歴史と伝統に裏打ちされ,かつ最新の知識を網羅した教科書
書評者:樋口 輝彦(国立精神・神経センター総長)
「心身医学標準テキスト」が7年ぶりに改訂された。本書の初版は1996年に出版されたが,そのオリジンは1968年に遡る。わが国初の心療内科が1963年に九州大学医学部に設立されたことは誰もが知るところであるが,同時に心身医学の教育も開始された。その講義に使用するための「心身医学・心療内科オリエンテー...
歴史と伝統に裏打ちされ,かつ最新の知識を網羅した教科書
書評者:樋口 輝彦(国立精神・神経センター総長)
「心身医学標準テキスト」が7年ぶりに改訂された。本書の初版は1996年に出版されたが,そのオリジンは1968年に遡る。わが国初の心療内科が1963年に九州大学医学部に設立されたことは誰もが知るところであるが,同時に心身医学の教育も開始された。その講義に使用するための「心身医学・心療内科オリエンテーション・レクチュア」が1968年に発行されたのであり,本書の原型をここに見ることができる。この講義用の冊子が基になり,1996年に全面改訂されたのが「心身医学標準テキスト 初版」であった。
本書の特徴はその執筆陣にある。初版以来,執筆者は九州大学心療内科のスタッフと教室出身者で構成されている。このような一教室に限定した執筆陣で構成された教科書は大変めずらしい。多くは販売のことも考慮して,多くの大学や医療機関を巻き込むかたちで執筆者が構成される。しかし,本書の場合は,先に述べたようにわが国の心療内科の老舗とも言える九大心療内科が日本の心身医学の教育をリードしてきた歴史と,今日においても全国でその出身者が指導的立場で活躍されていることを考えると,本書は一大学,一教室でつくられた教科書ではなく,まさに日本を代表する心身医学の教科書である。本年,九大心身医学教室は創設50周年を迎えたが,その記念の年にこの改訂版が出版されたことは素晴らしいことである。
心身医学は神経症を対象に心身相関の理論から研究が開始された。フロイトの理論がバックグラウンドを成したことは言うまでもない。その後,その対象は神経症から心理的,社会的因子が関連する身体疾患(心身症)に移り,心身症中心の時代が続いた。そして,今や心身医学は全人的医療・医学へと発展し,いわば医学・医療のbasic theoryともいえる位置を占めるに至っている。
本書は5部構成であり,I部 心身医学総論,II部 心身医学の基礎,III部 心身医学的診断と検査,IV部 心身症各論,V部 心身医学的治療法からなる。心身医学の基礎から臨床,治療に至るまで網羅的に,わかりやすく書かれた教科書であり,学生,研修医はもちろん,コメディカルの方々にも適する心身医学の入門書であり,専門書である。歴史と伝統に裏打ちされ,かつ最新の知識が網羅されている本書を手にとってお読みになる方は,必ずやその有用性に満足されることであろう。