末梢血管インターベンション
症例に学ぶベスト・テクニック

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鎖骨下動脈、上腕動脈、腎動脈、腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈、下肢動脈に対するインターベンション治療を、経験豊富な循環器内科医(インターベンショニスト)24名が執筆。ベーシックなテクニックと複雑なテクニックに分け、各部位で特徴的な手技と病変、陥りやすい問題点などについて症例を用いて解説している。
編集 中村 正人
発行 2007年07月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-00489-3
定価 8,250円 (本体7,500円+税)

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中村 正人

 末梢血管インターベンションに興味を抱く医師が増え,末梢血管インターベンションの文字を目にする機会も飛躍的に増えている.
 ところで,冠動脈インターベンションに慣れ親しんでいるものが,末梢血管インターベンション用のデバイスを手にした際,どのように感じるであろうか? おそらくは,なんてbulky,洗練されていないと驚きを感じるであろう.これが,循環器医が末梢血管インターベンションを始めるとき陥りやすい落とし穴である.すなわち,末梢血管インターベンションは繊細でなく,簡単にできるといった考えを持つことである.しかし,細くスマートなデバイスでないがために,それなりの工夫が必要であるし,難しさもある.いったん遭遇すると致命的となる合併症もあり,行ってはいけない手技が当然存在する.
 標準化された治療手技が理想であるが,現在は冠動脈インターベンションの経験,知識に基づき,その延長線上で末梢血管インターベンションを試行錯誤で行っている段階である.これは新たな治療戦略を生み出す可能性を秘めるが,無駄な作業を行っている面も否めない.とはいえ,両者には多くの共通点があり,冠動脈インターベンションの経験が末梢血管の治療に有益であることを疑う余地はない.
 個々の症例を治療するにあたり,落とし穴にはまってから反省するのも一法であるが,落とし穴を予見し,万が一はまってしまった場合には確実に早期に離脱することが望ましい.このためには,経験を共有することが近道かつ有効であると考える.実際,私の主催する検討会で発表された症例の多くは非常に示唆に富み,この経験を多くの先生と共有できたら有意義に違いないと感じることが少なくない.本書はこの点を意識して編集し,執筆の先生方には,知っておくべき知識,症例ベースでのテクニカルポイント,ピットホールを記していただくようお願いした.すなわち,臨床の現場,カテーテル検査室における末梢血管インターベンションの実践書を目指した.
 最後になったが,この本の作成にあたり常に盛りたててくれた医局員の先生,カテーテル検査室スタッフに感謝するとともに,執筆していただいた多くの先生方,適切な助言をいただいた医学書院の大野智志氏に謝意を表したい.末梢血管インターベンションに関する手ごろなハンドブックが少ないとよく耳にする.経験の蓄積とデバイスの発達によって冠動脈インターベンションは急激に進歩を遂げてきたが,多くのヒントは各自の経験の共有によるところが大きかった.この本が末梢血管インターベンションにおけるこれらの役割を担うことができれば望外の喜びである.
 2007年 7月

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序章 末梢血管インターベンションについて
第1章 鎖骨下動脈(Subclavian Artery),上腕動脈(Brachial Artery)
 A. 総論
 B. Basic Technique
   Distal protection
 C. Complication Technique,特殊例
   1. 透析例におけるステント
   2. 外傷性動脈閉塞
第2章 腎動脈(Renal Artery)
 A. 総論
 B. Basic Technique
   1. Coaxial methodおよびnon touch technique
   2. Distal protection
   3. 線維筋性異形成症(Fibromuscular dysplasia ; FMD)
 C. Complication Technique
   1. No reflow
   2. Aortic dissection(大動脈の解離)
   3. Guidewire perforation(ガイドワイヤーによる穿孔)
   4. Distal embolism
   5. ステント再狭窄
第3章 腸骨動脈(Iliac Artery),大腿動脈(Femoral Artery),
  膝窩動脈(Popliteal Artery)
 A. 総論
 B. Basic Technique
  ■各部位共通
   1. Cross over technique
   2. 内胸動脈造影ガイド穿刺法
   3. IVUS guide
  ■大動脈領域
   4. 大動脈狭窄症に対するステント
  ■腸骨動脈
   5. Aortoiliac bifurcation(大動脈腸骨動脈分岐部病変)
   6. Common-external iliac(総外腸骨動脈病変)
   7. Side branch wiring
   8. Parallel wire technique
   9. 側副血行路とステント位置決め
   10. Pull throughの工夫
  ■大腿動脈・膝窩動脈
   11. Non stenting zone
   12. 分岐部病変(Non stenting zone)
   13. Bidirectional approach/膝窩動脈穿刺
   14. 体表面エコーガイド
 C. Complication Technique
  ■腸骨動脈
   1. Perforationに対するcovered stent
   2. Distal embolism
   3. 解離形成
   4. 穿刺時動脈解離
   5. 急性動脈閉塞
  ■大腿動脈・膝窩動脈
   6. Stent fracture
   7. Distal embolism
   8. 対側アプローチ後の急性閉塞
   9. 急性動脈閉塞
 D. 特殊例
   1. Leriche syndrome(血栓性大動脈分岐閉塞症)
   2. 限局性の動脈解離
   3. Popliteal artery entrapment syndrome(膝窩動脈捕捉症候群)
第4章 下肢動脈(BK;below knee)
 A. 総論
 B. Basic Technique
   1. CLI(critical limb ischemia)
   2. 前脛骨動脈穿刺
   3. 後脛骨動脈穿刺
 C. Complication Technique
   1. Amputation issue
   2. Guidewire perforation
第5章 その他(特殊な例)
 静脈(Vein)/シャント
   Stent fracture
 穿刺における合併症
   上腕動脈の仮性動脈瘤(pseudo aneurysm)
   Angio-seal(R)の合併症
索引

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より安全で効果的なPPI普及のために
書評者: 山口 徹 (虎の門病院長)
 末梢血管に対するインターベンション治療について,現時点でのテクニックを中心にまとめたモノグラフである。インターベンションの名前が示すように,末梢血管インターベンション(PPI)は冠動脈インターベンションの発展に引っ張られて進歩してきた分野である。しかし冠動脈インターベンションは,実は下肢動脈の閉塞性疾患へのカテーテル治療から始まったものである。

 1960年代にDotterにより硬性カテーテルによる動脈硬化性閉塞病変の拡張術が開発されたが,冠動脈インターベンションの創始者であるGruentzigはこれを改良してポリ塩化ビニール製バルーンにより下肢閉塞性動脈硬化症に対する経皮的血管形成術を1974年に成功させた。Gruentzigはバルーンカテーテルをさらに改良して,末梢動脈,さらに腎動脈の狭窄を拡張することに成功した後に冠動脈への応用を開始し,1977年に初めての冠動脈形成術を成功させたのである。それとは逆に今日のPPIは,冠動脈インターベンションに十分な経験を有する医師達が冠動脈インターベンションでの洗練されたデバイス,テクニックを駆使して昔の領域へ再挑戦した賜であり,正に30年の歴史の妙である。

 本書は,鎖骨下動脈,上腕動脈,腎動脈,腸骨動脈,大腿動脈,膝窩動脈,さらに末梢動脈まで大動脈からの全ての分枝を網羅し,豊富な症例呈示を伴って具体的なテクニックが示されている。各章は総論,Basic Technique,Complication Techniqueで構成されている。総論は疾患概念に始まり,診断,評価,インターベンションの適応,治療効果などが要領よくまとめられている。Basic Techniqueの項では,穿刺法,シース,ガイドワイヤーのテクニックに始まり,ステント留置,末梢塞栓予防策,血管内エコーや体表面エコーのガイド法など全てのインターベンションテクニックがまとめられている。Complication Techniqueの項では,生じうる合併症とその予防策,対応策が示されている。テクニックは,症例を中心に具体的な方法をアプローチ,テクニカルポイントの順でまとめられており,冠動脈インターベンションに習熟した読者にはこの症例のみを拾い読みしても十分にエッセンスを理解し習得することができるであろう。本書のタイトル通り症例に学ぶスタイルで,多くの読者が冠動脈インターベンションの術者でもある点を考えると無駄のない構成である。

 本書は冠動脈インターベンションの経験がある循環器医がPPIを始めようとする際の絶好のテクニック指南書である。冠動脈インターベンション経験者がしばしば陥りやすい,PPIは簡単だという錯覚をしないためにも,本書を一読することをお勧めする。より安全で効果的なPPIが普及することに本書が大きく貢献することを期待する。
尊敬と信頼を得られる血管治療技術としての発展を
書評者: 横井 良明 (岸和田徳洲会病院副院長・循環器科)
 中村正人先生らによる末梢血管インターベンションのガイドブックが刊行された。同書のような末梢血管のインターベンションの症例集はきわめて珍しい。またこの分野が従来は放射線科,血管外科医の領域であったことを考えると,循環器内科医の参入は単なる余技ではなく,PCIの技術を基礎とした,循環器科の新たな血管内治療の試みの書でもある。この書で扱われる末梢血管インターベンションの分野は,鎖骨下動脈,腎動脈,下肢動脈が主に症例とともに解説され,また合併症にも詳細に触れられている。

 鎖骨下動脈のインターベンションでは,川崎友裕先生らが末梢塞栓防止としての簡便な血栓吸引法が具体的に解説されており,明らかなevidenceのある方法とはいえなくても,吸引物質がシースポートから得られていることから,合併症の軽減に役立つことが推察される。

 腎動脈のインターベンション,特にステント植え込み術は広く普及してきたが,その安全な施行のためには本書のような基本的テクニックもさることながら,合併症,再狭窄に関する記述に対する十分な知識を備えて治療に臨むことが必須の最低条件として必要である。腎動脈は簡単に見えても難しいことが多く,本書を熟読されたい。

 下肢動脈のインターベンションは最も広く行われており,腸骨動脈から膝窩動脈以下まで様々なテクニック,ワイヤー操作,IVUS,CTO開存方法の記載がなされている。特にparallel wire法,膝窩動脈穿刺などはわが国において進歩している分野であり,そのテクニックは時に必要となる。これが本書の最も特徴といえる。またIVUSと体表面エコーによるインターベンションは今後の末梢インターベンションの新しい方向であり,それがscienceを伴ってきたときには,日本人インターベンショニストから造影剤,放射線をきわめて低減できる,安全な血管内治療の提言がなされることも予感させられる。

 ただ,本書は循環器内科医が主で,冠動脈用の装置で画像が撮像されており,画像が不鮮明なのが残念である。循環器領域でもDSA装置の早期普及が望まれる。また膝窩動脈以下,脛骨動脈の穿刺の功罪はいまだ不明であり,単なるCTO再疎通の方法としてではなく,CLI治療全体での位置づけが必要になるのではないだろうか?

 いずれにしても,日本の循環器内科医だけでこのような末梢血管インターベンションの実際的な本が生まれてきたのは大変喜ばしい。これはひとえに中村正人先生の企画,努力の賜物と推察するが,新世代の若い先生方が末梢血管インターベンションを新しい方向としてめざしていることも大変好ましい。本書を参考として,末梢インターベンションがPCIの余技としてではなく,他科から尊敬と信頼を得られる血管治療技術として発展していくことを望んでいる。

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