言語聴覚士のための基礎知識
小児科学・発達障害学

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言語聴覚士養成校の学生対象のテキストブック。種々の発達障害への関心が高まるなかで,これを認知の障害として捉えてアプローチできる言語聴覚士への期待はますます大きくなっている。本書は小児科学の知識の基礎を網羅するとともに,脳科学から見た子どもの行動とこころを理解し,具体的な治療が行える言語聴覚士の養成を目指した。
シリーズ 言語聴覚士のための基礎知識
編集 宮尾 益知 / 二瓶 健次
発行 2004年04月判型:B5頁:212
ISBN 978-4-260-24427-5
定価 3,520円 (本体3,200円+税)
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  • 目次
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第1章 小児科学
第2章 障害児学
第3章 発達障害学
第4章 小児を取り巻く環境
付録 関連法規(条文の抜粋)/身体障害者障害程度等級表
索引

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軽度発達障害への対応も言語聴覚士の役割
書評者: 五十嵐 一枝 (白百合女子大教授・文学部)
◆子どもの疾患と発達に関する科学的な広い知識の習得をめざして

 本書は,言語聴覚士を従来の言語障害のみならず,最近話題にのぼる軽度発達障害への対応にも大きな役割を持ちつつある職種と位置づけて,その養成に必要な子どもの疾患と発達に関する科学的な広い知識の習得をめざして書かれている。

 第1章では,胎児期および新生児期に認められる異常や奇形,小児期の各系の疾患について,各発達期と各領域の専門家によって遺漏なくしかも簡潔に記載されていて読みやすい。子どもの療育や教育に携わる専門家が,病気や障害の内容を知る必要にせまられて医学書を開くと,記述量の多さと専門用語に阻まれて先に進めない,という難点もここでは解消されている。

 第2章では,運動障害,知的障害,言語障害,感覚器障害,およびその重複障害に関して,早期発見と各機能にとって適切な早期対応をめざして,定義や原因やさらに障害の特徴を考慮した対応の仕方が述べられている。

 第3章では,発達期に現れる認知,言語,運動,社会的技能などの全体的または部分的遅れについて,精神遅滞,広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥・多動性障害をあげて,臨床的特徴,行動観察や評価の方法,家庭や集団での支援のあり方の要点が述べられている。発達の過程で少しずつ重なり合うことの多いこれらの障害について,成育歴聴取や判別すべき認知や行動のポイントなどがていねいに説明されており,認知心理学的あるいは神経心理学的評価方法が詳しく紹介されている。さらに,得られた情報や評価を実際の対応に結びつけ,専門性の高い援助へとまとめあげていく必要性が強調されている。

 最後に第4章では,少子化が進む原因と保健環境や医療の変化に言及し,現代の環境の中でいかに子どもを健やかに育てるかについて,広く地域社会や行政や経済などの視点を含んだ子どもを取り巻く環境について考え,支援の実際を考察している。

◆本書全体から読み取れる編者の意思

 本書は,言語聴覚士が臨床活動に必要な基礎知識を得るために編集されたものであり,その目的に十分かなった内容である。さらに,子どもの疾患や行動やこころの問題は近接領域の多職種の専門家の連携によって支援されなければならない,という編者の意思が本書全体から読み取れ,子どもはどのようにして育まれるか,という普遍的なテーマを繰り返し考えさせられる構成でもある。また,随所にコラムとノート欄が設けられており,私たちが時々見聞きするが意味がよくわからない専門用語やトピックスなどの解説や紹介が書かれていたり,ケースの紹介があったりするなど興味深く読み進むことができる。言語聴覚士のみならず,子どもの発達に関連する諸領域を学ぶ学生や専門家にも薦めたい1冊である。

言語聴覚士養成の現場で求められていた小児科学テキストがついに登場
書評者: 大石 敬子 (宇都宮大教授・障害児教育)
◆言語聴覚士がかかわる患児の多くが発達障害

 平成9年に言語聴覚士が理学療法士,作業療法士に次いで国家資格となった。この動きと前後して,全国各地に言語聴覚士を養成する大学,専門学校が作られた。現在,これら養成校は約50校あり,毎年国家資格を有する言語聴覚士が1000名前後誕生している。

 これは,言語障害を有する方々への専門的サービスがゆきわたる点で望ましいことであるが,いくつかの問題点がある。その第一が,言語聴覚士は歴史が浅い学問・臨床領域の専門職であるため,養成校で何を教えるかがあまり吟味されていないことである。カリキュラムには,内科学,耳鼻科学などともに,小児科学が定められており,通常その専門領域の医師が担当する。言語聴覚士向けの小児科学のテキストはこれまでなかったので,書評者が見聞する限りでは,しばしば看護師の教育に使われる小児科学の教科書が流用されていた。おのずと身体の病気が中心の講義内容となる。しかし言語聴覚士が臨床で携る患児の多くが発達障害,特に精神遅滞や広汎性発達障害,および軽度発達障害である。その一方で保険点数の改定後,重症心身障害児施設での言語聴覚士の雇用も増えている。

 このような状況にあって,『言語聴覚士のための基礎知識 小児科学・発達障害学』が出版された。2名の編集者を含めた11名の執筆者は,いずれも障害をもつ小児を専門とする医療機関,療育機関,相談所の第一線の医師(言語聴覚士1名を含む)である。構成は4つの章に分かれるが,そのうちの2章が,言語聴覚士に最も知識と理解が必要な,知的障害,運動障害,感覚器障害,重症心身障害,広汎性発達障害,軽度発達障害(LD,ADHD,アスペルガー症候群)などにあてられている。さらに本書の特徴は,単にこれら疾患の解説だけではなく,すでに獲得された機能の喪失である成人の障害と異なり,機能獲得の途上で障害を受ける発達期の障害が子どもと家族にもたらす意味について,著者らの考えに随所で触れられることである。これは先に述べたような編者,著者だからこそできることであり,従来の医学解説書にはあまりなかった点である。

◆医学用語を最小限にした解説

 もう1つ本書がコメディカル職種のために書かれた書物として評価したいことは,医学を専門とするわけではないわれわれにもイメージしやすい形で医学的知識を伝えていることである。例えば,「運動障害」の項で運動の成り立ちとして,「運動は直接関与する筋,関節,骨などの器官が必要であるが,その指令は脳より出されている。脳は各感覚器官より得られた情報をもとにして,そこに脳自体の判断を根拠にして……自分の身体をどのように動かすか指令を出す」という表現ではじまり,その後に運動に関する神経系の仕組み,運動の障害へと記述が進められる。われわれにとっては,医学の世界で使われている枠組みを外して,しかも医学用語を最小限にして解説されないと,医学的知識は消化不良となりやすい。本書ではこのことが配慮されている。

 本書が,言語聴覚士の養成校での小児科学のテキストとして広く使われることを望みたい。またすでに臨床の現場にいる言語聴覚士は,必ずしも本書のように整理された形で発達障害学を学んでいるわけではないので,卒後研修のテキストとして,本書が広く読まれることを期待する。

 巻末に母子保健法,児童福祉法などの関連法規の抜粋が載っている。また本文中にコラムやNOTEとして,キーワードの解説があることも有難い。

小児にかかわる多くの職種に薦める
書評者: 栗原 まな (神奈川県総合リハビリテーションセンター小児科部長)
◆言語聴覚士以外の職種にも役立つ

 本書は,言語聴覚士が,摂食・嚥下障害,難聴,失語症,吃音に加えて,発達障害としての注意欠陥/多動性障害,学習障害,広汎性発達障害などの多様な疾患に対応していくために,知識を習得し,疾患ごとの具体的な治療に精通することを目的として書かれている。本書のタイトルにも序文にも,「言語聴覚士のための」と書かれているが,この本は決して言語聴覚士のためだけに役に立つのではなく,もっと多くの職種(臨床心理士,看護師,保健師,教師など療育に関わるさまざまな職種)のために役に立つと思われる。

◆小児科学の基礎知識から小児の障害への具体的対応まで詳説

 「第1章 小児科学」では,小児科学の特徴,小児の発達と成長,胎児医学と出生前医学,新生児,各系の疾患について述べられている。障害児のケアを行なうにあたっては,正常な小児の発達と成長,小児疾患の基礎について正確な知識を持っていることが欠かせないが,本書では,これらの点について明瞭簡潔な記載がされており,基礎知識を習得するのに適切である。

 「第2章 障害児学」では,小児の障害についての総論,運動障害,知的障害,言語障害,感覚器障害,重複障害,重症心身障害について述べられている。障害の原因・診断といった医学的な記載だけでなく,障害が発見された後のケアについて述べてあり,学校教育の面についても触れてあるのが嬉しい。

 「第3章 発達障害学」では,発達障害の概念の変遷と診断,発達障害の評価とその実施法について述べられている。「発達障害の概念の変遷と診断」の部分では,発達障害の診断,精神遅滞の診断基準・分類・原因,広汎性発達障害(自閉症・レット障害・小児期崩壊性障害・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害),学習障害(特異的読字障害・特異的綴り字障害・特異的算数能力障害),注意欠陥/多動性障害の定義・病態・治療について書かれている。「発達障害の評価とその実施法」の部分では,発達障害の評価・聴取する情報・発達障害の評価に用いられる検査・評価から実際の対応,言語聴覚士としての対応について書かれている。この章は本書の中で最も力を入れて書かれており,著者の豊富な経験に基づいた有益な情報がたくさん得られる部分である。実際に子どもとどのように対応していったらよいのかを,教育・福祉・医療の連携をとることの重要性を述べながら,実例を通して具体的に1つひとつ丁寧に説明しており,圧巻である。

 「第4章 小児を取り巻く環境」には,『健やか親子21』のめざすもの,地域の子育て支援サービス,母子保健の流れ,障害をもつ子の在宅療育,行政による福祉サービスが述べられており,著者の小児に対する理念が伺われる。

 本書は,言語聴覚士だけでなく,小児にかかわる多くの職種にぜひとも読んでいただきたい本である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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