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統合失調症の薬物治療アルゴリズム


編集:精神科薬物療法研究会 
責任編集:林田 雅希/佐藤 光源/樋口 輝彦

  • 判型 B5
  • 頁 136
  • 発行 2006年05月
  • 定価 3,850円 (本体3,500円+税10%)
  • ISBN978-4-260-00242-4
本邦オリジナルの薬物治療アルゴリズム、待望の新版
精神科薬物療法研究会編の統合失調症治療アルゴリズムの最新版。初版は本邦初の精神科領域におけるエビデンスベースドの治療手順として、大いに注目された。初版発行後に臨床導入された第二世代抗精神病薬の臨床データを加え、より現在の臨床に即した内容に改訂されている。実践的な薬物治療の進め方はもちろん、副作用症状への対応も詳しい。精神科臨床医必携の1冊。
書 評
  • 信頼性と実用性をバランスよく盛り込んだ書
    書評者:石郷岡 純(東女医大教授・精神医学)

     1998年に日本版の統合失調症と感情障害に対する薬物治療アルゴリズムとして,『精神分裂病と気分障害の治療手順』(星和書店)が刊行されてから8年が経過した。当時はまだ臨床の現場では治療を一定の手順に沿って進めるという考え方そのものが未成熟であったので,薬物治療の進め方に対する考え方とその根拠となるデ...
    信頼性と実用性をバランスよく盛り込んだ書
    書評者:石郷岡 純(東女医大教授・精神医学)

     1998年に日本版の統合失調症と感情障害に対する薬物治療アルゴリズムとして,『精神分裂病と気分障害の治療手順』(星和書店)が刊行されてから8年が経過した。当時はまだ臨床の現場では治療を一定の手順に沿って進めるという考え方そのものが未成熟であったので,薬物治療の進め方に対する考え方とその根拠となるデータを整理して提示したという点で先駆的なものであった。しかし,その後,新規の抗うつ薬,抗精神病薬の発売が相次いだため早期の改訂が待たれていた。ひと足先に『気分障害の薬物治療アルゴリズム』(じほう)が出版されたが,このたび統合失調症のアルゴリズムを扱った本書が刊行された。

     アルゴリズムの作成法には,科学的根拠(エビデンス)を渉猟して,それを実証レベルによって分類し,中立的な視点で構成していく手法と,エキスパートなど臨床家の意見から構成していく手法に大別できるが,本書では前者を採用している。また,アルゴリズムの日本版を作成する観点から,わが国のエビデンスを中心に構成されている。この手法は客観性が高いという利点がある一方,エビデンスの蓄積状況は研究の進展如何にかかっているので,領域によっては,あるいは地域によってはエビデンスが不足していることもある。そのため,本書では,臨床家の意見も実証レベルの低いエビデンスとみなし取り入れることで,現実の臨床と乖離しないように配慮がなされているので,信頼性と実用性がバランスよく盛り込まれた内容になっている。

     本書は7章で構成されており,はじめの4章では有効性に関するエビデンスに基づいたアルゴリズムが示されている。第1章は急性精神病エピソード,第2章は維持薬物療法であり,諸外国の多くのアルゴリズムとも矛盾のない信頼のできるものである。第3章は慢性期の陰性症状に焦点を当てた,本書のユニークな項目であり,わが国で抗精神病薬の多剤大量療法がまだ一般的であることを背景にして作られた,実践的な内容となっている。第4章は治療抵抗性精神病エピソードで,わが国にはクロザピンがないため,抗精神病薬の併用といった,諸外国ではクロザピンの後に来るオプションが繰り上がって上位に位置されるなど,作成に苦慮した跡が忍ばれるものとなっている。第5章,6章は副作用に対する治療アルゴリズムで,有効性に比べエビデンスの質も揃えやすいので,記述もより明確である。

     アルゴリズムの書物はともすれば無機質なものになりがちであるが,本書では抗精神病薬の作用機序を説明した1章が最後に設けられており,これをアルゴリズム理解の補助とすることで,生きた臨床のための1冊にすることを可能にした,こころにくい編集である。
  • 本邦の臨床薬理の到達点を示す書
    書評者:武田 俊彦(慈圭病院)

     第2世代抗精神病薬がわれわれの臨床現場に登場して,既に10年が経過しようとしている。この薬剤の登場とほぼ軌を一にしてわが国でも,統合失調症治療が随分変化してきた。特に薬物療法の分野では,急性期から維持期への治り方そのものが問われるようになってきている。病を持つ患者の生活を最終的にいかに豊かなものに...
    本邦の臨床薬理の到達点を示す書
    書評者:武田 俊彦(慈圭病院)

     第2世代抗精神病薬がわれわれの臨床現場に登場して,既に10年が経過しようとしている。この薬剤の登場とほぼ軌を一にしてわが国でも,統合失調症治療が随分変化してきた。特に薬物療法の分野では,急性期から維持期への治り方そのものが問われるようになってきている。病を持つ患者の生活を最終的にいかに豊かなものにしていけるかだけでなく,いかに患者に負担の少ない自然で綺麗な経過でそこまで到達できるかが問題とされてきている。“終わりよければすべてよし”式の治療は今や完全に否定されている。

     そんな臨床現場の潮流の中で本書は企画され,今回1998年に発表された日本版アルゴリズムの改訂版として刊行された。アルゴリズムは臨床研究によって得られた実証的証拠に基づいて作製された治療手順である。統合失調症の薬物療法の基本が網羅されていると言ってよい。臨床薬理を専門にしている者にとっては,アルゴリズム自体は当たり前のことが簡潔に記載されることが多いので,この手の本は退屈なものが多い。しかし本書では,解説に十分な紙面を割き,その内容も臨床的なセンスに富み,手軽な総説として面白く仕上がっている。それは解説にオピニオンの意見も適宜採用して,より臨床現場の細部にまで行き届いた記載がなされていることも一因である。特にわが国オリジナルのエビデンス,オピニオンに重点をおいた編集方針は,現在のわが国の臨床薬理の到達点を示すものであり興味深い。さらに本書は,有害事象の評価と対策にアルゴリズム全体の半分以上の紙面を割いていて,その解説も丁寧である。体重増加,代謝障害,突然死など最近話題の有害事象への対応も今回取り上げられた。これは,患者に負担が少ない自然で綺麗な経過をもとめる最近の臨床薬理の動向と合致するものであり,この本の編集に当たった精神科薬物療法研究会の意図もここに読みとれる。

     本書では,最終章で抗精神病薬の作用機序に関する解説がなされ,最新の実験データも多く記載されている。それらの多くは臨床から直接引き出されたものではないが,確かに最新の科学的エビデンスである。アルゴリズムは地図であるが,すべての道が網羅されているわけではない。臨床家は個々の症例を目の前にして,盲目的にアルゴリズムに当てはめるのではなく抗精神病薬を主体的,創造的に使用していかなければならない。特に予想された効果が発現しない場合や,予想外の有害事象が発生した場合には臨床家の真価が問われる。日常臨床から得られる臨床家の確かな経験と,臨床薬理から得られたアルゴリズムと,薬物の基礎データから合理的に導き出される薬理学的視点の3方向からの立体的な視点が,エビデンスを越えた薬物療法の臨床的センスを育むと考えられる。やや難解な箇所も見受けられるが,ぜひ本書の最終章も読了されることをお薦めする。
  • 精神科薬物療法の標準を提示
    書評者:中村 純(産業医大教授・精神医学)

     精神医療の分野においても世界的な潮流となった科学的根拠に基づいた医療(EBM:evidence-based medicine)の実践が求められ,1993年に国際的なThe International Psychopharmacology Algorithm Project(IPAP)が組織され,そ...
    精神科薬物療法の標準を提示
    書評者:中村 純(産業医大教授・精神医学)

     精神医療の分野においても世界的な潮流となった科学的根拠に基づいた医療(EBM:evidence-based medicine)の実践が求められ,1993年に国際的なThe International Psychopharmacology Algorithm Project(IPAP)が組織され,そのIPAPのアルゴリズムを参考にして,わが国においても国内の臨床研究の成果を取り入れた日本語版アルゴリズム「精神分裂病と気分障害の治療手順」(精神科薬物療法研究会編,星和書店)が1998年に刊行された。この時期に家族会などの要請を受けて精神分裂病は統合失調症に病名呼称の変更があり,1996年にはリスペリドン,2000年にはオランザピン,クエチアピン,ペロスピロンなどの第二世代抗精神病薬が臨床に導入され,統合失調症の薬物療法には大きな変化が起こった。このことは,統合失調症の認知症状や陰性症状などに対する精神科医の関心の高まりを生み,精神科リハビリテーションの早期導入への関心など,統合失調症治療に対する大きな変革に繋がってきた。そして,新規抗精神病薬は統合失調症治療に対する第1選択薬となってきた。

     このような背景から今回,精神科薬物療法研究会から「統合失調症の薬物治療アルゴリズム」の改訂版が発刊されたことは時期を得たことと思われる。残念ながらわが国の精神科薬物療法は,欧米はもとよりアジア諸国よりも今なお新薬導入が遅れており,多剤大量療法は諸外国からも批判されているのが現状である。そこで本書のように研究会として標準的な精神科薬物療法を提示することは多くの精神科医にとって重要と思われる。米国精神医学会のガイドラインでは,薬物療法の実行上の要約,治療計画の系統的説明,治療状況の選択,疾患の定義・疫学,利用可能なエビデンスの再考と統合,将来の研究方向などを示しているが,本書では,急性期,維持期,慢性期の陰性症状,治療抵抗性精神病などそれぞれの病相時期,重症度に分けてアルゴリズムを示している点が特徴である。統合失調症は長期間の治療を要する疾患であり,それぞれの時期に応じたわが国における薬物療法のスタンダードを示すことは重要と思われる。次いで,本書では抗精神病薬の副作用に対するアルゴリズムを示しているが,特に今後使用頻度が増加する第二世代抗精神病薬による副作用として懸念される体重増加,高脂血症,糖尿病などに対する治療アルゴリズムを第一に示しているのは参考になると思われる。次に従来からの抗精神病薬で起こる悪性症候群や錐体外路症状などに対する治療アルゴリズム,最後に抗精神病薬の作用機序がまとめられている。

     ところで,わが国では今なおプラセボを用いた抗精神病薬の二重盲検試験がなされておらず,臨床治験によるエビデンスが不十分であることも事実である。その意味で本書に示されたアルゴリズムは諸外国の文献を中心にまとめられており,更に,わが国で開発されたアリピプラゾールが2006年になってようやく諸外国から遅れて導入されたこともあって,第二世代抗精神病薬の使い分けの紹介まではできていないのは残念である。

     このようなアルゴリズムは米国,イギリス,カナダなどでも既に何回も発表されており,わが国で使用できる薬物の状況に応じた日本人に対する独自のアルゴリズムを作成し,公表することは精神医療全体のレベルを向上させるためにも重要と考えられる。その意味では多くの精神科医に本書を読んでいただくことを勧めたい。今後はこの数年間のエビデンスを含めた治療アルゴリズムを確立して,数年毎に本書を改訂していく必要があると思われる。そして,これらのアルゴリズムを参考にして,個々の患者の病像に応じたナラティブな薬物療法がなされなければならないと考えている。
目 次
I 急性精神病エピソード
II 維持薬物療法のアルゴリズム
III 慢性期の陰性症状薬物療法アルゴリズム
IV 治療抵抗性精神病エピソードの薬物療法アルゴリズム
V 抗精神病薬の急性副作用
 A 体重増加、高脂血症、糖尿病に対する治療アルゴリズム
 B 急性錐体外路症状と悪性症候群に対する治療アルゴリズム
 C 心・循環器への副作用
VI 抗精神病薬による遅発性錐体外路症状治療のアルゴリズム
VII 抗精神病薬の作用機序
索引