体外受精ガイダンス 第2版

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医療を担う側と医療を受ける側が共に最新の知識を共有し適切な医療が行われることを願い、専門医と体外受精コーディネーターが上梓した良書。痛みのわかる誠実な医療の実践をめざす医師、看護師、助産師、不妊カウンセラー、体外受精コーディネーター、そして不妊に悩むすべての方々に熟読していただきたい1冊。
編著 荒木 重雄 / 福田 貴美子
協力 体外受精コーディネーターワーキンググループ
発行 2006年04月判型:A4変頁:308
ISBN 978-4-260-00288-2
定価 7,920円 (本体7,200円+税)

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第1章 高度生殖医療を理解するために
第2章 ARTについてよく聞かれる質問
第3章 なぜARTによる治療が必要か
第4章 なぜARTに卵巣刺激が必要か
第5章 ARTの調節卵巣過剰刺激におけるGnRHアナログの役割
第6章 採卵-媒精-胚培養における操作
第7章 胚移植と着床をめぐって
第8章 顕微授精の有用性をめぐって
第9章 ARTにおける凍結保存技術の進歩とその応用
第10章 男性不妊への対応をめぐって
第11章 ARTにネガティブに作用する要因とその対応
第12章 卵管を利用したARTのメリットとデメリット
第13章 ARTに伴う合併症とその対応
第14章 ARTの新しい試みとその評価
第15章 不妊カップルの多様な悩みにどう応えるか
第16章 ARTをめぐる倫理と法規制
さくいん

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初学者から実践家まで幅広く対応する良書
書評者: 森 明子 (聖路加看護大助教授・助産学)
 今春,荒木 重雄先生と福田 貴美子さんの編著による『体外受精ガイダンス第2版』(医学書院)が発行された。初版発行から約3年半を経ての改訂である。初版よりも背が低くなり,本箱に納めやすいサイズになった。章立ての数は変わらないが頁数が増えて背幅が増したので,少しずんぐりした感じになった。だが,母子の絵画を配したピンク色の明るい表紙,パステルカラーを贅沢に使った見出しや美しいイラストは初版と変わらない。頁の左側もしくは右側の欄外に引用文献・関連文献が次々と紹介されていて興味を覚えたらすぐに文献にアプローチできる点,体外受精コーディネーター自身によるケース紹介文を囲みにして配している点も踏襲されている。

 以前より,いっそう読みやすい工夫がなされたのは次の点だ。例えば,まず各章の冒頭に“キーポイント”という箇条書きの要約が設けられた。まず全体を把握してから細部へと読み進めることができる。そして,各章の末尾には“最新情報Q&A”が掲載された。基本を理解したならば,最新の知識や動向を知ってその章の学習を終えることができる。初学者にも,すでにこの分野で学び続けている臨床家にとってもありがたい構成だ。例えば,最近のメタアナリシスによりARTによる先天奇形の発生率の上昇が示されたこと,GnRHアゴニストもGnRHアンタゴニストも妊娠率の差はないとする最近の研究は,差があるとした過去のメタアナリシスと反対の結果を示しているなど,ホットな情報が並ぶ。リコンビナントFSHについての記載も増えた。ところどころに挿入された“ちょっと一言”も妊娠の成立をめぐる生体の現象や治療における考え方に広がりを持たせてくれて,当事者から相談を受けた場合などに役に立つ。

 さて,見逃してはならないのは,“体外受精コーディネーターの役割”の記述である。初版に比べ,体系化が進んだという印象を受けた。とはいえ,まだ物足りないのも事実で,実際に行っている患者ケアをもっと書き表すことができるのではないだろうか。患者カップルとの会話だけでなく(もちろんそこがメイン舞台なのだが),治療コーディネートの実際,用いている記録用紙,看護スタッフとの業務分担やチームのコーディネートにおけるノウハウなど実務的な側面,裏側も記述されるとよいのに……と,つい欲張ってしまう。

 第2版の章立ては新たに「ARTについてよく聞かれる質問」を設けた代わりに「ARTの現状と臨床成績」をなくし,その内容は新しい章に盛り込まれた。かしこまって現状や臨床成績として記述するよりも,それは患者にとって最も知りたいこと,尋ねたいことの1つであるという認識によって,Q&Aに直されたのであろうと推測する。編者は本書を医療者のみならず一般の人,不妊に悩んでいる人にも読んでもらえるように書いたと明記している。だが,一般の不妊に悩む人が個人で購入するには高価だ。だからぜひ,多くの保健医療機関で待合室や学習コーナーに置いていただき,患者・当事者が手にとって読めるようになることを心から望んでいる。

体外受精という医療の特性を踏まえた良書
書評者: 金城 清子 (津田塾大教授・学芸学部)
 体外受精は,日本でも不妊治療として定着し,生まれる子どもの約1%はこの医療の結果であるという。かつて,マスコミなどで取り上げられた,この医療に対する疑念,反感,批判,さらに女性達からの危惧も,影を潜めてしまったようにみえる。これは,医療技術の向上,インフォームド・コンセントの徹底など,関係者のたゆまぬ努力があったからであろう。とりわけ患者らの声に耳を傾け,一般の医療とは異なる不妊治療の特殊性を理解し,体外受精コーディネーター,カウンセラーなどによるサポート体制を確立してきたことは,特筆すべきことであろう。本書は,医師と体外受精コーディネーターによる共著である。大勢の執筆者による類書に比較して,体裁や文章が統一されていて読みやすい。体外受精という医療の特性を踏まえた良書である。

 1983年に,日本ではじめての体外受精児が誕生してから20年以上が経過し,はじめは手探りだったヒトの生殖についても,体外受精実施の過程でさまざまなことが明らかになってきた。それを基に,胚盤胞移植,ルテアールサポート,アシステッドハッチング,胚凍結技術の向上など,成功率を高めるためにさまざまな医療技術が考案されてきている。これらについて,患者にも理解できるように説明されていて,参考になろう。このような技術的進歩の結果,クリニックによっては,かなり高い成功率を上げているとも聞く。ところが,全体的にみるならば,この医療最大の問題点の1つである低い成功率には,大きな変化がみられない。採卵当たりの生産率は15%程度,移植当たりの生産率は19%程度で,ここ数年動きがない。これはなぜなのか。各施設の成功率の公表を義務付けていない日本の制度では,「患者が正確な情報に基づいて選択することはきわめて難しい」との記述だけではなく,患者が成功率の高いクリニックを選択する助けとなるような情報を提供して欲しかった。

 低い成功率と関連することであるが,この医療ではいつやめるかが大きな問題となる。荒木氏は,『不妊治療ガイダンス』では,「一般の不妊治療は1~2年,体外受精などの治療は1~2年」と治療の目安をはっきりと書いていた。この期間が過ぎてから長く治療を続けてみても,成功する見込みは極端に低くなるからである。ところが本書では,そのような明確な記述は見当たらない。その上,39歳から6年間も治療を続けたケース,19回目の採卵・胚移植を終え,結果が陰性と出て,これで治療をやめると決心できたケースなどが紹介されている。これらのケースは,患者自身の希望に基づくものなのであろうが,医療関係者としては,客観的な統計などに基づいた的確なアドヴァイスを記載しておく必要があったのではないだろうか。

 最後に,患者の「なぜ日本では卵の提供が認められないのでしょうか」という問いへのコーディネーターの回答についてである。厚生労働省の審議会では卵の提供を認めるとの結論を出している。ところが,専門家集団である日本産科婦人科学会がこの結論にしたがってガイドラインを改定していない。この結果,アメリカなどへ行くだけの費用があれば卵の提供によって子どもを持つことができるのに,余裕がないとこの治療は受けられないという不公平なものとなっているのが現状である。このような情報は,患者達が声を上げていくためにも必要であるので,提供されてしかるべきであると思う。

新知見を盛り込み本邦ARTの方向を示す
書評者: 玉田 太朗 (日本女性心身医学会理事長/日本不妊学会名誉会員/自治医大名誉教授)
◆本書の生い立ち

 編著者のひとり,荒木重雄博士は,1966年札幌医科大学卒業後,同大学,群馬大学,コロンビア大学,自治医科大学を通じて,20年余,生殖内分泌学の基礎的な研究に没頭してこられた。特に,ヒト卵巣内の卵胞発育・排卵の形態学的および内分泌学的研究に長年携わり,ヒトの単一排卵機序,ヒト排卵前後におけるGnRHの動態・意義などについて,国際的にも注目される多数の論文を発表された。

 博士が体外受精に着手されたのは,1990年頃からかと記憶するが,ARTに必要な知識・技術はまさにそれまでの研究の延長線上のものであったので,それをたちまち自家薬籠中のものとされたのである。

 1996年,当時自治医科大学病院の生殖内分泌不妊センター長であり,また自治医科大学看護短期大学教授を併任されていた博士は,医学書院から初版『不妊治療ガイダンス』を出版された。これが好評を博し3年足らずで3刷を重ねた。この間,ARTの普及により,わが国で不妊治療を受け妊娠した方の4分の1がARTによるまでに至った。そこで同書の第3版の改訂に当たって,第2版までの書名を継承した『不妊治療ガイダンス』とは別に,2002年,新たな『体外受精ガイダンス』を発表された。これも好評を博し,2005年夏には医学書院から増刷を勧められたが,この領域の進歩は特に急速であり,新知見を加えた改訂版が必要と考えられ,2003年以後の新しい文献を加えて今回の改訂版が上梓された次第である。
 
◆新しいエビデンスが網羅されている

 このような意図で企画された本書に,2003年以後の新知見が加えられているのは当然であるが,それが各章の終わりに2頁から数頁というコンパクトな形の「最新情報Q&A」としてまとめられている。概観したところ,2003年以後2006年までの文献はほぼ100編に達する。ARTの経験を積んでいる臨床家は11ある章の章末に付加されたこのセクションを覗くだけで,毎日のプラクティスの改良に役立つ情報を得ることができるだろう。最後の12番目のQ&Aは,「ARTにおける法規制とガイドラインに関する最新情報Q&A」として,諸外国の規制と,国外の学会のガイドラインが解説されている。ARTは,それ自体が「最新技術と倫理の相克」の問題をはらんでおり,今後のわが国の方向を考えるうえで参考になる。

 一方,初心者は,従来の記載から卵・精子の成熟,排卵・受精・着床の生理および病理を基礎から理解できるようになっている。


◆ARTにナラティブ(人生の物語)は欠かせない

 不妊自体は,ある女性にとっては病的な状態でもなければ,心の負担でもない。一方,正常な妊娠,出産,育児でも母性と家族にとっては,身体的,心理的,社会的に大きな喜びであるとともに,不安や負担となる。まして,身体的,心理的,経済的,時間的に負担が大きいARTには,悩み出すと際限がないほどの多くの問題がある。

 本書では,教育を受けた熟練したコーディネーターとクライエントとの会話や本音がちりばめられている。このような立派なコーディネーターに会えるクライエントは幸せである。このような人たちがARTの現場で広く活躍できるようなシステムがわが国で1日でも早く整備されることを切望するものである。

 最新の科学的なエビデンスとクライエントに対する具体的な接し方について,高いレベルで,しかもわかりやすく解説されている本書が,わが国のARTのレベルアップにつながることを信じ推薦するものである。

生殖医療に従事する方の最高の手引き書
書評者: 松本 清一 (日本家族計画協会会長/群馬大・自治医大名誉教授)
 不妊症の治療は体外受精を中心とした生殖介助技術の革新的進歩によって顕著な発展を遂げ,不妊に悩む方々に多大な恩恵を与えた。しかし反面,治療に伴う身体的,精神的,経済的な大きな負担や医療機関での対応,家族や地域社会からの外的圧力,また自分自身の内的圧力などに悩む方々が増え,治療とともに適切なカウンセリングがきわめて必要となり,そのため医療内容の十分な理解と適切な心理的サポートを患者に与える専門職「体外受精コーディネーター」が生まれた。

 名著『不妊治療ガイダンス』を1996年に世に出した荒木重雄博士はその役割を重視,2002年に体外受精コーディネーター福田貴美子氏とともに,実地臨床に即したわかりやすい画期的な著書『体外受精ガイダンス』を上梓したところ,医療者のみならず,不妊に悩む方々からも高い評価を得,早くも増刷が必要となった。

 そこで,この機会に,単なる増刷ではなく,さらに最近の文献を広く渉猟し,読者からの質問や問い合わせにも応えて,最新情報を網羅し,また各章のはじめに内容を要約した「キーポイント」という項を設けるなどして読者の便をはかり,76頁も増頁して全面的に書き直されたのがこの「第2版」である。

 本書は,高度生殖医療,ARTによる治療,卵巣刺激の必要性の解説に始まり,調節卵巣過剰刺激におけるGnRHアナログの役割,採卵から胚培養までの操作,胚移植と着床,顕微授精の有用性,凍結保存技術の進歩,男性不妊への対応,ネガティブに作用する要因とその対応,卵管を利用したART,合併症とその対応,新しい試みとその評価,不妊カップルの多様な悩みへの対応,倫理と法規制などに関して,高度の専門的知識や技術を大変わかりやすく解説しているうえ,新たに「ARTについてよく聞かれる質問」の1章を加えて63問のさまざまな質問に懇切に答えている。また,第1版と同様に,各章に「体外受精コーディネーターと不妊カップルとの会話」が挿入されているほか,「最新情報Q&A」という項や,ところどころに「ちょっと一言」という囲み解説が挿入され,読者の理解を助けている。そして,欄外には引用文献とその概要を示して,専門研究者の要求にも十分に応じている。

 著者の荒木博士は1966年札幌医科大学卒業後,群馬大学,米国コロンビア大学で生殖内分泌学を学び,自治医科大学助教授・同看護短期大学教授を歴任して,優れた研究業績を挙げるとともに,不妊治療に熱心に取り組んできた経験豊富な専門医であり,現在,国際医療技術研究所IMT College理事長,日本生殖医療研究協会会長として活躍,不妊カウンセラー,体外受精コーディネーターの養成にも努めている。

 また,福田氏は,1991年山口県立衛生看護学院助産科卒業後,九州大学教育学部,北九州大学外国語学部で学び,現在,九州大学大学院医学部修士課程に在学中。1991年から済生会下関総合病院に助産師として勤務,1995年蔵本ウイメンズクリニック看護師長・体外受精コーディネーターに就任,1996年米国,2004年英国で体外受精コーディネーターの研修を受け,現在学会活動,不妊患者の支援活動にも力を注ぎ,高い評価を得ているわが国における第一人者である。

 このお2人の息の合った最新の著作はまさに「体外受精の最高の手引き書」であり,生殖医療にかかわる方々にも,また不妊に悩む方々にもぜひご一読をお薦めしたい良書である。

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