目からウロコのクスリ問答
雑誌『看護教育』の好評連載が1冊の本になった!
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雑誌『看護教育』の好評連載<目からウロコのクスリ問答>が1冊の本に! 多くの新人ナースが苦手意識をもっている臨床で必要な薬剤知識を、薬剤師でもある現役のナースがまとめた画期的な書。臨床を知らない学生にもリアリティをもって学べるよう、実際の業務の場面で、新人ナースの疑問に答える対話形式でまとめた。
著 | 荒井 有美 |
---|---|
発行 | 2005年05月判型:A5頁:200 |
ISBN | 978-4-260-33411-2 |
定価 | 2,200円 (本体2,000円+税) |
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- 目次
- 書評
目次
開く
I. 正確な指示受けをするために
いろんな名前で出ています
注射の指示は確実に受けよう
II. 準備・実施時の注意
見た目に騙されないで!
混ぜても大丈夫?
固形注射剤の溶かし方は大丈夫?
その輸液セットで大丈夫?
使用期限・保管方法は大丈夫?
点滴漏れに注意しよう!
III. 特に注意したい薬剤
[キシロカイン]同じ名前なのに?
カリウム製剤の使い方に注意!
[インスリン]取り扱いに注意して!
副作用の出現に注意しよう!
IV. 内服薬の服薬支援
粉砕しても大丈夫?
食べ合わせ? 飲み合わせ?
知ってる? 薬の正しい服用時間
医薬分業ってなーに?
V. 小児・高齢者への服薬管理
高齢患者さんの服薬管理は大変?
飲んでもらうのは一苦労?
VI. 医薬品情報の集め方
捨てる前に読もう!「添付文書」
患者さんが飲んでいた薬は何?
TDMってなーに?
引用・参考文献一覧
練習問題
さくいん
いろんな名前で出ています
注射の指示は確実に受けよう
II. 準備・実施時の注意
見た目に騙されないで!
混ぜても大丈夫?
固形注射剤の溶かし方は大丈夫?
その輸液セットで大丈夫?
使用期限・保管方法は大丈夫?
点滴漏れに注意しよう!
III. 特に注意したい薬剤
[キシロカイン]同じ名前なのに?
カリウム製剤の使い方に注意!
[インスリン]取り扱いに注意して!
副作用の出現に注意しよう!
IV. 内服薬の服薬支援
粉砕しても大丈夫?
食べ合わせ? 飲み合わせ?
知ってる? 薬の正しい服用時間
医薬分業ってなーに?
V. 小児・高齢者への服薬管理
高齢患者さんの服薬管理は大変?
飲んでもらうのは一苦労?
VI. 医薬品情報の集め方
捨てる前に読もう!「添付文書」
患者さんが飲んでいた薬は何?
TDMってなーに?
引用・参考文献一覧
練習問題
さくいん
書評
開く
薬剤業務の達人が書いた与薬の“指南書” (雑誌『看護管理』より)
書評者: 星 恵理子 (杏林大学医学部付属病院医療安全管理室)
薬剤治療は医師,薬剤師,そして看護師の職種が関わって実施されているが,患者への直接与薬は看護師が行なうことが圧倒的に多いため,看護師のインシデントが多い反面,与薬のエラーを防ぐ最後の砦も看護師であるといわれている。つまり,看護師は与薬業務の要なのである。それにもかかわらず,薬剤の知識が多少曖昧でも,通常の手順どおりにことを運べば与薬は完了してしまう。しかし,ひとたびエラーが起きてみると,その原因は正しい知識の不足や,流れ作業として業務を行なった結果であることは少なくない。
カリウムが危険な薬剤であることを筆者自身が確実に認識できた瞬間は,エラーを起こしたときであった。配合禁忌を知らずに点滴を行なって閉塞させたことや,冷所保存をせずに常温に放置して注意されたこともある。ただ,エラーが起きたときに,先輩から「なんで知らないの?」と言われたことはあっても,添付文書に戻って確認することや,薬剤パッケージにあるケアマークの意味を,正しく教わったことは記憶にある限り,ない。そのときに本書があれば,その後の薬剤に関するインシデントは減っていたかもしれない。
◆安全な薬剤業務のための知識が盛りだくさん
本書は,薬剤師として7年間従事した後,看護師資格を取得し,現在現役で活躍中の臨床看護師である著者が臨床看護師のために書いた本である。まさに薬剤業務の達人が書いた与薬の“指南書”であり,臨床現場の看護師が薬剤業務を安全に行なうために必要な知識が盛りだくさんである。例えば,患者の持参薬の取り扱いとその重要性,服薬指導,市販薬や薬価について説明されている。これは入院中の処方薬の管理のみではなく,患者の立場からみた,患者にとっての「おくすり」の話でもあると感じた。また会話形式となっているために読みやすく,なぜこの薬剤管理方法が必要なのか,ということの根拠も同時に理解できる仕組みになっている。
◆薬剤に関する多様な知識を実践レベルで整理
新人の看護師にはまず,与薬の手順や5R(正しい患者,正しい薬剤,正しい量,正しい時間,正しい方法)の確認の重要性を与薬業務として指導している。しかし,それだけでは実際の与薬業務のエラーは防止できない。薬剤の違いによる準備や方法,点滴セットの違い,服薬指導など,知るべきことは多く,多岐に渡る。その山のような知識を一度に教えられるはずもなく,いきおいOJTや経験によって覚えていくものがほとんどである。エビデンスの重要性が叫ばれて久しいものの,看護師の実務的な細かい薬剤の知識はまだまだ系統立てられていないのではないだろうか。
本書は,バラバラに教えがちな薬剤に関する多様な知識を,実践レベルで整理してまとめているため,現場でおおいに活用できる。新人看護師はもちろん,経験と知識をもつ先輩看護師にもぜひ読んでほしい。与薬について後輩に指導するときに,根拠をふまえた,説得力がある指導ができることうけあいである。さらに,薬剤師の方にもおすすめしたい。薬剤師にとっては当たり前のことでも,看護師は本書にあるような知識について不十分であることを知り,看護師の与薬業務に力を貸してほしい。「困ったときに薬剤師の応援をもっと求めていい」という,著者からの力強いメッセージを感じるのは私だけではないだろう。
(『看護管理』2005年10月号掲載)
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 横井 郁子 (首都大学東京健康福祉学部准教授)
この本を,「薬剤の取り扱いが面白くなる本」としてご紹介したい。
昨今,“医療現場”“薬剤”となれば,イコール“医療事故”である。特に,投与実施者となりやすいわれわれ看護職にとっては,著者も指摘しているように“クスリ=リスク”である。しかし,されどクスリ,効くときは効く。悔しいかな,ものによっては看護よりも即効性がある(善し悪しはあるが……)。
初めから読むと,やはりリスクを意識したクスリの本となってしまいそうなので,筆者はまず,第5章に注目した。現場で医師に注文(文句?)をつけてきたようなことが,明確に具体的に示されている。
「嚥下に問題があるといっているのになぜこの錠剤?」「物忘れするようなったという方に,なぜこの複雑怪奇な投与時間?」。クスリは薬効という主目的は変えずに,その周辺環境を変えることができる。つまり,個人に合わせることができる。看護がクスリを操る重要かつ面白い場面である。著者は,このあたりの面白さを知ってしまったので,薬剤師から看護師になって患者の側に立とうとしているように思える。
筆者は小児科に勤務していた新人時代に,抗がん剤投与中の子どもに状態を尋ねたところ,「気持ち悪いに決まってるだろ!わかりきったことを聞くなよ!」と怒鳴られたことがある。このことは語彙,コミュニケーション方法の貧困さゆえの苦い経験としていたのだが,最近はもっとクスリを知っていたらと思い直している。第6章のTDMである。
「最高血中濃度─時間曲線」を把握し,副作用出現を予測しながら訪室できれば,言葉をかけるタイミングや内容にももう少し配慮できたのではないか。「今ごろがクスリの効果がいちばん出ている頃だからね」「もうクスリの半分は身体の外に出ていった頃だからね」という言葉かけもあったかもしれない。
マラソンの「あと1周!」と同じように,経過の目安を示すことは“頑張り”のエネルギー配分には欠かせない。ルールとしての“投与15分後”“30分後”の訪室では,怒鳴られても仕方あるまい。
「クスリの決定は医師の仕事であるが,看護師も関わっている以上,責任はある」。しかし,その文言だけでは負担感ばかりが先に立ち,「OK!」と気持ちよく答えられないが,看護師としての押さえどころや,「ホントにこのクスリ大丈夫?」という疑いどころをピックアップしているのが本書である。
まずは一読して,クスリの大枠をつかみたい。本書のよいところは,“一読”がかなり容易であることだ。さらによいところは,「これがほしかった」という情報が図表になっていることである。
残念なことに図表録がないので,“一読”の際に付せんなどを用意しよう。そして,あったら便利な図表,たとえば,インスリン製剤の特徴や抗悪性腫瘍剤漏出後の対策などをチェックし,コピー,切り貼りをして自分用クスリ虎の巻メモを作成し,ポケットに忍ばせてはどうだろうか。その際,著作権の問題にはくれぐれもご用心あれ。
(『看護教育』2005年10月号掲載)
薬理学より薬剤学を
書評者: 林正 健二 (山梨県立大教授・看護関連科学)
◆看護学生が求めているものはこれだ
2005年2月,日本看護協会は“2004年「新卒看護職員の早期離職等実態調査」結果(速報)”を発表した。私が最も注目したのは「もっと受けたかった教育・研修等」の項目である。新卒看護職員741名の回答で65.3%の人が1位に挙げたのは,薬に関する知識教育だった。看護学生の時代に受けた薬の教育は,はっきり言って役に立っていないのだ。新卒看護職員が求めており,看護学生の時もっと教えてもらいたかった薬の知識とは何か。本書を読んでみれば一目瞭然である。薬の実際的な知識,薬剤学に関する知識なのである。
◆薬理学ではなく薬剤学を!
看護学生のカリキュラムにも医学生同様「薬理学」が含まれる。内容は大同小異,わざわざ「臨床薬理学」と命名された本でも,分子レベルでの薬の説明が主体となる。個々の薬物が細胞のどの作用点に働きかけて薬理効果を発現するか。これが理解できれば,本当に疾病の薬物治療はできるのだろうか。
試験管や培養細胞レベルなら,受容体の構造も重要であろう。しかし看護師や医師にとって必要なのは,眼前の患者さんに対してどうするかである。カプセル錠が飲みにくい時,カプセルの中身を出して飲ませてもよいか。錠剤なら粉砕してもよいか。こんな問題を解決しなければ,日常の臨床業務は遂行できない。
コンピューターの使い方を教える時,半導体の構造や二進法の解説から始めることはありえない。薬の使い方を教える時,薬理学から始めるのは,本当に正しいのだろうか。薬剤学の知識を主体に,薬理学の知識を織り交ぜる必要があるのではないか。看護学生や医学生へ薬学教育を行っている方へ一度聞いてみたい,長年の疑問である。
◆薬剤師は何を学んだ専門職なのだろうか
医学を学び国家試験に合格すれば医師,看護学を学び国家試験に合格すれば看護師だ。とすれば薬剤師は薬剤学を学んだ専門職ではないのか。にもかかわらず薬剤学という名称は普通目にしない。1967年11月の看護教育カリキュラムには,専門科目に薬理学(薬剤学を含む)と書かれていた。しかし1989年3月のものでは薬理学のみで,薬剤学は消え去った。
薬剤師として7年間働いた後,看護学部を卒業し現在看護師として働いている著者は,「はじめに」で以下のごとく控えめに述べている。「本当に現場で必要な薬の知識を習得するには,薬に向き合う姿勢を学生時代から習慣づけることが必要であり,実践に即した薬剤学教育が多くの看護学生の将来に役立つと思います」
やはり看護の実践で必要なのは,薬剤学の知識なのだ。著者が一緒に活動する看護スタッフの疑問に答える形式で書かれた本書は,看護学生のみならず看護師にも役立つのは間違いない。お勧めの一冊である。
診療に従事する医師として,同じ問題を抱える研修医諸君にもぜひ勧めたい。
書評者: 星 恵理子 (杏林大学医学部付属病院医療安全管理室)
薬剤治療は医師,薬剤師,そして看護師の職種が関わって実施されているが,患者への直接与薬は看護師が行なうことが圧倒的に多いため,看護師のインシデントが多い反面,与薬のエラーを防ぐ最後の砦も看護師であるといわれている。つまり,看護師は与薬業務の要なのである。それにもかかわらず,薬剤の知識が多少曖昧でも,通常の手順どおりにことを運べば与薬は完了してしまう。しかし,ひとたびエラーが起きてみると,その原因は正しい知識の不足や,流れ作業として業務を行なった結果であることは少なくない。
カリウムが危険な薬剤であることを筆者自身が確実に認識できた瞬間は,エラーを起こしたときであった。配合禁忌を知らずに点滴を行なって閉塞させたことや,冷所保存をせずに常温に放置して注意されたこともある。ただ,エラーが起きたときに,先輩から「なんで知らないの?」と言われたことはあっても,添付文書に戻って確認することや,薬剤パッケージにあるケアマークの意味を,正しく教わったことは記憶にある限り,ない。そのときに本書があれば,その後の薬剤に関するインシデントは減っていたかもしれない。
◆安全な薬剤業務のための知識が盛りだくさん
本書は,薬剤師として7年間従事した後,看護師資格を取得し,現在現役で活躍中の臨床看護師である著者が臨床看護師のために書いた本である。まさに薬剤業務の達人が書いた与薬の“指南書”であり,臨床現場の看護師が薬剤業務を安全に行なうために必要な知識が盛りだくさんである。例えば,患者の持参薬の取り扱いとその重要性,服薬指導,市販薬や薬価について説明されている。これは入院中の処方薬の管理のみではなく,患者の立場からみた,患者にとっての「おくすり」の話でもあると感じた。また会話形式となっているために読みやすく,なぜこの薬剤管理方法が必要なのか,ということの根拠も同時に理解できる仕組みになっている。
◆薬剤に関する多様な知識を実践レベルで整理
新人の看護師にはまず,与薬の手順や5R(正しい患者,正しい薬剤,正しい量,正しい時間,正しい方法)の確認の重要性を与薬業務として指導している。しかし,それだけでは実際の与薬業務のエラーは防止できない。薬剤の違いによる準備や方法,点滴セットの違い,服薬指導など,知るべきことは多く,多岐に渡る。その山のような知識を一度に教えられるはずもなく,いきおいOJTや経験によって覚えていくものがほとんどである。エビデンスの重要性が叫ばれて久しいものの,看護師の実務的な細かい薬剤の知識はまだまだ系統立てられていないのではないだろうか。
本書は,バラバラに教えがちな薬剤に関する多様な知識を,実践レベルで整理してまとめているため,現場でおおいに活用できる。新人看護師はもちろん,経験と知識をもつ先輩看護師にもぜひ読んでほしい。与薬について後輩に指導するときに,根拠をふまえた,説得力がある指導ができることうけあいである。さらに,薬剤師の方にもおすすめしたい。薬剤師にとっては当たり前のことでも,看護師は本書にあるような知識について不十分であることを知り,看護師の与薬業務に力を貸してほしい。「困ったときに薬剤師の応援をもっと求めていい」という,著者からの力強いメッセージを感じるのは私だけではないだろう。
(『看護管理』2005年10月号掲載)
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 横井 郁子 (首都大学東京健康福祉学部准教授)
この本を,「薬剤の取り扱いが面白くなる本」としてご紹介したい。
昨今,“医療現場”“薬剤”となれば,イコール“医療事故”である。特に,投与実施者となりやすいわれわれ看護職にとっては,著者も指摘しているように“クスリ=リスク”である。しかし,されどクスリ,効くときは効く。悔しいかな,ものによっては看護よりも即効性がある(善し悪しはあるが……)。
初めから読むと,やはりリスクを意識したクスリの本となってしまいそうなので,筆者はまず,第5章に注目した。現場で医師に注文(文句?)をつけてきたようなことが,明確に具体的に示されている。
「嚥下に問題があるといっているのになぜこの錠剤?」「物忘れするようなったという方に,なぜこの複雑怪奇な投与時間?」。クスリは薬効という主目的は変えずに,その周辺環境を変えることができる。つまり,個人に合わせることができる。看護がクスリを操る重要かつ面白い場面である。著者は,このあたりの面白さを知ってしまったので,薬剤師から看護師になって患者の側に立とうとしているように思える。
筆者は小児科に勤務していた新人時代に,抗がん剤投与中の子どもに状態を尋ねたところ,「気持ち悪いに決まってるだろ!わかりきったことを聞くなよ!」と怒鳴られたことがある。このことは語彙,コミュニケーション方法の貧困さゆえの苦い経験としていたのだが,最近はもっとクスリを知っていたらと思い直している。第6章のTDMである。
「最高血中濃度─時間曲線」を把握し,副作用出現を予測しながら訪室できれば,言葉をかけるタイミングや内容にももう少し配慮できたのではないか。「今ごろがクスリの効果がいちばん出ている頃だからね」「もうクスリの半分は身体の外に出ていった頃だからね」という言葉かけもあったかもしれない。
マラソンの「あと1周!」と同じように,経過の目安を示すことは“頑張り”のエネルギー配分には欠かせない。ルールとしての“投与15分後”“30分後”の訪室では,怒鳴られても仕方あるまい。
「クスリの決定は医師の仕事であるが,看護師も関わっている以上,責任はある」。しかし,その文言だけでは負担感ばかりが先に立ち,「OK!」と気持ちよく答えられないが,看護師としての押さえどころや,「ホントにこのクスリ大丈夫?」という疑いどころをピックアップしているのが本書である。
まずは一読して,クスリの大枠をつかみたい。本書のよいところは,“一読”がかなり容易であることだ。さらによいところは,「これがほしかった」という情報が図表になっていることである。
残念なことに図表録がないので,“一読”の際に付せんなどを用意しよう。そして,あったら便利な図表,たとえば,インスリン製剤の特徴や抗悪性腫瘍剤漏出後の対策などをチェックし,コピー,切り貼りをして自分用クスリ虎の巻メモを作成し,ポケットに忍ばせてはどうだろうか。その際,著作権の問題にはくれぐれもご用心あれ。
(『看護教育』2005年10月号掲載)
薬理学より薬剤学を
書評者: 林正 健二 (山梨県立大教授・看護関連科学)
◆看護学生が求めているものはこれだ
2005年2月,日本看護協会は“2004年「新卒看護職員の早期離職等実態調査」結果(速報)”を発表した。私が最も注目したのは「もっと受けたかった教育・研修等」の項目である。新卒看護職員741名の回答で65.3%の人が1位に挙げたのは,薬に関する知識教育だった。看護学生の時代に受けた薬の教育は,はっきり言って役に立っていないのだ。新卒看護職員が求めており,看護学生の時もっと教えてもらいたかった薬の知識とは何か。本書を読んでみれば一目瞭然である。薬の実際的な知識,薬剤学に関する知識なのである。
◆薬理学ではなく薬剤学を!
看護学生のカリキュラムにも医学生同様「薬理学」が含まれる。内容は大同小異,わざわざ「臨床薬理学」と命名された本でも,分子レベルでの薬の説明が主体となる。個々の薬物が細胞のどの作用点に働きかけて薬理効果を発現するか。これが理解できれば,本当に疾病の薬物治療はできるのだろうか。
試験管や培養細胞レベルなら,受容体の構造も重要であろう。しかし看護師や医師にとって必要なのは,眼前の患者さんに対してどうするかである。カプセル錠が飲みにくい時,カプセルの中身を出して飲ませてもよいか。錠剤なら粉砕してもよいか。こんな問題を解決しなければ,日常の臨床業務は遂行できない。
コンピューターの使い方を教える時,半導体の構造や二進法の解説から始めることはありえない。薬の使い方を教える時,薬理学から始めるのは,本当に正しいのだろうか。薬剤学の知識を主体に,薬理学の知識を織り交ぜる必要があるのではないか。看護学生や医学生へ薬学教育を行っている方へ一度聞いてみたい,長年の疑問である。
◆薬剤師は何を学んだ専門職なのだろうか
医学を学び国家試験に合格すれば医師,看護学を学び国家試験に合格すれば看護師だ。とすれば薬剤師は薬剤学を学んだ専門職ではないのか。にもかかわらず薬剤学という名称は普通目にしない。1967年11月の看護教育カリキュラムには,専門科目に薬理学(薬剤学を含む)と書かれていた。しかし1989年3月のものでは薬理学のみで,薬剤学は消え去った。
薬剤師として7年間働いた後,看護学部を卒業し現在看護師として働いている著者は,「はじめに」で以下のごとく控えめに述べている。「本当に現場で必要な薬の知識を習得するには,薬に向き合う姿勢を学生時代から習慣づけることが必要であり,実践に即した薬剤学教育が多くの看護学生の将来に役立つと思います」
やはり看護の実践で必要なのは,薬剤学の知識なのだ。著者が一緒に活動する看護スタッフの疑問に答える形式で書かれた本書は,看護学生のみならず看護師にも役立つのは間違いない。お勧めの一冊である。
診療に従事する医師として,同じ問題を抱える研修医諸君にもぜひ勧めたい。