実践人工心肺

もっと見る

人工心肺は,心臓手術に必要な装置であるが,心臓の機能を一時的に肩代わりさせるために,危険を伴う手段でもある。本書は,人工心肺の基礎から実際までを,イラストやマンガをふんだんに使って,視覚的にわかりやすく解説した。これから心臓手術や人工心肺を行う人の必読の書。
南淵 明宏
茨木 保
発行 2002年03月判型:A5頁:152
ISBN 978-4-260-12241-2
定価 3,960円 (本体3,600円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

第一部 バックグラウンド編
 第1章 人工心肺の基本構造
 第2章 人工心肺の運転に必要な生体原理の知識
 第3章 心筋保護
 第4章 人工心肺中のモニター
 第5章 人工心肺と薬剤
 第6章 人工心肺と法律
第二部 えむい君の一日
第三部 実践編
 第1章 冠状動脈バイパス手術と人工心肺
 第2章 僧帽弁の手術と人工心肺
 第3章 大動脈弁の手術と人工心肺
 第4章 人工心肺運転中のFAQとトラブル・シューティング
 第5章 やってはいけないミス
 第6章 ミッションにどう応える
 第7章 人工肺の故障によるトラブル
 第8章 人工心肺の限界

開く

臨床工学技士のための待望の人工心肺必読書
書評者: 小野 哲章 (神奈川県立衛生短大教授)
すべての人工心肺にかかわる人たちのための,待望の書が出ました。新進気鋭,「あの著名な」南淵先生が,自らの体験をもとに,人工心肺装置を使った心臓手術のAからZまでを,先生の手術よろしく,非常に手際よくまとめています。特に,心臓外科医と表裏一体の関係にある,人工心肺装置のエキスパートである「臨床工学技士」の業務を余すことなく伝えています。
 医学はサイエンスであり,アートであると言われます。
 心臓手術は解剖・生理・病理のエビデンスに基づく科学的知識と,経験と勘とそして時に「ひらめき」に基づく,芸術的技術があいまって,初めて「成功」に結びつきます。南淵先生は,これにハートが必要なことを強調しています。「患者のために」―すべてはここから始まることを。サイエンス・アート・ハートの中に,これにかかわるすべての職種が,信頼関係のもとに協力関係を築くことによって,患者の期待にこたえられるのだと。
 「臨床工学技士」は,「呼吸・循環・代謝にかかわる生命維持管理装置の操作および保守点検を業とする医療国家資格」です。

◆執刀医との完全なる信頼関係を築くために

 特に心臓手術では,執刀医との完全なる信頼関係の中で,その技術を全うすることによって,心臓手術を成功に導く重要な職種です。指令塔である執刀医の意のまま,あるいはそれを先読みしながら,装置と患者の状態に神経を集中し,自ら習得した知識と技術をフルに発揮して,執刀医とともに「勝利の美酒」に酔うため全力を尽くすのです。この信頼関係は,単なる仲よし人間関係で生まれるものではありません。豊富な知識と完全な技術に裏打ちされて,初めて生まれるものです。プロ同士の信頼関係なのです。そのためには,臨床工学技士には最大限の「勉強と訓練」が要求されます。本書は,その「目標」を明確に示しています。「何をどれだけ知って,どれだけ習熟すべきか」を示すHow-to本でもあるのです。
 随所に,ていねいでわかりやすい「イラストとマンガ」(驚くべきことに,同僚の産婦人科医 茨木保先生の手になるものです)と,実に広範で深い医学的基礎知識に基づく「簡潔な説明」が散りばめられた,宝石のような小冊子です。白衣のポケットにいつもしのばせ,繰り返し熟読することをお勧めします。
無駄なく無理なく人工心肺操作に自信がつく内容
書評者: 伊原 正 (鈴鹿医科大教授・臨床工学)
◆待望の「人工心肺」入門書

 本書は,初めての臨床工学技士向け「人工心肺」入門書であり,臨床工学技士をめざしている学生にとって待望の書である。最大の特徴は,初学者にとって取りつきやすいように最大限の配慮がなされており,しかも臨床現場で必要なこと,知りたいことが網羅され,あまり学術的に専門性の高い内容を省いて,無駄なく無理なく,「これなら自分も心肺回路を回せる」と自信をつけることができる点である。
 「バックグラウンド編」,「えむい君の一日」,「実践編」の3部構成となっている。「バックグラウンド編」では,「人工心肺の基本構造」,「人工心肺運転に必要な生体原理の知識」,「心筋保護」,「人工心肺中のモニター」,「人工心肺と薬剤」,「人工心肺と法律」が項目として取り上げられている。初めて人工心肺装置を見る学生は,4つないしは5つのローラーポンプを見てそれぞれ,左右の心房・心室に対応して心臓の各部屋ごとに回す物と考えてしまう者も多い。ここでは,人工心肺の基本をふまえた上で人工心肺運転中の血流分布,心筋保護液を流す際に使われる順行性灌流法・逆行性灌流法,人工心肺運転中のモニター項目などの重要な基礎事項が,イラストでわかりやすく書かれてある。また人工心肺の取り扱い上の事故責任と法律について,明確に書かれていることが,他の成書に見られない特徴である。

◆優れた説明方法-漫画人工心肺の実際

 しかし,本書の最大の特色は,第2部の「えむい君の一日」と題された漫画による人工心肺の実際である。
 これは息抜きのために設けた漫画ではなく,文章やビデオ,CD-ROMなどの他のメディアではわかりづらい現場の「空気」を,最も的確にかつ恐怖感なく納得できる優れた説明方法として活用されている。実際,初めて臨床実習に出る学生は,人工心肺の準備,運転の開始・停止以外は周りで何が起きているのかさっぱりわからないことが多い。人工心肺運転は,1人のオペレータが1つの装置を動かすだけの業務ではなく,医療機器の中でも最も高度なチームワークの要求される技術の1つである。「臨床工学技士は現場で何を考え,まわりのスタッフが何を求めているのか」がよくわかる点でも,写真やイラストより効果的なテキストとなっている。

◆他に例をみない人工心肺トラブル対策

 最後の「実践編」は,「冠状動脈バイパス手術と人工心肺」,「僧帽弁の手術と人工心肺」,「大動脈弁の手術と人工心肺」,「人工心肺運転中のFAQとトラブルシューティング」,「やってはいけないミス」,「ミッションにどう応える」,「人工肺の故障によるトラブル」,「人工心肺の限界」の項目からなり,現場のスタッフになった時に必要な知識が整理してまとめられている。心臓外科手術のテキストは,背表紙を見るだけでも圧倒されるボリュームであり,また手術は自分の仕事でないとして勉強をしにくい面がある。しかし,人工心肺運転時に術野で何が行なわれているかを知ることは,きわめて重要なことである。基本の手術手技について,要点が簡潔にまとめて書かれてある点も初学者に勧める理由の1つである。
 人工心肺運転中のトラブル対策や,術者からのリクエストへの対応方法については,きわめて実践的に説明されており,この点もいままでのテキストでは足りなかった部分である。エア抜きのさまざまなテクニックや「手術台を上げて心臓を小さく」するなど,教科書を読んだだけではわからないようなノウハウも紹介されている。
 操作者側のミスで起こりうるトラブルとその対策だけでなく,人工肺や機械側のトラブルとその対策について触れられている点でも他に類を見ない。また,本書を読み進むうちに,single cross clamp,steal現象,non-working beating heartなどの用語が自然に身についていくこともメリットの1つである。
 人工心肺の実習が行なわれる前,実習中,実習後に絶えず持参して勉強し,「本書からウィーニング(離脱)できれば,1人前のperfusionistになれる」との意気込みをもって読んでもらいたい1冊である。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。