小児プライマリ・ケア 虎の巻
医学生・研修医実習のために
経験豊富な小児科医の診療風景が本になった
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小児プライマリ・ケアをクリニックや市中病院で実習する医学生・研修医のために,経験豊かな小児科医が,その目の付け所を解説した。あらゆる角度から日常診療を披露している本書は,ナース・看護学生・事務員・薬剤師にも有用。さあ,小児科診療の最前線を訪ねてみよう!
編集 | 日本外来小児科学会 |
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発行 | 2001年09月判型:A5頁:176 |
ISBN | 978-4-260-11911-5 |
定価 | 3,300円 (本体3,000円+税) |
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- 目次
- 書評
目次
開く
□小児科クリニックに行こう
第1章 診察のアート
第2章 診察のサイエンス
第3章 待合室・受付
第4章 ナースと共に
第5章 オフィス・ラボ
第6章 薬局
第7章 乳幼児健診
第8章 予防接種
第9章 これで君も達人
□病院小児科に行こう
第1章 病院のしくみ
第2章 診察のアート
第3章 外来診療を学ぶ
第4章 病棟研修
第5章 病診連携
第6章 救急医療
第7章 医療事故防止
第8章 院内感染
若い人へのメッセージ
第1章 診察のアート
第2章 診察のサイエンス
第3章 待合室・受付
第4章 ナースと共に
第5章 オフィス・ラボ
第6章 薬局
第7章 乳幼児健診
第8章 予防接種
第9章 これで君も達人
□病院小児科に行こう
第1章 病院のしくみ
第2章 診察のアート
第3章 外来診療を学ぶ
第4章 病棟研修
第5章 病診連携
第6章 救急医療
第7章 医療事故防止
第8章 院内感染
若い人へのメッセージ
書評
開く
臨床実習でためらう学生の背中を押してくれる1冊
書評者: 金子 芳 (東京女子医大・5年)
臨床実習において誰もが感じることの1つに「自分はどこまで参加していいのだろうか?」という疑問があるに違いない。ましてや相手が小児だったら,保護者の方の目もあるし,一度泣かせてしまってはその後の診察で医師やコメディカルの方々に迷惑がかからないとも限らない。かわいい子どもたちを目の前にしてためらわざるを得なかった。
『小児プライマリ・ケア 虎の巻―医学生・研修医実習のために』(日本外来小児科学会編集)は,そんな学生の背中を押してくれる1冊だ。
◆小児と触れあってこそ,生きた小児医療を学べる
この本には“正常値”の類のものはおよそ載っていない。「こんなことをやってみよう。あんなことはどうだろう」と終始“提案”の形で綴られている。私が本書を手にしたのは3週間の小児科実習の2週目で,そろそろ慣れがきていたころだった。一読した時は,「どうせなら,どんな反応が正常なのかや,年齢別の目安なども載っていたら便利なのに」と思っていた。しかし,本書で最も訴えたかったのは“小児と触れあう”ことだったのではないか,とある日患者さんと遊んでいてふと気づいた。
人見知りをする子の下腿の筋力を診たかった時,私の掌を彼の足底に置いて,ただ「蹴ってみてくれる?」というよりも,「力比べしよう。キックしてみて?」と遊び心を交えたほうがスムーズにいった。生後8か月の患児を抱っこさせてもらいながら,お母さんから人見知りの時期や,体重の増加率,離乳食の移行や,歩行までの段階などさまざまなことを教わった。いきいきとしたお母さんの話しぶりは,成書よりも確実に発達についての知識をもたらしてくれた。そう気づいた時,残りの実習期間はぐんぐん充実していった。小児は個人差が大きかったり,症状が非特異的だったりする。だから,“正常値”や疾患そのものに縛られるよりも,あらゆる経験を1つひとつ,より多く積んで体で覚えていく必要性を感じた。
◆学生の好奇心と知識欲を刺激
この本の“提案”のスタンスは,読者の自主性を損なうことなく,しかしそれでいて臨床小児科医の大先輩として具体的な方法やアイデアを示してくれていることだ。小児の診察の仕方や,保護者の心配の緩和,コメディカル(特にナース)や他科との協力,臨床検査,これからの小児科の展望まで,あらゆる方面から小児医療へのアプローチがなされている。大学病院の小児科しか知らない学生にとって,病院やクリニックの記述は,プライマリ・ケアに対する好奇心や知識欲を刺激してくれる。
『医学生・研修医実習のために』というサブタイトルがつけられているが,比較的平易な言葉で書かれ,各章ごとにポイントがまとめられ,イラストなどもふんだんに取り入れられている。小児に常に触れ合っている保育関係者や,新米ママ・パパも興味を持って読めると思う。少子化の時代である,とか,医療費削減,経営合理化,とか,なかなか厳しい現実もある。しかしその一方で,小児プライマリ・ケアの必要性は今クローズアップされている。てらいのない先駆者たちの言葉は素直に心に届き,特に医療に携わる人間には科を越え,職種を越えて間違いなく一読の価値がある。
実り多い外来小児科実習を楽しく
書評者: 内山 富士雄 (内山クリニック・PCFMネットワーク*)
書店で本書を手に取ったら,まず,パラパラと中の写真を見てください。写真の登場人物は医師であれスタッフであれ,つき添いの家族,見学の学生,これから予防接種を受ける幼児まで,みな明るい表情をしていることに気づくでしょう。微笑み,喜び,輝いているのです。
◆実感できる笑顔に満ちた医療現場
「そのような写真ばかり選んだのだろう」などと勘ぐる人は,ぜひこの本の ix 頁にある日本外来小児科学会のホームページ(http://plaza4.mbn.or.jp/~shimada_chc/gairai-index.html)にアクセスして,小児プライマリ・ケアの現場を訪れてください。そうすれば,あなたもきっと笑顔に満ちた明るい医療現場を実感できるでしょう。
子どもだから?そうとも言えません。私たち内科プライマリ・ケアでも事情は同じです。そこでもやはりたくさんの(皺くちゃの)明るい顔が溢れています。
大学病院などと同じようにたとえ3分間診療でも,入室の時には顔を曇らせていた患者や家族が,晴ればれとした顔で診察室から出ていくのをプライマリ・ケア実習の学生は,驚きをもって体験します。その差は,どこから生まれるのか?あえてここでは書きませんが,いろいろな要素が関係しているでしょう。それをみにあなたも実習に出てください。
本書は,そんなあなたが小児科クリニックや市中病院小児科へ実習にいく前に読むように書かれた案内書です。あらかじめ本書で予備知識を持って,「何をみたいか,体験したいか」を意識し,指導医に事前に伝えることで,短期間の実習もオーダーメードのそれになります。
文字は大きく文章は平易だが,奥は深く,指摘には時に手厳しいことが含まれています。
「……子どもの『せんせい,おはようございます』にまったく反応しない医者,『忙しいので,ついでの話は聞かない』といった医者,彼らには厳しい批判が向けられた」
「……医師は,患者さんとその家族から,いつも観察され採点されているのだ。その点数配分は,診療の的確さもさることながら,実は患者との接し方のほうが大きい」
いずれも本書「小児科クリニックに行こう 第1章 診療のアート」からの抜粋です。
◆魅力的な「若い人へのメッセージ」
最終章は,ズバリ「若い人へのメッセージ」。「なぜ小児科を選んだのですか?」,「卒業後どのような道を歩んできましたか?」,「なぜ開業したのですか?」,「どんなときにやりがいを感じますか?」,「もうかりまっか?」の疑問に答える形の,この学会のオピニオンリーダー山中龍宏先生のメッセージも,本書をより一層魅力的にしています。ぜひ皆さんに読んでいただきたいと思います。
(*PCFMネットワーク:プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる診療所医師のネットワーク)
新しい医学教育を示唆する格好の手引書
書評者: 吉田 一郎 (久留米大教授・医学教育学)
◆医学教育の改革が開業医の現場から始まった
わが国の医学教育を先取りするすばらしい本が出版された。しかも,大学人ではなく,日本外来小児科学会に所属する開業医を中心とする先生方によってである。全国各地に医学生の気持ちを高揚させる志の高い開業医の先生方が増えている。
現在,わが国の医学教育は明治以来の大変革の時代を迎えている。これは明治時代同様,大学内部からの改革ではなく,国が主導するものとなっている。しかし,今回,この本で示された新しい医学教育改革への取り組みは,小児科開業医の先生方が中心となって,自発的に,ボランティア精神でスタートしたことに大きな意味がある。開業医の先生方の元気一杯のパワーが,わが国の医学教育を変えつつあると言っても過言ではない。
新しい臨床卒前医学教育は,従来の旧ドイツ式の“大講堂での講義中心,医療現場軽視の観念的な医学教育”から英米式の“少人数での問題基盤型学習ならびに患者さんや学生中心の現場主義の医学教育”への転換と言える。臨床医学教育は,フィロソフィーだけではだめで,実践されないと意味がない。ピアノやテニスを修得させるのに,教室でピアノやテニスの技法について長時間講義するより,実際にピアノを弾かせてみたり,テニスコートに連れ出さないと,駄目なことと同じである。今後,患者さんや医学生という消費者のニーズに応じた医学教育へという流れは,ますます強まるであろう。
大学医学部やその付属病院でなければ,医学生の教育は不可能であるとの思い込み,講義をしないと教育ではない,との大学人の思い込みはまだまだ根強く残っている。しかし,出席をとらないと極端に低い医学生の出席率からもわかるように,大講堂での講義は医学生のニーズを満たしていない。ハーバード大学医学部が講義をほぼ全廃したこと(New Pathway)はよく知られているが,学習へのモチベーションが高いと考えられる米国の医学生ですら,今までのやり方では駄目であった理由をよく考えることが必要であろう。
◆竹槍とミサイル以上の差
もう1つのわが国の医学教育の問題点は,絶対的なマンパワー不足である。表に米国ハーバード大学医学部小児科(ボストン小児病院)の陣容を示した。竹槍とミサイル以上の差があろう。開業医や勤務医の先生方が臨床教授として,医学生や研修医の教育に加わってくださることの意義はきわめて大きい。
最近,わが国でも文部科学省により,卒前医学教育のモデルコアカリキュラムが発表された。これは画期的なことであり,大変によかったと思う。このような大改革がなければ,欧米の医学教育に15-20年は遅れているわが国の医学教育は取り返しのつかないことになったであろう。しかし,このカリキュラム案で示された臨床実習期間は,欧米など医学教育先進国に比較するとまだまだ不十分である。例えば,小児科のクリニカルクラークシップは,新モデルコアカリキュラムでは小児科を基幹科目(コア)として,4週間の実習期間が示されている。しかし,これは米国の平均8週間,英国および旧英国植民地圏での15週間に比較すると,極端に短いものである。新生児医学を含み,内科以上に多様性に富み,学校保健,予防接種,思春期医学,心の問題,育児支援など,地域社会に密接に関係している小児医学の幅広いスペクトラムを大学病院だけで教育するのは無理であり,それ相応の十分な実習期間が必要であろう。また,麻疹や腸重積,冬期下痢症による脱水症,気管支喘息など大学病院小児科で経験しがたくなっている日常的疾患は,開業医クリニックや一般病院こそ,医学生や研修医の教育にふさわしい場であることを示唆している。21世紀は,外来医療の時代と言われる。米国でも20年前の学生の臨床実習では,100%病棟実習であったのが,最近ではその半分が外来実習に当てられている。
本書は,医学生が開業医での外来実習で何が学べるかを,明確に示している。さらに,子どもをだっこした時の医学生の笑顔,子どもの口の中を診る時に,思わず自分の口を開いた医学生,こわごわながら興味一杯の新生児診察など,この本の写真におさめられた医学生のいきいきとした表情が何よりも,このクリニック実習の大成功を物語っている。また,この本に収載された医学生の体験談,感想を読むと,医学生のすばらしい感受性,観察眼にも圧倒される。こんなにも感性の豊かな医学生を大講堂での講義中心の医学教育に閉じ込めていたことを申し訳なく感じるほど,この本の中の医学生はいきいきしているのである。
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表 ハーバード大学医学部小児科(ボストン小児病院)の人的資源
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教授 33名
準教授 64名
助教授 78名
講師 324名
助手など
書評者: 金子 芳 (東京女子医大・5年)
臨床実習において誰もが感じることの1つに「自分はどこまで参加していいのだろうか?」という疑問があるに違いない。ましてや相手が小児だったら,保護者の方の目もあるし,一度泣かせてしまってはその後の診察で医師やコメディカルの方々に迷惑がかからないとも限らない。かわいい子どもたちを目の前にしてためらわざるを得なかった。
『小児プライマリ・ケア 虎の巻―医学生・研修医実習のために』(日本外来小児科学会編集)は,そんな学生の背中を押してくれる1冊だ。
◆小児と触れあってこそ,生きた小児医療を学べる
この本には“正常値”の類のものはおよそ載っていない。「こんなことをやってみよう。あんなことはどうだろう」と終始“提案”の形で綴られている。私が本書を手にしたのは3週間の小児科実習の2週目で,そろそろ慣れがきていたころだった。一読した時は,「どうせなら,どんな反応が正常なのかや,年齢別の目安なども載っていたら便利なのに」と思っていた。しかし,本書で最も訴えたかったのは“小児と触れあう”ことだったのではないか,とある日患者さんと遊んでいてふと気づいた。
人見知りをする子の下腿の筋力を診たかった時,私の掌を彼の足底に置いて,ただ「蹴ってみてくれる?」というよりも,「力比べしよう。キックしてみて?」と遊び心を交えたほうがスムーズにいった。生後8か月の患児を抱っこさせてもらいながら,お母さんから人見知りの時期や,体重の増加率,離乳食の移行や,歩行までの段階などさまざまなことを教わった。いきいきとしたお母さんの話しぶりは,成書よりも確実に発達についての知識をもたらしてくれた。そう気づいた時,残りの実習期間はぐんぐん充実していった。小児は個人差が大きかったり,症状が非特異的だったりする。だから,“正常値”や疾患そのものに縛られるよりも,あらゆる経験を1つひとつ,より多く積んで体で覚えていく必要性を感じた。
◆学生の好奇心と知識欲を刺激
この本の“提案”のスタンスは,読者の自主性を損なうことなく,しかしそれでいて臨床小児科医の大先輩として具体的な方法やアイデアを示してくれていることだ。小児の診察の仕方や,保護者の心配の緩和,コメディカル(特にナース)や他科との協力,臨床検査,これからの小児科の展望まで,あらゆる方面から小児医療へのアプローチがなされている。大学病院の小児科しか知らない学生にとって,病院やクリニックの記述は,プライマリ・ケアに対する好奇心や知識欲を刺激してくれる。
『医学生・研修医実習のために』というサブタイトルがつけられているが,比較的平易な言葉で書かれ,各章ごとにポイントがまとめられ,イラストなどもふんだんに取り入れられている。小児に常に触れ合っている保育関係者や,新米ママ・パパも興味を持って読めると思う。少子化の時代である,とか,医療費削減,経営合理化,とか,なかなか厳しい現実もある。しかしその一方で,小児プライマリ・ケアの必要性は今クローズアップされている。てらいのない先駆者たちの言葉は素直に心に届き,特に医療に携わる人間には科を越え,職種を越えて間違いなく一読の価値がある。
実り多い外来小児科実習を楽しく
書評者: 内山 富士雄 (内山クリニック・PCFMネットワーク*)
書店で本書を手に取ったら,まず,パラパラと中の写真を見てください。写真の登場人物は医師であれスタッフであれ,つき添いの家族,見学の学生,これから予防接種を受ける幼児まで,みな明るい表情をしていることに気づくでしょう。微笑み,喜び,輝いているのです。
◆実感できる笑顔に満ちた医療現場
「そのような写真ばかり選んだのだろう」などと勘ぐる人は,ぜひこの本の ix 頁にある日本外来小児科学会のホームページ(http://plaza4.mbn.or.jp/~shimada_chc/gairai-index.html)にアクセスして,小児プライマリ・ケアの現場を訪れてください。そうすれば,あなたもきっと笑顔に満ちた明るい医療現場を実感できるでしょう。
子どもだから?そうとも言えません。私たち内科プライマリ・ケアでも事情は同じです。そこでもやはりたくさんの(皺くちゃの)明るい顔が溢れています。
大学病院などと同じようにたとえ3分間診療でも,入室の時には顔を曇らせていた患者や家族が,晴ればれとした顔で診察室から出ていくのをプライマリ・ケア実習の学生は,驚きをもって体験します。その差は,どこから生まれるのか?あえてここでは書きませんが,いろいろな要素が関係しているでしょう。それをみにあなたも実習に出てください。
本書は,そんなあなたが小児科クリニックや市中病院小児科へ実習にいく前に読むように書かれた案内書です。あらかじめ本書で予備知識を持って,「何をみたいか,体験したいか」を意識し,指導医に事前に伝えることで,短期間の実習もオーダーメードのそれになります。
文字は大きく文章は平易だが,奥は深く,指摘には時に手厳しいことが含まれています。
「……子どもの『せんせい,おはようございます』にまったく反応しない医者,『忙しいので,ついでの話は聞かない』といった医者,彼らには厳しい批判が向けられた」
「……医師は,患者さんとその家族から,いつも観察され採点されているのだ。その点数配分は,診療の的確さもさることながら,実は患者との接し方のほうが大きい」
いずれも本書「小児科クリニックに行こう 第1章 診療のアート」からの抜粋です。
◆魅力的な「若い人へのメッセージ」
最終章は,ズバリ「若い人へのメッセージ」。「なぜ小児科を選んだのですか?」,「卒業後どのような道を歩んできましたか?」,「なぜ開業したのですか?」,「どんなときにやりがいを感じますか?」,「もうかりまっか?」の疑問に答える形の,この学会のオピニオンリーダー山中龍宏先生のメッセージも,本書をより一層魅力的にしています。ぜひ皆さんに読んでいただきたいと思います。
(*PCFMネットワーク:プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる診療所医師のネットワーク)
新しい医学教育を示唆する格好の手引書
書評者: 吉田 一郎 (久留米大教授・医学教育学)
◆医学教育の改革が開業医の現場から始まった
わが国の医学教育を先取りするすばらしい本が出版された。しかも,大学人ではなく,日本外来小児科学会に所属する開業医を中心とする先生方によってである。全国各地に医学生の気持ちを高揚させる志の高い開業医の先生方が増えている。
現在,わが国の医学教育は明治以来の大変革の時代を迎えている。これは明治時代同様,大学内部からの改革ではなく,国が主導するものとなっている。しかし,今回,この本で示された新しい医学教育改革への取り組みは,小児科開業医の先生方が中心となって,自発的に,ボランティア精神でスタートしたことに大きな意味がある。開業医の先生方の元気一杯のパワーが,わが国の医学教育を変えつつあると言っても過言ではない。
新しい臨床卒前医学教育は,従来の旧ドイツ式の“大講堂での講義中心,医療現場軽視の観念的な医学教育”から英米式の“少人数での問題基盤型学習ならびに患者さんや学生中心の現場主義の医学教育”への転換と言える。臨床医学教育は,フィロソフィーだけではだめで,実践されないと意味がない。ピアノやテニスを修得させるのに,教室でピアノやテニスの技法について長時間講義するより,実際にピアノを弾かせてみたり,テニスコートに連れ出さないと,駄目なことと同じである。今後,患者さんや医学生という消費者のニーズに応じた医学教育へという流れは,ますます強まるであろう。
大学医学部やその付属病院でなければ,医学生の教育は不可能であるとの思い込み,講義をしないと教育ではない,との大学人の思い込みはまだまだ根強く残っている。しかし,出席をとらないと極端に低い医学生の出席率からもわかるように,大講堂での講義は医学生のニーズを満たしていない。ハーバード大学医学部が講義をほぼ全廃したこと(New Pathway)はよく知られているが,学習へのモチベーションが高いと考えられる米国の医学生ですら,今までのやり方では駄目であった理由をよく考えることが必要であろう。
◆竹槍とミサイル以上の差
もう1つのわが国の医学教育の問題点は,絶対的なマンパワー不足である。表に米国ハーバード大学医学部小児科(ボストン小児病院)の陣容を示した。竹槍とミサイル以上の差があろう。開業医や勤務医の先生方が臨床教授として,医学生や研修医の教育に加わってくださることの意義はきわめて大きい。
最近,わが国でも文部科学省により,卒前医学教育のモデルコアカリキュラムが発表された。これは画期的なことであり,大変によかったと思う。このような大改革がなければ,欧米の医学教育に15-20年は遅れているわが国の医学教育は取り返しのつかないことになったであろう。しかし,このカリキュラム案で示された臨床実習期間は,欧米など医学教育先進国に比較するとまだまだ不十分である。例えば,小児科のクリニカルクラークシップは,新モデルコアカリキュラムでは小児科を基幹科目(コア)として,4週間の実習期間が示されている。しかし,これは米国の平均8週間,英国および旧英国植民地圏での15週間に比較すると,極端に短いものである。新生児医学を含み,内科以上に多様性に富み,学校保健,予防接種,思春期医学,心の問題,育児支援など,地域社会に密接に関係している小児医学の幅広いスペクトラムを大学病院だけで教育するのは無理であり,それ相応の十分な実習期間が必要であろう。また,麻疹や腸重積,冬期下痢症による脱水症,気管支喘息など大学病院小児科で経験しがたくなっている日常的疾患は,開業医クリニックや一般病院こそ,医学生や研修医の教育にふさわしい場であることを示唆している。21世紀は,外来医療の時代と言われる。米国でも20年前の学生の臨床実習では,100%病棟実習であったのが,最近ではその半分が外来実習に当てられている。
本書は,医学生が開業医での外来実習で何が学べるかを,明確に示している。さらに,子どもをだっこした時の医学生の笑顔,子どもの口の中を診る時に,思わず自分の口を開いた医学生,こわごわながら興味一杯の新生児診察など,この本の写真におさめられた医学生のいきいきとした表情が何よりも,このクリニック実習の大成功を物語っている。また,この本に収載された医学生の体験談,感想を読むと,医学生のすばらしい感受性,観察眼にも圧倒される。こんなにも感性の豊かな医学生を大講堂での講義中心の医学教育に閉じ込めていたことを申し訳なく感じるほど,この本の中の医学生はいきいきしているのである。
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表 ハーバード大学医学部小児科(ボストン小児病院)の人的資源
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教授 33名
準教授 64名
助教授 78名
講師 324名
助手など
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