感染症レジデントマニュアル

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レジデントが今,直面している感染症に対し,まさに臨床現場で役立つ知識をまとめたマニュアル。いつどうやって起因菌を判断し,抗菌薬は何をどのくらい使うのか? 使うにあたっての注意事項は? 変更・終了の基準は? 曖昧な判断で漫然と使われている抗菌薬を正しく使うための知恵と,国際標準に即したノウハウが満載。
*「レジデントマニュアル」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ レジデントマニュアル
藤本 卓司
発行 2004年09月判型:B6変頁:412
ISBN 978-4-260-10660-3
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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  • 目次
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口絵 グラム染色アトラス
   グラム染色の手順・鏡検の方法
1 感染症診療にたずさわる前に-院内感染予防の基本
2 感染症診療のための基本的アプローチ
3 抗菌薬の選択と投与法についての考え方
4 抗菌薬をいつ変更するか
5 抗菌薬をいつ終了するか
6 グラム染色・鏡検の方法
7 抗酸菌染色・鏡検の方法
8 グラム染色と培養の結果が一致しないとき
9 検体の保存法・血液培養の採取法
10 各種感染症
11 主な起炎菌と第1選択薬
12 抗菌薬
13 抗真菌薬
14 抗ウイルス薬
15 菌種別・有効抗菌薬と第1選択薬
16 腎機能障害時における薬剤投与量の調節
17 妊娠および授乳中の抗菌薬投与
18 抗菌薬の使用制限
索引

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グラム染色に基づく狭域抗菌薬使用の成果
書評者: 松村 理司 (洛和会音羽病院長)
 2年も前に書評を依頼されていながら,なかなか完読できなかったわけは,私の怠慢についで,個人的な環境の変化にあった。割合大手の病院の院長職への突然の就任は,想定外の激務の日々であった。大所帯の医局人事は,継続させること自体が困難な科も含まれる。民間病院なので,経営問題に大きくのしかかられる。30年間に及ぶ公務員生活を振り返ると,「親方日の丸」の甘さを禁じ得ない。大小の医療事故への対応に昼夜をおかないこともあった。

 その医療事故だが,最近では,感染症関連のものが多くなっている。当院でも,VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)保菌の集団発生や透析室での急性B型肝炎の多発に襲われたのは,不面目の極みである。本書の著者の藤本卓司先生は,総合内科医や感染症医として現場の研修医や若手医師を惹きつけているだけでなく,院内感染管理医師としても名高い。

 そういった背景が,本書にいくつもの麗しい特徴を与えている。第1に,抗菌薬の選択にことのほかうるさい。抗菌域が狭く,副作用が少なく,安い薬を使えとしつこい。第2に,実地臨床の場での大きなツールとしてのグラム染色へのこだわりが中途半端ではない。写真やシェーマが多用され,これでもかといわんばかりであり,先生の執念を感じさせられる。第3に,抗菌薬感受性率について,勤務先の市立堺病院の具体例が取り上げられていることである。「グラム染色に基づく狭域抗菌薬の使用」という良質の原理主義の成果が一望できる。第4に,多数のメモがはさまれており,感染症関連以外のものも多く,いかにも臨床的な薫風が読書のオアシスになっている。第5として,実に読みやすい。箇条書きであるからだけでなく,文章が短く,歯切れがよいからでもある。硬質で,科学的な文体といえる。

 新医師臨床研修制度が開始されて3年目に入る。市立堺病院の人気は抜群だが,本書を著された藤本先生の力量にも大きく支えられているのは疑いようがない。地域病院に初期研修医をとられたと嘆く大学人は,先生のこのような実績をまず見習うべきだろう。

 なお,9ページの最下段に私とWillis先生への言及がある。1988年とある。懐かしかった。藤本先生が市立舞鶴市民病院へWillis先生の教えを受けるためにはるばるやってきたのは,弱冠卒後4―5年次であり,沖縄県立中部病院における感染症研修への旅の途次だったのがわかる。若き日のあちこちでの武者修行や他流試合が,先生を今日の姿に鍛えあげたように見受けられる。

感染症で「迷子」になっている医学生・研修医のための「地図」
書評者: 武田 裕子 (琉球大病院地域医療部)
 基礎医学では細菌学を学んだし,抗菌薬についても薬理学で教わった。実習した病棟には抗菌薬を投与されている患者さんもいらした。それなのに,いざ主治医として抗菌薬をオーダーしようとしてハタと困った研修医は少なくないのではないだろうか。どの抗菌薬を選べばよいのか,他の抗菌薬ではなぜダメなのか。投与量と投与間隔は本に書いてあるとおりでよいのか…。研修医としてそれぞれの診療科で各臓器の感染症治療を教わっても,異なる起因菌,異なる部位の感染症にはすぐ応用できない気がする。患者さんが高齢であったり,腎機能が低下しているとか妊娠中であるとか,考えなければならない要素が増えて途方に暮れた経験のある研修医もいるのではないだろうか。

 「感染症」のマネジメントには,細菌に関する知識,抗菌薬への理解,感染部位や可能性のある起因菌など疾患に特徴的な事柄の3つの軸に沿って立体的に考えることが求められる。その上で年齢や基礎疾患の有無など個々の患者さんの状況にあわせた治療法を選択しなくてはならない。これらを体系的に教えられたことがないと,いつまでたっても知識は点と点のままにとどまり,新たな患者さんの治療を求められたときにアプローチできず悩んでしまうことになる。藤本卓司著『感染症レジデントマニュアル』は,そのような研修医のために書かれた教科書である。著者の言葉を借りると,“感染症の「地図」を持たずに迷子になって右往左往している医学生・研修医”を対象としている。

 藤本卓司先生は市立堺病院の指導医として,“臨床に役立つ感染症学”をベッドサイドで日々教えておられる。ご自身の病院の研修医のために作成して配布された手作りのテキストが,『感染症レジデントマニュアル』の前身である。黄色い表紙だったので「黄色本」と呼ばれ,オリジナルが手に入らなくなってからあとの研修医は一生懸命コピーして使っていたと聞く。その本を見た人や評判を聞いた他院の医師からも問い合わせが多数寄せられ,伝説のマニュアル的存在であったようだ。今回その黄色本がさらにグレードアップして「レジデントマニュアル」として刊行され,全国の医学生・研修医も手にとれるようになった。

 『感染症レジデントマニュアル』は,白衣のポケットに入るサイズでありながら感染症マネジメントに必要な事柄が網羅されている。「主な起炎菌と第1選択薬」の章は細菌のグラム染色のイラストからはじまり,“臨床上の特徴”という項目には診療に直結する知識がコンパクトにまとめられている。「抗菌薬」の章には,薬理学的な特徴に加えて他の抗菌薬との違いや注意すべき副作用,他剤との相互作用が記載されており,使い勝手のよさが想像できる。さらに,「各種感染症」の章のMemo欄には,身体診察のポイントから臨床の達人ならではのワンポイントアドバイスまで盛り込まれている。通読すると,まるで藤本先生の回診にくっついて勉強させていただいているようだ。

 感染症はとっつきにくいと感じている学生・研修医にはもちろん,感染症領域のレベルアップを図りたい指導医にも役立つ1冊である。起因菌の頻度や抗菌薬への感受性は施設によって多少異なる可能性もあるので,研修医は症例ごとに自分の指導医に確認しながら感染症マネジメントに挑戦してほしい。この「地図」があれば,楽しみながら感染症を自分の得意分野にすることがきっとできる。

感染症診療への意識向上のきっかけに
書評者: 市村 公一 (東大特任講師・先端科学技術研究センター)
 昨年全国臨床研修指定病院の取材の一環として市立堺病院を訪問した際,たまたま夕方の内科カンファレンスで藤本卓司先生のお話を聞く機会に恵まれた。内容は,本書巻頭にあるグラム染色の染色パターンによる細菌の見分け方と,それを元にした「抗菌薬感受性の覚え方(本書356~359頁)」であった。非常にクリアカットなわかりやすいお話で,「これは聞き逃すまい」と取材そっちのけで手帳にメモした。その後訪問した病院では,研修医の方と感染症診療が話題になる度にそのメモを見せ,「市立堺病院に藤本先生という方がいらして,この先生のお話はとてもわかりやすくて参考になるから,機会があれば是非聞くといい」と勧めたものだ。またそのメモも,全国の研修医が活用できるような手立てがないものかと思っていたが,ここに藤本先生ご自身による感染症マニュアルが登場し,どの病院の研修医でも藤本先生の「講義」を受けられるようになった。このことを,まず一番に喜びたい。

 いろいろな臨床研修病院を見て回ると,医師(研修医)自らグラム染色を行い,全員がポケットに『サンフォード感染治療ガイド(熱病)』を入れ,広域の抗菌薬は感染症科の許可がなければ使用できないよう制限している病院がある一方,研修医が『熱病』の名前さえ知らない病院もあって,感染症に対する意識にきわめて大きなバラツキがあることを思い知らされる。研修先として病院を見る医学生には,この感染症への取り組みがその病院の診療・研修に対する姿勢を測る格好の指標にもなろう。

 一時はヒトが制圧するかに見えた細菌,ウイルスとの戦い。しかし,結核の再興やSARS,鳥インフルエンザの出現などを見れば,21世紀も病原微生物との戦いに終りはなく,死に至る病のひとつとして感染症の重要性が下がる気配はない。殊に集団的な死につながる院内感染の問題は,医療事故と並んで医療の安全性に対する社会的信頼を大いに失墜させるものであり,すべての医療従事者が真剣に取り組むべき最重要課題のひとつであろう。本書ではその院内感染予防が最初に述べられている。これも藤本先生ならではの慧眼だろう。

 このポケットサイズのマニュアルの登場を機に,医師,特に研修医などの若い世代に感染症に対する意識が高まり,日本の感染症診療のレベルが向上することを大いに期待したい。

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