顔面骨への手術アプローチ

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頭蓋顎顔面骨格へ到達するまでの経路に焦点を当てた手術アプローチ書。手術解剖の理解と軟組織の取扱いを基本に置いたうえで、豊富なイラストと写真を用いながら各手術アプローチ法をStep by Stepで丁寧に解説。本書を読めば顔面骨格のあらゆる箇所に自信を持ってアクセスできるようになる。形成外科医、口腔外科医をはじめ、耳鼻咽喉科医、眼科医、脳神経外科医など、頭蓋顎顔面領域の手術に携わるすべての外科医へ。
原著 Edward Ellis III / Michael F. Zide
監訳 下郷 和雄
発行 2019年10月判型:A4頁:272
ISBN 978-4-260-03951-2
定価 22,000円 (本体20,000円+税)

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日本語版の序(下郷和雄)/(Edward Ellis III,Michael F. Zide)

日本語版の序

 従来から外科手術には大きく二つの局面があると捉えられている。手術部位に到る過程─手術アプローチ─と,主たる病変の取り扱いの二つである。
 本書の読者が主に関与する頭蓋顎顔面部は,その血流の豊富さと神経支配の緻密さ,自覚できる機能の多様さの点で,その他の部位とは趣を異にしていると言えよう。極論すればこの部位は,手術対象部位での操作が“細かい”ばかりでなく,そこに到る経路もかなり考慮が必要で“ややこしい”。

 本書(原書『Surgical Approaches to the Facial Skeleton, 3rd edition』)の代表著者のEdward Ellis III教授自身が書いているように,この“経路”に主点を置いて書かれた指南書は決して多くない。むしろ顔面骨をどのように理論的合理的に扱うかについて書かれたものが多く上梓され,ここ数十年の顎顔面外科の発展を支えてきたと言える。一方で,“軟組織の扱い”に関する記載が相対的に少なくなってきていたように感じられる。

 顎顔面外科の分野では,この経路を扱う技術/センスと骨を扱う技術/センスとは全く異なるが,その両方の技術をともに習得する必要がある。本書では手術解剖を基本に置いてplane surgeryの感覚を明確に持ちながら,アプローチのそれぞれの段階でsharp dissection,scissors dissection,blunt dissectionのどの方法が望ましいかも分けて記載している。また,従来から重要視されてきた軟組織の取り扱いを,図と解剖標本,実際の臨床手術写真を見事に組み合わせて,理解しやすく記載した良書である。
 この結果,1995年の初版刊行以来,本書は米国で頭蓋顎顔面外科を修めるレジデントに教科書的に受け入れられ続けて第3版を迎えた。一冊本でありながら広く頭蓋顎顔面領域を網羅したうえで,具体的かつ明快に記述されており,日本でも頭蓋顎顔面外科領域を学ぶ初心者から専門医を取得しようとする中堅の医師/歯科医師に大いに役立つ,比較的手軽な本だと言える。さらに本書の,ときに難解な英文をわかりやすい日本語にして紹介することにも意義があると考えて,訳書を出版することにした。

 著者のEllis教授は頭蓋顎顔面骨外科のイノベーションを主導したスタディグループの主要なメンバーであり,親日家で知られる。遅ればせながら日本語版を出すことについて直接相談して快諾を得,関連の分野の熟練の先生方の手助けをいただき,いずれ劣らぬ読みやすい和訳をいただくことができた。必ずや各分野で研鑽中の諸氏の参考になるものと確信している。

 出版にあたって,『AO法骨折治療 頭蓋顎顔面骨の内固定』(医学書院,2017)も含め顎顔面外科領域の専門書での経験豊かな編集者である飯村祐二氏の尽力と,医学書院のこの領域の医学教育に対する理解に感謝したい。

 極端な気象を印象づけた令和元年の夏の終わりに
 訳者を代表して 下郷和雄




 顔面骨格を露出しなければならないときは多い。顔面骨折の治療,副鼻腔疾患の治療,審美目的でのオンレイ骨移植や顔面輪郭修正手術,計画的な顎顔面骨切り術,眼球内陥などの外傷後変形の二次修正手術,骨内インプラントの埋入手術,再建手術その他でも顔面骨格へのアプローチが必要になる。目的とする骨格1か所に対して多くの到達経路を取りうる中で,実際に使われる手術経路は術者が研修で得た内容,経験,好みによって選択される。本書にはそれぞれのアプローチの長所と短所を列挙してあるが,ある特定のアプローチが他のものよりよいと推奨しているわけではない。“すべての道はローマに続く”という古い諺のように,どの経路を選んでも目的には到達できるが,手術で顔面骨格にアプローチする際に一般的に用いられる解剖学的・技術的な側面を詳しく記述することを本書の目的とした。意図的に提示しなかったアプローチもあるが,それらの多くはあまり用いられていないか,ごく単純な手技でわざわざ記述するほどではないものである。とはいえ,術者がどんな骨格手術を行うにしても,本書で示したアプローチですべての顔面骨格へのアクセスが可能である。
 われわれは本書『顔面骨への手術アプローチ』を,同様のテーマの他の本とは異なるコンセプトを持って上梓した。顔面骨への手術アプローチに関する本はほとんどの場合,対象とする手術ごとに記載している。例を引けば,顔面骨折に関する本では,通常ある1つの顔面“骨折”に対する手術アプローチを記載している。しかし,その部位への到達経路に関してはあまり記述されていないか,逆にごく詳細に初心者向けに記述されているか,どちらかのものが多い。そのため,読後に「この術者は皮膚面からどんなふうにして骨格のその場所に到達したのか?」という疑問が残ることが少なくない。こんな中にあって本書では,顔面骨格に対する手術適応に関する論議を避けて,この記述に従っていけば初心者でも安全に顔面骨格にアクセスできるように段階的に詳細に記述することにした。
 本書は,読者が局所解剖,特に骨学に関するある程度の基本的知識と理解を持っていることを前提としてはいるが,特に興味深い解剖学的構造については,各手術アプローチそれぞれに関連して記述してある。また,読者が軟組織を注意深く取り扱う技術を獲得していることも前提としている。本書では手術経路ごとに切開,開創,組織の取り扱いに有用だと思う器具を推奨しているが,他にも適切な器具はある。さらに,読者が顔面軟部組織閉創に習熟していることを前提としている。通常の皮膚縫合と異なるところがない場合は,本書であらためて取り上げることはしない。
 本書の初版を1995年に出版したときに,一部の専門分野の外科医によく受け入れられた。多くの口腔顎顔面外科医,形成外科医,耳鼻咽喉科医が本書をコレクションに加えてくれたし,これらの専門分野の研修医たちには最も好評を博した。
 第3版となる本書は,前の2版と同様に14の章からなり,第1章では手術アプローチに関連した基本原則を記載した。残りの13の章では主に露出したい顔面の領域ごとにセクションに分けて示した。多くの場合,部位ごとに複数のアプローチを示して,術式を選択できるように配慮し,それぞれの長所と短所を示すようにした。
 第3版の大きな変更は,ビデオの追加である。12の主要なアプローチをナレーション付きのCadaver解剖のビデオで示したのはDr. Eric WangとDr. Jenny Yuである(訳注:日本語版ではビデオは付けていない)。

 Edward Ellis III, DDS, MS
 Michael F. Zide, DMD

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第1部 顔面骨へのアプローチの基本原則
 1 顔面骨へのアプローチの基本原則

第2部 眼窩周囲の切開
 2 下眼瞼の経皮切開
 3 経結膜アプローチ
 4 上眼窩眉毛アプローチ
 5 上眼瞼アプローチ

第3部 冠状切開アプローチ
 6 冠状切開アプローチ

第4部 顔面骨格への経口アプローチ
 7 上顎へのアプローチ
 8 下顎口腔前庭切開アプローチ

第5部 顔面皮膚切開による下顎へのアプローチ
 9 顎下部アプローチ
 10 下顎後切開アプローチ
 11 除皺術切開アプローチ

第6部 顎関節へのアプローチ
 12 耳前切開アプローチ

第7部 鼻骨格への手術アプローチ
 13 鼻外アプローチ(開放アプローチ)
 14 鼻内アプローチ

索引

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動画のような流れで手術アプローチの実際を学べる名著
書評者: 楠本 健司 (関西医大教授・形成外科学)
 本書は,Edward Ellis IIIとMichael F. Zideによる名著『Surgical Approaches to the Facial Skeleton』第3版(Wolters Kluwer,2018)の日本語訳本である。頭蓋顎顔面領域の骨格へのアプローチは,骨折治療,変形症などでの骨切り,腫瘍切除後の再建,顔面輪郭形成など多様な病態での治療で必要になる。現在,多くの施設で治療前に3次元CTをはじめ,多種の画像データを容易に取得し参照できる。これらを基に骨格再建法を想定し計画できるものの,目的とする骨格部位に到達するには,切開線を設定して切開・剥離を進め,皮膚面から軟部組織を経過しなければならない。手術を安全に,合併症なく,計画どおりに完遂するには,該当の骨格部分を3次元的に把握するだけでなく,皺の方向,神経,血管,筋や唾液腺などについての局所解剖を十分に把握し,目的部位へのアプローチにて適切な処理と展開を行うことが良い手術を達成する鍵になる。

 本書では,実際の手術写真の提示にとどまらず,知っておくべき場面の多くの付図や解剖体写真に要点の適切な解説が加えられている。2次元画像での提示であるものの,連続付図が並び,手術解剖の説明に次いで手術のステップごとの解説がなされており,解説付きの動画のごとくの流れで手術アプローチを理解できる。さらに特筆すべきは,これらの写真や付図と解説から術中にいかなる器具をどのように扱うか,鉤はどのように引くか,牽引糸をどこに掛けて引っ張るか,挿管チューブはどこに設定すると手術しやすいかなど,手術の実際を多分に学ぶことができる。付図や解説からメスの入れ方から剪刀や剥離子の正しい進め方までもが把握することができる。配慮された構成は,初学者のみならず,専門医資格取得前後の医師やより良い手術を探求する医師にとっても得るものが多い。

 本書は口腔外科,形成外科,耳鼻咽喉科それぞれの領域のエキスパートが翻訳を担当され,適切な用語の使用と細部の説明に配慮され,読みやすく,理解しやすい優れた訳本になっている。良い手術結果をめざして,多くの初学者から専門医や上級医までもが本書を参考にされることで,手術についての知識修得や手術法自体の探求,手術教育に役立つものと考えられ,高く評価される優れた頭蓋顎顔面領域の成書として推薦したい。
頭蓋顎顔面領域の手術アプローチ法に特化した良書
書評者: 飯村 慈朗 (東歯大市川総合病院准教授・耳鼻咽喉科)
 『Surgical Approaches to the Facial Skeleton』は,1995年の初版刊行以来,米国で頭蓋顎顔面外科を修める医師にとって教科書的な本となっている。本書は,その第3版(Wolters Kluwer, 2018)の日本語版である。本書の特徴は,解剖学に加え技術的要素を詳細に解説し,手術アプローチ法に特化している点である。きれいな良い手術は的確なアプローチから成り立つものであり,一つのアプローチ法しか知らないと対処できる部位は狭められ無理をした手術となってしまう。例えば耳鼻咽喉科医である私は,眼窩底骨折へのアプローチは内視鏡による経鼻内法もしくは経上顎洞法が主であった。しかし本書第2部に記載されている経眼窩法を行うと,驚くほど眼窩底骨折前方の処置が簡単であった。眼窩底後方の骨折に対しては内視鏡下経鼻内法のほうが処置しやすいが,前方に対しては経眼窩法のほうが格段に容易である。病変部位によってアプローチ法を変えることの重要性が実感できる。

 顔面骨格の手術においては,切開する際に顔の審美性,表情筋とその神経支配,感覚神経の走行を考慮しなければならない。そのため病変部位に対するアプローチ法は,引き出しが多いほうが良い。その点,本書はそれぞれの長所と短所を列挙し,ある特定のアプローチ法を推奨しているわけではない。各アプローチ法の長所と短所を理解した上で選択できれば,対処できる部位の幅が広がり,治癒率の向上につながる。そのため本書を頭蓋顎顔面領域の手術に携わる全ての外科医にお薦めする。本書を読めば,顔面骨格のあらゆる箇所に自信を持ってアプローチできるようになり,外科医としてランクアップするであろう。

 さらに私は,本書を中堅以上の耳鼻咽喉科医にお薦めしたい。われわれ耳鼻咽喉科医は,鼻閉に対する手術として鼻中隔中央部を切除する術式を伝統的に施行してきた。そして外鼻形成術は鼻閉と関係のない話であり,形成外科医の役割と考えていた。しかし鼻という一つの器官は必要な鼻機能が外鼻形態を形成しており,鼻の手術を行う際には,機能的手術と形態的手術の両方をバランス良く治療することが望まれる。鼻外アプローチ(第7部)の手術手技が求められるようになり,現在では実際に施行する耳鼻咽喉科医も増えている。本書は,鼻外アプローチの手術手技に対しても解剖を基本に置いた上で,豊富なイラストと写真を使用し,丁寧に手術手技の手順を解説している。本書を理解することで鼻閉に対する手術の合併症を限りなく減らし,満足度の高い治療を行えるようになるであろう。間違いなく今後の外科医人生に役立つ良書であり,ぜひ読破することをお薦めする。
少ない労力で安全確実にアプローチする道を指南
書評者: 鄭 漢忠 (北大大学院教授・口腔顎顔面外科学)
 手術で最も大事なことは,どのようにして目的とする場所に到達するかということである。そのためには切開線の設定が大切だということを先輩たちから幾度も教わった。確かにそこに到達する道はいろいろあるかもしれないが,解剖をよく考えるとおのずと決まってくるものだ。この『顔面骨への手術アプローチ』を読んだとき,先輩たちに教わった数々のことが思い出された。臨床は経験だという。いや,それだけではない。この本を読んだとき,いかに多くの先輩たちから最もトラブルの少ない,安全なルートを教わっていたのかということをあらためて知らされた。

 本書は少ない労力で安全確実に目的とする場所に到達する道を指南する書である。正確で豊富な図や写真はさすがに臨床家であるEllis先生ならではのわかりやすさである。随所にちりばめられているキャダバーを用いた重要な解剖単位の剖出写真は非常に参考になるものと思われる。また,何より訳者の正確な日本語は素晴らしく,とても読みやすい内容に仕上がっている。

 本書は研修医のみならず,専門医をめざす若手医師・口腔外科医にふさわしいと同時に中堅の医師・口腔外科医にとっても有用な書物であることは間違いなく,顔面骨の手術を行う全ての医師・口腔外科医にとって必読の書といっても過言ではない。自分自身の不得手な領域では目からうろこの世界が広がっており,自分自身が得手とする領域においても新たな発見がそこにある。

 近年,手術書を穴がうがつほど読まずに手術に臨む若手医師・口腔外科医も少なくないと聞く。手術書をいつも手元において,繰り返し読むことにより手術手技はようやく上達するものである。若手もベテランもぜひこの書を手元に置いていただき,より良い手術をめざしていただきたい。

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