ナレッジマネジメント
創造的な看護管理のための12章

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本書は「ヒト・モノ・カネ」という切り口を中心に語られてきた従来の看護管理を、質の高い看護サービスを創造するための「知」の運営としてとらえ直し、看護管理者にとって重要な課題を12に厳選し、解説している。オムニバス形式なので、いつでも、どこからでも取り組める。必要に応じて織り交ぜられたコラムが理解を助ける。
大串 正樹
発行 2007年06月判型:A5頁:228
ISBN 978-4-260-00502-9
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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はじめに:本書の使い方と三つのキーワード
大串正樹

 本書は看護管理者のためのナレッジマネジメント入門書です。ナレッジマネジメントとは,日常的に行っているさまざまな業務を,知識の実践という人間の行為に結びつけながら,これを創造的に捉えなおそうという試みです。ただし新しい概念として「ナレッジマネジメントを導入しなければならない」と構える必要はありません。本書もあえてそのような構成にはしていません。
 具体的には,看護管理者が出会う日常的な問題を,ナレッジマネジメントの視点で分析して,その原理にまでさかのぼりながら12の課題に分けて解説しています。これらの課題は,順番に取り組んでも,関心のある課題から取り組んでも構いません。
 このように本書は気軽に取り組んでいけるという構成にしていますが,以下の三つのキーワードだけは,頭に入れて読み進めてください。これらのキーワードはナレッジマネジメントの核となる重要な概念だからです。
・コンテクスト
 コンテクスト(context)は一般には「文脈」と訳され,「状況」に近い概念として理解されます。しかしナレッジマネジメントの本質である主体的な知の実践においては,個人の経験を含めたより広い概念として扱われます(→第6章参照)。
・暗黙知
 暗黙知(tacit knowledge)は,個人の経験によって獲得された身体的・経験的な知識をいいます。特徴としては言語化が不可能であるため伝達や共有が困難で,同時にコンテクストに強く依存します(→第5章参照)。
・形式知
 形式知(explicit knowledge)は,暗黙知と対照的に文字や図表などで表現が可能な知識で,比較的容易に伝達・共有することができます。この知識はコンテクストにあまり影響されません(→第5章参照)。
 第1章から第11章までの課題を実践し,その結果を振り返ったときに,それがナレッジマネジメントの実践であったという実感が得られれば,本書の目的はほぼ達成されたということになります。
 ただし最後の第12章に限っては,本書の根底にある哲学的・理論的な背景を示したものですから,実務とかけ離れているように感じるかもしれません。そのエッセンスは各章に散りばめてありますので,この章は最初から読破できなくても,課題の実践を振り返るとき参考程度に目を通すという方法でも問題はありません。逆にナレッジマネジメントを深く知りたいという方は,この章を丁寧に読んで理解していただいた方がいいと思います
 「改善しなければ」と重たく考えがちな看護管理ですが,本書が「気軽な実践で創造的に変わっていける」という発想に切り替わるきっかけになれば幸いです。
 2007年5月

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はじめに:本書の使い方と三つのキーワード
第1章 ビジョンをつくる-マネジメントを方向づける知識
第2章 現状を分析する-問題解決のための方法論
第3章 自分を知る-知のリーダーシップと判断力
第4章 部下を知る-知識資産をいかすマネジメント
第5章 学びを支援する-マネジメントの核としての継続教育
第6章 雰囲気をつくる-場とコンテクストのマネジメント
第7章 デザインする-知をいかす組織デザイン
第8章 プロセスでとらえる-業務の積み重ねと変化への対応
第9章 企画する-変化のためのプロセスデザイン
第10章 業務を実践する-対立を乗り越える創造的対話
第11章 評価する-埋もれた知識を活用する技法
第12章 理論を知る-看護管理の知識科学的転回
おわりに
索引

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知識とは,その人の“思い”
書評者: 井部 俊子 (聖路加看護大学学長)
◆“なぜビジョンが必要か”から“独自性の付加と論理的整合性の獲得”までの12章

 本書の「創造的な看護管理のための12章」は次のように構成される。

 第1章は,ビジョンの話である。なぜビジョンが必要なのか,よいビジョンとは何か,ビジョンをどのように活用するのかを語り,マネジメントを方向づける知識として位置づける。

 第2章では,問題点を明らかにし,情報を活用して,自らを位置づけることで,現状を分析することを語り,問題解決の方法論を示す。

 第3章は,リーダーシップを語り,ジェネラリストの知の特徴と判断力としての知が説明され,「自分を知る」章である。

 第4章は,部下の知識を知り,キャリアをデザインし,動機づけることで知識資産をいかすマネジメントをいかにするかが説明される。

 第5章は,知識の特性を知り,看護の知を考察し,継続教育がマネジメントの核であることを語り,学びを支援することとは何かについて言及する。

 第6章は,場とコンテクスト,信頼とコミットメントが語られる。そしてこれらが雰囲気をつくることになることを知る。

 第7章は,組織をデザインし,デザインを調和させ,エンパワーメントの形を語る章である。

 第8章は,プロセスの意味,プロセスとしての知識,状況判断の重要性を語ることで,業務の積み重ねと変化への対応をプロセスで捉えることを示す。

 第9章は変化のためのプロセスデザインとしての企画が語られる。目標を定め,工程表をつくり,プロジェクトを見直す。

 第10章は,日常業務を創造的にし,知の共有と協働を行ない,対立を乗り越える方法論を示し,業務の実践を語る。

 第11章は,実践の評価である。その多様な評価方法や評価のフィードバックが説明される。

 第12章は,ナレッジマネジメントの理論編である。ここで,ナレッジマネジメントの本質,知識とは何かが哲学的に語られる。著者が「野中郁次郎氏と10年近く続けた議論」の結果生まれた「独自性の付加と論理的整合性」を獲得した迫力ある章であり,本書全体を引き締めている。

◆暗黙知は暗黙知のまま共有すればよい

 本書の帯を執筆する際に,私が選んだキーセンテンスがある。それらは,「知識とは“思い”である」「“部下を知る”とはどのような知識をもっているかを知ることである」「暗黙知は暗黙知のまま共有すればよい」「知を活かす組織とは,最も必要な知の実践を最適なタイミングで提供していく組織である」などであった。これらは少なからず筆者の心をゆるがした。

 「知識とは思いである」ことは第5章で説明される。一般に知識とは,正当化された真なる信念であるが,正当化や真なる“真理”という概念についてはいまだ議論の途上にある。しかし「知る」という事態は,それが信念(思い)であることだけははっきりしているという。そして著者は,「知識とはその人が思っていなければ,知識とはなり得ないのです。そこに主体的な関わりが欠かせないことを示唆しているのです」という。各章には実に味わい深い著者の「思い」が詰まっている。
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 小寺 栄子 (静岡県立大学看護学部教授)
◆わが国で初めての実践的ガイドライン

 看護の知識は,看護者により日々の活動のなかで見出され,看護ケアのなかで繰り返し適用されることにより,さらに洗練化され蓄積されていく。では現実の多忙な臨床の現場で,看護者はどのようにして看護の知識を創り出してゆけばよいのか。 本書は,この難しい課題に,看護者が日常の仕事の見方を少し変えるだけで,創造的に変わっていけることを示した,わが国で初めての看護のナレッジマネジメントの実践的ガイドラインである。

 知識創造科学の研究者である著者は,知識とは,根源的に個人の〈信念〉に起因し,「知る」ことは「思い起こすこと」,すなわち「思う(想う)」ことが根源にあり,個人の信念を真理に向かって正当化するダイナミックなプロセスであるとしている。

 看護の知は,形式知というよりはむしろ言葉での表現が不可能な経験的な暗黙知が主体であり,身体的・状況判断的な知識は,実際の体験やその場の状況(コンテクスト)に身をおいて初めて理解できるものであること,また看護者としての専門的知識とともに,その場や組織全体を捉える総合的知識も必要とされるという特徴があるとしている。そして何より,日常的な看護実践のなかにこそ,重要な知識が埋め込まれていることに看護者自身が気づくことの大切さを強調している。

 その上で,著者は,看護のナレッジマネジメントには,個々の看護者が「本来もっている知識」を共有・活用すること,看護者の創造的な看護実践を支援する組織をデザインすること,そして看護者が新たな体験から学ぶことができるような継続教育の実践が必要であるとしている。そしてこのような組織を創り出していくことがナレッジマネジメントであり,本書では看護管理者が知を生み出す創造的な管理を実践するための11の課題とそれらのプロセスを具体的な例を挙げながらわかりやすく解説している。

 本書は,看護者の日常業務を知識の実践という行為として創造的に捉え直し,看護者が「気軽な実践で創造的に変わっていける」という発想が自然ともてるように,理論編から入るのではなく,看護のナレッジマネジメントの課題を11に分け,それぞれの章で具体的に看護の知識創造の実践のためには何が必要であるのかを解説している。そして最終章に,参考資料としてナレッジマネジメントの理論的背景を示し,前の11章の内容の根拠を示している。

 看護界にナレッジマネジメントの概念が紹介されて久しいが,その知識の看護実践への具体的適用方法をここまで丁寧に示したものは本書以外にはまだない。看護実践の価値が認められはじめた現在,看護の仕事の創造性を高め,深めそして広げてゆく看護管理の手法が求められている。著者である大串正樹氏のこの分野での研究成果を期待するとともに,本書が契機となって,看護の臨床の場が知を生み出すための創造的な場に生まれ変わることを期待したい。

 本書は,看護管理におけるナレッジマネジメントの入門書として,看護実践の質の向上を目指す看護者,看護管理者ばかりでなく,看護の知の伝授と探究を生業としている教育者・研究者にとっても必読の書である。
臨床で直面する壁を乗り超える看護管理実践家の道標
書評者: 森田 孝子 (上武大教授・看護学部)
 今,私が看護管理者に推薦している図書の1つが,大串正樹著『ナレッジマネジメント 創造的な看護管理のための12章』である。本書は,知の研究者が支持的で客観的視座と批判的視点から看護と看護管理を間近で見つめてきた成果をまとめたもので,看護の知を理解しやすく解説している。看護管理者あるいは管理的側面を実施する看護者が,困惑した時に関連項目ページを開くと解決に向けたヒントや学習の方向性に気づかされる一冊である。

 看護者は日々,暗黙知と形式知の2つの知識形態をミックス稼働させて看護を提供している。しかし,文字や図表で言表が可能な形式知よりもむしろ言表不可能な暗黙知のほうが比重は大きいのが看護現場の実態である。それは看護がさまざまな人を対象とし,その場でその時に生産し消費されるという特性ゆえである。その看護管理環境・状況は常に流動しており,管理者には現実に即した実践的判断を倫理観に基づいて求められる。下した判断は常に「これでよかったのか」という省察と確認の繰り返しである。

 管理実践は,情報収集・分析・問題の抽出―計画―実践―評価という管理のサイクルをまわしながらなされるが,時間に追われながら実践している看護管理は,時として目の前のことにとらわれてその本質を見失いがちになる。また,根本的な原理や理論の基礎を理解しないままに問題の対処をしていることもある。暗黙知と考えてきたものが実は形式知に変えられるものもある。本来看護管理者はイノベーターであらねばならない。本書は,副題に「創造的な看護管理のため……」とあるように,自己の看護管理実践を振り返り管理力を上げるための知の管理について動機づけをしてくれる。キーワード11からなる章ごとに3つの課題を設定して,紐解きやすくなっている。また,随所に看護管理実践のヒントを織り込んでいる。これも読者をひきつける。本書を読み進めると自己評価についての書を期待したくなる。

 臨床のリーダー看護師,看護管理者達は,よく「自信がない」「できていない」という。それは暗黙知の海の中で,実践している看護や管理を伝えられないもどかしさの裏返しでもあると感じる。本書は日々臨床で看護管理を実践していてジレンマを感じ,壁に突き当たっている人にこそ薦める本であろうと考える。看護管理の実践家向けの本であり,彼らの道標になるのがこの書であろう。

 看護管理者のあなた,一度この書を開いてみてください。自分を知り,看護管理もより面白くなると思います。

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