整形外科のクリティカルパス

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作業工程管理を目的に作成されたクリティカルパスは医療界にも導入され,診療や看護の標準化と質の向上に役立つツールとして大きな成果をあげ始めている。本来,術後のリハビリを要する整形外科の診療はもっとも標準化しやすく,クリティカルパスを導入しやすい領域であるが,本書ではその普及のために主な手術毎の実例を提示。
編集 佛淵 孝夫 / 野村 一俊 / 千田 治道
発行 2003年05月判型:A4頁:194
ISBN 978-4-260-12590-1
定価 3,740円 (本体3,400円+税)
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  • 目次
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序文
クリティカルパス 総論
 A クリティカルパスとは
 B クリティカルパスの利点・欠点
 C クリティカルパスの変遷
 D オールインワンパス方式による導入・作成
 E クリティカルパスの見直し
整形外科手術編
 上肢
 下肢
 脊椎
付 特殊なクリティカルパス
 付1. 連携医療用パス
 付2. 外来と一体化したパス
索引

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整形外科診療に新たな時代の到来を告げるファンファーレ
書評者: 菊地 臣一 (福島医大・整形外科)
◆プロとして避けられないテーマ

 今,医療変革でのもっとも大きな変化に,診断や治療にあたっての患者自身の選択や参加を前提にした診療体系の構築があげられる。一方,医療従事者には,プロとしての責任が求められている。即ち,限られた医療資源を適正に使用しているかどうかについて医療提供側から社会への説明責任が求められている。また,医療の専門家としてわれわれは,患者への医療に対する説明や教育に対する責任と同時に,その成果や貢献を社会に説明し,プロとして自己評価と自己規制の徹底も求められている。

 このような新しい診療体系や国民のわれわれへの要望を考えると,クリティカルパスは避けて通れないテーマとなってきている。クリティカルパスの有用性は,在院日数などの効率面にのみあるのではなく,医療や看護の標準化と質の向上,チーム医療の確立,そしてインフォームドコンセントの充実という面にこそある。クリティカルパスの導入は,患者にとって自分の受ける診療の内容が見えるという点でもその有用性は大きく,そのことによって患者や家族の満足度の向上が期待できる。従来の治療体系では,多くの場合,患者は先が全く見えない闇夜の中,不安を抱きながら回復への道を歩いていたと言っても過言ではない。しかし,治療のゴールに辿り着く過程が時系列で提示されれば,患者には先が見える。先が見えれば,患者はたいていのことは我慢できる。患者を治療方針の選択や治療法自体に参加させることが,治療成績や患者の満足度を向上させることは既に明らかにされている。このような視点からもクリティカルパスは,今や円滑な診療遂行には欠かせない手法である。

 佛淵孝夫先生は,クリティカルパスを整形外科領域に積極的に導入してきたパイオニアの1人である。この度,佛淵孝夫先生をはじめとする,この分野における整形外科のパイオニアの方々によって,『整形外科のクリティカルパス』が上梓された。その内容からは,豊富な症例数に基づく具体的,かつ詳細なケア項目と時間軸の設定がなされており,充分な検討がなされていることが伝わってくる。また,複雑な周術期管理を単純化し,そのポイントが具体的に記載されている。さらに,クリティカルパスを採用した場合の問題点の1つであるバリアンスの見直し作業の経過が,患者側に立った記載になっており,このことが本書の質をいっそう高めている。

◆連携医療も意識

 対外的な関係を考えると,各病院が役割に応じた機能を果たすように求められていることにより,転院を余儀なくされる患者が増えているのが現在である。このような現状を考えると,本書に連携医療用パスが掲載されているのは,病々連携や病診連携を明確に意識してこの手法が運用されていることを示しており,この点でも時代に対応していると言える。

 本書は,整形外科領域におけるクリティカルパスの最初の成書である。この本は,図書室の書棚に置いておくのではなく,病棟に置いて辞書代わりの本として活用すべきであろう。将来,整形外科の歴史を語るうえで,本書が整形外科クリティカルパスのマイルストーンであったと評価されるに違いない。本書は,整形外科に新しい時代の到来を告げているファンファーレでもある。

 次代を担う整形外科医は,まだクリティカルパスを導入していないのなら,まず読んでクリティカルパスに明日から取り組もう。既に導入しているのなら,この本で自分たちの利用しているパスを再検証してみよう。

クリティカルパスは導入しやすい整形外科の診療から
書評者: 井上 一 (岡山大教授・整形外科学)
◆クリティカルパスを育て上げる努力が問われている

 整形外科診療,殊に手術的治療においては,クリティカルパスがもっとも導入しやすいと言われる。また,大学病院を中心とした特定機能病院における包括評価支払い制度(DPC)はこの春からはじまっており,医療の効率化のためには,こうした手段の活用なしにはなし得ないと言われる。クリティカルパスの活用には,なお問題点を含んでいるとはいえ,絶えず現場を中心に改変し,より良いツールとして育て上げていく努力も問われている。

 本書の編者である佛淵,野村,千田の三氏は整形外科医療の現場でもっとも早く,また多くの臨床例からパスを実践し,十分にその意義と展望を熟知しておられる方々であるので,本書の解説によって個々の現場でその利点を運用していっていただきたい。

 われわれの施設でも,1988年頃よりクリティカルパスを導入しているが,本書に書かれている通り,(1)臨床アウトカム,(2)満足度,(3)在院日数,(4)財政のアウトカムと,医療の総合的な取り組みに改革をもたらしている。この中でも(2)の満足度の充実がもっとも顕著と考えている。特に医療従事者ばかりでなく,患者や家族の方々と医療の内容,作業から退院に至るすべてをよく理解していただき,十分なインフォームド・コンセントの上に安心した医療を提供していく喜びをすべての人が共有している充実感は,これまでに考えられなかった1つの医療革新と言ってよい。また,卒前・卒後の教育上もクリティカルパスは優れた威力を発揮する。1つひとつの医療行為ばかりでなく,治療の過程で起こってくるさまざまなバリアンスも,医療サイドの技術ばかりでなく患者サイドの変化を具体的に呈示してくれ,こうしたことに対する対応も適宜かつ正確に行なえるようになってくる。

◆医療の品質管理,効率化をめざして

 最近では医療の対費用効果が喧しく言われるが,確かにこれまでやってきた医療現場の無駄を分析し,より確かで効率的医療を開発していく上でも,本法の導入は欠かすことができない。どの病院においても,制度,人事,財務システムの改変が急ピッチで進められつつある。しかし,医療の現場では「安心して満足のいく医療」を期待される。これには医療が絶えずその品質を管理し向上させ,なおかつ効率的な医療を実践していくことであることは言うまでもない。クリティカルパスは工業や経営工学の中から育ってきた手法とはいえ,われわれは限られた財源の中で,絶えず良質の医療提供者として,国民の皆さんから信頼され,またすべての医療も情報開示されていくものである。したがって,職業人としてのわれわれの医療行為も絶えず評価され,それが制度の上で生かされてくるようでなければならない。こうした点からみても,クリティカルパスの導入は,21世紀における円滑なシステム改変をもたらしてくれるように思われる。

 われわれのクリティカルパスを用いた整形外科診療を通して,全診療科への取り込みの弾みとしたいものである。このことは必ずや近未来の明るい医療発展をもたらすものと言える。

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