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臨床と病理よりみた 膵癌類似病変アトラス[CD-ROM付]

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画像診断の精度向上により小膵癌の診断も可能となった現在、癌そのものの顔を提示した『外科臨床と病理よりみた小膵癌アトラス』に引き続き、似て非なる病変から、鑑別診断の新たな視点を提示。膵臓癌診療の専門施設として影響力を全国に展開しつつある九大臨床・腫瘍外科が豊富なデータに基づくインテリジェンスでその底力をアトラス化。
山口 幸二 / 田中 雅夫
発行 2007年04月判型:A4頁:168
ISBN 978-4-260-00379-7
定価 18,700円 (本体17,000円+税)
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  • 目次
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執筆者/山口幸二・田中雅夫(九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科)

 膵癌は難治性固形癌の代表とされ,現在でも予後は不良である.しかし,2cm以下の小膵癌の予後は5年生存率50%と比較的良好である.早期膵癌を含めた膵癌の発見を目指すとき,臨床の場では膵癌との鑑別診断に迷う膵腫瘍や腫瘍様病変を経験する.そうした病変を体系的にまとめたアトラスは現在まで少ない.
 今回は最近10年にわれわれが経験した,そうした症例を再検討し,アトラスとしてまとめた.われわれにとってはこのアトラス出版は第3冊目になり,第1冊目は「膵嚢胞性疾患アトラス」(英文:2000年,Kyushu University Press/KARGER),第2冊目は「小膵癌アトラス」(2005年,医学書院)である.今回のアトラスは第2冊目と姉妹版となるもので,小膵癌を含めた膵癌診断の一助となれば幸いである.
 なお,このアトラスは「消化器画像」誌に連載の機会をいただき,掲載されたものに新たに加筆・編集したものである.
 2007年 2月

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第1章 膵癌と膵腫瘍および腫瘍様病変
第2章 腫瘤形成性膵炎
第3章 自己免疫性膵炎
第4章 血流に富む膵腫瘤
第5章 転移性の膵腫瘍
第6章 リンパ節病変
第7章 膵管の限局性狭窄病変
第8章 その他
索引

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膵癌と類似病変の鑑別を自信を持って行うために
書評者: 近藤 哲 (北大大学院教授・腫瘍外科学)
 管腔臓器である胃や大腸の早期癌の実体はすでに明らかになり,管腔を通してアプローチするX線造影・内視鏡・生検の3本柱で診断法も確立され,治療成績の飛躍的な向上に直結している。実質臓器の癌の代表である肝細胞癌は,すでにハイリスク群が同定されているので検査を集中化・精密化することで1㎝前後の小腫瘤も検出できるようになり,早期癌の実体もほぼ解明された。

 同じ実質臓器の癌でありながら膵癌はいまだに早期癌の実体をだれも知らない。癌の組織発生を考えると,肝細胞癌は実質細胞から発生するわけで膵では腺房細胞癌あるいは内分泌腫瘍に相当する。一般の膵癌は「膵管癌」であり,外分泌系導管上皮から発生するので肝では胆管細胞癌あるいは肝外胆管癌に相当する。膵管小分枝から発生すると想像されており,本来は管腔臓器の癌である。したがって,膵管小分枝へアプローチする管腔臓器本来の診断法を追求することをあきらめてはならないが,如何せん管腔はあまりに細くアプローチも侵襲的である。病変が分枝から主膵管へ伸びてきて主膵管が閉塞してくれたとしても,胆管癌での黄疸のような特異的症状は発現してこない。

 こう考えると現在上皮内癌の段階で診断することはかなり絶望的であり,実質臓器癌に対するアプローチである「小腫瘤」の検出に全力を注がねばならない。もちろん,これとても膵管分枝を破って実質に浸潤した進行癌を相手にしていること,ハイリスク群がわかっていないのでアミラーゼの上昇や糖尿病の悪化なども含めルチン診断で少しでも膵に疑いのある場合は徹底的に精査することを常に意識していなければならない。「序」で田中雅夫教授,山口幸二准教授が述べられているように,幸い2㎝以下で見つければ進行癌といえども5年生存率は50%であり努力のしがいはある。

 この際に問題となるのが膵管癌に類似した他の病変との鑑別である。腫瘤が小さければ小さいほど鑑別は難しい。最近になり超音波内視鏡下生検が威力を発揮しているが,播種の問題は未解決であり,やはり基本は画像診断である。鑑別すべき膵癌類似病変を常に念頭において診断にあたる必要があるが,このアトラスにはそれがほぼ網羅されており,一通り目を通しておけば明日から自信を持って臨床現場に立つことができる。

 小腫瘤の診断には直接所見であるmassの描出が必須でありUS・EUS・CT・MRIなどの断層画像を用いることになる。最近の進歩はめざましく,ほぼ任意の断層画像が得られるようになった。この画像診断の役割は腫瘤割面マクロ像をいかに忠実に描出するかであり,それを介して病理組織のルーペ像,弱拡大像,強拡大像と移行して病変の本体に迫ることが可能となる。本書ではこの真理が十分に意識されている。29例もの代表的な症例において画像とミクロがマクロを介してつながっている。だから非常に理解しやすい構造となっており,目で見て追っていくだけで楽しい。CDにも収容されているので,パソコン画面でも画像・病理像を楽しめる。一読(一覧)をお薦めする。
診断・治療の理解を深め早期膵癌発見の一助に
書評者: 船越 顕博 (第38回日本膵臓学会大会長/日本膵臓学会理事,国立病院機構九州がんセンター消化器内科)
 膵癌は早期発見が困難で「21世紀に残された消化器癌」とも呼ばれている。しかも,予後不良な“膵癌”の診断法について詳細かつ正確にわかりやすく説明することは大変困難である。一方,厚生労働省研究班や各学会による癌の診療ガイドラインが最近続々と作成されている。しかし,これまで国内には,膵癌診療の全領域に関する科学的根拠に基づいた診療ガイドラインは存在しなかった。日本膵臓学会が,膵癌診療ガイドライン作成小委員会を設けて作成にあたり,2006年3月に『科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版』(金原出版)を発行した。本ガイドラインでは,対象を“膵癌”診療にあたる臨床医とし,一般臨床医に効率的かつ適切に対処できるよう配慮されている。さらに,患者さんや御家族など一般市民の方が“膵癌”への理解を深め,医療従事者と患者側の相互が納得したうえで医療が選択され実行されることも意図されている。しかしながら,このガイドラインをもってしても膵癌の早期診断にはほど遠い現状である。

 膵癌診断の現場では画像診断で膵癌との鑑別診断に迷う腫瘍様病変を体系的にまとめたアトラスは少ないと思われる。九州大学大学院医学研究院 臨床・腫瘍外科 山口幸二先生,田中雅夫先生による『臨床と病理よりみた膵癌類似病変アトラス』を活用することにより,前回上梓された『小膵癌アトラス』の姉妹版として(著者らも序文で記載しているように),小膵癌を含めた膵癌診断の一助となるものと思われる。

 著者らは豊富な経験を有する膵臓外科医であり,膵癌の診断と治療の本邦における第一人者である。本書は膵癌と鑑別困難な膵癌類似病変を第1章で総論的に整理し,第2章以降各論では腫瘤形成性膵炎・自己免疫性膵炎・血流に富む膵腫瘤(膵内分泌腫瘍,膵漿液性嚢胞腺腫,Solid―pseudopapillary tumor,Gastrointestinal Stromal Tumor,パラガングリオーマ,膵過誤腫)・転移性の膵腫瘍・リンパ節病変(悪性リンパ腫,結核症,Castleman病,成人T細胞白血病)・膵管の限局性狭窄病変(膵管融合不全,膵管狭窄)・その他各病変(膵脂肪性腫瘤,膵臓の動静脈奇形,膵腫大と消化管誤認)等の病像を鑑別診断とともにわかりやすく説明したうえで,自験症例の画像診断及び病理所見を含め詳細にまとめ上げている。その所見がCD-ROMに添付されているのは読者にとっても大変便利である。

 膵癌の診断法について詳細かつ正確にわかりやすく理解することは大変困難であり,本書と『小膵癌アトラス』は今後の膵臓病診療に大変役に立つ良書であり,膵臓病の診断・治療に関する理解を深めるに役立つと確信し,早期膵癌発見の一助になることを切望する。
症例の診断・治療・最近の知見を深く検討
書評者: 中尾 昭公 (名大大学院教授・消化器外科学)
 このたび,医学書院より出版された,山口幸二先生・田中雅夫先生共著の『臨床と病理よりみた 膵癌類似病変アトラス』を一読する機会に恵まれた。前著『外科臨床と病理よりみた 小膵癌アトラス』に引き続きその姉妹編として出版されたものである。近年,各種画像診断の進歩によって膵腫瘍が発見される機会が増加している。もちろん,いかに膵癌を早く発見,診断し,治療に結びつけるかが最重要課題であるが,膵癌の早期発見をめざす場合,時として膵癌との鑑別診断に難渋する症例も経験される。

 本書では膵腫瘍としては稀な腫瘍も含めて,これらの病変を体系的にまとめたアトラスとして完成されている。一般に外科医は手術に対しては興味を持つが,画像診断や地味な切除標本の取り扱い,整理,病理診断に対してはその結果をうのみにするだけで興味が薄いといえるかもしれない。しかし本書においては,九州大学臨床・腫瘍外科学(旧第一外科)教室の,初期診断から最終病理診断そして治療に至るまで,臨床外科医として一貫した診療姿勢に徹すべきであるというポリシーが窺われる。

 本書は各種画像診断や病理所見がカラフルに掲載されており,非常に読みやすく構成されている。そして,それぞれの症例に対して診断・治療・最近の知見も含めて深く検討がなされている。また,図の説明は英文で記述され,症例一例ごとに英文抄録も掲載されており,外国人留学生の参考書としても利用可能と思われる。膵疾患の診断と治療を志す医師にとっては必読の書といえるが,消化器内科・外科の医局・研究室ではぜひとも本書を蔵書とされることを推薦する次第である。

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