新 ことばの科学入門

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ことばを話し,ことばを聞き取ることは人間に固有の機能である。本書は,ことばの音としての性質,生成,知覚のメカニズムを理解するために必要な広汎な知識を,統合的にかつわかりやすく解説した音声科学の入門書。言語聴覚士,音声言語医学に興味のある医師をはじめ,看護学,教育学,心理学,音声学,言語学などを学ぶ学生,初学者にも最適な1冊。
廣瀬 肇
発行 2005年01月判型:B5頁:280
ISBN 978-4-260-24437-4
定価 6,820円 (本体6,200円+税)
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  • 目次
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日本語版への序文
著者序文
著者の謝辞

第1章 ことば,言語,思考
 1.ことば
 2.言語
 3.思考
  a.言語によらない思考
  b.思考と言語
  c.思考の媒体としての言語とことば
 4.言語とことばの発達
  a.学習理論と言語
  b.言語の生得説
  c.言語能力
 5.思考からことばへ
第2章 ことばの科学の先駆者達
 1.Helmholtz:ことばの音響的性質
 2.Sweet:記述音声学
 3.Bell:難聴者教育
 4.Stetson:音声生理学
 5.Dudley:ことばの合成
 6.Cooper,Liberman,Delattre:言語音の認識とパタンプレイバック
 7.最近の情勢
第3章 音響学の基礎
 1.純音:単振動
  a.ブランコの運動:単振動の速度変化
  b.音と粒子の運動
  c.音圧波の運動
  d.音の本質
  e.音の干渉
 2.複合音
  a.調波成分:周期的複合音の性質
  b.非周期的複合音
 3.周波数とピッチ
 4.デシベル:相対的な音の強さ
 5.音の強さとラウドネス
 6.空間を伝わる音の速度
 7.波長
 8.共鳴
 9.ことばと音響学
第4章 ことばの生成 1.生理学的基盤:神経支配,呼吸および発声
 1.神経生理学
  a.脳
  b.ニューロン
  c.話しことばの中枢神経系制御
  d.スプーネリズム:運動企画の存在の証明
  e.ことばの生成の末梢神経支配
  f.運動単位
 2.呼吸
  a.呼気流から話しことばへの変換
  b.陰圧による吸気
  c.呼吸機構
  d.吸気
  e.呼気
 3.発声
  a.呼気圧から音への変換
  b.発声理論:筋弾性-空気力学説
  c.喉頭の枠組
  d.発話時の声帯の調節
  e.声門下圧
  f.ベルヌーイ効果
  g.声帯振動
  h.基本周波数(F0)
  i.声の音質
  j.基本周波数と強さの関係
 4.まとめ
第5章 ことばの生成 2.構音とことばの音の性質
 1.構音と共鳴
  a.声道:共鳴腔および音源としての働き
  b.連続的な音源
  c.声道内の各部位について
  d.母音生成の音響理論
  e.音源とフィルタ
  f.二重母音の生成
  g.子音の生成
  h.まとめ
 2.前後の音がことばの生成に及ぼす影響について
  a.同化(assimilation)
  b.超分節的素性
 3.ことばのフィードバック機構
  a.聴覚フィードバック
  b.触覚フィードバック
  c.固有知覚性フィードバック
  d.内部フィードバック
  e.発達の見地からみたフィードバック機構
 4.ことばの生成のモデル
  a.言語学的モデル
  b.標的モデル
  c.タイミングモデル
  d.閉ループモデルと開ループモデル
 5.文の生成
第6章 ことばの知覚
 1.ことばの聞き手
 2.聴覚
  a.外耳
  b.中耳
  c.内耳
  d.聴神経
 3.ことばの知覚
  a.ことばの知覚に関与する音響的特徴
  b.カテゴリー知覚
  c.ことばの知覚の神経生理学
  d.ことばの知覚に関する学説
第7章 ことばの科学の研究機器について
 1.観察記録と実験的研究
 2. 研究機器としてのコンピュータ
 3.ことばの知覚
  a.刺激音の作成:波形編集
  b.刺激音の作成:音声合成
  c.聴取実験
 4.ことばの生成
  a.音響分析
  b.ことばの録音
  c.波形分析
  d.スペクトル分析
  e.狭帯域スペクトログラム
  f.広帯域スペクトログラム
  g.振幅とパワースペクトル
  h.振幅表示(アンプリチュード・ディスプレイ)
  i.生理学的計測
  j.筋活動
  k.呼吸運動の解析
  l.喉頭機能
  m.構音運動の解析
 5.神経系の機能の測定
  a.事象関連電位
  b.ことばの音のカテゴリー知覚に関する事象関連電位による研究
  c.PET(ポジトロン断層撮影法)
  d.吃音についての研究
  e.MRI(磁気共鳴撮像)
  f.fMRI(機能的磁気共鳴撮像装置)を用いた研究

補章:耳で聞く資料集

付録
用語解説
訳者あとがき
訳者略歴

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音声言語医学の教科書として有用であるとともに米国学生の現在のレベルも示す
書評者: 澤島 政行 (東大名誉教授/横浜船員保険病院名誉院長)
 本書の原本は,初版が1980年に出版され,1984年には第2版の日本語訳が,今回と同じ訳者で出版されている。今回の日本語訳は2003年の第4版である。初版以来,この本は米国の大学学部生を対象として書かれた音声科学の入門書で,基礎的な音響学と生理学の知識から,音声の生成および知覚に関する学説やモデルについての基本的概念までを平易に解説してある。音声言語障害には触れていないが,この領域をめざす学生が対象であるという。

 本書の構成は初版以来変わっておらず,7章から成る。各章の見出しを順に示すと,1.ことば,言語,思考 2.ことばの科学の先駆者達 3.音響学の基礎 4.ことばの生成:生理学的基盤 5.ことばの生成:構音とことば音の性質 6.ことばの知覚 7.ことばの科学の研究機器について となる。

 初版から20余年を経て,第4版では,旧版の著者,G. J. Borden, K. S. Harrisのほかに,若手のL. J. Raphaelが加わり改訂を行った。基本的な内容に変更はないが,記述をより理解しやすく,明確にする工夫により新しい姿となった。特に1章と6章の記述内容が整理されたようである。第7章の研究機器は時代の進歩に伴って大幅に変更された。さらに,補章として,耳で聞く資料集「音のサンプル」を出版社のウェブサイトに設置し,世界各地からアクセス出来るようにした。日本語版の読者にも,サンプル音の聴取が可能である。

 ことばの生成や知覚に関する学説やモデルの紹介では,第4版でも大部分が1970年代までの業績に止まっている。それ以後の研究には,基本概念として参照すべき成果が見られないという著者たちの判断であろう。評者はこの領域の専門外であるが,彼らの判断はそれなりに当たっているのではないかと思う。

 著者達は,米国ハスキンス研究所所属の音声科学者であるとともに大学教官として,学生や大学院生の教育,指導にも優れた実績を持っている。研究者としての音声科学への愛着と,教官として,学生にこの領域を理解し興味を持たせたいという熱意が,初版以来20余年を経過した第4版に到達したと思われる。

 本書は日本においても音声言語医学を学ぶ学生の教科書として有用であるとともに,指導者にも,現在の米国学生のレベルを示す資料として好適である。

 訳者の廣瀬氏は,日本における音声言語医学の第一人者としてよく知られている。また,氏は1970年から73年の間,ハスキンス研究所で著者たちと研究をともにしており,旧知の仲間の著書の翻訳には最適の人材である。

 最後に私事であるが,評者も廣瀬氏の前任者として1969年から70年まで,東京大学医学部音声言語医学研究施設からハスキンスに派遣された。廣瀬氏とは長年の同僚であるし,著者たちも旧知の同窓生である。私にとってこの本は,ハスキンスの旧友からの懐かしい便りのように思われる。

ニューロサイエンスや音楽・聴覚心理学とともに発展した話しことばの科学をわかりやすく解説
書評者: 加我 君孝 (東大教授・耳鼻咽喉科学)
 原題:Speech Science Primer, 4th Edition, Physiology, Acoustics, and Perception of Speechは,元東京大学医学部音声言語医学研究施設,音声言語病理部門の教授であった廣瀬肇先生が渾身の力をこめて翻訳されたものである。明快でわかりやすい優れた翻訳で,読者の理解を容易にしている。

 本書の構成はユニークで,第1章は“ことば,言語,思考”ではじまる。われわれは言葉なくして深く考えることはできないので,言葉は思考の道具と呼ばれるが,話し言葉も書き言葉もその前に思考という準備の過程がある。思考なくして言葉はなく,言葉なくして深い思考もない。本章では難解な言語と思考についてわかりやすく,かつ興味がもてるように工夫されている。小生も改めて理解が深くなった気がした。第2章は“ことばの科学の先駆者達”である。言葉の音響的性質について19世紀のHelmholzの研究からはじまり,現代の研究者についてまで紹介している。第3章は“音響学の基礎”で,音の生理学的側面について聴覚生理的な立場から解説されている。第4章は“ことばの生成 1.生理学的基礎:神経支配,呼吸および発声”で,神経生理学的,呼吸生理学発声の生理学の基礎的な解説である。第5章は“ことばの生成 構音とことばの音の性質”は本書の中で最も多くページが割かれている。構音がどのようにして作られるか解剖学的な側面と音響的な面,さらに何種類ものフィードバックのメカニズム,そしてことばの生成モデルと文の生成モデルへと展開する。第6章は“ことばの知覚”について解説されている。ことばには意味があるが,これがどのように聴覚認知されるのか内耳から脳に至るまでわかりやすく記述されている。第7章は“ことばの科学の研究機器について”である。この領域の研究にはコンピュータが不可欠であること,中でも音声を目で見るスペクトグラムが重要である。他にわが国で開発された電気的パラトグラフも紹介されている。本書を便利な手引きとしているものに,補章の“耳で聞く資料集”がある。本書は“音声”を扱っているので,原出版社のホームページにアクセスすることによってウェブサイト上で本書の音声サンプルを聞くことができるようになっている。巻末の用語解説も便利である。

 本書はもともと米国の聴覚言語障害や音声科学のコースをとる学生用に書かれたもので,わが国では言語聴覚士の教育テキストとして,さらに医学や音声・言語の心理学を学ぶ学生の基礎テキストとして,理解のための座右の書として重宝がられるであろう。小生は研修の頃,ベル電話研究所のデニッシュとピンソンの書いた『話しことばの科学―その物理学と生物学―』(原題:The Speech Chain)を愛読したが,その時代に比し本書で“話しことばの科学”自体がニューロサイエンスや音楽・聴覚心理学とともに広く深く発展したことに感銘を受け,ここに推薦する次第である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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