問題解決型救急初期診療

もっと見る

軽症から重症まで,いつ誰が訪れるかわからない救急外来・救命救急センターで必要とされる,的確かつ迅速な診断・治療を確実に修得できる。簡潔な記述ながらも,単に手順を示すのではなく,真に理解しながら学べるよう問題設定から解決まで考え方のプロセスに焦点を当てた。全ての研修医の疑問と不安に答える,頼りになる1冊。
田中 和豊
発行 2003年10月判型:B6変頁:512
ISBN 978-4-260-12255-9
定価 5,280円 (本体4,800円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評
  • 正誤表

開く

第1部 イントロダクション編
第2部 症状編
第3部 外傷編
第4部 救命・救急編
付録
 1 勉強方法10か条
 2 推薦図書
 3 法的事項
 4 医学倫理
 5 医療過誤,品質保証,危機管理
略語
索引

開く

研修医が救急室で遭遇するほぼすべての問題に対応できるために
書評者: 藤井 千穂 (大阪府立千里救命救急センター所長)
 本書は著者自身が序に書かれているように,主に研修医が一次から三次救急患者の初期治療を自分1人で行う際に,救急室で遭遇するほぼすべての問題を解決できるように構成され,「理論・経験・エビデンス」の統合をはかるように配慮された書である。

◆本書の持つ特徴

 われわれの尊敬する日野原重明先生,矢崎義雄先生は,本書の卓越した特徴を「推薦の言葉」の中で次のように述べられている。

 「EBM(Evidence―based Medicine)的な考え方を頭においての実践のアプローチの仕方が具体的に書かれている」,「問診からはじまり診察そして診断,治療までのプロセスを一体化した流れとしてとらえられている」,「診断・治療のための鉄則や患者のマネージメントが図式と簡単な文章とで示されている」と。

 本書が上梓されてからちょうど半年となる。この間,当センターのレジデント諸君に本書を使ってもらったが,次のような点が大変好評であった。

 まず第1部のイントロダクション編に著者の姿勢が明記されている点が共感を呼ぶ。付録とともに読み物としても面白い。

 第2部の症状編ではstep,point,鉄則の項でおさえるべき点を強く認識できる。

 第3部の外傷編は我が国のprimary careの教育で不足している点を補ってくれている。

 第4部の救命・救急編ではとくに二次救命処置(ACLS)が正確に記述されている。

◆臨床研修での使い方

 さて本年度から新しい研修制度がはじまり,受け入れ施設は研修プログラムを作って指導にあたられることであろう。本書を次のように使ってもらえればと願うものである。

(1)研修医はその日に診た症例をレポートとして整理する際に,本書をひもといて,自分の思考過程は正しかったか,鉄則を守ったか,反省すべき点はなかったかなどをチェックしてほしい。

(2)また実際に研修医を指導する教官も本書を携帯して,少なくともここに書かれている事柄を研修医が認識しているか否かを知る道標としてほしい。

 このように本書が使われれば,研修医の初期診療の実力は向上し,著者の願いが実現することになるであろう。いずれにしてもポケット判としては今までにない格調高い力作であると確信を持って推拳できる書物である。
救急研修で研修医をサポートするよき「指導医」
書評者: 黒川 清 (日本学術会議会長)
◆新臨床研修制度で注目を集める救急医療

 医師国家試験の合格者も発表になり,いよいよ新しい卒後臨床研修がはじまる。マッチング初年度で,今年の卒業生諸君はいろいろ苦労も多かったと聞くが,今は大きな期待と一抹の不安を抱えて,第一歩を踏み出す日を心待ちにしていることだろう。

 新しい卒後研修では,初期診療という意味でのプライマリ・ケアを重視している。これは,夜間救急での小児のたらい回しが大きな社会問題になるなど,専門医療の行き過ぎや救急医療の立ち遅れが指摘されたからだ。従って,諸君の研修においても,救急が大きな比重を占めるだろう。そこには研修医を救急医療の主な担い手と考える病院側の思惑もある。

 しかし,残念ながら諸君の働く多くの病院で,救急のスタッフが揃っているわけではない。夜間の当直も,内科や外科のスタッフが「困った時に呼べば来てくれる」程度のサポートしかないところも多いだろう。そこで「救急マニュアル」のお世話になるわけだが,ここにベテランの看護師とともに諸君を助けてくれる強力な助っ人が登場した。それが,本書,田中和豊先生の『問題解決型救急初期診療』だ。

◆救急外来の「なぜ」を解説

 この本は救急外来で診ることの多い主要25症候に対するアプローチと処置が中心だが,最大の特徴は「なぜ」そうアプローチするのか,「なぜ」その所見が大切なのか,「なぜ」その検査をするのか,「なぜ」その薬を使うのか。それらの理由とステップがきちんと書かれている点だ。理由も書かれているから記憶にも残る。出典もアメリカ救急医学会のテキストなど,信頼の置けるものだ。

 診療の合間にパッと参照することも出来るが,本書の価値は「読める」ことにある。患者さんを診たらすぐ本をめくってチェックしてみる。繰り返し実践し,読んで理解して欲しい。きっと救急外来の手薄なサポートを補う,諸君のよき「指導医」になってくれる。

研修医が救急医療を学ぶ時代を支える良書
書評者: 堀 進悟 (慶應義塾大助教授・救急医学)
 日本中で,研修医が救急医療を学ぶ時代になった。この研修には救急室(ER)での診療が最も有効であるが,質を維持するには適切な指導者に加えて,よい教科書が必要である。残念なことに,日本には救急医学のよい教科書が少なかった。

◆救急医学の本来の視点

 『問題解決型救急初期診療』はいくつかの点でユニークな教科書である。著者が若く記載が明解なこと,分担執筆でないこと,ER診療に必要な思考過程に主眼を置いたこと,常に総論と各論を意識して記載したこと,などである。著者は日本で外科系研修を受けた後に米国で内科専門医となり,さらに日本で救急医療に専念する経歴を有するが,明らかにその臨床経験が,この本の随所ににじみ出ている。例えば「本来,救命救急医学とはprimary careの補充であるべきもの」と,あっさりと述べている。内科(急病)にも外科(外傷)にも偏らず,内容のレベルが高い。Digoxin中毒は血中濃度ではなく症状を重視すること,と述べた同じ視点で,別の項では四肢外傷の手術適応を述べ,さらにまれなcommotio cordis(非成人の胸部への鈍的外傷による心室細動)を紹介する。英語表現になじむこともできる。この著者の手にかかると,脳脊髄液と関節貯留液の所見が同じレベルにみえてくる。そして,わかりやすく頭に入る。

◆各論がいつも総論にフィードバックされる工夫

 イントロダクションでは診療の基本を述べ,その中に疫学のみならず哲学も含まれる。すなわちartを伝える努力が行なわれ,また患者教育や予防,コンサルテーションの項目がある。続いて症状編では,症候解析(総論)の後に,25の症状のマネージメント(各論)が述べられ,外傷編では,創傷処置,整形外科外傷(総論)の後に,他の外傷各論が記載されている。すなわち,総論,各論を適切に配置し,個々の傷病へのアプローチが,いつも総論にフィードバックされるように教育的配慮が行なわれている。救命・救急編では蘇生,ショック,中毒,環境障害などについて述べ,さらに付録では,勉強方法や推薦図書,法的事項や医学倫理までが含まれている。

 ER研修を行なう研修医のみならず,救急医療に関わるすべての医師に,この本を薦めたい。この著者は,ERの新しい教科書を作り上げることに成功した。

第一線の臨床家による日常救急診療の実践書
書評者: 大野 博司 (前 舞鶴市民病院内科)
◆日本の実情をふまえ,かつ欧米のスタンダードをとり入れた内容

 地方の中規模病院の救急外来を中心に働いていると,内科,外科,小児を問わずあらゆる救急患者の初期評価・マネージメントを救急担当医が行なわなければならない。そのような忙しい日々の中,今回『問題解決型救急初期診療』という1冊の本に出会った。

 この本は内科・外科[特に整形外科領域(骨折以外の捻挫,打撲なども対応がきちんと書かれている),外傷]の分野を広くカバーしており,さらに簡潔な問題解決のアルゴリズム・初期治療のエッセンス(商品名,投与量の記載がありいっそう使い勝手がよい),そして心肺蘇生法ACLS,外傷初期診療JATECの最新のプロトコールまでまとまっている。

 まず日本で卒後10年の臨床第一線の医師が救急初期診療全般にわたって単独執筆されたことに驚いた。また無駄なく簡潔で読みやすい記述であり,自分の日常救急診療を振り返りながら短期間で読むことができた。

 この本は救急疾患のマニュアルであるが,専門医による三次救急主体の現場で片手間に行なわれる一次・二次救急の中で書かれた普遍性に乏しい本でもなく,かといって欧米一辺倒で日本の現状を大きく逸脱した本でもない。欧米の普遍性・問題解決型のアルゴリズムのもと,日本の現場を十分配慮した診療内容になっており,日本(特に都内の医療過密地域での救急医療)・アメリカの臨床現場を経験した著者だからこそ書くことができた本ではないかと感じている。

◆現場で役立つポイントを強調

 胸痛の項で“急性心筋梗塞を疑う時には,必ず急性大動脈解離に伴う急性心筋梗塞を否定する”という記述がある。非外傷性胸痛患者の初期対応で,いわゆる“4 killer chest pain”(急性冠症候群,肺塞栓,大動脈解離,食道破裂)を否定する必要があり,まれな食道破裂(患者背景から十分疑うことは可能)を除くと他の3疾患では,抗凝固を行なうもの(急性冠症候群,肺塞栓)と行なってはいけないもの(大動脈解離)に分ける必要がある。マネージメントの上で,このような大局的な考え方を強調している点は非常に読んでいて有用である。

 また腹痛の項での“排便があっても便秘による腹痛は否定できない”,“救急室で最も頻度の高い腹痛の1つは便秘である”,便秘の項での“便秘が必ずしも腹痛を起こさないで,嘔気・嘔吐のみの症状を呈することがある”という記述は,教科書に載っていないが,日常臨床ならではであり,臨床の第一線で働いていなければ決して書けないだろう。

 その一方で気になる点もある。失神の項で一過性脳虚血発作TIAについて,失神は稀でDrop attackになる場合が多いという記載がないことや,咽頭痛の項で“penicillin抵抗性のA群溶血連鎖球菌が増えているためロセフィン(R)を選択する”点(ペニシリン耐性肺炎球菌ではないかと思う)が気になった。

 これらの見直しとともに,小児科領域の救急疾患へのアプローチや,救急診療で研修医・若手医師を悩ませ,また誠実に取り組まなければいけない“救急外来での看取り”についても著者なりの考えの記述があればと思う。紙頁を増やすことなく内容をどこまで充実させるかは非常に難しいことだと思うが,今後の第2版以降に期待したい。

 私にとって臨床医学のよい本とは,(1)短期間で読める(数日~2週以内),(2)臨床の現場ですぐ開け,役に立つ,そして何よりも(3)著者に実際に会いたくなる,一緒に働いてみたくなる,そんな本である。

 本書を強い味方に,日々の救急外来業務に取り組んでいこうと思った次第である。そして,今回偶然にも強烈な輝きを放つ日本の医学書に出会えたことを感謝したい。

開く

本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

正誤表はこちら

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。