味のある方々に是非お薦めしたい。
神経系の医学に携わる者の必読書
書評者: 金澤 一郎 (国立精神・神経センター名誉総長)
 2008年11月に『臨床神経生理学』という本が上梓されたが,これは19年前に出版された『神経生理を学ぶ人のために』という題の本が進化したものである。執筆者は,神経生理学の領域において現在わが国で考えられる最強のペアである柳澤信夫先生と柴崎浩先生である。しかも,19年前と同様にこのお二人がすべてご自分たちでお書きになっている。だから内容の統一性は見事である。

 前書は,例えば筋電図,表面筋電図,末梢神経伝導速度,誘発筋電図,脳波,体性感覚誘発電位,事象関連電位,などという神経生理学的検査の一つ一つを取り上げて解説しているのに対して,本書は一部にそれを残しながらも,「運動神経伝導検査」という項目を設けてその中でMCV,インチング法,F波などを説明したり,「中枢性運動機能とその障害の検査」という項目を作ってその中で錐体路伝導検査,H反射,T波,表面筋電図,重心動揺計測,歩行検査などを解説したりしている。つまり,一つ一つの検査が何を知るための検査であるのかを明示することにより,その意義を理解しやすくする構成になっているのである。検査法をそれぞれ独立に説明するよりも,このほうがはるかに「検査の持つ意義と限界」は理解しやすい。その他には「神経筋伝達の検査」「体性感覚機能の生理学的検査」「視覚機能の生理学的検査」「聴覚機能の生理学的検査」「眼球運動検査」「自律神経系の検査」「随意運動に伴う脳電位」「不随意運動に伴う脳電位」などという項目がある。そうした中に,「高次脳機能の生理学的検査」という項目があり,これは前書にはほとんど痕跡もなかったほどの新しい部分である。注目されている機能画像も含めて本書の目玉の一つと言って良いだろう。そして,後半1/3には,前書にはない疾患別あるいは病態別の解説があるのがうれしい。ここに例えば睡眠時無呼吸症候群やチャネル病なども取り上げられている。

 臨床神経生理学の解説書で,これほどよく練り上げられた本を私は他には知らない。前書が328ページで本書が448ページだから,内容は高々1.4倍程度に増えただけと思ったら実は大間違いである。1ページの字数がおよそ1.3倍になっているから,本書全体ではなんと内容が1.8倍以上に増えている。神経系の医学に携わる者にとって必携・必読の書である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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