• HOME
  • 書籍
  • 外来がん患者の日常生活行動支援ガイド


外来がん患者の日常生活行動支援ガイド

もっと見る

おいしく食べる、ぐっすり眠る、自分らしく活動する。 がん患者さんが欲しいのは、そんな当たり前の日常生活。 医療器具を付けたままの退院、外来治療の継続、体調不良や痛み…。外来がん患者さんには、疑問や不安がたくさんあるはず。 患者さんの日常生活を支えるために、神奈川県立がんセンターの看護師が、工夫や支援のポイントをまとめた1冊。
編集 小野寺 綾子
発行 2008年02月判型:B5頁:132
ISBN 978-4-260-00483-1
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

はじめに
小野寺綾子

 10年前と比してがんの診断,治療の技術は画期的な発展をしています。また,がん看護においては,がん看護専門看護師,がん性疼痛看護認定看護師,緩和ケア認定看護師,がん化学療法看護認定看護師などの専門領域に精通した看護師が増えています。
 がんは慢性疾患,国民病などの表現がされるようになっている今日,がん患者の意識も変化しつつあります。以前のように医師の説明に従うだけでなく,自分の生き方やライフスタイルに応じた治療を選択し,がんと向き合い自立した生活を過ごす人が増えています。がん医療に関する最新情報などの患者の知識も豊かになりました。
 その一方で,がん患者の在院日数が約20日前後と短縮傾向にあります。そして,在院日数の短縮により外来で治療を受ける患者が増加しています。入院中に退院指導を受けていても,健康な頃と同じように日常生活を送るのは難しい現実があります。外来での化学療法や放射線療法の継続により,食べ物が思うように飲み込めないなど食事に関する悩みがあっても,外来の医師,看護師の忙しく立ち働いている姿から,話を聞いてもらえない雰囲気に圧倒され,そのまま苦痛を抱え過ごしている患者も少なくないでしょう。
 本書を編むきっかけになったのは,神奈川県立がんセンターで実際に活用している退院指導パンフレットでした。本を執筆するにあたり,退院後に外来治療を継続する患者・家族が対処できる日常生活行動の内容になっているか,執筆メンバーで何度も何度も話し合いながら見直しを行いました。そして,新人看護師や看護学生が退院する患者への説明に,活用しやすい内容にしようと努力を重ねました。
 本書の内容は,第1章「外来がん患者の日常生活行動への支援」,第2章「外来治療を受けている患者への支援」,第3章「医療処置を必要とする患者への支援」としました。すべての章に共通するのは「患者の日常生活を支えるという視点」です。また,豊富なイラストと,時おり登場するユニークなネコちゃんが,とても良い役割をしており,楽しみながら学習できるものと信じています。

 本書の完成までには,執筆者の転勤,話し合いの時間の調整などに苦慮しました。また診療報酬の改定などの影響により,がん専門医療機関も多忙度が増すばかりになっていると実感しています。このような最中,執筆者たちが三交代勤務の合間を利用し労を惜しまず,諦めず頑張ったお陰で本書を完成させることができました。また,長い期間にわたり,執筆に不慣れな私たちを忍耐強く支援してくれた医学書院の品田暁子さんに感謝しています。ありがとうございました。
 2008年1月

開く

第1章 外来がん患者の日常生活行動への支援
 1. 食べる
 2. 排泄する
 3. 清潔にする
 4. 眠る
 5. 活動する
 6. 性生活
第2章 外来治療を受けている患者への支援
 1. 痛みを伴う患者
 2. 化学療法を受けている患者
 3. 放射線療法を受けている患者
第3章 医療処置を必要とする患者への支援
 1. ストーマ
 2. 尿道留置カテーテル
 3. 腎瘻
 4. 自己導尿
 5. 永久気管孔
 6. 気管カニューレ
 7. PTCD
患者と看護師のための知っておきたい用語
索引

開く

患者の目線に立った具体的内容で,学生にわかりやすいガイド (雑誌『看護教育』より)
書評者: 山本 美津子 (武蔵野大学看護学部准教授)
 臨地実習の一環として,学生が受け持ち患者の退院指導を行うことがある。学生は調べてきた生活上の注意点などを一生懸命説明するのだが,はたしてそれが患者にとって有用なものとなっていたかは疑問が残るところである。また当面の生活に適応しても,外来で治療を継続するがん患者は新たな困難や不安に遭遇することになる。

 本書は,さまざまな治療過程にある外来がん患者を視野におきながら,日常生活という看護本来の視点から支援するためのガイドブックである。神奈川県立がんセンターで実際に使用されていた退院指導用のパンフレットを“退院後に外来治療を継続する患者・家族が対処できる日常生活行動の内容になっているか”という観点で見直され,編集されたものである。執筆者は,外来や病棟でがん患者の相談を受ける機会の多い認定看護師や経験豊富な看護師を中心とした人々である。ユニークなネコを中心としたイラストが親しみやすく,またポイントをつかみやすいように工夫がなされている。

 本書は随所に,学生が文献を調べても見つけらない,退院指導の際にスタッフが口頭で補ってくれるような内容が記載されている。例えば,「排泄する」という項目に,便秘を予防するための食事の工夫が説明されている。学生は,「繊維質の多い食物を勧める」と教科書の内容を提示してくるが,がん患者の場合それでは不適切なことがある。本書には,便秘解消のために食物繊維の多いものを食べる際の注意として,「腫瘍や手術後の癒着が原因で腸管が細くなっている場合,(中略)繊維質の食品は腸管を通過しにくくなり腸閉塞の原因になるので注意が必要」というように,個別の病態を踏まえた解説が加えられている。また,生活行動に障害をきたす要因とその理由が説明されている。根拠を理解するために学生の学習には欠かせない部分であるが,簡潔な説明に徹したためか,ややわかりにくい箇所があった。しかし,「ワンポイント」のアドバイス,「これも教えて!」「こんな時には病院に連絡を!」や各項目の最後にある「Q&A」に記載されている内容は,日頃から患者の声を聞き,患者の目線に立って生活の工夫点を考え,積み上げてきた看護師の経験知として読みとれるものである。さらに,「看護師のためのアドバイス」は患者・家族の置かれた状況や思いを先輩看護師が代弁しながら,ケアの方向性を示してくれるものになっている。

 個別性が表れる生活行動に対して,共通する具体的支援内容を記述する困難さを思いつつも,さまざまな苦痛や困難を抱えながら生活するがん患者に,寄り添っていこうとする看護の姿勢を一貫して感じとることができるガイドブックである。

(『看護教育』2008年9月号掲載)
患者である当事者の“リアリティ”に迫る
書評者: 吉田 みつ子 (日赤看護大准教授・基礎看護学)
 3年前に乳がんの温存手術を受けた女性が,笑いながら話してくれたことがある。手術後,傷痕を見るのも触るのも恐くて,直視できるようになったのが1年後。受診のたびに,再発しているのではないかと心配で,ちょっとした身体の変化にも“再発”の文字が頭に浮かぶ。あるとき,お風呂で鏡を見ると,傷痕の近くの皮膚が黒く変色し,ザラザラしているのを見つけた。翌日受診し,緊張しながら主治医に訴えたところ,次のような一言を言われた。「これは垢ですよ。お風呂で洗ってますか?」拍子抜けしたのと同時に恥ずかしさで顔が真っ赤になった。手術後一度も洗っていなかったのだ。触っていいのかどうかも分からず,さっとお湯で流すだけだった。医師から,これからは普通に洗ってくださいと言われ帰宅した。

 この女性患者の体験について,ナースが退院前にきちんと説明しているはずではないか? などという専門職からの声が聞こえてきそうだが,実際には患者には伝わっていないことが多い。では,なぜこのようなことが起こるのか。それは私を含め,ナースが患者である当事者のリアリティに迫りきれていないことに尽きるのではないか。われわれは専門家として持っている知識は多いかもしれないが,当事者からみたときに,さまざまな苦痛や心配ごとが身体の反応としてどのように現れるのかを知らないからではないだろか。

 『外来がん患者の日常生活行動支援ガイド』(小野寺綾子編集)を読み,改めてその思いを強くさせられた。本書の「食べる」という項の中に「食べにくい」という見出しを見て,まさにこれだと思った。専門職にとっては“摂食・嚥下困難”であっても,当事者にとっては「食べにくい」という体験として現れるのだ。食べにくいことの要因や理由は病態や治療の影響によって説明ができる。しかし,食べにくいという体験は,当事者の身体感覚に現れる今までとは違う“つっかかるような喉ごし”や,“舌のざらつき”として体験されるのである。しかし,実は患者自身にも何がどのように現れるのかは分からないことが多く,体験して初めて実感されることも多いという。胃全摘を受けた男性は「何が食べられて何が食べられないのか,毎日が実験です。身体がちゃんと反応してくれるんです。その日の体調によっても違います」と言う。

 本書には,高度な専門的知識が盛り込まれているわけではないので,物足りないと感じるナースも多いかもしれない。しかし,がん患者の支援において,もっとも重要な「当事者の視点に立つ」ということを改めて気付かせてくれる1冊である。「眠れない」「思うように動けない」「やる気が起こらない」と,その見出しは,神奈川県立がんセンターで多くの患者の体験に迫ろうと努力し,支援してきた著者らの経験に基づいたものだと思う。ナースは患者の当事者としての体験にもっと近付き,共に患者の身体に埋め込まれたさまざまな知恵を掘り起こす作業を大事にし,それらに基づいたケア方法を患者支援の学として構築していくことが課題ではないだろうか。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。