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医療事故初期対応


編集:前田 正一

  • 判型 B5
  • 頁 232
  • 発行 2008年11月
  • 定価 4,104円 (本体3,800円+税8%)
  • ISBN978-4-260-00740-5
医療事故が発生した際に行わねばならない一連の初期対応を解説
医療事故が発生した場合、それが真に解決されるか、紛争・訴訟に発展するかは、事故後の一連の初期対応が適切に行われたか否かにより決まる。本書では医療事故初期対応のすべてを総論と具体例から解説。医療機関側・患者側双方にとって真に望ましい解決をみるために、リスクマネジメントにかかわるすべての医療従事者必見の書。
序 文
はじめに

 医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応(事案によっては「事故調査」までを含む)が適切に行われたかどうかに大きく影響されるよ...
はじめに

 医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応(事案によっては「事故調査」までを含む)が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる。また,医療機関が,事故後に,真に有効な再発防止策を検討できるかどうかも,現場の保存をはじめとする初期対応が適切に行われていたかどうかに大きく影響されるといえる。
 このような認識のもと,編者らは,これまで,医療事故対応のあり方について,現場の医療安全管理者や研究者と,それぞれの専門を生かしつつ一緒になって,少しずつ検討を重ねてきた。また,2006年からの2年間には,厚生労働科学研究として,具体事例に対する初期対応フローチャートの作成を行った(課題名:医療事故対応百選)。本書は,このようなこれまでの検討の結果を書籍としてまとめたものである。
 
 本書は,総論編・実践編の2つの編から構成されている。総論編では,まず関連用語の定義を行った後,初期対応における不可欠な作業につき,作業の意義・内容を解説している。また,事案によっては,事故後,医療機関が事故調査を行うことが必要となり,また,個人情報保護の検討が重要な課題となることから,これらについても解説している。続く実践編では,初期対応チャートの作成方式を記した後,基本的な事例につき,対応例を示している。
 
 以上のような記述からなる本書の出版を企画した理由は,いくつかある。1つは,冒頭で示した認識を編者らがもっていたことにあり,また,実際に,編者らが,現場の複数の医療安全管理者から,医療事故初期対応の重要性を確認する機会を確保するよう求められたことにある。近年,医療紛争の解決方式につき,さまざまな検討・取り組みが行われているが,いずれの取り組みも,現場の保存から始まる初期対応が行われていてはじめて,十分に機能する。このことを医療機関が今あらためて確認する必要があるというのである。
 出版を考えたもう1つの理由は,初期対応の重要性を確認するにとどまらず,初期対応の方法を具体的に提示することによって,今後の検討のたたき台を準備し,この分野の議論の深化に寄与できればと考えたことにある。つまり,本書も,(当然であるが)完成版ではなく,われわれの取り組みの中間成果物である。この意味で,読者の方々には,本書を議論の素材としても活用していただきたいと思う。
 
 本書の出版にあたっては,多くの方々からご高配をいただいた。
 まず総論編の執筆者の先生方に深くお礼を申し上げたい。浅学菲才な編者からの執筆依頼につき,どの先生も,執筆を快く受諾してくださった。特に執筆者の一人である,神戸大学 江原一雅先生には,実務面で,企画の段階から,種々のご教授をいただいた。
 また,本書の執筆者一覧には原稿の最終執筆者の氏名を掲載しているが,特に実践編の作成にあたっては,その基礎となった先の厚生労働科学研究を実施する際など,多くの臨床医・研究者の方々からご協力をいただいた。事例検討研究会に参加してくれた学生からも同様である。
 さらに,医学書院 編集者の飯村祐二さんは,関連する勉強会にも自らご参加いただき,この分野の問題状況の把握に努めてくださった。当該分野の状況を把握した編集者と共に執筆・校正作業を行えるというのは,何よりもありがたいことである。
 以上の方々に,記してお礼を申し上げる。

 2008年11月1日
 東京大学大学院医学系研究科
 前 田 正 一
書 評
  • 医療安全管理者が行うべきこと
    書評者:中西 成元(虎の門病院医療安全アドバイザー/シミュレーション・ラボセンター長)

     虎の門病院泌尿器科小松秀樹部長の危惧した『医療崩壊』(朝日新聞社,2006)は現実のものとなりとどまるところを知らない。彼は“最も大きな問題は,医療は本来どういうものかについて患者と医師の間に大きな認識のずれがあることである”としている。“具体的対策を考える前に総論で認識を一致させる努力が必要であ...
    医療安全管理者が行うべきこと
    書評者:中西 成元(虎の門病院医療安全アドバイザー/シミュレーション・ラボセンター長)

     虎の門病院泌尿器科小松秀樹部長の危惧した『医療崩壊』(朝日新聞社,2006)は現実のものとなりとどまるところを知らない。彼は“最も大きな問題は,医療は本来どういうものかについて患者と医師の間に大きな認識のずれがあることである”としている。“具体的対策を考える前に総論で認識を一致させる努力が必要であり,一致できなくとも,どのように認識が違うかを互いに理解する必要がある”と述べている。医療事故とその後の対応で患者さんの医療に対する不信を強めたことは疑いない。これまでの医療の安全対策や事故後の対応などには大きな問題があった。

     今回『医療事故初期対応』という本が出された。本書の「はじめに」に“医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応(中略)が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる”と記されている。このことは疑う余地はない。

     不幸にして生じた医療事故に対して最も重要なことは患者さんを救うことである。全病院を挙げて患者さんを救い,命にかかわることであれば救命し,障害を残さないようにしなければならない。救急救命コール,CPA処置法,救命対応チーム,救急セットなど常に整え十分な訓練を行っておく必要がある。緊急処置後もチームにより治療を行うことが重要である。そして,本人,家族および周辺へ事故に関する事象,原因など真摯に述べ対応する必要がある。事故当事者への対応も忘れてはいけない。

     事故によっては警察,外部への報告が必要となり公表する場合がある。このためには現場保全と事故の事実認証を行い,原因分析が必要である。さらに,責任に対する謝罪,補償,再発防止策を取らなければならない。これらは対応部署が適確に機能していなければならない。本書には医療安全管理者が行うべきこれらの事項をガイドライン的に示されている。そして,その各節はその道の第一人者により現時点で最も新しい知見が記されている。

     しかし,各々の病院でこれらが実践できるためには,担当者のみならず多くの医療者が患者さんとの齟齬を解消するための強い思いと,それを伝えるための十分な能力をもっている必要がある。それには教育・研修が必須である。特に,医療事故後の謝罪については非常に難しいものがある。早稲田大学大学院法務研究科教授和田仁孝先生は,医療現場でなぜコンフリクトが生じるかを以下のように述べている。事故後,出来事を人はその人のフレーム(前理解)や期待を介して解釈するのであり,これが現実である。これを理解しないとコンフリクトが生じる。コンフリクト・マネジメントには,患者さんの背景を含めた情報を共有する必要がある。この方法を援助するのがメディエーター(対話促進者)である。メディエーターは対話を促進する橋渡し役であり,単なる紛争処理者ではない。

     医療事故初期対応で最も重要なことは現場の能力である。医療安全管理者の役割は大きいが,病院のトップ以下病院全体の安全文化が十分醸成されていることが重要である。それには教育,研修が必要であり,いろいろな能力を身につけていなければならない。本書の帯に「医療紛争はゼロにできる!」とあるが,残念ながら「ゼロ」にはできない。しかし,限りなく「ゼロ」にしたいものである。その時には医療崩壊は解決に向かっていることであろう。
  • 医療安全を考え,医療事故に適切に対応するための必読書
    書評者:嶋森 好子(慶應義塾大看護医療学部教授・医療安全管理学)

     1999年に重大な医療事故が発生し,医療現場が必ずしも安全ではないことを,患者を含む国民皆が知ることになりました。2001年には,厚生労働省医政局に医療安全推進室が設けられ医療安全の推進を国としても図ることが明確に示されました。各種検討委員会が設けられ,医療安全を推進するためのさまざまな取り組みが...
    医療安全を考え,医療事故に適切に対応するための必読書
    書評者:嶋森 好子(慶應義塾大看護医療学部教授・医療安全管理学)

     1999年に重大な医療事故が発生し,医療現場が必ずしも安全ではないことを,患者を含む国民皆が知ることになりました。2001年には,厚生労働省医政局に医療安全推進室が設けられ医療安全の推進を国としても図ることが明確に示されました。各種検討委員会が設けられ,医療安全を推進するためのさまざまな取り組みが行われるようになりました。それから約10年を経ましたが,果たして医療現場がより安全になったといえるでしょうか。

     医療現場での研究的な取り組みや他分野の知見を得て,安全のためになすべきことはある程度明らかになってきています。しかし,それがなされないままに10年前と同じような事故が生じているように思います。改めて,医療現場でなすべきことは何かという視点で安全確保を検討するときではないかと考えます。

     本書は,そのような時期にふさわしい本だといえます。本書のタイトルは,「医療事故初期対応」です。これまで報道されている医療事故の中で,長く紛争が続いている事故の多くは初期の対応が適切でないことから,患者側と医療者側にいわゆるボタンのかけ違いというような状況が生じて,関係者すべてが傷ついたままで修復が困難な状況に置かれているように思われます。

     本書の編集者である前田正一氏も,「はじめに」でそのことについて次のように述べています。
    「医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応(中略)が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる。」

     本書は,総論編と実践編に分けて述べられています。総論編の1章は,用語の定義と医療事故や訴訟の現状で,ここでは,日本の医療事故の現状や医療事故に関連する用語の定義が述べられています。2章は,本書のタイトルとなっている,医療事故発生時の初期対応について詳細に述べられています。

     3章は,事故調査について,調査委員会の設置や進め方について,また,エラーの分析手法としてのRCAの解説とそのトレーニングについても触れています。4章は,個人情報保護とカルテ開示について,具体的にガイドラインや記録で行うべきことなどが述べられています。これらの基本的な項目は,実際に事故が生じた場合,生じた事象についてどのように判断すべきか,どのような考え方で,何を行うべきかなど,事前に考えておくための参考になるものです。

     続く実践編では,これらの基本的な考え方に基づいて,実際に現場で起きている10の事例を用いて,どのような手順で何をすべきかについて,フローチャート形式で判断の進め方と行うべきことが述べられています。このフローチャートは,読者の医療現場で生じやすい事故事例を使って,事故発生時にどのように判断し何をすべきかを明確にしておくために役立てることができます。この事例そのものを用いて,現場の医療安全教育を行うことも可能です。

     本書は,医療現場で働く人々と医療職をめざす学生達が,医療安全を考え,生じた医療事故に適切に対応するための基本的な考え方を身につけるための必読書です。
目 次
I 総論編
1章 医療事故に関する用語の定義,医療事故・訴訟の現状
 1 用語の定義
 2 わが国の医療事故および医療関係訴訟(民事)の状況
 3 まとめ
2章 医療事故発生時の初期対応
 1 応急処置,連絡,現場の保存および記録
 2 院内検証―過失・因果関係の検証を中心に
 3 死因究明―医療関連死における剖検とその意義
 4 異状死(・医療事故)の警察署への届出
  ―医師法21条の解釈と届出に際して必要な作業
 5 医療事故被害者(患者・家族)の求め―紛争・訴訟化の要因
 6 患者への説明・謝罪―英米の動向
 7 患者への説明・謝罪―実践
 8 損害賠償の対象と賠償金の算定方式―その理論と方法
 9 医療事故の諸機関への報告とその実際
3章 事故調査
 1 事故調査委員会および事故調査報告書―その必要性の判断と実際
 2 エラー分析
4章 個人情報保護とカルテ開示
 1 個人情報ガイドライン
 2 診療記録の開示請求
 3 まとめ

II 実践編
 医療事故初期対応の基本枠組み
 事例1 造影剤キットの重複使用
 事例2 注射穿刺時に発生した痺れ
 事例3 硬膜外麻酔で実施した手術後の呼吸停止
 事例4 内視鏡検査による穿孔
 事例5 胃全摘手術後に発覚したガーゼ遺残
 事例6 未滅菌の手術材料の使用
 事例7 抗がん剤の過量投与
 事例8 がん告知後の自殺
 事例9 入浴中の死亡
 事例10 複数の患者からのMRSA菌検出

◎コラム 医療事故の法律責任の概要
◎コラム 医療事故の公表(パブリック・アナウンスメント)/医療事故と説明責任
◎資料1 事故報告範囲の考え方
◎資料2 事故報告範囲の具体例

索引