感染性腸炎 A to Z

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感染性腸炎は、その疾患が呈する特徴的な像や概念を経験・理解していないと、特に炎症性疾患との鑑別が難しいと思われる。本書は、多種ある感染性腸炎それぞれの疫学、診断、治療までを網羅・詳述し、なかなか普段目にすることができない内視鏡像をあますところなく盛り込んだ、感染性腸炎のすべてがわかるテキストである。
編集 大川 清孝 / 清水 誠治
編集協力 中村 志郎 / 井谷 智尚 / 青木 哲哉
発行 2008年05月判型:B5頁:196
ISBN 978-4-260-00491-6
定価 8,250円 (本体7,500円+税)
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 本書の企画は,2004年7月10日に第1回を開催した「感染性腸炎の内視鏡像を勉強する会」に端を発している。そのときの世話人が今回の編者らを含めた5人である。“この研究会を通じていつか感染性腸炎の内視鏡像の本が作れれば…”という思いは当初から漠然と抱いていた。それが具体化したのは,2005年12月10日に第5回研究会を医学書院の阿野慎吾氏に見ていただいてからである。あまりにマニアックな議論が交わされるのを見て阿野氏が驚かれていたのを記憶している。その後,本の最初の編集会議が開かれたのは2006年3月11日であった。思い返せば,既に4年近くの月日が流れているが,研究会を通じて議論を交わし,同じ考えを培ったもののチームワークによって企画案がまとまってからは比較的短期間にできあがった。

 「感染性腸炎の内視鏡像を勉強する会」の立ち上げについて以下のように記している。「感染性腸炎の内視鏡像については,ある程度のことはすでにわかっています。しかし,かなりのバリエーションがあるのも確かで,だれもが内視鏡診断に自信をもっていないのが現状かと思います。1施設で経験する内視鏡を行った感染性腸炎の数は限られており,今後10年たっても診断能力はあまり変わらないのではと思います。そこで各施設から症例を持ち寄って1例ずつ勉強しようと考え,この研究会を発足いたしました。……」
 この研究会がユニークであったのは,正常像を含めて全大腸の内視鏡像を供覧し議論した点で,1演題の討論で30分を超えることもしばしばであり,そのときの議論が本書の骨子となっている。

 感染性腸炎の内視鏡診断が重要であるのは,IBD(潰瘍性大腸炎,Crohn病)と間違えやすい症例が存在し,診断困難例に感染性腸炎が多く見られるからである。IBDと間違うと治療が正反対となり,時に悲劇的な結末を迎えることがありうる。一方,感染性腸炎と診断がつけばそのほとんどが抗菌剤投与で完治するのである。これらの点から内視鏡医にとって,感染性腸炎の内視鏡診断を含めた診断は必須と考えられ,本書を読めばその知識は十分に得られると自負している。
 感染性腸炎の内視鏡診断がおもしろいのは,それなりの理屈があって疾患に特徴的な内視鏡像を示す一方で,われわれの判断をあざむくような非典型例が存在するからである。特徴的な内視鏡像を呈していても,菌が検出されなければ疑診のままである。一方,特徴的な内視鏡像を示さなくても,菌が検出されればその感染症なのである。このような経験を繰り返しながら,感染性腸炎の内視鏡診断学は完成すると思われるが,本書でも完成したとは言えず,今後も精進していかなければならない。このように一筋縄でいかないのが感染性腸炎の内視鏡像の魅力である。

 このように本書は内視鏡からみた感染性腸炎の本であり,従来の感染性腸炎の本とはまったく異なるものである。しかし,一般的な感染性腸炎の知識は網羅しておりA to Zの名に恥じない内容になっていると考えている。感染性腸炎の専門家に読んでもらっても内視鏡からみた菌の特性について新たな発見もあるのではとも考えている。

 どの本も同様と思うが,本書も出版にこぎつけるまでは難航した。本書の出版は,企画立案から携わり,大阪の研究会に何度も足を運び,遅れがちな著者を叱咤激励いただいた医学書院の阿野慎吾氏の存在がなければ不可能であったと思われる。深甚なる謝意を表したい。また,研究会に場所を提供いただき,運営に協力いただいた味の素ファルマの三宅博文氏,菅 靖洋氏にもこの場をお借りしてお礼申し上げたい。
 2008年春
 大川清孝,清水誠治

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A 感染性腸炎 総論

B 細菌感染症
 1 食中毒
  a)カンピロバクター腸炎
  b)サルモネラ腸炎
  c)病原性大腸菌腸炎
  d)エルシニア腸炎
  e)腸炎ビブリオ腸炎
  f)その他の食中毒
 2 輸入伝染病
  a)腸チフス・パラチフス
  b)細菌性赤痢
 3 菌交代による腸炎
  a)偽膜性腸炎
  b)MRSA腸炎
 4 腸結核
 5 放線菌症
 6 消化管梅毒

C ウイルス性感染症・クラミジア感染症
 1 サイトメガロウイルス腸炎
 2 その他のウイルス性腸炎
 3 クラミジア腸炎

D 寄生虫感染症
 1 赤痢アメーバ感染症
 2 糞線虫症
 3 日本住血吸虫症
 4 ランブル鞭毛虫症
 5 その他の寄生虫感染症

E 潰瘍性大腸炎に合併した感染性腸炎
 1 潰瘍性大腸炎に合併した細菌性腸炎
 2 潰瘍性大腸炎に合併したサイトメガロウイルス腸炎

索引

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内視鏡写真も記述内容も充実 内視鏡診断学に待望の一冊
書評者: 平田 一郎 (藤田保衛大教授・消化管内科学)
 かつて消化管といえば胃が主流で,胃がんの内視鏡診断と治療,消化性潰瘍の病態生理,Helicobacter pylori感染症などが学会や一般臨床の場でも大々的に取り上げられていた。もちろんこれらのテーマは現在でも重要なものであるが,近年は下部消化管に多くの注目が集まっている。この理由として,本邦における生活習慣の欧米化などによって,IBD(炎症性腸疾患)や大腸がんなど腸疾患が増加していることや,大腸内視鏡検査が広く普及し日常臨床でも盛んに行われるようになったことなどが挙げられる。このような背景の下に,血便や慢性下痢などを有する患者には大腸内視鏡検査が積極的に行われるようになり,必然的に感染性腸炎の内視鏡所見が集積されることにもつながった。しかし,感染性腸炎の内視鏡所見は特異的といえるものから非特異的なものまで実に多彩で,系統的な診断学としてまとめ上げることは困難であり,なお一層の知見の集積が必要と思われていた。

 そのような折に,実に良いタイミングで大川清孝先生と清水誠治先生の編集による本書が出版の運びとなった。両先生はいずれも下部消化管疾患(特に炎症性腸疾患)の診断・治療においてはわが国でもトップクラスの方たちである。小生も,今まで両先生と下部消化管臨床に関する多くの研究会に参画し,共に学んできた。両先生は,いずれも腸の炎症性疾患における症例経験が非常に豊富で,臨床に真摯に取り組んでおられ,そこから得た診断能力は言うに及ばず,総合的臨床能力は他の追随を許さないものがある。しかも,学問に対する誠実さと謙虚さがあり,私は常日ごろから両先生から多くのことを学ばせていただいている。そのような両先生の思想や姿勢が本書においても貫かれており,1例1例が丁寧に取り扱われて,誠実さの伝わる編集である。

 本書を読ませていただいて,実によくまとめ上げられていることに驚嘆した。日常臨床でよく遭遇する疾患,まれではあるが知っておくべき疾患など重要な感染性腸炎が余すところなく取り上げられている。しかも,それら疾患のほぼ100%に良質の内視鏡写真が添えられている。感染性腸炎を扱った従来の学術書は,疾患に関する記載が充実していても,内視鏡写真の質・量でもう一つ何かもの足りないなと感じてしまうことがあり,一方で,内視鏡写真やX線写真が質・量とも充実していても,疾患に関する全般的知識の記載が不十分であったりして(ある特集誌が唯一例外),読者の診断能力を高めるには,いずれも帯に短くたすきに長いものであった。

 しかし,本書は,内視鏡写真も疾患に関する知識の記載もいずれにおいても充実しており,読者を十分満足させるものである。この1冊があれば,感染性腸炎に対し十分な理解が得られ,的確な診断と治療が行えるであろう。本書は画像掲載に適した良好な紙質で,サイズもコンパクトで軽く臨床現場でひもとくのに適している。また,写真が多く掲載されているわりには値段も手ごろであり,初学者からベテランの消化器医に至るまで必携の書として強くお薦めする次第である。
日常診療における「痒いところに手の届く参考書」
書評者: 日比 紀文 (慶大教授・消化器内科学)
 私は消化器病領域の中でも炎症性腸疾患を専門としている。潰瘍性大腸炎とCrohn病に代表される炎症性腸疾患は原因不明の難治性疾患で,わが国において近年増加の一途をたどっている。原因不明であることからも,その診断の基本は,原因が明らかな疾患を除外することにある。近年,基礎医学の進歩によりその病態が徐々に解明されつつあり,また内視鏡やX線造影検査による診断技術の向上で典型像を呈する症例の診断に困ることはなくなったが,いまだに確定診断に難渋する症例に遭遇することもまれではない。薬剤性腸炎や放射線性腸炎ならびに膠原病などの全身性疾患に合併する腸炎などは,詳細な病歴聴取だけでも除外診断が可能であり,虚血性腸炎などの血管性腸炎も特殊な場合を除き臨床経過と内視鏡所見で比較的鑑別が容易である。しかし,感染性腸炎との鑑別は治療法が正反対になる場合もあり,非常に重要である。

 日常診療の中で,腹痛・下痢・発熱を主訴に来院する患者に占める感染性腸炎の割合は,炎症性腸疾患に比し圧倒的に高いことは紛れもない事実であるがために,その中でわずかに含まれている炎症性腸疾患が,時に見過ごされている。すなわち,内視鏡やX線造影検査まで行っていれば潰瘍性大腸炎やCrohn病と診断できた症例が,適切な治療を受けられずに病態が悪化してしまう場合がある。一方で,内視鏡検査を行っても的確な診断がつけられず,漠然と潰瘍性大腸炎として誤った治療が行われ,病状が一向に改善しない場合もある。最近,性感染症の一つとして増加傾向にある赤痢アメーバによる感染性腸炎を潰瘍性大腸炎と誤診されたがために,メトロニダゾールの内服により2―3週間で治癒が可能であるにもかかわらず,長期間ステロイドホルモンが投与されてしまう症例などがその代表ではないだろうか。感染性腸炎は自然治癒することも多く,細菌性のものには有効な抗菌剤が数多く登場し,感染性腸炎と診断されても内視鏡検査まで施行することもなくほとんどの症例が軽快するため,逆に感染性腸炎に特徴的な内視鏡所見を知らない内視鏡医も多い。

 そのような折に,『感染性腸炎 A to Z』を拝読する機会を得た。ここまで数多くの感染性腸炎の内視鏡像とその診断のポイントがわかりやすく掲載されている医学書は,私が知りうる限り本書が初めてではないだろうか。見逃してはならない典型像から,私自身もなるほどと感心してしまう珍しい所見まで,そのバリエーションは広く,かつ簡潔明瞭に掲載されており,日常診療においてまさに痒いところに手の届く参考書であると言っても過言ではないと思われる。消化器病専門医やそれを目指す若手医師のみならず,一般医家にとっても必携の書であると言えよう。本書を強く推薦したい。

 感染性腸炎のAからZまでをこのように素晴らしい本にまとめられた編集者の大川清孝・清水誠治両先生をはじめ,すべての執筆者の先生方に心より敬意を表したい。
感染性腸炎のすべてを内視鏡所見を中心にまとめた書
書評者: 松井 敏幸 (福岡大学筑紫病院消化器科)
 『感染性腸炎A to Z』は,大川清孝先生,清水誠治先生の編集による感染性腸炎のすべてを取り上げた著作である。両先生は,数多くの腸疾患を長年にわたり診療し,その中の問題症例を大阪の研究会で取り上げ,取りまとめてきた。関西の議論好きの風土は研究会にも持ち込まれ,ときに議論があまりに長く,紛糾することがある。しかし,饒舌に知識を競い疑問をぶつけ合うも,意外と討論者同士は仲が良い。そうした風土を受け継いで,本書は長年の構想と多数例の症例検討の重厚な積み重ねの結果,生まれたものである。多くの著者が苦労して得た珠玉の症例を,新たに設けた定期的な検討会に持ち寄り編集したものである。

 本書は,感染性腸炎のすべてを,内視鏡所見を中心に据えてまとめたものである。考えてみると,感染性腸炎に関する多くの記載はすでに論文報告として成立しているはずである。しかし,それらの報告を参照しても感染性腸炎の内視鏡診断はvariationが多いためか,どうも記載が不十分との印象があった。例えば,疾患範疇は異なるが,潰瘍性大腸炎の内視鏡分類に関する記載は直達鏡の時代に作成されたもので,今見ても記載が曖昧かつ不正確である。現代の高画素内視鏡には即さないものが多いのであるが,これを修正することは大変難しい。同様に,感染性腸炎に関する内視鏡診断も内視鏡機器あるいは挿入法の進歩に伴い改善されることが望ましい。そうした必要性に応じて生まれたのが本書であろう。

 本書の特徴は,(1)大阪の討論を重んじる風土,(2)美麗な内視鏡と病態の把握,(3)多くの執筆協力者の分担作業,そして(4)何かを見出してやろうとする目的意識,であろう。こうした豊潤な風土が,初学者から熟達した内視鏡医まで広い問題意識を説き起こすことになる。そうした試みが基本にあるため,本書は説得力がある。さらに,慎重に構成された章あるいは内視鏡所見が持つ意義と鑑別能力など明快さと限界を丁寧に説明してくれる。おそらくは,本書の内容は初学者には少し難しい面もあるかもしれない。しかし,先達がすでに経験した教育的な症例を用いてうまく解説されているので説明はわかりやすい。そして,症例に当たるたびに本書を参考にして復習していただけると,本書がかなりわかりやすく構成されていることが理解されるはずである。

 本書の帯に書かれているように,本書の先にはさらなる流れがある。帯には,“炎症性腸疾患との内視鏡的な鑑別が主眼にある”と書かれている。本書の最終章である「潰瘍性大腸炎に合併した感染性腸炎」の章は,そうした目的にかない優れている。長年,苦労されてきた,これまでの経験の積み重ねがよく表われている。今後は,IBSに近い病態を有する疾患の内視鏡診断など,さらにわかりにくい腸炎の解析にこの編著者がともに進まれんことを期待する。評者としては,本書のアイデアに先を越されたとの印象を素直に認めたい。

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