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臨床家が知っておきたい「子どもの精神科」 第2版
こころの問題と精神症状の理解のために

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昨今関心がますます高まっている子どもの発達に関する問題、子どもによくみられる精神症状や精神疾患に関する知識、また家族、教育、福祉との連携などについても簡潔かつわかりやすくまとめた。児童精神科医のみならず、子どもを診る臨床医全般(中心としては小児科医、内科医)、そしてコメディカルスタッフ(看護師、心理士、PSW、OT、STなど)、さらには教育・福祉関係者が読者対象。“子どもの心の問題”にプロはどうアプローチしているのか興味のある人はまず読んでおきたい書。
編集 市川 宏伸 / 海老島 宏
発行 2010年02月判型:A5頁:304
ISBN 978-4-260-00619-4
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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第2版の序

 2002年に初版を上梓してから8年近く経過しました。初版については,多くの方々に読んでいただき,この分野に携わる方々に多少は役立ったのではないかと自負しています。この間に児童青年精神科の疾患構造も変化しました。「発達障害」とされる広汎性発達障害(PDD)や注意欠陥(如)/多動性障害(ADHD)などが一段と増加し,梅ヶ丘病院の外来初診者の今や60%近くとなっています。
 男子では初診者のピークが小学校低学年にシフトしており,知的障害を伴わない発達障害がその中心です。「発達障害」の治療は,従来の統合失調症を代表とする精神科治療パラダイムと異なり,薬物治療がその中心とならず,環境調整,対応改善などが中心であり,年少では療育,年長ではSST的な対応が重要です。また,「発達障害」は教育,福祉,労働,司法などさまざまな社会分野で話題になっており,これらの機関との連携も必要とされています。
 一方,受診者にしめる統合失調症,気分(感情)障害を代表とする狭義の精神疾患の比率は減ったものの,不安性障害,強迫性障害(OCD)を代表とする神経症性障害などは相変わらず約30%をしめています。
女子では中高生の初診者が最も多く,摂食障害,自傷,多量服薬などがめだちます。「発達障害」は男子に多いものの,女子でも徐々に増加しており,小学校から中学・高校,大学,社会人と世代を超えて,やはり話題になっています。
 しかしながら「発達障害」の適正な診断ができる医療機関は限定されており,厚生労働省は「専門的に子どものこころの診療できる医師,医療機関の不足」に対して,「子どものこころの診療拠点病院モデル事業」をスタートさせました。当院もその対象として,治療ネットワークの構築,教員,医師を対象とした研修会,専門職を対象としたセミナー,都民を対象としたフォーラムなどを開催しています。
 梅ヶ丘病院は平成22年3月に府中キャンパスに移転して,清瀬小児病院,八王子小児病院とともに,東京都立小児医療センターとなります。児童青年精神科と小児科の融合をはかる世界初の試みであり,560床の「こころと身体の両方が診れる医療機関」となります。「こころの専門部門」として,7病棟,約200床を予定するとともに,子どもと家族支援部門の設立により,虐待,いじめ,引きこもり,などへの専門的対応を考えています。また,わが国初の小児精神科救急を設立し,社会的ニーズに応える予定です。なお,東京東部の診療を強化するため,2009年10月より大塚病院に児童精神科外来を立ち上げています。
 これらの変化を念頭に,第2版を発行することとなりました。初版に続き,子どものこころの問題に携わる臨床家の方々に役立ち,子どもさんやその保護者の方々にとっても抱えるこころの悩みや問題が少しでも軽減することを願っています。多忙な臨床活動の合間に取り組んだため,出版が大幅に遅れました。初版に引き続き,見放さず,根気よく励まし続けてくださった医学書院の安藤恵さん,川村静雄さんに,改めて厚くお礼を申しあげます。

 2010年1月
 市川 宏伸
 海老島 宏

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I 診断にあたって
 1 子どもの精神医学的診断のしかた
 2 子どもの精神科における諸検査
II 治療的対応について
 1 子どもの精神科における治療の実際
 2 具体的対応のしかた
 3 薬物による対応
 4 治療教育プログラム
 5 デイケア
 6 家族との連携
III 子どもによくみられる精神症状のみかた
 1 子どもの精神科と精神症状
 2 代表的症状のみかた
IV 子どもによくみられる精神疾患とそれらへの対応
 1 児童青年期の精神疾患と診断基準
 2 各論
  1 精神遅滞
  2 自閉症(広汎性発達障害:PDD)
  3 学習障害
  4 多動性障害
  5 行為障害(素行障害)
  6 分離不安障害
  7 小児期に特有な社会機能の障害
  8 チックとTourette症候群
  9 その他の行動および情緒の障害(習癖異常)
  10 統合失調症
  11 気分(感情)障害
  12 不安障害
  13 強迫性障害(OCD)
  14 適応障害・ストレス関連障害
  15 解離性障害(転換性障害)
  16 身体表現性障害
  17 摂食障害
  18 睡眠障害
  19 パーソナリティ障害(人格障害)
  20 薬物依存
V 子どもの精神科におけるいくつかの問題
 1 教育との連携
 2 福祉・司法・保健との連携
 3 小児科からみた子どもの精神科との連携
 4 子どもの精神科からみた他科との連携
 5 成人の精神科からみた子どもの精神科との連携

索引

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特別支援教育や障害児・者の教育,福祉をめざす人へ
書評者: 大南 英明 (放送大客員教授)
 医療と教育との連携,協力の必要性,重要性については,編者である市川宏伸先生をはじめ,幾人もの先生方が,都立梅ヶ丘病院において,都立青鳥養護学校の分教室と長年にわたり実践し,成果を示してこられました。

 都立青鳥養護学校の分教室は,昭和47(1972)年4月,小児精神科の専門病院である都立梅ヶ丘病院の中に設置され,入院中の患者の中から教室での学習が可能であると医師から診断された児童生徒(義務教育段階)を対象としていました。記録をたどりますと,当初は,自閉症,情緒障害の児童生徒が中心でしたが,平成2(1990)年には,医師と教員がLDについて,平成6(1994)年頃には,ADHDについての研究・研修を進め,分教室の教育の中心は,LD,ADHD等の発達障害の児童生徒へと変化し,現在に至りました。平成22(2010)年2月,分教室は病院の統廃合により閉室となりましたが,新しい医療機関,特別支援学校で,医療と教育との連携による実践が始まっています。

 本書は,次の点で類書にみられない特色があります。

1.サブタイトルにあるように「こころの問題と精神症状の理解のために」幅広く解説されている。
 「III 子どもによくみられる精神症状のみかた」「IV 子どもによくみられる精神疾患とそれらへの対応」「V 子どもの精神科におけるいくつかの問題」の中で,こころの問題,精神症状の理解のためのポイントが解説してあります。

2.一つひとつの事項(項目)について,簡潔,明解に解説してある。
 例えば,「IV 子どもによくみられる精神疾患とそれらへの対応」の各論では,20項目について,それぞれ4~5ページで,コンパクトに解説してあります。「自閉症(広汎性発達障害:PDD)」では,1)診断,2)行動上の特徴,3)疫学,4)鑑別診断,5)経過および予後,6)対応,について解説し,学校,家庭,医療などが共通の認識に立って対応する必要性を述べています。

3.教育,福祉,司法,保健とのかかわりについて解説してある。
 「V 子どもの精神科におけるいくつかの問題」の章で,1)教育との連携,2)福祉・司法・保健との連携について,具体的に解説してあります。教育との連携では,①連携にあたって留意する点,②学校からの依頼,③学校への依頼,④その他の社会資源,について述べています。

4.医療の専門分野(小児精神科等)で著名な執筆陣により編集されている。

5.事典(辞典)としても活用できる。
 例えば,学習障害(LD)は,166~170ページにコンパクトにまとめてあり,参考文献が例示されています。

 本書は,特別支援教育の関係者,関心がある方々,障害児・者の教育・福祉をめざしている方々などにお薦めしたい図書です。
子ども問題に接したときの支えとなる書
書評者: 牛島 定信 (日本児童青年精神医学会元理事長)
 この数年のことであろうか,「広汎性発達障害」「注意欠陥多動性障害」はお茶の間でごく普通に使用される病名になった感がある。子どもの精神医学的問題はその数といい,質といい,ますます深刻の度合いを増しているが,上記の2つはその代表的疾患といってよい。加えて,子どもの精神疾患のカバーする領域の広いことも忘れてはならないだろう。小児科のみならず,教育現場をも直撃しているし,児童相談所をはじめとした地域の生活まで巻き込んでいる。さらには,上記の疾患が成人後になって発見されることが判明してから,成人の精神医学までも震撼とさせている。そして,衝撃の強さ,拡がりの大きさ,あるいは速さは関係領域に少なからざる混乱を招き,厚労省まで動かしたほどである。成人を対象とした一般の精神科医,小児科医,児童関連の仕事に従事する人たちの勉強不足を露呈させてしまった感があるのである。

 本書『臨床家が知っておきたい「子どもの精神科」』の初版は8年前に上梓されてよく読まれたようであるが,上記のような疾病構造の急速な変化に対応する目的で,この度,新版(第2版)が出版されることになったという。ここ10年ばかりの臨床経験を踏まえて,児童精神医学の臨床,専門家養成,研究の面でわが国のリーダーシップをとってきた東京都立梅ヶ丘病院(2010年3月に,府中キャンパスに他の小児病院をも統合して,東京都立小児総合医療センターとして発足した)の関係者を中心に,新しい編者と執筆陣を得ての仕事である。子どもの精神科で具体的にどのような対応がなされているのか,細やかな説明は何らかのかたちで,これから子どもの精神科とかかわりを持とうとする人たちに限りない安心を与えるに違いない。

 とはいえ,本書はそうした狭い領域だけに焦点を当てているわけではないことを力説しておきたいと思う。子どもの示す症状,問題行動の多様さは2~3の疾患に限って説明してもほとんど意味をなさないのである。その点,よく考慮されていて,すべての症状を中心にした説明があり,すべての精神疾患の解説があって,非常に使い勝手がよくなっていることを述べておきたい。多岐にわたる精神疾患の全体を見渡した上での重要疾患の位置付けがきちんとなされているのである。

 手にとって感じることは,小児科や精神科のクリニックに,あるいは教育現場ないしは子どもの福祉機関の相談業務の現場で,必携の書となることは間違いないという思いである。文章の読みやすさ,ボリュームの手ごろさ,そして内容が中立的なことは,子ども問題に接したときに感じるちょっとした支えのほしさを十分に満たしてくれるだろう。詳しい勉強が必要になったとき,次のステップも準備してくれている書でもある。

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