イラストレイテッド大腸癌手術
膜解剖にもとづく剥離のベストテクニック
消化器外科エキスパートが膜解剖から説き起こした大腸癌手術の極意!
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消化器外科手術において最も時間を費やし、慎重に丁寧に行わなければならない剥離操作、その極意を膜構造の解明により説き起こす。良好な剥離面からのアプローチが如何に手術の進行をスムーズに、かつ出血も最小にできるかを、ユニークなイラストにより立体的に解説。ビギナーからベテランまで、エキスパートを目指すすべての消化器外科医に贈る、圧倒的迫力の大腸癌手術アトラス。
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序文
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はじめに
古風ながら,われわれは,「親切・迅速・そして,適確」を教室戒に掲げていた。患者さんにやさしく親切であることが第一。万事にあたって適確を心懸けること。しかも,迅速でなければならない。
明けても暮れても適確な癌手術とは何かと熱い討論を重ねるなかで,“Cancer surgery is the science of plane of cleavage”と主張する者がでた。つまり,適確な剥離層を保って手術操作を続けるとき,迅速に,しかも,出血も損壊も少ない根治手術が達成できるという主張である。もちろん,患者さんにとって,最も親切な手術であろう。
これまで,癌手術において根治性を確保するためには,健常の組織や臓器をあえて犠牲にしてもよいとされた時代がごく最近まで続いた。このやり方をen blocな摘除と定義し,その際,健常の組織や臓器をば,癌巣およびリンパ節転移巣を包み込む“風呂敷”とみなした。それはそれで是である。しかし,当然ながらその侵襲は過大であり,術後合併症,臓器欠落症状の増加を招き,この時期,過侵襲を極度に忌避する風潮が募った。また,神経温存などに留意した手技の工夫もあったが,術後QOLの劣化に許容範囲を越えたものがみられた。
そこで近年,低侵襲を目指して内視鏡手術,鏡視下手術など各種手術が工夫され,急速に普及した。しかし,これらの手術では触感を十分には利用できない。さらに視野が狭小で全体像の把握が難しく,思わぬ副損傷をきたし,また,少しの出血で視野が損なわれてしまい,手術の完遂が困難となる。不用意に行われた縮小手術によって癌遺残が増えたことも事実である。
当然ながら,不必要な侵襲を避けつつ癌遺残のない手術,すなわち,侵襲最少で,根治性確保がなされながら機能も保たれた手術こそ理想的である。これらを言い換えると,健常の組織や臓器の風呂敷が極めて薄い,しかも,風呂敷には破れ目が皆無…,ということになる。
われわれは,剥離層選択の最高の縁(よすが)は身体の“GENESIS(なりたち)”であると勝手に断じ,embryology,developmental anatomyに基盤をおくことによる癌根治術における剥離層選択の可能性を検討してきた。
腹腔鏡手術であれ開腹手術であれ,血管,リンパ管,神経の走路を中心に据えて身体の構築を理解した後,適確な剥離層を選択するときに手術は鮮やかに進行し,出血も少なく,根治度が保たれる。しかし,ひとたび剥離層を誤ると出血量は増し,リンパ節郭清も不十分になる。
理想的な手術手技の確立を夢想している若輩が本書を執筆したが,そのとき,自分の持っている剥離層のイメージをどのようにすれば,皆様に正確に伝えることができるかを第一に考え,できるだけ多くの図を示した。直腸周囲の筋膜構成や温存すべき神経との位置関係を理解し,理想的な手術を目指していただきたい。
本書が,皆様が手術を安全・安心に進めるときの一助になることを祈念いたします。(橋本・松木)
ここに,蝸牛居工藤甲人先生の『螢』と題した渾身の一作を掲げました(本サイトでは省略)。甲人先生には,『瑠璃光』など,仏の慈愛を描いた数多くの作品があります。宮永忠彦先輩が癌手術の手解きの折りに示してくださったのがこの『螢』で,両掌はやさしく螢の光彩陸離をソォーッと包み囲んでおられる。
これまで久しく,鬼手仏心が外科手術の奥義とされてきました。しかし,私どもはそれをとらない。心根がやさしくても,手術技法が鬼の手ように惨酷なものであってよいはずがない。螢を取り巻く光彩は淡く層状をなし,暗い層を経た後の周りの闇を手掌が包み込んでおられる。手のやさしさが層を守るものとして描かれております。
では癌手術の現場において,剥離の層をどのようにして決定するか。
外科手術に局所解剖所見が重要であるが,これのみから剥離層はみえてきません。癌手術に臨むなら,さらに,developmental anatomyを熟知せよとのアドバイスをanatomy in surgeryの著者Philip Thorek先生から直々にいただきました。また,親友のSandor Jozsef先生,Besznyak Istvan教授(ハンガリー)には低侵襲手術における剥離法の真髄を手ほどきしていただきました。
人体形成がGenese,あるいはgenesis。その過程がdevelop。このdevelopの過程を逆にたどるのがredevelop。剥離をこのredevelopの道筋に沿って進めるとき,損傷も少なく根治性の高い癌手術が完了する……というのがVissali先生の論旨でした。
日本には,世界を主導された癌手術の先達が沢山おられます。梶谷鐶先生,秋山洋先生からは「剥離の層」という御言葉。岡島邦雄先生からは,ずばり,「面ジャ!!」という御言葉と共に未編集のナマのビデオの山を拝借。これら癌外科大家の奥義たる剥離層・剥離面を,誰もが即座に納得できるようなシェーマによって説明したいと考え,われわれ(松木,橋本,吉田裕,須藤謙一,寺角匡弘,市川度,北郷邦昭,仁瓶善郎氏,および畏友出雲井士朗氏)の手術経験を込めてこの書物を“描き”ました。
手術の前後に,皆の意見をとりまとめては描き,手元に溜めおいた絵を元にしてあることは,『乳癌縮小手術ノート』(へるす出版),『胃癌手術手技の根拠─腹腔鏡下および開腹胃切除』(へるす出版)と同様で,今回は大腸の巻であります。
ここで,振り返ってみたとき,われわれには,世界の外科家の中で最も恵まれた外科解剖の実習を経験したという自負があります。お茶の水解剖医科歯科大学と揶揄しながらの学生時代の厖大な実習時間(窪田金次郎先生),大学院では萬年研究室への留学(恩師の萬年甫先生,三木成夫先生,平光れい司先生),埼玉医大での学生実習参画(金子勝治先生)に深甚の感謝を捧げます。
おわりに,10年を越えた永い歳月,温かい目でお待ちくださった友人伊東隼一編集員にお詫びと心からの御礼を申し上げます。(平山)
2010年春
著者記す
本書の使い方
癌手術の技法を,Science of plane of cleavageと言い換えることができる。すなわち,癌手術において,plane of cleavage,すなわち剥離層の選択こそが最重要なものとなる。本書では,大腸の形成過程,すなわち,大腸の“なりたち(伸長,回転,固着・固定)”の所見を基盤として,大腸癌手術における剥離層選択の手順を示した。すなわち,結腸・直腸と関係をもつ間膜の由来を詳しく述べ,挿画のほとんどを線画にして添えた。そこで諸兄は,これらの図に自ら着色して,結腸,直腸,肛門管などの大腸の間膜構築について理解を深めていただきたい。その手仕事のなかで,結腸・直腸癌手術に必要となる最小限の解剖学的知識が容易に習得できるはずである。
次に,手術の各ステップで遭遇する術野の所見を半模型化した多くの図を配置した。そのなかに,諸兄各自が想定した剥離経路を描き込むこと。これによって,剥離層の明瞭な姿が現れてくる。その結果,手術の方針が自ずと明らかとなる。
古風ながら,われわれは,「親切・迅速・そして,適確」を教室戒に掲げていた。患者さんにやさしく親切であることが第一。万事にあたって適確を心懸けること。しかも,迅速でなければならない。
明けても暮れても適確な癌手術とは何かと熱い討論を重ねるなかで,“Cancer surgery is the science of plane of cleavage”と主張する者がでた。つまり,適確な剥離層を保って手術操作を続けるとき,迅速に,しかも,出血も損壊も少ない根治手術が達成できるという主張である。もちろん,患者さんにとって,最も親切な手術であろう。
これまで,癌手術において根治性を確保するためには,健常の組織や臓器をあえて犠牲にしてもよいとされた時代がごく最近まで続いた。このやり方をen blocな摘除と定義し,その際,健常の組織や臓器をば,癌巣およびリンパ節転移巣を包み込む“風呂敷”とみなした。それはそれで是である。しかし,当然ながらその侵襲は過大であり,術後合併症,臓器欠落症状の増加を招き,この時期,過侵襲を極度に忌避する風潮が募った。また,神経温存などに留意した手技の工夫もあったが,術後QOLの劣化に許容範囲を越えたものがみられた。
そこで近年,低侵襲を目指して内視鏡手術,鏡視下手術など各種手術が工夫され,急速に普及した。しかし,これらの手術では触感を十分には利用できない。さらに視野が狭小で全体像の把握が難しく,思わぬ副損傷をきたし,また,少しの出血で視野が損なわれてしまい,手術の完遂が困難となる。不用意に行われた縮小手術によって癌遺残が増えたことも事実である。
当然ながら,不必要な侵襲を避けつつ癌遺残のない手術,すなわち,侵襲最少で,根治性確保がなされながら機能も保たれた手術こそ理想的である。これらを言い換えると,健常の組織や臓器の風呂敷が極めて薄い,しかも,風呂敷には破れ目が皆無…,ということになる。
われわれは,剥離層選択の最高の縁(よすが)は身体の“GENESIS(なりたち)”であると勝手に断じ,embryology,developmental anatomyに基盤をおくことによる癌根治術における剥離層選択の可能性を検討してきた。
腹腔鏡手術であれ開腹手術であれ,血管,リンパ管,神経の走路を中心に据えて身体の構築を理解した後,適確な剥離層を選択するときに手術は鮮やかに進行し,出血も少なく,根治度が保たれる。しかし,ひとたび剥離層を誤ると出血量は増し,リンパ節郭清も不十分になる。
理想的な手術手技の確立を夢想している若輩が本書を執筆したが,そのとき,自分の持っている剥離層のイメージをどのようにすれば,皆様に正確に伝えることができるかを第一に考え,できるだけ多くの図を示した。直腸周囲の筋膜構成や温存すべき神経との位置関係を理解し,理想的な手術を目指していただきたい。
本書が,皆様が手術を安全・安心に進めるときの一助になることを祈念いたします。(橋本・松木)
ここに,蝸牛居工藤甲人先生の『螢』と題した渾身の一作を掲げました(本サイトでは省略)。甲人先生には,『瑠璃光』など,仏の慈愛を描いた数多くの作品があります。宮永忠彦先輩が癌手術の手解きの折りに示してくださったのがこの『螢』で,両掌はやさしく螢の光彩陸離をソォーッと包み囲んでおられる。
これまで久しく,鬼手仏心が外科手術の奥義とされてきました。しかし,私どもはそれをとらない。心根がやさしくても,手術技法が鬼の手ように惨酷なものであってよいはずがない。螢を取り巻く光彩は淡く層状をなし,暗い層を経た後の周りの闇を手掌が包み込んでおられる。手のやさしさが層を守るものとして描かれております。
では癌手術の現場において,剥離の層をどのようにして決定するか。
外科手術に局所解剖所見が重要であるが,これのみから剥離層はみえてきません。癌手術に臨むなら,さらに,developmental anatomyを熟知せよとのアドバイスをanatomy in surgeryの著者Philip Thorek先生から直々にいただきました。また,親友のSandor Jozsef先生,Besznyak Istvan教授(ハンガリー)には低侵襲手術における剥離法の真髄を手ほどきしていただきました。
人体形成がGenese,あるいはgenesis。その過程がdevelop。このdevelopの過程を逆にたどるのがredevelop。剥離をこのredevelopの道筋に沿って進めるとき,損傷も少なく根治性の高い癌手術が完了する……というのがVissali先生の論旨でした。
日本には,世界を主導された癌手術の先達が沢山おられます。梶谷鐶先生,秋山洋先生からは「剥離の層」という御言葉。岡島邦雄先生からは,ずばり,「面ジャ!!」という御言葉と共に未編集のナマのビデオの山を拝借。これら癌外科大家の奥義たる剥離層・剥離面を,誰もが即座に納得できるようなシェーマによって説明したいと考え,われわれ(松木,橋本,吉田裕,須藤謙一,寺角匡弘,市川度,北郷邦昭,仁瓶善郎氏,および畏友出雲井士朗氏)の手術経験を込めてこの書物を“描き”ました。
手術の前後に,皆の意見をとりまとめては描き,手元に溜めおいた絵を元にしてあることは,『乳癌縮小手術ノート』(へるす出版),『胃癌手術手技の根拠─腹腔鏡下および開腹胃切除』(へるす出版)と同様で,今回は大腸の巻であります。
ここで,振り返ってみたとき,われわれには,世界の外科家の中で最も恵まれた外科解剖の実習を経験したという自負があります。お茶の水解剖医科歯科大学と揶揄しながらの学生時代の厖大な実習時間(窪田金次郎先生),大学院では萬年研究室への留学(恩師の萬年甫先生,三木成夫先生,平光れい司先生),埼玉医大での学生実習参画(金子勝治先生)に深甚の感謝を捧げます。
おわりに,10年を越えた永い歳月,温かい目でお待ちくださった友人伊東隼一編集員にお詫びと心からの御礼を申し上げます。(平山)
2010年春
著者記す
本書の使い方
癌手術の技法を,Science of plane of cleavageと言い換えることができる。すなわち,癌手術において,plane of cleavage,すなわち剥離層の選択こそが最重要なものとなる。本書では,大腸の形成過程,すなわち,大腸の“なりたち(伸長,回転,固着・固定)”の所見を基盤として,大腸癌手術における剥離層選択の手順を示した。すなわち,結腸・直腸と関係をもつ間膜の由来を詳しく述べ,挿画のほとんどを線画にして添えた。そこで諸兄は,これらの図に自ら着色して,結腸,直腸,肛門管などの大腸の間膜構築について理解を深めていただきたい。その手仕事のなかで,結腸・直腸癌手術に必要となる最小限の解剖学的知識が容易に習得できるはずである。
次に,手術の各ステップで遭遇する術野の所見を半模型化した多くの図を配置した。そのなかに,諸兄各自が想定した剥離経路を描き込むこと。これによって,剥離層の明瞭な姿が現れてくる。その結果,手術の方針が自ずと明らかとなる。
目次
開く
第I章 結腸手術の剥離層解剖
1 胃腸管と胃腸間膜の回転,位置移動および固定
2 間膜同士の連続および位置関係
3 横隔膜
4 理想的癌手術の剥離ルートとは
5 Toldtの筋膜
6 腎筋膜
7 腹膜後隙
8 腹膜下隙
9 盲腸間膜および盲腸周囲の窩所
10 結腸癌根治手術における剥離ルート選択の実践的方法
第II章 直腸癌手術のための剥離層解剖
1 骨盤内臓器の形成
2 骨性骨盤と骨盤底
3 S状結腸,直腸肛門の周囲の構築
4 骨盤内の血管
5 直腸周囲の間隙,腔所,窩
6 Waldeyerの筋膜と仙骨直腸靱帯
7 Denonvilliers筋膜の前方および後方の腔所
8 骨盤底面の筋束
9 小骨盤腔底面の構築
10 骨盤内の自律神経系の構造
11 自律神経温存の目標とその適応
12 下腸間膜動脈神経叢,上および中下腹神経叢,下腹神経,下下腹神経叢(骨盤神経叢)の温存に資する剥離法の要点
13 骨盤腔における剥離ルート
14 側方靱帯と側方転移
15 側方リンパ節郭清の定義,適応,手技
第III章 手術
1 開腹右半結腸切除術
2 腹腔鏡補助下右半結腸切除術
3 開腹低位前方切除術
4 腹腔鏡補助下低位前方切除術
5 骨盤内臓全摘出術
6 腹腔鏡補助下直腸切断術(切除術)
索引
コラム
「クモの巣の層」への到達法(J. W. Milson変法)
S状結腸間陥凹
排便機構について
側方郭清
腸管の収納法(小腸係蹄をイレウスバッグに収納する操作)
回結腸動脈根部の探し方と郭清のコツ
ポートサイト転移の病因
腹腔鏡下直腸切除に際しての「ちっちゃなコツ」
ストーマ造設のコツ
1 胃腸管と胃腸間膜の回転,位置移動および固定
2 間膜同士の連続および位置関係
3 横隔膜
4 理想的癌手術の剥離ルートとは
5 Toldtの筋膜
6 腎筋膜
7 腹膜後隙
8 腹膜下隙
9 盲腸間膜および盲腸周囲の窩所
10 結腸癌根治手術における剥離ルート選択の実践的方法
第II章 直腸癌手術のための剥離層解剖
1 骨盤内臓器の形成
2 骨性骨盤と骨盤底
3 S状結腸,直腸肛門の周囲の構築
4 骨盤内の血管
5 直腸周囲の間隙,腔所,窩
6 Waldeyerの筋膜と仙骨直腸靱帯
7 Denonvilliers筋膜の前方および後方の腔所
8 骨盤底面の筋束
9 小骨盤腔底面の構築
10 骨盤内の自律神経系の構造
11 自律神経温存の目標とその適応
12 下腸間膜動脈神経叢,上および中下腹神経叢,下腹神経,下下腹神経叢(骨盤神経叢)の温存に資する剥離法の要点
13 骨盤腔における剥離ルート
14 側方靱帯と側方転移
15 側方リンパ節郭清の定義,適応,手技
第III章 手術
1 開腹右半結腸切除術
2 腹腔鏡補助下右半結腸切除術
3 開腹低位前方切除術
4 腹腔鏡補助下低位前方切除術
5 骨盤内臓全摘出術
6 腹腔鏡補助下直腸切断術(切除術)
索引
コラム
「クモの巣の層」への到達法(J. W. Milson変法)
S状結腸間陥凹
排便機構について
側方郭清
腸管の収納法(小腸係蹄をイレウスバッグに収納する操作)
回結腸動脈根部の探し方と郭清のコツ
ポートサイト転移の病因
腹腔鏡下直腸切除に際しての「ちっちゃなコツ」
ストーマ造設のコツ
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