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臍帯血移植の基礎と臨床


監修:浅野 茂隆/谷口 克
編集:東條 有伸/谷 憲三朗/高橋 聡/幸道 秀樹

  • 判型 B5
  • 頁 288
  • 発行 2014年10月
  • 定価 9,180円 (本体8,500円+税8%)
  • ISBN978-4-260-00962-1
臍帯血移植の現在をまとめ、未来を見据える
2014年より造血幹細胞移植推進法が施行された。わが国における非血縁者間臍帯血移植は、骨髄移植や末梢血幹細胞移植と並ぶ造血幹細胞移植法の1つとして確固たる地位を確立している。本書は、胎盤の発生・構造・機能から胎生期の造血、臍帯血中免疫細胞の特性などの基礎医学から、細胞採取・分離・保存法、小児・成人に対する移植成績といった臨床編、再生医療を含む新たな試みまで、臍帯血移植の現在と未来を1冊に凝縮した。
序 文


 胎盤臍帯は分娩後には不要になる胎児側の組織である.したがって,倫理上および安全上の問題を生じない形でそれを医学発展・医療向上の目的で採取・保存・利用することは,新生児の代理人となる母親の承諾が得られればとくに問題はない.臍帯血には,増殖能が高い造血幹細胞や分化・成熟の途上に...


 胎盤臍帯は分娩後には不要になる胎児側の組織である.したがって,倫理上および安全上の問題を生じない形でそれを医学発展・医療向上の目的で採取・保存・利用することは,新生児の代理人となる母親の承諾が得られればとくに問題はない.臍帯血には,増殖能が高い造血幹細胞や分化・成熟の途上にある各種免疫関連細胞が,羊膜下結合組織には,高い多分化能を保持しアロ免疫制御作用を有する初期間葉系幹細胞が,ともに高い比率で含まれていることが知られている.また,臍帯血清や結合組織には,新生児の成育に必要と考えられる,まだ解析が進んでいない胎生期に特徴的な生理活性物質も微量に残存していることも十分に推測される.したがって,これら生理的に重要な細胞や物質から医薬品ができれば,移植の際の免疫反応の制御のみならず,障害組織の修復力の強化にも効果的に用いられることが期待される.
 工業都市化が進むアジア地域では気相・土相・水相に拡散する環境汚染物質が近年増加しており,それが母親から胎盤膜を通じて臍帯血に進入し胎児の発育に正負の影響を与えることが以前より増して懸念されようになっている.この曝露は組織器官形成・機能獲得という比較的短い期間であるために,その影響は増殖・分化・機能にかかわる遺伝子のエピゲノム変化として現れやすいと予測される.したがって,これらと臍帯血清中の環境汚染物質との相互関係の解析を進めることは,予測・予防・個別化・住民参加の保健・医療に不可欠な情報を与えると今後期待される.
 このような持続性科学の推進の観点から,まず,私たちが約25年前より始めたのが国際協調をベースにした公的臍帯血バンクの創設と同種臍帯血移植である.すなわち,これによって,上述した胎盤臍帯がもつ特徴が,科学と技術,シードとニードといった関係のように,骨髄移植と臍帯血移植が相互に刺激しながら,上昇型スパイラル発展となる新たな価値創造をもたらすと考えたからである.当初は公的骨髄バンク創設後の間もない頃であったので反対もあったが,骨髄ドナーが足りないことや私たちが世界に先立ち独自に開発した遺伝子組換え型ヒト天然型顆粒球コロニー刺激因子(lenograstim)によって,末梢血移植も含めて造血幹細胞が少なくても,移植後のより早期の好中球回復が可能になり細菌・真菌感染症が減ったこともあり,時を経た現代までに私たちの考えは次第に理解されていったと思う.
 これらが東京大学医科学研究所附属病院という小規模の施設で可能になったのは,本施設が専門領域や学閥を超えた優秀な人材の採用が比較的自由に行えるわが国随一の大学研究所病院であり,また当時の主宰者であった故三輪史朗教授の科学者として大局観に立たれた強いご支援と全国の患者さんやボランティアの協力があったからだと思う.実際に,造血幹細胞移植臨床チーム・リーダーには幸道秀樹氏,白藤尚毅氏,岡本真一郎氏,高橋 聡氏,大井 淳氏,辻浩一郎氏らが,また,バンク・リーダーを池淵研二氏,高橋恒夫氏,前川 平氏,長村登紀子氏らが先輩の実績を引き継ぎながら,いくつかの大学の教室から派遣される臨床医や看護師,臨床検査技師,放射線技師などの多くの人たちと相互連携することで臍帯血移植を積極的に実施できた.また国際協調面では,近隣のアジア諸国にも同様の国際規格の臍帯血バンク設立や臍帯血移植実施に助言する情報ネットワークであるAsiaCORDを組織した.これに関しては高橋恒夫氏の功績がとくに大きかったと思う.その一方,中畑龍俊氏,谷 憲三朗氏,小澤敬也氏,東條有伸氏,高橋 聡氏,渡辺信和氏,服部浩一氏らによる幹細胞生物学や発生生物学や免疫炎症学や遺伝子操作学にまたがる基礎研究の指導によって,私たちがその必要性を強調した試験的治療法(トランスレーショナル・リサーチ)に至る基礎研究も推進できたわけである.そこではlenograstimに関する発見から治験に至るまでの一貫した研究開発の貴重な経験も1つの手本にもなったと考えている.
 とはいえ,生命科学は奥深く,いくら進歩しても常に科学的不確実性は残るものである.造血幹細胞移植もその例外ではない.造血幹細胞移植は確立した治療法といわれることが多いが,私は個人的には決してそうは思っていない.まだ,解決すべき多くの根本的な課題は残されたままであり過渡期の治療法と考えている.これらの課題のうちとくに重要なのは,移植された造血幹細胞の低生着率,血小板の回復の遅れ,前処置に抵抗する白血病幹細胞などの病的幹細胞のニッチにおける残存,前処置による造血組織以外の組織,とくに免疫不全障害による後期障害であろう.加えて,これらの起こりかたは個々人によって異なるが,その違いがなぜ起こるかは不明のままといっても過言ではない.おそらくそこには上述したエピゲノム変化が関与していることは間違いないであろう.疑問はないわけではないが,これら課題の解決を一歩進めるための鍵は,破壊された細胞間相互作用,とくに胸腺上皮と未熟なT細胞との相互作用,間葉系幹細胞と造血幹細胞との相互作用の修復であろうと考える.2015年から公的バンクのための「造血幹細胞移植推進法(略称)」が制定され,骨髄移植と臍帯血移植の共通委員会も設立されるという.これが過渡期にある細胞療法の発展を阻害することがないことを祈念している.
 末筆になりましたが,本書は,これからの発展を担っていかれる若い先生方に少しでもご参考になることを期待し企画したものです.原稿の依頼に快く承諾を賜りました執筆者の皆様方ならびに研究・診療にご協力いただきましたすべての方々に,改めて謝意を申し述べさせていただきます.また,刊行を推進して下さった医学書院・医学書籍編集部の大橋尚彦氏には一方ならぬお力添えを頂きました.皆様方のご厚情は深く記憶に刻んでおきたいと思っています.

 2014年9月
 浅野茂隆
目 次
I 基礎編
 1 胎盤の形成,発達,機能
   1 胎盤の分類
   2 ヒト胎盤の発生と構造
   3 絨毛細胞の分化と細胞機能
   4 Trophoblastの分化,細胞機能に関するmolecular biology
   5 胎盤の生理的機能
 2 胎生期の造血
   1 臍帯血の起源
   2 脊椎動物における発生
   3 胎生期における造血臓器の移動
   4 胎生期造血における一次造血と二次造血
   5 胎生期造血における血管内皮細胞からの血液細胞の発生
   おわりに
 3 造血幹細胞の分化・増殖・ホーミング能とその特性
   1 造血幹細胞の純化・分化機構
   2 造血幹細胞ニッチと“ホーミング”
   3 臍帯血由来造血幹細胞の体外増幅
   おわりに
 4 造血幹細胞研究の進歩
   1 造血幹細胞の発生
   2 造血幹細胞の同定
   3 造血幹細胞の分化
   4 造血幹細胞の制御
   おわりに
 5 臍帯血中免疫細胞の特性
   1 T細胞
   2 樹状細胞
   3 NK細胞
   4 NKT細胞
   おわりに
 6 臍帯血に由来する間葉系幹細胞・間質細胞の分化・増殖能とその特性
   1 間葉系細胞・間質細胞とは
   2 臍帯血を含有する臍帯の構造
   3 臍帯血に由来する間葉系細胞・間質細胞の増殖
   4 テロメア長と増殖関連蛋白質
   5 臍帯血由来間葉系細胞の細胞表面マーカー
   6 臍帯血由来間葉系細胞の分化能
   7 臍帯血以外から採取する間葉系細胞
   おわりに

II 臨床編
 1 移植臨床利用のための細胞採取・分離・保存法
   1 採取
   2 細胞分離
   3 凍結保存
   4 移植出庫
   5 品質管理
   6 臍帯血プロセッシングの今後:再生医療への展開
 2 公的臍帯血移植バンク
   1 公的臍帯血バンクと日本さい帯血バンクネットワークの発足
   2 「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律
     (造血幹細胞移植推進法)」と臍帯血バンク
   3 公的臍帯血バンクにおける採取から提供(出庫)までの流れ
   4 世界の公的臍帯血バンクとそのつながり,移植の現状
   5 公的臍帯血バンクの問題点
 3 プライベートバンクと公的バンク
   1 プライベートバンクの始まり
   2 プライベートバンクを通じた臍帯血移植
   3 プライベートバンクの問題点-臍帯血細胞の品質と安全性
   4 経済的側面
   5 公的と私的の意味
   6 法律の制定
   7 価格に関する提案
   8 新しい臍帯血移植の分野
   9 臍帯血を用いた新しい細胞移植
 4 非血縁者間臍帯血移植の特徴と方法
   1 臍帯血移植の歴史
   2 臍帯血移植の特徴
   3 臍帯血移植の方法
 5 小児に対する臍帯血移植の成績
   1 白血病
   2 再生不良性貧血
   3 先天性免疫不全症
   4 先天性代謝異常症
 6 成人に対する臍帯血移植の成績
   1 臍帯血移植と非血縁者間骨髄移植・末梢血幹細胞移植の比較
   2 臍帯血移植と血縁者間骨髄移植・末梢血幹細胞移植の比較
   3 成人急性骨髄性白血病(AML)に対する臍帯血移植の成績
   4 成人急性リンパ性白血病(ALL)に対する臍帯血移植の成績
   5 成人骨髄異形成症候群(MDS)に対する臍帯血移植の成績
   おわりに
 7 臍帯血移植後の免疫能再構築の特徴
   1 臍帯血に含まれる細胞の特性
   2 免疫能再構築における各免疫担当細胞の特徴
   3 時期ごとにみる臍帯血移植後の免疫能再構築
   4 前処置の違いと移植後免疫能再構築
   5 GVHDおよびGVHD予防法が移植後免疫能再構築に与える影響
   おわりに
 8 新たな試みと展望
  ①複数臍帯血移植
   1 複数臍帯血移植の基礎的検討
   2 複数臍帯血移植の臨床成績
   3 どちらの臍帯血が生着するのか?
   4 今後の課題
  ②骨髄内移植法
   1 静脈内投与と骨髄内投与
   2 造血幹細胞の骨髄腔内ニッチへのホーミング機序
   3 IBMI法の開発とヒト臍帯血由来SDF-1不応性CD34+/-SRCの発見:
     骨髄内移植の臨床的意義
   4 骨髄内臍帯血移植法の有用性
   おわりに
  ③間葉系幹細胞の移植療法への応用
   1 MSCの性質
   2 MSCの造血支持作用とその造血系再構築促進への応用
   3 MSCの免疫抑制作用
   4 MSCのGVHD治療への応用
   おわりに
  ④Ex vivo リンパ球増殖法
   1 臍帯血リンパ球増殖培養の意義
   2 臍帯血からのT細胞培養方法
   3 臍帯血由来培養T細胞の性状解析
   4 臨床応用
   5 品質保証
   6 今後の展望
  ⑤再生医療
   1 再生医療とは
   2 多能性幹細胞技術の進歩
   3 ヒトESC/iPSCからの造血系細胞の誘導
   4 間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells;MSC)の
     造血幹細胞移植への応用
   5 トランスレーショナル・リサーチ(translational research;TR)

補論
索引